ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第二百七十九話:皇帝会戦

 

 ──王の歩みを、何者も妨げることは出来ない。

 

 それは、静かな歩みだった。

 誰もが邪魔をすることなく、その2人の歩みを見て自然と道を開ける。

 ここまでの戦いで、既にカナタもカイドウも限界まで体力も覇気も使い切っている。これ以上の戦いなど、あったとしても長くはないだろう。

 それでもなお、2人の歩みを阻むことは誰にも出来なかった。

 

「随分ボロボロだな。うちの部下は強かっただろう?」

「ボロボロなのはお互い様だろ、ウォロロロロ!! あのガキどももそれなりにやるようだが、おれの首には届かねェ!!!」

 

 相対する2人は互いに笑っている。

 消耗などハナから気にしていない。

 どちらかが死ぬまで戦う。この2人にあるのは、ただそれだけだった。

 とはいえ。

 

(こんな状態で戦うのは正直避けたかったが……)

 

 ニューゲート、ガープ、ゼファー。

 誰もが歴史に名を残す強者ばかりで、彼らを連続で相手取った今のカナタは過去にないほど消耗している。

 カナタの影を入れた千代がカイドウを倒してくれれば良かったが、流石に易々と倒れてくれるほどやわな相手ではなかった。

 この戦争は全世界に放送されている。カナタは必要以上に手の内を晒し過ぎた。これ以上は益にならないのだが……カイドウは一切退く様子を見せない。

 下手に退く姿勢を見せれば後々ナワバリの統治に悪影響を残しかねない以上、カナタとしてもカイドウに付き合って戦う他に道がない。

 

「ここで死ぬ気か、カイドウ」

「おれかお前か! どちらかが死ぬまで戦うのが戦争ってモンだろ!? 第一よォ──死ぬのはテメェの方だろうが!!!」

 

 覇気を纏った金棒が振るわれる。

 動物(ゾオン)系のタフさもあるが、本人の気質もあるのだろう。千代たちにかなりのダメージを蓄積されていながら、なおもカイドウの振るう金棒は致死の威力を誇っていた。

 カナタは〝村正〟を抜いてその一撃を正面から受け止める。

 受け止めてみて実感するが、やはりカイドウも蓄積したダメージは随分と効いているらしい。普段に比べれば随分とお粗末な威力だ。

 それでもなお、十分に致死の威力を誇るのだから如何に普段のカイドウが並外れているかがわかるというものだ。

 

「どうしたカナタ、足が動いてねェぞ!!」

 

 波濤のように押し寄せるカイドウの攻撃をいなし、防ぎ、受け止める。

 体力がほぼ尽き果て、覇気とてそれほど戻っているわけではない現状、防戦一方でも戦えていること自体がおかしいと言える状況だった。

 状況を打開するには回復に専念するか、あるいは誰にも見せていない切り札を切るしかない。

 この状況ではあまりにリスクの高い行動だ。何より、聖地で見ているであろう世界政府のトップに手の内をすべて晒すことになる。それだけは避けたかった。

 

「──仕方がない、か」

 

 背に腹は代えられない。だがせめて、直接は視えないようにやることにした。

 カナタはカイドウの攻撃を受け止め、距離が縮まった瞬間に極めて狭い範囲に絞って〝白銀世界〟を展開する。

 ガープとゼファーを相手取った時には半径50メートルほどの範囲で展開していたが、この瞬間に限っては展開速度と強度を保持するために半径10メートルまで領域を絞る。

 覇気によって氷の強度は更に引き上げられ、加えて外部からの目を遮断した。

 人獣形態のカイドウの身長ギリギリではあるが、元よりこの狭さであればまともに身動きなど取れない。

 逃げ場無しの決闘場だ。逃げる気のないカイドウにとっては、攻撃の回避が難しいだけで忌避する理由はなかった。

 

「ウォロロロ!! ようやく本気か!? かかって来いよ、本気を見せろカナタァ!!!」

「やかましい奴だ。私は疲れているのでな、遊びは無しだ」

「構いやしねェ!! 殺せるもんなら殺してみせろ!!」

「■■──」

「何!?」

 

