シャンクスとカナタの会談の三日後。
カナタの怪我もある程度治り、軽くリハビリがてらシャンクスと模擬戦をやっていると、慌てた様子の部下が報告してきた。
「ほ、報告します! 港に詳細不明の船が来ています!」
「港湾管理の者はどうした。識別できないなら沈めろと言ってあるはずだぞ」
「それが、その……どうも〝革命軍〟の船のようだ、と……」
「……確認しよう」
基本的に〝ハチノス〟に近付く船は身内の船でなければ沈めるよう通達してある。
例外は四皇、あるいは事前に申請してある民間船くらいで、〝七武海〟であったときは海軍もこの範疇だった。
この中で唯一、カナタあるいは幹部の判断を仰ぐようにと通達してあるのが〝革命軍〟である。
リーダーであるドラゴンとの仲は公に知られていることではないため、表立っての対応はこれが精いっぱいだった、というのもあるが。
カナタがシャンクスと共に港に向かうと、港はやや騒ぎになっているようだった。
「だから、おれは〝革命軍〟の一員で、カナタさんとは顔見知りなんだって! 通っちゃダメなのか!?」
「今責任者を呼んでますから、ちょっと待っててください!」
押し問答を何度も繰り返したためか、どちらも声が大きい。
トラブルになる前にとカナタが現場に割り込むと、船から降りていた青年がカナタに気付く。
「カナタさん!」
「誰が来たかと思えば、お前かサボ。わざわざトラブルを起こしに来たのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
もごもごと歯切れの悪い返答をするサボ。
先の戦争は世界に影響を与えるものだった。今後のことについて、〝革命軍〟としてもカナタに直接どう動くか確認しておきたいという思惑もあるだろう。
それに加えて、サボは個人的な思惑もありそうだったが。
「エースなら無事だ。落ち込んではいるがな」
「! そうか……!」
エースは父親ともいえる大事な人を亡くしている。口が裂けても「良かった」とは言えないが……盃を交わした兄弟が無事であったことに、サボは内心ほっとしているようだった。
ついてきていたシャンクスは、港に来ていたのが〝革命軍〟のNo.2である〝参謀総長〟のサボであることに気付いて目を丸くしている。
〝革命軍〟のトップであるドラゴンはかつてカナタの船に乗っていた。今なおNo.2を寄越すほどの関係性ということでもある。
世界経済新聞のモルガンズあたりが知れば、スクープだと大喜びで一面に大きく載せるであろう情報だ。
……モルガンズ自身はカナタに首ったけなので、不利になりかねない情報は握りつぶしかねないが。
「しかし、お前が来るとは思わなかった」
「エースの件もあったのは確かだけど、イワンコフとイナヅマがいたのも映像で見ましたから。ドラゴンさんにも一通り確認して来いって言われたもんで」
「フフ、あいつ自身が来るとは言わなかったのか」
「あの戦争で色々と大きく動くだろうし、世界中から同志たちを一度集めて話し合うって言ってました。忙しいんですよ、あの人も」
「まぁそうだろうな……しかし、ふむ」
シャンクスといい、サボといい、都合よく各勢力のトップに近い面々が揃っている。
ちょうどいい、とカナタはひとつ提案をした。
「折角の機会だ。お前もちょっとトップ会談に顔を出していけ」
☆
〝ハチノス〟内部、大広間。
巨人族も入れる部屋ということで広間を使うことになり、円卓にそれぞれの勢力のトップかそれに近い者たちが座っていた。
〝黄昏の海賊団〟からはカナタと千代。
〝赤髪海賊団〟からはシャンクスとベックマン。
〝革命軍〟からはサボとイワンコフ。
元〝白ひげ海賊団〟からはマルコとエース。
〝巨兵海賊団〟からはドリーとブロギー。
インペルダウンからの脱獄囚からは民主主義による投票により選ばれたバギーとお目付け役のシリュウ。
一部を除き、誰も彼もが世界に名の通った賞金首である。場違い感にバギーは冷や汗をかいて顔色が悪くなっていた。
(な、なんでおれがここにィ~~!?)
