──〝マリンフォード〟、海軍本部。
そこでは今現在、多くの海兵たちが集まり、列を作っていた。
かつて海軍大将でもあった男、〝黒腕〟のゼファーの葬儀のためである。
「……ゼファー先生の葬儀とはいえ、これほど集まると大変だな」
「そうじゃのう。じゃが、これこそ先生の人望の賜物じゃけえの」
「そうだな……それだけに、後を継ぐ者がいないのが惜しい」
ゼファーに妻子はいない。
正確に言えば、妻子はいたが逆恨みした海賊に殺されている。
その事件を受けてゼファーは大将の職を辞して教官になった。厳しくも優しく父のように接していたゼファーを慕う者は多く、葬儀に際して多くの海兵が集まったことからもそれが窺えた。
……それゆえに、ゼファーを殺したカナタのことを悪しざまに言う者も多い。
たとえそれが政府の目論見通りだったとしても、現場で戦う海兵たちはそんなことを知りもしないのだから。
その功績と現場の声を聞いて、センゴクは海軍を上げての葬儀を行うと決定している。
大将であるサカズキとベルクもまた、葬儀の主催として働いていた。
「ボルサリーノの見舞いに行ったのだろう? どうだった?」
「葬儀に出るの一点張りでのう。なだめすかしてベッドに寝かせるのに難儀したわい」
同じ大将である黄猿──ボルサリーノもまた、ゼファーの葬儀に出席することを望んでいた。
だが、今ボルサリーノはカナタから受けた傷のせいで入院中である。医者に絶対安静を言い渡されているため、病室から出ることさえままならぬ状態であった。
「わしァあいつと兄弟みたいなモンじゃ。長いこと一緒に肩並べて海兵やってきたからのう。同じようにゼファー先生の教え子でもあるけえ、這ってでも葬儀に出たいっちゅう気持ちは痛いほどわかる……」
「……海軍は多くのものを先の戦争で失った。この傷は長く影響を与えるだろう」
果たして本当に必要のあった戦いなのか、それすら疑問に思うベルク。
〝白ひげ〟と〝魔女〟の決闘が世に与える影響の大きさはベルクとて承知しているが、カナタはどちらかといえば秩序だった組織運営をしていたし、七武海から除名されたとしてもすぐさま海軍──ひいては世界政府に牙をむくことはないだろうと考えていた。
しかし、センゴクはそう思わなかった。あるいは世界政府の命令だったのか、多数の軍艦を率いて戦争することになった。
その結果がこれだ。
「各地の海も荒れている。今の不安定な海でこれまで通りの正義を貫くのは難しいだろうな」
「そうじゃのう……強い海軍を示すには、やはりわかりやすい象徴が必要か」
「内外の圧力がある今、難しいことではある」
ガープの敗北は世界中の海軍支部に悪影響を与えている。
海軍が長年にわたって〝英雄〟として作り上げてきたイメージと、海賊にとっての死神も同然の実績は伊達ではない。それが崩されるということは、海軍そのものへの威信が減じることに繋がる。
「──のう、ベルクさん。アンタ、ガープ中将のことは聞いちょるんか?」
「いや、厳重に緘口令が敷かれているようだ。当方もまだ聞いていない……少なくとも、生きてはいるようだが」
「根拠は?」
「運ばれた病室から〝声〟が時折聞こえる」
「なるほどのう……」
見聞色を用いて感知した〝声〟とは、対象に意識が無ければ聞こえない。聞こえるということは、少なくとも
カナタとの戦いは熾烈を極めた。
ガープは半死半生と言っていい状態だったし、実際かなり危なかったと聞くが、少なくとも今に至るまでガープが亡くなったという報告は聞いていなかった。
だが、それが「〝英雄〟の死はしばらく公表できない」という理由によるものならば納得がいかない。センゴクに直談判するのもやむなし……と思っていたベルクだが、少なくともそういうわけではなさそうだとわかって安心したものである。