 吹き荒れる冷たい暴風がカナタの言葉をかき消す。

 だが、何かした、というのは結果で理解出来た。

 

 

        ☆

 

 

 領域を展開してわずか15秒後、世界を隔てる氷のドームは溶けるようにして解除された。

 外から内の様子を窺い知ることは出来なかったが、このわずかな時間で雌雄は決していた。

 体の内側から赤い氷の刃で貫かれるカイドウと、いまだ健在で刀を構えるカナタ。

 それでも、膝をついただけで完全に倒れなかったのはカイドウの意地ゆえか。

 

「ゼェ、ゼェ……テメェ、今のは……!?」

「頑丈な奴め……こちらとて、無駄に使えるものではないというのに」

 

 血塗れのカイドウは当然だが、勝者であるはずのカナタの顔色も相当悪い。覇気を限界ギリギリまで使用したことと、先の大技を使ったことによる消耗が相当効いている。

 せめてもう少し体力が回復していれば、今の技で確実にカイドウを殺せていた。

 運のいい奴だ、と吐き捨てたくなるが、ここまで弱っている状態でなければ覇気である程度相殺されていた可能性もある。すんなり通ったのはここまで疲弊していたからでもあるだろう。

 そういう意味では順当に体力と覇気を削った小紫たちの戦果と言えた。

 極度の疲弊で動くことすら億劫になったカナタは、構えを保ちつつカイドウに問いかけた。

 

「どうする、本当に死ぬまでやる気か?」

「当たり前だ……! やると言ったからには、最後まで筋通すモンだろ!?」

「真面目だな。そういうところは嫌いではないが……」

 

 変なところで真面目なカイドウに、思わず呆れてしまうカナタ。

 カイドウを殺す千載一遇のチャンスではあるが、大人しく殺されてくれるはずもない。

 この男の異次元のタフさはよくわかっている。最後の一撃だと気を抜けば、喉元を喰いちぎられるという恐ろしさがある。

 

「時間はお前にとって有利か。動物(ゾオン)系のタフさ、回復力というのは本当に厄介だな……」

 

 おそらく同じ時間でもカイドウの方が先に回復するだろう。

 手負いの獣はとどめの一撃が最も警戒するべき瞬間なのだ。かたき討ちを願う小紫には悪いが、あの子もかなり消耗している。今のカイドウは極限まで弱っているとはいえ、下手に手を出せばこちらの被害が増えかねない。

 さてどうしたものか、と考え、面倒だから少々無理をしてでも自分の手で首を落とすかと思い始めた時。

 ──沖合から、バリバリと大気に轟くような覇王色の覇気を感じ取った。

 

「何!? 何故あの野郎がここに!?」

「お前が言えた口か、阿呆め。しかしちょうど良かったな」

 

 戦争の佳境にあって、絶対的な存在感を示しながら現れたのは一隻の船だった。

 竜を象る船の名は〝レッド・フォース号〟。

 見覚えのある海賊旗が海風にはためき、戦場は一時騒然となった。

 

『ほ、報告! 〝赤髪海賊団〟が沖合に現れました!!』

 

 緊急連絡のためか、伝令用の電伝虫からそんな報告が聞こえてくる。

 奇しくも、世に名を轟かせる〝四皇〟の全てが揃うこととなった。

 〝ビッグマム〟シャーロット・リンリン。

 〝百獣〟のカイドウ。

 〝赤髪〟のシャンクス。

 そして、〝白ひげ〟を下して新たに四皇として世に認められるであろう〝黄昏の魔女〟カナタ。

 各々に目的はあれど、間違いなくこの場所が世界の中心として動いているであろうことは確かである。

 

「〝赤髪〟が来たのはテメェの差し金か、カナタ!」

「来るつもりだ、とは言っていたがな。しかし随分と重役出勤してきたものだ。漁夫の利でも得に来たのか?」

 

