ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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エルバフ関連の情報が出揃ってきたのでちょっとだけ修正とか加筆しています。


第二百九十一話:巨人族との密約

 

 ウォーランド島──〝冥界〟にある〝イーダの酒場〟。

 カナタたちは各地にある〝白ひげ海賊団〟のナワバリを巡って島の長と顔を合わせ、今後は〝黄昏〟のナワバリになることを伝えるという仕事を繰り返していた。

 世の中ラジオや映像電伝虫がある場所ばかりではないので、新聞で伝え聞いただけ、という場合もあったが、それでもマルコとエースを連れて行けばほぼ何の問題もなく顔合わせは済んでいる。

 エルバフを訪れたのは、〝巨兵海賊団〟との今後の協力関係も含めて親密に連携を取るために必要だと思ったからだ。

 

「村を回る順番も確認した。手土産も持ってきた。あとは村を回って挨拶するだけだ」

「挨拶、ね……」

 

 エルバフの村に住まうのは基本的に戦士ばかりだ。ここ近年は争いを嫌う世代も出てきたが、少し上の世代は戦うことに躊躇がない。

 〝白ひげ〟を正面から討ち、ガープやゼファーと戦って勝利したカナタのことは好印象らしい。楽観的な見方ではあるが、反対する者は少ないだろうと考えていた。

 争いを嫌う世代と言っても巨人族の子供たちがそうであるというだけなので、影響はそれほどない。

 

「それと、ヤーさんがあとで顔出せってよ」

「ああ、エースのこともある。一度は顔を出した方が良かろうな」

 

 ロキの言葉にカナタは頷いた。

 ヤーさん──〝山喰らい〟のスコッパー・ギャバン。元〝ロジャー海賊団〟の一員で、かつては〝海賊王の左腕〟とまで呼ばれた男である。

 巨人族の女性と子供を作り、エルバフに住んでいる。エースは会ったことがないので知らないが、今回〝白ひげ〟のナワバリを巡るために連れてきている。会わせておいた方がいいだろうと考えていた。

 昔戦ったこともあるマルコは渋い顔である。

 

「ギャバンか……何かと噂は聞くが、結婚していたというのは驚きだよい」

「あの男は基本的に女関係のトラブルも多かったからな。金で解決できることはこちらで処理したこともあるが……あと、結婚はしていない。事実婚状態なだけだ」

「そりゃ……ありていに言ってダメ男じゃあ……」

「言ってやるな。海賊だ、ああいうやつもいる」

 

 カナタは肩をすくめて擁護し、エースはマルコ同様渋い顔をした。

 レイリーも今はシャクヤクのヒモだし、海賊王の一団というのはこんなやつばっかりなんだろうか、と考えるとエースが渋い顔になるのも仕方がない。

 

「ゼハハハハ!! ちっとばかし女グセが悪ィのくらい目ェ瞑ってやれよ!! おれと姉貴だって母親は違うんだぜ?」

「そう言われるとな……」

「海賊だしなァ……」

 

 ともあれ、エルバフは広い。イーダの作った朝食を食べたらすぐにでも動かねば、あいさつ回りが終わるより先に日が暮れてしまう。

 ニコニコと笑顔で食事を用意するイーダに礼を言い、カナタたちはテーブルの上で朝食をとる。

 巨人族の作る食事なので分量がとんでもないが、カナタたちもガレオン船に相応の人数がいるので、配膳に少々手間取りはしたが全て平らげた。

 

「御馳走様。感謝する、イーダ。美味しい朝食だった」

「いいのよ、カナタちゃん! うちのロキ君だって世話になってるんだから!」

「そんなにあれこれ世話になっちゃいねェよ!!」

 

 ロキは反論しつつもイーダには強く出れないのか、食べ終わるなり酒場の外に出ていく。

 カナタは船に残す者と村へ行く者で人員を分けるよう指示を出し、ロキに続くように酒場を出る。

 