とはいえ、海軍としては予断を許さない状況なのも確かだ。
世界政府からも色々と言われているようだし、センゴクは長年の戦友を失って戦争の事後処理でてんてこ舞いだという。比較的軽傷だったサカズキとベルクもここ最近は色々なところからつつかれたり突き上げられたりと忙しい。
「〝黄昏〟は〝白ひげ海賊団〟を呑み込んで更に肥大化した。そこに〝赤髪海賊団〟との同盟だ。〝百獣・ビッグマムの海賊同盟〟と並ぶ……いや、実質的にはそれ以上の勢力として台頭していくだろう」
〝赤髪海賊団〟は傘下が弱いことと総数が少ないことでも有名だった。本隊が懸賞金アベレージの高い鉄壁の海賊団であることも加味しても、危険性は極めて低いと判断されていた。
そこにこの海でも最大勢力である〝黄昏〟が同盟を組んだ。元々非戦闘員も海運事業で利益を上げられる構造になっていることを考えると、単純に人数が増えることで勢力の強固さが増すことになる。
〝白ひげ海賊団〟を丸々取り込んだことと〝巨兵海賊団〟が援軍に来ていたことを含め、これに比肩する勢力は最早ないと言っても過言ではない。
「その気になれば、世界政府は世界中の国から徴兵を行える。兵力だけなら負けはしないが……」
「反発も大きい、か。難儀じゃのう」
サカズキはため息をこぼす。
海軍の強さをアピール出来ており、海賊被害の軽減を謳うことが出来れば、あるいは反発も少なかったかもしれない。
だが、現実には〝海軍の英雄〟の敗北に加えて、これまで〝黄昏〟が抑え込んだ海賊被害が反発を強めている。
それでも世界政府の加盟国に対する権力は強い。やれば出来るだろうが、戦争の一件で加盟国を抜ける国が出てきてもおかしくはなかった。
「ともあれ、ガープ中将の回復を待つのが第一だろう。〝英雄〟はまだ倒れていないことを示せれば、内外に対するアピールにもなる」
「……しかし、センゴクさんはどうするつもりか聞いちょるんじゃろう」
「ああ」
今回の一件を受け、センゴクは責任を取って元帥の座を辞することを決めている。
次期元帥にはベルクかサカズキか、と議論されているところだが、ベルクにはあまりその気はなさそうだった。
「当方には今の地位でも過分だ。他にやる者がいないのならやってもいいが、基本的にはこれ以上の地位などあっても持て余す」
「元はかなりいいところの出で教育も受けてると聞くが、アンタもとことんガープ中将の弟子じゃのう……それならわしがやる。構わんな?」
「好きにするがいい。当方は海軍に入った時点で出自など捨てた」
元帥の地位は海軍のトップであるが、実態は世界政府の下部組織なので中間管理職に近い。
破天荒なガープの弟子であるベルクに任せるといらない軋轢が生まれそうだったので、サカズキとしては自分がやるしかないだろうと思っていたところである。
より強い海軍にして、ひとつでも多くの海賊被害を減らすために。
彼の正義は、今なお燃え盛っている。
☆
「納得いかん」
憮然とした表情のガープが開口一番に吐き捨てた。
全身に包帯を巻かれ、ベッドに固定されて動けないようにされていることに対する文句なのか、あるいは
部屋に入ってベッドの隣に椅子を付け、センゴクは疲れ切った顔でそれに座り込んだ。
ガープもそんな様子のセンゴクに問いただすのは憚られたのか、口をつぐんだが……やはり気になったのか、「おい」とセンゴクに尋ねる。
「どうなったんじゃ」
「……戦争は終結した。最終的にカナタとカイドウが相打つかと思ったが、〝赤髪〟が現れてすべてを止めた。とはいえ、あの男は〝黄昏〟と同盟を結ぶらしい。厄介な話だ」
「〝赤髪〟ィ~? またぞろ妙な動きをするやつじゃのう。しかし、そうか……」
「倒せなんだか」とガープは脱力した。
