ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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3DAY/2year
第二百八十四話:帝国の依頼


 

 カツカツとドクロ岩内に作られた廊下を歩く。

 並の巨人族ならば通れる程度の広さゆえに、普通の体躯の人間にとってはかなり巨大に思える廊下である。

 必然的に歩く距離も長くなるが、その女は一切歩を緩めることなく目的の場所へ向かっていた。

 ほどなくして着いたのは〝ハチノス〟における心臓部──〝黄昏〟の執務室である。

 ノックをすると、軽い声で声が返ってくる。

 

「おう、入れ!」

 

 その言葉に従って中に入ると、常ならばカナタの座っている執務机には千代が座っていた。

 先の戦争からおよそ一ヶ月。カナタは〝白ひげ海賊団〟のナワバリを順に回って顔みせと確認に回っているため、現在は千代が中心となって事業を回していた。

 元々カナタが絡まずとも事業は滞りなく動くようにしているし、どうしてもカナタの判断が必要なものは電伝虫でも使って連絡を取ればよいので、千代としては気楽なものであった。書類の多さは如何ともしがたいので、飽き飽きした様子ではあるが。

 千代は背伸びをして手に持った書類を机に置くと、椅子にもたれかかる。

 

「仕事か?」

「相変わらず遊びのない奴じゃのう。少しはわしを気遣ってくれてもええんじゃよ?」

「必要ならな。だが、お前も遊んでいる暇はなかろうよ」

「まあそうなんじゃけど」

 

 ナワバリが広がったため、処理をする雑務も必然的に増えている。元〝白ひげ海賊団〟の何人かに聞き取りをしても、一様に「統治などしていない」というばかりであるため、千代が独自にあれこれと考えてナワバリの維持のために動いていた。

 ニューゲートにとってのナワバリとは、あくまで名前を貸して他の海賊に荒らされないようにするだけのものであって、それ以上でもそれ以下でもない。

 事前調査で分かっていたことではあるが、実際に何もせずなあなあで済ませる間柄だと聞くと千代も頭が痛くなってきたものだ。

 名前を貸すだけで何もしないのにナワバリと呼ぶのもどうかと思うが、実際に効果があったのがタチの悪いところでもある。

 

「お主に頼みたいのは護衛じゃ」

「……護衛依頼か?」

 

 片方の目が隠れる長さの赤い髪をなびかせ、女は眉をひそめた。

 暗殺や戦闘ならばともかく、護衛依頼とは珍しい仕事である。

 

「場所は〝ロムニス帝国〟。相手は国王──もとい、女王であるメア・ロスティナ・ユースベル・ロムニス」

「誰に狙われている?」

「わからん。が、おそらく国内の貴族であろうと先方は言っておる」

「女王が国内の貴族に狙われているだと? きな臭い話だな」

「あっちも色々と厄介ごとを抱えておるようじゃ。他に頼めそうなやつもおらんしの」

「……ロムニス帝国ならラグネルの方が都合がいいのではないか?」

「それはわしも思ったんじゃけど、当の本人が嫌がったんじゃよね」

 

 ラグネルはロムニス帝国の出身である。貴族であるアドニス家の庶子として生まれたためか、本家からは嫌われているため滅多なことでは帰ることもしない。

 そもそも、ラグネルは帝国を出て〝黄昏〟に入るにあたり貴族籍から除籍されている。仮に帰ったとしても、家には居場所もないのだ。

 

「敵を見つけるなら小紫じゃけど、あいつもあいつで護衛とか出来るタイプではないしのう」

「待つのが苦手だからな」

 

 小紫は生まれからして守られる側の人間であるし、先手を打って斬りに行きかねないので護衛には不向きである。

 フェイユンは巨人族であるため、体躯的に常に護衛として付くのは難しい。カイエでは別の意味で護衛に不安が残る、と。

 そういう理由で彼女が選ばれた。

 

「いいだろう。すぐに向かう」

「うむ。話は通しておくのでな。ただ、少々長丁場になりそうじゃ。準備はしていってくれ」

「承知した」

 

 女は部屋から出ると、すぐさま荷造りをしに自室へと向かう。

 彼女の名はリエンナ。

 兄弟姉妹の中で最も強い、〝六合大槍〟ジュンシーの次女である。

 

