「カイドウがティーチの方に行っただと?」
『ああ! こっちで殴り合ってるが……予定じゃ、あいつが〝ビッグマム〟と戦うハズだったろ!? どうする!?』
「ふむ……」
予定外ではある。だが、致命的ではない。
慌てるジョルジュからの連絡を受けても、カナタに動揺はなかった。
元々カイドウを足止めするのはカナタが最適だからそうするべきだと思って作戦を組み立てただけで、ティーチが引き受けるのであればそれに合わせて作戦を変えるだけだ。
戦場は常に流動的だ。ひとつの考えに固執していては対応が遅れる。
「ティーチがカイドウを相手取っている間に進軍する。リンリンは私が相手にするとしよう」
『おいおい、大丈夫か!? ティーチにカイドウの相手は荷が重いんじゃ……!』
「あまり侮ってやるな。実力はある」
それに、とカナタは小さく笑う。
「私が、弟だからという理由だけでティーチをあの地位に付けていると思っているのか?」
『それは……』
悪魔の実の能力を二つ持っている、という特異性を抜きにしても、ティーチの強さは群を抜いている。
血の繋がりだけで特別行動を赦すほど、カナタは身内贔屓した覚えなどなかった。
ティーチとバレットは現状、カナタの副官として扱われている。
他の誰にも従えることが出来ず、扱えるのがカナタだけだから、という理由ではあるが──突出した実力も、その気になれば派閥を作って組織を割ることが出来る覇王色持ちであることも、理由の一つではあるだろう。
それだけのことを
「あいつのことは心配いらん。どうにもならないと判断すれば退く判断も出来るだろう」
「私が手助けに行きましょうか?」
カナタに同行していた小紫が会話に割り込んでくる。
小紫は家族、ひいては国のためにカイドウを討つという大義名分があるためか、少々前のめりになりがちである。カナタはそれを考え、「ダメだ」と申し出を突っぱねた。
「ティーチに合わせて戦うのは難しい。その上、お前もティーチも周囲への影響が大きい能力だ。ジョルジュにフォローさせる」
「……そうですか」
「そう不満そうな顔をするな。心配せずとも、カイドウの首を獲るチャンスはまだある」
狐面を被っていて顔は見えないハズだが、カナタは見聞色で小紫の雰囲気を感じ取って小さく笑う。
「聞こえたな、ジョルジュ。オーガーもそちらに同行しているんだ、いざとなれば回収して来い」
『ムチャ言うなよ!? あの野郎と空中戦やれってのか!?』
カイドウはその能力によって空を自在に移動できる。ジョルジュがフワフワの能力を使えると言っても、速度には圧倒的な差があるのだ。
元より実力差もある以上、逃げるのは容易ではない。
というか、正直なところジョルジュの船に乗っている面々ではカイドウの攻撃すらロクに防げる人員がいない。ティーチがやられれば手詰まりである。
元々戦闘に関してはあまり得意ではないジョルジュに任せるのも酷であった。
「まぁ、そうだな……難しいか。マルコをそちらに回す。最低限時間稼ぎをすれば、誰かしら到着出来るようにはしておこう」
『頼むぞホントに!』
ティーチのことは信用しているが、それはそれ。ジョルジュとしては四皇のような怪物と真正面から戦うような愚を犯す真似はしたくないのであろう。
長いことカナタと共に旅をしているが、そのあたりの肝の小ささは改善していない。
「マルコに電伝虫を繋げ。ヤツの能力ならそう時間はかからないハズ──」
カナタが指示を出していると、突如上空から爆発音が連続した。
すぐさま甲板から上空を確認すると、ミサイルが爆発したであろう黒煙を上げていた。
「確認しろ!」
「上空にプテラノドン! キングです!!」
双眼鏡を手にした船員が叫ぶ。
おそらくカイドウに追従して近くまで来ていたのだろう。あの男ならば上空でミサイルを迎撃できたとしても不思議はない。
ミサイル自体の速度も相当なものなので、広い空で狙って迎撃をおこなうことは難しいハズだが……偶然か、あるいは次に狙う島を逆算して〝ハチノス〟と結ぶルート上で網を張っていたのか。
いずれにせよ、制空権を取られたままでは厄介だ。
「誰が行く?」
「空中戦か……」
ただでさえキングは強い。異様な耐久力に種族の特性で炎まで操る上、プテラノドンの能力で高速機動の空中戦も出来る。
〝六式〟が扱えても、常に上空で戦うには極めて安定した平衡感覚とセンスが必要だ。