「ところで、おれァずっと気になってたんだがよ……そのデケェリスは何なんだ?」

「クリリリリ!」

 

 カナタよりも頭一つ分大きいリスは、どういうわけかカナタに懐いているらしい。隣で一緒に食事をしていたし、今もカナタのそばを離れようとしない。

 

「この子は〝鉄雷(ラグニル)〟だ。ロキの使う武器で、〝氷リス(ラタトスク)〟の能力者らしい」

「ほォ、能力者か!」

 

 興味深そうに覗き込むティーチを警戒してか、カナタの背後に回って威嚇するように鳴き声を上げる。

 カナタは基本的に動物にはあまり好かれるタチではないため、妙に懐いてくる鉄雷(ラグニル)を可愛がっていた。

 同じ氷を操る能力者ゆえのシンパシーなどもあるのかもしれない。

 

「オイ! 急がねェと本当に日が暮れるぞ!!」

「ああ、わかっている。手早く済ませるとしよう」

 

 ロキに急かされるまま、カナタたちは〝冥界〟から〝陽界〟へと移動を始めた。

 

 

        ☆

 

 

 移動はロキに運んでもらうことであっという間に〝陽界〟へ辿り着いた。

 能力を使うとあまりに目立ちすぎるため、今回はあくまで徒歩での移動だが、今後人族が出入りすることを考えると何か移動手段を考えなばならないだろう。

 これまでも出入りは多少あったハズだが、〝陽界〟での移動は島雲を使う〝霧舟(スヴァル)〟を利用することで済んでいた。しかしこれは〝冥界〟では浮力を得られず使用出来ないため、上下の移動には使えないのだ。

 エレベーターのようなものがあればいいのだが、とカナタは考えていたが……実現は中々難しそうだった。

 

「まずはどこから行くんだ、姉貴」

「ヤルル殿のところだ」

 

 世界最高齢の巨人族にして、かつて巨兵海賊団の船長を務めた男である。

 ハラルド王が斃れ、ロキが即位していない今のこの国を暫定的に纏め上げている男でもあるため、最も優先的に対応しなければならない。

 

「あの人は話が分かる。ドリーとブロギーからも話が行っているだろうし、問題はないだろう」

 

 一時期は頭部に剣が刺さっていたが、現在はスクラのオペオペの実の能力で摘出されている。戦士の傷だ、と摘出に消極的ではあったが、王無き国を纏めるヤルルに万が一のことがあってはカナタも困る。

 ドリーとブロギーに説得を手伝ってもらってようやく納得してもらえたのだ。

 〝霧舟(スヴァル)〟を漕ぐロキは少々不服そうな顔だったが、フェイユンとじゃんけんで負けた結果なので甘んじて舟をこいでいた。

 程なくして村に到着する。

 先ぶれ──というか、事前に電伝虫で連絡自体は入れていたため、ヤルルとの会談は非常にスムーズに終わった。

 用意のいいことに各村の代表者を事前に集めてくれていたらしく、ロキと立てた計画はあっという間に不要になってしまった。

 

「おれが手伝った意味!」

「ボジャジャジャジャ! 年季が違うわい!」

 

 ロキは憤慨していたが、カナタとしてはありがたい話だった。

 あくまで協力を要請する立場であるため、この提案はカナタ側からは出来ないことである。ヤルルの気遣いに感謝し、集まった長老たちに今後の計画の説明と協力の要請をする。

 カナタは先の戦争で十分に力を見せているためか、こちらもスムーズに要請を受諾してくれた。

 ……とはいえ、先王ハラルドは戦争よりも交易を、という王だったため、彼のことを想うなら巨人族の武力はあまりひけらかして利用するべきではない。

 ヤルルとも十分に相談して、切るべき場面を見極めて使わねばならないカードになるだろう。

 下手な扱いをしてロキに反逆されても困る。

 

「想像以上に早く済んだな」

「ゼハハハ! 時間が余っちまったな!! おいマルコ、どうせだから酒場で一杯引っかけていこうぜ!!」

「さっき朝飯食べたばっかりだろうがよい……」

 