今後の扱いを決めるので代表者を選出しろ、と言われ、誰が言い出したのか「キャプテン・バギーの決めたことに従う」という意見が大多数であったため、半ば押し付けられる形でこの場に呼び出されたのだ。
右を向いても左を向いても懸賞金でも実力でも勝てないような怪物ばかりである。
「さて、今回集まってもらったのは、我々の今後の動きを共有するためだが……その前に、知っている者もいるだろうがそれぞれ紹介でもしていこうか」
大体は知り合いだったりするし、賞金首は手配書を見るのでおおよそはわかるが、サボはシャンクスやバギーとは面識がないしドリーとブロギーも〝革命軍〟とシリュウのことは知らない。
なので、ざっくりとそれぞれ自己紹介をしていく。
とはいえ、どこまで情報を開示したものかと悩みどころでもある。今更隠し事をしたところでどうなるものでもないが、共同歩調を取るならある程度互いのことを知っている必要もあるものだ。
特にエースのことはシャンクスとバギーには言っておいた方がいいだろうと判断する。
「シャンクスのことは知っているな。〝赤髪海賊団〟の大頭だ。それと副船長のベックマン」
「よろしくな」
「〝革命軍〟のサボとイワンコフ。ドラゴンは昔私の船に乗っていた仲間だ。バギーは一時期ドラゴンと行動を共にしていたと聞いたが」
「サボだ。今回はドラゴンさんの代理で参加させてもらった」
「いや確かに船に乗せはしたがよ! 別に〝革命軍〟に賛同してとかそういうあれではねェよ!!」
「まァその辺は一緒に行動してて何となくわかってるわ、赤鼻ボーイ」
「誰が赤っ鼻じゃクラァ!!」
「元〝白ひげ海賊団〟の船長代理マルコとエース。マルコは一番隊隊長だったから、知っている者も多かろう。エースは二番隊隊長だ」
「本意ではねェけど、海賊同士の約束だ。〝白ひげ海賊団〟は〝黄昏の海賊団〟の傘下として働くことになった。よろしく頼むよい」
「……よろしく」
「エースについては色々あるが……サボの兄弟分でロジャーの息子だ。シャンクスとバギーは仲良くしてやれ」
「は!?」
「はああああああ!!?」
カナタの発言にぐりんとエースの方を向くシャンクスとバギー。
知っていたマルコと千代、サボを除き、誰もが驚いた顔をしている。ドリーとブロギーもロジャーとは個人的な友誼を結んでいた間柄だ、友の息子と聞いて驚いていた。
「カナタさん!」
「いつまでも隠し通すことではあるまい。目を背けるにせよ乗り越えるにせよ、流れる血を否定できはしない……お前も、私もな」
「けど……いや、いい。おれも、いつまでも目を背けてちゃ前に進めねェと思ってたところだ」
「……事実なのか、カナタさん」
「本当だ。ガープからの裏付けも取れている」
「そうか……じゃあ、おれとバギーの弟ってことになるのか?」
「なんでそうなるんだよ!? お、おれはまだ疑ってるぞ!?」
「おれとバギーはロジャー海賊団みんなの息子みたいなモンだったからなァ。ロジャー船長の息子なら、おれ達にとっても弟みたいなモンだろ」
「それは……そうかもしれねェけどよ」
少なくとも、シャンクスもバギーもロジャーのことを実の親のように慕っていたのは事実だ。
その息子というのなら、仲良くすることに否はない。
しかし、バギーはまだうまく呑み込めていないのか、困ったような顔をしている。
シャンクスの受け入れが早すぎるだけなのかもしれないが。
「……今回の話とは関係ないが、サボとエースの弟分である〝麦わら〟のルフィはドラゴンの息子でガープの孫だ。ドラゴンの息子なら私にとっても息子のようなものだ、もしあったらよろしくしてやってくれ」
イワンコフとバギーがひっくり返った。
ドラゴンに子供がいたということ自体にも驚きだが、その息子がルフィでガープとも血縁でカナタにとっても息子同然である、などというのはいくらなんでも情報量が多すぎる。
シャンクスも父親のことは知らなかったし、ベックマンもくわえていた煙草を落とすくらいに動揺していた。
一番驚いたであろうバギーは色々な意味で顔面蒼白だった。知らなかったとはいえ、ロジャーの処刑台で処刑しようとまでしたのだ。もしバレたら首が飛びかねない。いや今でも首は飛ぶのだがそういう意味ではなく。
一人で百面相をしているバギーを置いておき、カナタは騒ぎが収まるのを待って残りの面々の紹介をしていく。
「〝巨兵海賊団〟のドリーとブロギーだ。シャンクスとバギーは顔見知りのようだが、元は100年前の海で暴れていた海賊だ」
「ゲギャギャギャギャ!! 懐かしい話だぜ!!」
「ガババババ!! よろしくな!!」
「そして、さっきから百面相をしているそこの男がバギーだ。元ロジャー海賊団でシャンクスの兄弟分」
「お、おう……よろしくな……」
「それから……知っている者は知っているだろうが、元インペルダウンの看守長をやっていた〝雨〟のシリュウだ。今回政府を裏切ってこちらにつくことになった」
「よろしく頼む。しかし、ここは会議のたびにこんな大物が揃うのか?」
「今回だけだ。都合よく揃ったのでな」
「そういうもんか……」