戦えるものは限られる。
ペガサスに乗ったカイエか、あるいはマルコを迎撃に回すか──そう考えたところで、小紫が〝閻魔〟の鯉口を切った。
「私が行きます」
「……情報は頭に入っているな?」
「問題ありません。カナタさんの攻撃に耐える耐久力とそれなりの速度、それと炎ですよね」
「それだけわかっているならいい」
プテラノドンの高速機動も、キングの操る炎も小紫ならば問題は無い。異様な耐久力だけは何かしらの種があると見るべきだが、それは小紫が戦闘の中で見つける必要がある。
バチリと空気が焼け付く音がした。
瞬きの間に上空へ到達した小紫は、滞空するキングと相対する。
「テメェが来たか。マルコか、他の奴が来るかと思ったが……」
「貴方は厄介ですからね。手が空いてて斬れそうなのが私しかいないもので」
「高く評価されたもんだな」
小紫は先の戦争でカイドウと渡り合っている。その実力の高さはキングも認めていた。
それゆえに、相応の警戒もしている。
キングは能力を使わずとも背に翼を持つが、これで飛ぶことは出来ない。加えてプテラノドンとして獣形態、あるいは人獣形態であれば飛行は可能だが、両腕が翼に変化する関係上、刀などの武器は扱えないのだ。
そのため、空中戦となれば基本的に噴出する炎か自身の肉体による攻撃で仕留める必要がある。
「カイドウさんに実力があると言わしめた強さ、確かめさせてもらおうじゃねェか」
高速で飛行するキングの最高速度は音速を越える。
だが、小紫の速度はその能力ゆえに常に雷速。反応さえ出来れば回避は難しくはない。
燃え盛る炎と武装色で固めたキングの突進は、まともに受ければ小紫でもダメージは免れない。
回避する際に多少斬りつけたとて、キングにはまともにダメージが入っている様子はなかった。
「……さて、どうやって斬りましょうか」
「テメェにおれは斬れねェよ」
互いに仮面で素顔を隠したままにらみ合う。
キングの言葉に
如何に防御に自信があるとはいえ、それをまともに受けてやる義理はない。キングは小紫の斬撃を回避すると、そのまま距離を取った。
「〝
自身でトサカを限界まで引っ張った後、それが戻る反動で発生する衝撃波で攻撃する技だ。
威力も十分、速度も十分なそれを、小紫もまた空を蹴って回避する。
「おかしな技を……!」
「プテラノドンは太古の昔、こうやって狩りをしていたんだ……! プテラノドンはこういう生き物だ!!」
「なんと!?」
武装色を纏い、更に覇王色まで纏って攻撃しようと構える小紫に対し、キングは再び〝貂自尊皇〟で機先を制する。
空は広く、回避のために障害になるものもない。
2人の勝負は長引きそうだった。
☆
上空でぶつかる2人を尻目に、カナタはマルコへの連絡をして周囲への警戒を強めていた。
カイドウだけならまだ単独行動で説明できるが、キングも同行しているとなれば組織的な動きだ。近くに〝百獣海賊団〟が隠れている可能性がある。
まさかカイドウを追いかけてキングも単独行動しているとは思わない。
「〝百獣海賊団〟の船が潜んでいる可能性がある。警戒を怠るな」
上空から観測していたジョルジュたちはカイドウへの対処に回っている。現在は戦っているわけではないので手は空いているハズだが、島の湾岸に隠れていたりすれば見つけるのは困難だ。
警戒しつつ船を進め、〝ビッグマム海賊団〟の本拠地である〝ホールケーキアイランド〟の近海まで到達する。
だが、流石にリンリンも本拠地での本土決戦は避けたかったのだろう。
島ふたつほど手前で待ち構えていた〝ビッグマム海賊団〟の本船、〝クイーン・ママ・シャンテ号〟と無数の船が並び、距離を置いて睨み合う。
時刻は既に夕刻。
このまま日が落ちるまで睨み合い、本格的な衝突は翌朝か──と思われた。
「報告します! 日が沈むと同時に海が固まっています!!」
「ほ、報告! 〝ビッグマム海賊団〟、〝百獣海賊団〟が共に動き出しました!!」
〝
この状態になると足場として使えるほど頑丈になり、船も身動きが取れない。
カナタの氷による足場ではなく、あくまで環境による足場を作ることにしたのだろう。敵の作った足場など信用できないと判断したのかもしれない。
カナタはそれに対し、即座に指示を出した。
「照明弾!」