カナタに打ち込んだ最後の一撃は、正真正銘あの瞬間に出来る最高の一撃だった。あれで倒せていないのであれば、どう頑張っても今のガープには倒せない。
それ自体は良い。よくはないが、ひとまず
「……ゼファーはどうなった?」
「……死んだ。勇敢に戦った、あの男らしい最期だった」
「そうか……」
ガープの同期は既にほとんど海軍にいない。
この歳になるまで生き残る海兵は少なく、仮に生き残っていてもほとんど退役している。
センゴクやおつるの方が珍しいのだ。
「お前の怪我は……凍傷と肺を貫く槍のせいでほぼ死にかけだった。それでも生きているのは……」
センゴクは口を一度閉じ、俯きながら零した。「実利とおれの私的な感情だ」と。
「海軍の誇る〝英雄〟は負けたが、生きていればまだ象徴として軍を纏められる。今回の責任を取っておれは元帥を辞めることになった。コングさんには既に話を通してある」
「……センゴク、お前死ぬ気じゃあるまいな」
「まさか。元帥は辞めるが軍に名前を残してくれとは言われたよ。ゼファーがああなった以上、後進の育成にも力を入れねばならんしな」
「それならいい……」
知りたいことはあらかた知れた。
あとひとつ。どうしてもわからないことがある。
「わしの傷は致命傷だったハズじゃ。なんで生きてる?」
「……悪魔の実の力だ」
「悪魔の実? そんな便利な力の能力者が海軍にいたか?」
ゼファーの教え子のひとりにモドモドの実という、肉体年齢を巻き戻す能力者がいるが、こちらはあくまで肉体年齢を巻き戻すだけで傷や病気を無くすものではない。
戦う前にガープに使っていればと思うかもしれないが、強すぎる覇気を纏えば当然ながら悪魔の実の能力は強制的に打ち消される。ガープに使ったところで意味がないのだ。
それ以外に思い当たる節はない。
センゴクはいくらか言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。
「取引をした。正直なところ、この取引はおれにとってもあまりいいものではない。だが、それでも今の海軍においてお前を失うことの方がマズイと考えた。〝黄昏〟が〝赤髪〟と手を組み、〝巨兵海賊団〟を含めて巨大な勢力を作った今、〝百獣・ビッグマムの海賊同盟〟と世界政府を含む三つ巴の争いが想定される。
……カナタは賢い女だ。世界政府加盟国に対して、これまで経済という首輪をつけて各国を飼いならしてきた。味方なら心強いが、敵に回すとあれ以上に厄介な奴もいない。世界政府はおそらく奴の影響下にある国から順に切り崩されるだろう。
そうなれば、海軍も影響を受ける。結束するには象徴が必要だ」
「そこらへんの話はいい。政治的な配慮なんぞ、今聞きたくもない。わしの傷に関する話だけを話せ」
「……仕方のない奴だ」
センゴクはため息を零し、端的に告げた。
戦争であれだけの覇気を使った以上、ガープは悪魔の実の影響下から逃れているだろうと。
「ロシナンテを通じて〝天夜叉〟ドンキホーテ・ドフラミンゴから連絡があってな。奴から持ち掛けられた取引は、正直なところ呑み込み難かったが……最終的には応じた。奴は〝ドレスローザ〟から小人族の王女を連れ去り、今なお手元に置いていたんだ」
小人族の王女である女性の名前はマンシェリー。
彼女の食べた悪魔の実の名前はチユチユの実──あらゆる怪我や病に対して効果を発揮する能力である。
ドフィはロシナンテの電伝虫の番号を知ってるので取引の連絡をしたけど、ロシナンテはまさか電話があると思わず(ドフィのことは忘れてるけどドンキホーテファミリーでの振る舞いは覚えてる)普通に応答してドフィがちょっとキレ気味だった、という裏話。
ホビホビの影響がどうなるのか全然わからないので、この辺は想像です
カナタとかカイドウも多分思い出してるけど、それどころじゃない上に興味がないので言及してない