インペルダウンに勤めていたシリュウは数多くの名のある海賊を見てきたが……この場に集った海賊たちはそれと比べてもそうそうたる面子だった。
四皇に元四皇の海賊団、革命軍に伝説の巨兵海賊団。
シリュウであっても、発言には気を付けねばと冷や汗を流させる威圧感がある。
「さて、紹介は大体済んだかな」
「一応わしのこと紹介せんでええのか?」
「ふむ……そうだな。正式に言っておこう──〝黄昏の海賊団〟次期船長の霜月千代だ」
「うむ! よろしくな!」
「……次期? カナタさん引退する気か?」
「しばらく引退する気はないが、万が一何かあったときは千代が引き継ぐ。その時困らないように、今回参加させた」
「その子でいいのか? 弟のティーチじゃねェのか?」
「あいつは駄目だ。私とは方針が違いすぎる」
大筋の目的はあるようだが、細かいところで行き当たりばったりの運任せにするような男に次は任せられない。
その点、千代はカナタが手ずから教育を施してきたこともあって思想も似ている。次を任せるならこの子だろうと考え、こうしてお披露目をしている。
強さという点では小紫も候補ではあるが、あの子は最終的にワノ国に戻ることを望んでいる。この海賊団を任せられる相手ではない。
まぁ基本方針はカナタと一致するものの、交代した後まで口を出す気はないのでその時はやりたいようにやらせればいいと考えていた。
「懸賞金はまだ出ていないが、戦争であれだけ暴れていたんだ、そう低くなることもあるまい」
「海賊にとって懸賞金は大事だからなァ」
船長の金額が高いほど、海賊の世界では一目置かれる。それに加えて配下にどれだけ懸賞金の高い面々がいるかが重要だ。
四皇と呼ばれる者たちが恐れられているのは、船長本人の強さもさることながら、優秀で政府にとって厄介な部下がいるかどうかも含まれている。
〝黄昏の海賊団〟は七武海を脱退した上に先の戦争で暴れたため、金額の改定が行われるだろうが……人数が多いので未だに手配書が出回っていない。
「さて、まずは基本方針だが……この場にいる我々での同盟を望んでいる」
傘下に入った元〝白ひげ海賊団〟にあれこれ口出しをする権利はないが、勢力としては〝黄昏の海賊団〟内部でも二番目になるのだ。ヘソを曲げられても困るため、こうして事前に話を通している。
シャンクスは元よりそのつもりだったのか、特に何か言うこともなく頷き。
ドリーとブロギーは元々決まっていた盟約に従って今回の戦争にも参加している。そのため、枠組みが増えるだけの同盟に口出しをすることもない。
サボとイワンコフは、イワンコフが最近までインペルダウンにいたこともあってサボから情報提供を受けつつも異論はないとした。
シリュウはカナタの部下になるので特に言うことはなく、バギーは「えっ、おれも?」と目が点になっていた。
サボは異論を挟む気はないとしつつも、挙手して質問する。
「同盟の目的を聞いても?」
「我々の最終目的は〝世界政府〟の打倒だ。その過程においてカイドウとリンリンによる〝海賊同盟〟の打破、並びに海軍と世界政府軍および〝神の騎士団〟との戦いが予想される。私だけではこれを成せないと判断した」
「〝世界政府〟の打倒……デケェ話になってきたな」
「またこの間みたいな戦争をやるのか?」
「最終的にはそうなるだろうが、まずはやるべきことがいくつかある」
〝白ひげ海賊団〟を吞み込んだことによるナワバリの統一。
海軍の力が弱まったとみて暴れだす各地の海賊の制圧。
今回の戦争にて消費した備蓄の確認と補充。
「焦ることはない。まずは足場固めからしっかりやっていけばいい。カイドウとリンリンもしばらくは動かんだろう」
海軍と戦って勢力が二分されている状況ですら攻めきれなかったのだ。次はもっと何かしら方法を考えてくるだろう。
そのあたりの懸念としては、バギーたちと同様にインペルダウンから脱獄してきた者たち──特に王直の動向が気になるところだ。
「王直も元ロックス海賊団の一員だ。あいつらは基本的に仲がいいわけではないが……実利があれば手を結ぶことくらいはする。カイドウとリンリンがそうだったようにな」
「〝海賊教祖〟か……また厄介そうなやつだな」
「監視の目はあるんだろ? 一応、おれたちの方でも気にしておくよ」
「ああ、頼む」
シャンクスの言葉にカナタは頷き、今回の会談の目的だった〝最終目的の共有〟は出来た。
細々とやるべきことは残っているが、それらは〝黄昏の海賊団〟単独でも出来ることだ。
同盟相手に望むのは、緊急時の連絡とどこか一つの勢力が攻め込まれたときに他の勢力で対応するという盟約である。
カナタとシャンクス、〝巨兵海賊団〟の同盟は先の戦争で明らかになっている以上、これを今更誇示する必要はない。むしろ〝革命軍〟との同盟は良くない影響を与える可能性すらある。
だから現段階でやれることはあまり多くないが……。
「バギーとサボにはやってもらいたいことがある」
「おれ達に?」
「何をさせる気ですか?」
「そう構えるな。お前たちが普段からやっていること──世界政府加盟国の