カナタとエースはギャバンを連れ、再び村の方へと歩を進めていた。
ギャバンの妻であるリプリー、それにオハラの一件で保護したサウロがセイウチの学校で働いているので、そちらに一度顔を出してからの移動である。
帰り道も当然のようにエースを走らせようとしたカナタだが、ギャバンが同行することになったので歩きになった。
「しかし、ロジャーの子供がお前の弟子か……なんか、色々と巡り巡って収まるところに収まった感じがあるな」
「そうか? そうでもないと思うが」
「ガープもそうだが、ロジャーはロックスを……ほら、アレだろ? で、ロジャーはそれと知らずに一度はお前を助けてる……見つけたのはレイリーだったか? まァいい。そのお前が今度はエースの父親代わりだった〝白ひげ〟の首を獲ってエースを弟子にしてる。巡り合わせってのは不思議なモンだ」
「……そうだな。会ったこともない男を父親とは言い難いが」
「そういうところも似てるって言ってんだ」
カナタもエースも父親を嫌っている。その上、父親同士は殺し合った仲だ。
ガープとロジャーに
「ガープは生きてると思うか?」
「あの野郎は殺しても死なねェだろ……と、この間までのおれなら言う。だが、あれほど壮絶な死闘を見た後では何とも言えん」
海軍はゼファーの死を公表すると同時に大々的に葬儀を行い、反〝黄昏〟への機運を高めている。
だがその一方、ガープに関しては完全に沈黙している。
ガープは海軍の英雄だ。そのネームバリューはゼファーの比ではなく、死を公表出来ないのも理解できるが……ガープの生命力の強さをギャバンはよく知っている。カナタが死の淵まで追い込んでなお、死んでいないかもしれないと思う気持ちも理解出来た。
あそこまで追い込まれたなら死んでおけよ、人として。という気持ちもないではないが。
エースとしては、ジジイと呼びつつも世話になった相手なので複雑な心境だった。
とはいえ、今はそれよりも気になることが出来た。
「ちょっと待ってくれ。ロジャーがカナタさんの父親を殺したって?」
「あー……」
どうする、とギャバンはカナタに視線を向ける。
カナタはどうでもよさそうに肩をすくめた。
「……あっちは興味ねェってよ」
「おれは気になるんだが……」
「お前が生まれるよりずっと昔のことだ。気にせずとも良い」
「まァお前ならそう言うよな」
ロジャーとて、生前にカナタと話していた時は「自分が殺した」と言っていた。事実と多少異なるとしても、そこまで追い詰めたことは混じり気のない事実だったからだ。
しかし、ギャバンは当時のことをハッキリ覚えている。
「正確にはロジャーとガープが殺したわけじゃねェ。あれは……今思えば、ロックスは敵に悪魔にされちまってたんだろう。ロジャーとガープはそれを止めるために戦って、ほぼ相打ちに近い形でロックスを止めた」
その時点ではまだロックスは生きていた。
だが、直後にやってきたガーリング率いる〝神の騎士団〟の手で殺害されている。
ロジャーもレイリーも、ギャバンもガープも今まで誰も言わなかったことだ。
最終的にとどめを刺したのがガーリングだとしても、そこまで追い込んだことは事実だ。それゆえに、ロジャーはカナタに何か言われても甘んじて受け入れるつもりだった。カナタは何も言わなかったので拍子抜けしたくらいである。
カナタはロックスに会ったことがない、というのもあるだろう。だが、最大の理由は別だ。
「
「……レイリーに聞いたのか?」
「いいや。だが、確かな筋からの情報だ」
カナタは無意識のうちに〝村正〟の柄に触れる。
オクタヴィアと殺し合って以降、見聞色の覇気を磨いたカナタは刀の〝声〟を聴けるようになっていた。
他の刀には無くとも、〝村正〟にはある──焼き付くほどの執念、怨念、あるいは怒り。
〝デービーの血を絶やすな〟〝ヤツを許すな〟〝約束は果たされるべきだ〟〝世界の王になる〟──かつてロックスが抱いた野望と執念が聞こえる。
フラッシュバックする記憶の中にも、
ロジャーとガープの渾身の一撃をその身に受け、満身創痍でありながら正気を取り戻し、そしてガーリングの手によって殺される瞬間。
確かにロックスはロジャーとガープに対して感謝をしていた。恨みつらみを受け継ぐ気はないが、親子揃って救われたのならロジャーに対して献身的になるのも当然だろう。
ガープに対してだって、海賊と海軍という立場ゆえにああなったが、別に当人に対して思うところはないのだ。
「ロジャーは確かに恩人だった。ガープは……まあ立場の違いで敵対しただけだ。思うところはない。だからエースはきちんと育て上げるつもりだ」