 

 3DAY/2year──帝国動乱編

 

 

 ロムニス帝国と〝黄昏の海賊団〟はそれなりに付き合いの長い間柄である。

 元々は前王妃とカナタの間で結ばれた協定から始まった関係だったが、今や国と海賊団の間で多くの取引をしてお互いに利を得ている。

 とはいえ、カナタが帝国の中で公的な地位を得ているわけではない。港の使用権と商売を認められているだけだ。

 そのため、帝国内において〝黄昏〟は特権があるというわけでもなく、海軍支部の目の前に船を停めてトラブルになったとしても帝国が助けてくれるわけではない。

 

「着いたぜ、気を付けていって来いよ」

「ああ」

 

 帝国とハチノスは船で半日ほどと近い距離にあるため、数人で乗り合い便のように船を使うことも珍しくない。

 リエンナは別の用事で乗り込んだ知り合いと別れ、港町を歩く。

 やはり人が多く行きかうためか、港町の発展具合もかなりのものである。レース場に劇場に闘技場、更には〝黄昏〟の船員が滞在するための迎賓館も存在している。

 帝国が〝黄昏〟をどれだけ重く見ているかがわかるというものだが、あくまで港町に滞在するだけの施設だ。発展度合いならば帝都の方が上である。

 

「帝都まで切符を一枚」

 

 港町から帝都を繋ぐ列車に乗るため、リエンナは駅に来ていた。

 腹ごしらえのために弁当をいくつか買い、列車を待つ間に腹に入れておく。この港町は様々なものが入ってくるためか美味なものが多く、リエンナとしても舌鼓を打つ出来である。

 その後列車で2時間ほど揺られて帝都へと辿り着く。

 港町は人種のるつぼという感じで、人間だけではなく魚人や巨人、そのほか多種多様な種族がいたものだが、帝都はやはりというべきか人間の比率がかなり高い。

 観光に来るものもいないではないが、基本的に海賊などは港町で用事が終わることがほとんどだ。ここまで来ることは滅多にないし、貴族などにかち合えば差別を受けるのは自明の理である。物好きでもなければ人間以外は近付かない場所だ。

 リエンナは手に持ったメモを確認し、待ち合わせ場所へと歩き始める。

 駅を出て駅前の市場を抜け、大通りを進む。

 帝国は冬島にあたるが、今は時期的に雪に覆われることもない。移動はしやすかった。

 指定された場所──大通りから外れた場所にある寂れたカフェの一角──に着くと、先方は既に来ていた。

 

「遅くなった、申し訳ない」

「構わぬ! 余は寛大ゆえな!」

 

 屈託のない笑みを浮かべる、フードを目深に被った金髪の女性──メアは、そう言って「近くへ」と手招きをした。

 リエンナは言われるがままに対面席へ座ると、周囲に誰もいないことに眉をひそめた。

 ロムニス帝国は世界でもかなりの大国だ。その女王ともなれば、普通は護衛で周囲をガチガチに固めているものである。

 それが護衛のひとりもつけずに寂れたカフェにいるなど、普通は信じられるものではない。リエンナはメアの顔を知っているから本人だと判断しただけである。

 

「……護衛はどうされたのですか?」

「撒いてきた!」

「撒いてきた?」

「今の余は周り全部が敵なのだ。護衛の騎士といえども、信用に値するものではない!」

「それは……」

 

 軽く言うことではない。

 大国の王に敵が多いのはよくある話だが、護衛の騎士でさえ信用に値しないというのは中々ない話だ。

 だが、そういう事情であれば海賊に護衛を任せるという話にも納得出来る。身内よりもむしろ外部の方が内部事情が絡まないので信用できるということなのだろう。

 だからと言って中々決断出来るものではないだろうが。

 

「余の周囲にいるものは全員母上の息がかかっている。先だって命を狙われた際は自力でどうにかしたが、今後も上手くいくとは限らぬ」

「御母堂に命を狙われているのですか?」

「いや、恐らくは別口だ。母上の権力は余の地位あってのものゆえな。しかしそれゆえに余を狙う者も多い」

 

 メアの母親はかつてカナタと契約を結んでこの国に富みをもたらした。それ自体は評価されているが、前王の死の疑惑と若く美しい男を侍らせて淫蕩に耽る彼女のことを嫌う者は多い。