 呆れた顔をしつつもやることがないのは変わりない。酒はともかく、マルコは情報収集もかねてティーチと共に適当な酒場へと足を運んで行った。

 フェイユンは旧交を温めに出掛けて行き、ロキは村では針の筵のような扱いなので仕事が終わったと見るやどこかへ姿を消していた。その際、しっかり〝鉄雷(ラグニル)〟も連れて行っている。

 

「では、私たちはギャバンのところに行くか」

「あの男なら、今は確かセイウチの学校におるはずじゃ」

「そうか。感謝する、ヤルル殿」

 

 カナタはエースを伴って村から移動する。

 ギャバンのいるという〝セイウチの学校〟は今いる村から非常に遠い(人間族基準)ため、〝霧舟(スヴァル)〟での移動を申し出てくれたが、カナタはエースを鍛えることもかねて徒歩で行くことにした。

 方角もあらかたわかるし、そもそも見聞色でギャバンの〝声〟は既に把握している。道に迷うことはない。

 

「だからって……! 走っていくのは……! ムチャだろ……!!」

「喋る余裕があるなら、もう少しペースを上げるか?」

「このヤロ……ッ!!」

 

 エルバフの村は〝宝樹アダム〟の上にある。そのため、枝の場所によっては非常に燃えやすい。

 エースのメラメラの能力を下手に使わせると火事になりかねないため、能力の使用禁止を言い渡してセイウチの学校まで走らせていた。

 カナタは樹の上の道を凍らせてスケートのように滑っているため、体力の消費はないに等しい。

 エースのケツを叩きながら〝戦士の泉〟と呼ばれる場所に辿り着く。

 その畔にセイウチの学校はあった。

 

「ゼェ……ゼェ……!!」

「帰りも走るから、しっかり休んで息を整えておけ」

 

 ギャバンは見聞色の覇気を得意とする男だ。武装色も覇王色も扱えるが、人の感情の機微を感じ取ることに長けている。

 彼ほどの男ならカナタがエルバフに着いた時点で気付いているだろう。カナタはエースを休ませることを優先して泉のほとりに椅子とテーブルを氷で作り、ギャバンが来るのを待つ。

 この泉は海のように見えるほど広いが、あくまで源泉から落ちる水で波が出来ているだけで潮の満ち引きがあるわけではない。

 波風を浴び、源泉から落ちる水の音を聞いていると、セイウチの学校からギャバンが姿を現した。

 

「久しいな、カナタ! 相変わらず美人だ!」

「何年か前にも会っただろう。ロジャー海賊団絡みのトラブルは大体私のところで尻ぬぐいをしているからな」

「がはははは!! すまんすまん! 感謝してるよ!! ──それで、そっちが?」

「ああ、ポートガス・D・エースだ」

「エースだ。以後よろしく」

「がははは! あいつの息子とは思えねェ礼儀の良さだな! お前の仕込みか?」

「いや、最初からだ。どこかで学んで来たのだろう」

 

 ペコリと礼儀正しく頭を下げるエースに、ギャバンはロジャーとは大違いだと笑う。

 礼儀も何もない豪放磊落な男だったが、それでも多くの者に慕われていた。カナタとは正反対のタイプである。

 ひとしきり笑った後、エースとギャバンはカナタの作った氷の椅子に座る。少々冷たいが、下に一枚何か敷けば耐えられないことはない程度だ。

 

「正直なところ、お前がこれだけデカい事件を起こすとは思わなかった。どちらかといえば海軍に近い思想だっただろう?」

「天竜人の横暴を許す海軍と一緒にするな。都合が良かったから七武海の座を利用していたにすぎん」

「お前らしいと言えばお前らしいな! 他人が起こすトラブルってのはこれだから好きだ」

「火の粉が降りかからない場所から見ているだけなら、さぞや面白かろうさ。だがハラルド王の件も完全には解決していない。世界政府がいずれまたここを狙う可能性は高いぞ」

「その時はおれが何とかするさ! リプリーとコロンのいる国だ。奪わせやしねェ」

「ならいいが……城にあった〝五芒星(アビス)〟は一応刻んで破壊してある。だが、あれで本当に破壊できたのかどうかもわからん。重々気を付けておけ」

 