「……そうか」
「ガープの孫の方はレイリーとグロリオーサが鍛えることになったようだしな」
「何ィ!? ガープの孫!?」
「ああ。エースの弟分だそうだ」
「そりゃあまた……よし、エースを鍛えるのを手伝うぜ。ロジャー海賊団のナンバー2はおれだったってことを知らしめてやるよ」
「変なところで対抗心を燃やすな、お前は」
「うるせェ! 負けられねェ戦いってのがあんだよ、男には!!」
レイリーはこだわりもなさそうだったが、ギャバンはそれなりに気にしていたらしい。
道すがら覇気に対する基本の確認から始まり、能力についてもああだこうだと話し始めた。
☆
「おう、姉貴! 帰ってきてたか!」
村に戻ると、まだ昼前だと言うのに既にすっかり出来上がっているティーチの姿があった。
村で歓待を受けて巨人族の男たちと酒盛りをしていたらしい。視線をずらせばドリーとブロギーも酒を飲んでいるのが見える。
「エースも戻ったか! で、そっちは……」
「久しぶりだな、ティーチ」
「ギャバンじゃねェか!! ゼハハハ、随分老けたな、オイ!!」
白髪が増え、顔にしわも増えたギャバンを見てティーチは笑った。
ギャバンはにやりと笑い、ティーチを見透かすようにジッと見つめる。
「相変わらず野心の塊みてェな野郎だな。昔はもう少しうまく取り繕ってたハズだが。必要なくなったのか?」
「あァ、もう隠す意味もねェからな!」
「ほう。隠す意味もねェ、か……しかしお前が本当にカナタの弟とはな。昔は盃でも交わしたのか、あるいはそう呼んで慕っているだけかと思っていたが」
「そうだな。私も昔はそう思っていた」
「おれだって半信半疑だったさ! だが姉がいるってことは聞かされてたんだ。確信したのは空島の時だがな!」
「空島?」
「〝スカイピア〟だな。お前たちも行ったことがあるだろう」
「ああ、あそこか。いいところだったな。懐かしいぜ……」
「あそこで私とオクタヴィアが殺し合いをしてな。その時の会話を聞いて確信したらしい」
「殺し合いってお前……母親だろ……?」
ドン引きするギャバン。
だが、実の親子であってもそういうことはある。納得はしがたいが、ギャバンは頭を掻きながら事実を呑み込んだ。
話を戻す。
「姉貴がいるなら、おれはその手伝いをするだけでもいい! もちろんやる気がねェならおれが上に立ったっていいんだがよ!!」
「がははは!! 剛毅だな、カナタの上に立つとは!!」
「やれるものならやってみろ。生半可な真似をするなら沈めてやる」
「と、まァこんな感じでよ。恐ろしくって下克上なんざ出来やしねェ!」
肩をすくめるティーチに爆笑するギャバン。
正直なところ、昔は巧妙に隠した野心と得体のしれない不気味さがあって警戒感も強かったが、今のティーチはそれほど警戒するべき相手とは考えていなかった。
レイリーは未だに疑っているようだが、ギャバンは感情を読むことに長けている分、カナタがいるうちは大丈夫だろうと判断している。
少なくとも、力関係ではカナタの方が上のようだし。
笑っている2人を尻目に、カナタは村で酒盛りに参加している船員たちを見る。ティーチだけかと思ったが、それなりに参加している者がいるらしい。
「この調子では仕事にならんな」
「固いこと言うなよ。今日の仕事はヤルルの爺さんのおかげでなくなったんだろ?」
「……それもそうだな。一日くらい構わんだろう」
ヤルルのおかげで浮いた分、他の仕事に回すために出航を早めてもよかったが……人間、たまには羽目を外すことも大事だ。
特にカナタは自分の仕事量を他人に振ると高確率で潰れることを経験的に知っているので、そのあたりには慎重になっている。
休養日も無しに働かせると、大抵耐え切れずにどこかしら不調が出るものだ。
もっとも、船の中でも交代で仕事をしているので完全に休みなしというわけでもないが。
「船に戻った奴らも呼んでやれ。今日はこちらの村で世話になることにする」
「おっ! 姉貴にしちゃ珍しく太っ腹じゃねェか! ありがとよ!」
ぱしーん! とカナタの尻を叩くティーチ。
酒の勢いだったのだろう。その後しっかり拳骨を食らって沈められていたし、エースは呆れてギャバンは爆笑していた。
ブラック企業でも潰れないどころか潰す側に回りかねなかった女
最近忙しくて更新が安定しなくて申し訳ないです。
空白の二年間編、ぶっちゃけネタがそれほどあるわけでもないのでさっさと次の章に移るべきかちょっと迷ってる次第。
麦わらの一味の動向は原作とそれほど変わってないので書くところもそんなに無いですし。