 たとえそれが嫉妬からくるものだとしても、メアが命を狙われている事実に変わりはない。

 

「なるべく余の近くにいて護衛をしてほしい。今の母上は信用出来ぬ」

 

 自らの権力基盤の土台であるメアの暗殺を防げなかったうえ、護衛の騎士を増やそうとする動きすらなかった。

 このままでは自分の身が危ないと危機感を抱くのも当然のことだろう。

 どうあれ、リエンナは護衛の仕事だとわかっていて受けた以上ここで帰るという選択肢はない。

 ロムニス帝国はハチノスにほど近く、海軍支部もある。この島が〝黄昏〟のナワバリとしてあるうちはいいが、ナワバリから外れると少々厄介な場所だ。

 失敗は出来ない。

 

「承知しました。御身は出来うる限り私が守りましょう」

「うむ。頼んだぞ」

 

 そうと決まれば話は早い。

 メアはリエンナを連れて王宮へ戻ろうとカフェを出て──すぐに見知らぬ市民たちに囲まれた。

 

「なんだ? 明らかに妙な雰囲気のようだが……」

「……私の背中から出ないように。念のため、その剣はいつでも抜けるようにしておいてください」

「う、うむ。任せよ」

 

 メアは護衛の騎士を信用出来ぬと思ってか、剣を持ち歩いている。いざとなればそれで身を守れるが……女王が市民に囲まれるというのも、妙と言えば妙な話だった。

 人気があるなしに関わらず、一般市民は基本的に貴族には関わりたがらない。もちろん普段から交流があれば話は別だろうが、メアは顔を隠しているし、身なりで貴族だと判断しているだけなら余計に近付きもしないのが普通だ。

 何しろ貴族と一般市民では権力の強さが全く違う。何があったとしても、罪はすべて一般市民が被ることになるし、下手に歯向かえばその場で斬り捨てられることもある。

 積極的に関わろうとする者などいるはずがないのだ。

 

「あ、あいつだ……」

「やらなきゃ家族が……」

「お、おれはやるぞ!」

「おれだって!」

 

 加えて、鬼気迫る表情で武器を手に取る姿は、そこらのチンピラとは思えない。

 

「……妙なことになってきたな」

 

 何はともあれ、ここでメアに怪我をさせるわけにはいかない。

 リエンナはメアを連れて王宮へと足早に歩き、武器を持ったまま青い顔をして道を塞ごうとした市民を軽く殴って気絶させる。

 

「仕方のないことではあるが……どうもこの市民たちは妙だ。手加減をしてやってはくれぬか?」

「元より命を奪うつもりはありません。この程度の連中が束になって掛かってこようと、物の数にもなりませんから」

 

 だが、護衛がいないタイミングだったとはいえ、ここでメアを襲撃する意図も読めない。

 以前に暗殺未遂があったと聞いたし、それを自力で切り抜けたのだからそれなり以上の戦闘力はあると見ていいが、狙っている側がそれを把握していないのも変な話だ。

 役に立たないとわかり切っているにも関わらず配置された襲撃者たち。

 護衛をやるならば常に気を付けよ、と父から教わった通りに射線を確認し、メアを己と建物の間に置いた瞬間、()()は来た。

 

「──っ!!」

 

 ガキン! という音と共に銃弾を武装硬化した徒手で弾いた。

 狙撃だ。弾いた角度からして高所から狙ったもの。リエンナはすぐにそちらに視線を向ければ、慌てた様子で銃を持ったまま移動する影が見えた。

 とはいえ、こちらは遠距離武器を持っていない。いるとわかっただけでも十分である。

 遅れて響く銃声に大通りの市民たちが一斉に姿勢を低くして、潮が引くように建物の中へと逃げていく。

 人波に呑まれぬように道路の端を歩きつつ、2人は王宮へと進む。

 

「……護衛初日からこれとは、先が思いやられるな」

「まったくです。ですが、やりがいはありそうで何より」

 

 赤い髪を揺らめかせ、父親譲りの獰猛な笑みを浮かべてリエンナはメアに答えた。

 

 




これは本当にワンピースの二次なのか?(舞台もキャラもほぼ原作のものがない)
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