 ハラルドが死んだ日のことはギャバンとシャンクスからかいつまんで聞いている。だが、事態を把握していたであろうヤルルとロキは口をつぐんだままだ。

 ロキと共に海に出た兵士たちもまた同様に……それゆえに、カナタはハラルドが死んだ日のことを詳しくは知らない。

 ただ、城内を見聞して得た情報とシャンクスから聞いた〝神の騎士団〟の情報を組み合わせて、次の被害が出ないようにしただけだ。

 あれで正しいのか、シャンクスも〝深海契約〟をおこなっていないためわからない。

 

「それよりエースのことだ! ロジャーの息子が本当にいたとはな……! お前は知ってたのか?」

「ロジャーが海賊団を解散させるより前に相談を受けていた。いずれ自分の子供が出来た時、力になってやってくれと言われてな」

「なるほどなァ……」

「もっとも、私はビブルカードを渡していただけだ。エースの母親のことはガープに任せていたようだぞ」

「ガープに!? がはははは!! あいつらしいな!!」

 

 ロジャーとガープは海賊と海兵という立場ゆえに敵同士だった。だが、長く戦い続けていたために奇妙な友人関係のようなものが出来上がっていた。

 ロジャーが仲間と同じように信頼したのもそのあたりが理由だろう。

 

「2年前、エースはビブルカードを頼りに私のところへ来た。その時、私のところへ来ないかと誘ったがフラれてしまってな……ニューゲートのところへ行ったと思えば、助けてほしいと頭を下げに来た」

「ははあ、ニューゲートとお前は随分仲が悪かったからな。いずれ衝突するだろうと思っていたが、戦争の発端はそこだったか」

 

 エースにとっては自分が戦争の引き金を引いたようなものだ。カナタとギャバンの会話に口を堅く結び、手を強く握りこんでいた。

 それに気付いたギャバンは、それまでの楽しそうな雰囲気を消した。

 

「気にするな──といっても気にするだろうな。だが、お前の件がなくともカナタはいずれニューゲートを斃しに動いていた。そうだろう?」

「当たり前だ。そうでなければじわじわと勢力を削るようなマネはしない」

「だ、そうだ。思いつめすぎるな、若人よ……逆に考えておけ」

「……逆?」

「ああ。ニューゲートはどうあっても助からなかっただろうが……正面からの戦争になっていれば、被害はそれだけに留まらなかったはずだ。一緒にメシ食った仲間が死なずに済んだ。それだけでも、お前が動いた価値はあったんだ」

 

 勢力の大きさも、物資の量も歴然だった。世界最強の男も病には勝てず老いさらばえ、実際に決闘した結果敗北している。

 順当にいけば勢力丸ごと解体されていたところを、ニューゲートひとりの犠牲で済んだ。

 だが、エースはそれでも認められないだろう。

 最も助けたい男をこそ、彼は助けられなかったのだから。

 

「弱者の言葉など何の価値もない。守りたいものを取り零したくないのなら、強くなるしかない。だから私に弟子入りしたのだろう?」

「……ああ。強くならなきゃ、おれは誰も守れねェ」

 

 エースにはまだ、取り零したくないものが数多く残っている。

 失ったものを数えて、無力だと嘆くような無様を晒すことは出来ない。

 エースの心の機微を感じ取ったのか、ギャバンはにやりと笑う。

 

「そういうことなら、おれからも教えを授けてやってもいい」

「止めておけ。こいつの教えは女の扱いに関することだけだ」

「それ以外にもあるわ!!」

 

 ギャバンのツッコミに、エースはようやく笑みを浮かべた。

 

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