 カナタとシャンクスは昔からの知り合いだ。シャンクスが見習いとしてロジャー海賊団の一員であったころからの付き合いだし、一応シャンクスが赤子の頃から知ってはいる。

 カナタが七武海であったときからすでに秘密裡の同盟を結んでいたし、カイドウとリンリンの首を獲れるチャンスがあるなら手を貸すとは言っていた。だが来るのがこれほど遅いとは思っていなかったので、カナタはややご立腹である。

 船を氷の大地に着け、船から降りたシャンクスは真っすぐカナタたちの下へと歩み寄った。

 遅れたことに関しては何も言わないが、少々ばつが悪そうな顔である。

 

「遅かったな、シャンクス。カイドウのついでに私の首でも獲りに来たか?」

「冗談でもそんなこと言わないでくれよ、カナタさん。おれァあんたと敵対する意思はねェ」

「では、おでんの仇を討つためにカイドウの首を落とすか? 今ならさしたる抵抗もないぞ」

「それも悪くねェが……」

 

 ちらりとカイドウを一瞥すると、遠くから文字通り飛んできたリンリンが着氷して氷の大地が揺れた。

 正真正銘、〝四皇〟が一堂に会することとなった。

 

「〝赤髪〟ィ……この状況で何の用だい!!? まさかテメェ、カナタの肩を持つ気じゃねェだろうな!?」

「そのまさかだ、〝ビッグマム〟。おれ達は〝黄昏の海賊団〟に味方する」

 

 シャンクスの宣言に、戦場がどよめく。

 ただでさえ〝四皇〟が集まっているという前例のない事態に戦場が混乱している中、百獣・ビッグマムの海賊同盟のように黄昏・赤髪の海賊同盟が締結されたことは衝撃だった。

 何より、海軍と百獣・ビッグマムの海賊同盟を同時に相手取って崩せなかった〝黄昏〟に〝赤髪〟が味方するのなら、戦場の趨勢は一気に傾く。

 〝赤髪海賊団〟は懸賞金アベレージの高い海賊団だ。数は少ないが容易に崩せるものではない。

 

「だが、ここで手を引くならおれたちは背中を撃つことはない。どうする。カイドウ、〝ビッグマム〟」

「何? おいシャンクス」

「すまねェ、カナタさん。だが、アンタにとっても悪い話じゃないハズだ」

 

 ただでさえニューゲートを討って〝白ひげ〟のナワバリを統制しなければならないのだ。

 ここから更に〝ビッグマム海賊団〟や〝百獣海賊団〟のナワバリまで奪い取って統制しなければならないとなると、いくらカナタでも手が回らない。

 それに、世界政府や海軍の意識を分散させる意味でも彼らは生かしておいた方がいいとシャンクスは言う。

 あくまでこれはシャンクスの意見ではあるが、カナタが疲弊して無理を通すことが出来ない状況での言葉では、強制と言っても過言ではない。

 その分しわ寄せはあとで来るが、シャンクスとてそれは覚悟の上だろう。

 

「海軍を含め、戦争はここで終わりだ。これ以上の流血を、おれたちは望まない」

 

 あくまで世界のバランサーとしての意見を主張するシャンクス。

 現状のカナタにこれを無視することは出来ないし、この意見に従って海軍が退くのであれば〝黄昏〟の戦力がこちらに集中することになる。ここに〝赤髪海賊団〟まで加わるのなら、これ以上の戦闘は不利どころの話ではない。

 舌打ちをしつつも、カイドウとリンリンもまたこれで手打ちとすることを認める。

 シャンクスの乱入によって戦いを止めていたティーチとセンゴクもまた、これに了承した。

 暴れたりないと言いたげなバレットだったが、今はカナタとの盟約で彼女の指示に従うこととしているためこちらも了承。

 

「全員、この場はおれの顔を立ててもらおう」

 

 多くの血を流し、混乱を起こした戦争だったが──シャンクスの手によって幕を閉じることとなった。

 

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