指示を出すと同時に千代の手によって打ち上げられた照明弾は、上空で爆発すると同時に強い閃光を放つ。
数分にわたって夜を照らす照明弾が効果を発揮している間に、敵勢力の把握に努める。
もちろん無防備に待つつもりはない。率先して先頭に立つ〝巨兵海賊団〟とフェイユンに続き、〝黄昏〟の戦闘員たちが動き始めた。
「先走るな、フェイユン!」
「ガババババ!! 案ずるな、おれ達もいる!!」
「ゲギャギャギャギャ!! そうだ、あの子だけに戦わせるつもりはねェ!!」
ブロギーとドリーの2人が武器を片手にフェイユンに追いすがる。
巨大化したフェイユンは180mほど。通常の巨人族に比べて10倍近い体躯を誇る。当然、歩幅もそれに応じて大きい。
走って追っているのに追いつけないという初めての体験をしながら、2人はフェイユンを追っていた。
「えーいっ!!」
海が固まっているとはいえ、ここは敵地。慣れている者と不慣れな者では動き方も異なる。
隕石のように振り下ろされるフェイユンの拳を、下から巨大化した拳で迎撃する者がいた。
シャーロット家次男にして〝将星〟の一角たるカタクリである。
爆発でも起きたかのような衝撃と音があたりに響き、フェイユンが足を止めた。カタクリはリンリンに次ぐ実力者だ。ここで倒せば、他の皆が楽になる。
そう考えたフェイユンは、照明弾で明るいうちに決めてしまおうと、より強い覇気を見聞色で感知して再び拳を振り下ろす。
「何度やろうと無駄だ! 巨大なだけではおれは倒せん!!」
カタクリはモチモチの実の能力者だ。
自身の体を膨らませることで大きさは変えられる。フェイユンの巨大さであっても対応は可能だが、流石にその異常なまでの腕力までは対応出来ない。
先ほどよりも力を入れた拳が、迎撃に動いたカタクリごと叩き潰そうと迫り──照明弾が何かによって破壊される。
それと同時に、雷雲ゼウスを片手にリンリンがフェイユンへと迫った。
「リンリン!!」
「フェ~~イユ~~ン!! お前は仲の良かったダチだったが、おれの邪魔するんなら容赦はしないよ!! 〝雷霆〟!!!」
さしものフェイユンも、リンリンの攻撃はまともに受けられない。
回避行動に移ろうとして、足が動かないことに気付く。
先に戦っていたカタクリの仕業である。彼のモチがフェイユンの脚部に張り付き、動きを阻害していた。
「逃がさないよ、フェイユン!!」
「──ッ!」
で、あれば。
フェイユンは能力を解除することにより、その体躯を通常の巨人族と同程度にまで戻してリンリンの攻撃をギリギリで回避した。
それでも、リンリンは再びゼウスを手にする。
フェイユンは能力による体躯もそうだが、純粋に強いために対応に困るのだ。四皇クラスならば勝てるが、リンリンにせよカイドウにせよ他に相手すべき敵がいる。
「もういっちょ、〝雷霆〟!!!」
突出しているせいでドリーとブロギーが追いつけておらず、巨大なホーミーズによって足止めされている。
ただでさえ視界が暗く、星明りしかない中での行動は難しい。
フェイユンはリンリンを倒すことに固執しすぎて隊列を乱した。その失敗が、ここに来た。
バリバリと雷がフェイユンの体を焼き、武装色で固めた体を貫く。それでもなお倒れないフェイユンがリンリンを強かに殴り飛ばすも、リンリンは気にせずフェイユンの腕を取った。
「持ってきな、鏡ィ!!」
「はい、ママ!!」
リンリン用と思しき巨大な姿鏡を持ってくるホーミーズ。
既に鏡の上にはブリュレが待機しており、今か今かと出番を待ち構えていた。
「お前はちょっとばかり厄介だからねェ!! あとで相手してやるから、大人しくしてな!!」
足元を固めていたモチはカタクリの手で取り除かれている。
ゼウスの上に乗ったリンリンはフェイユンの腕を取ったまま、通常サイズのフェイユンを背負い投げのようにして鏡の方へと投げ飛ばした。
雷撃によって体に若干のマヒが生じたせいで対応が遅れ、フェイユンはそのまま吸い込まれるように鏡の中へと姿を消した。
それが成功したと見るや、リンリンは姿鏡を叩き割った。
もうフェイユンが中から出てこないように。
「ママハハハハ!! 案外あっさり行ったもんだね!! そっちの対応はなんとかしておきな!! おれは今から大仕事だ!!!」
リンリンは上空から戻ってきたプロメテウスを傍に置き、ゼウスに乗ったまま前線を押し上げる。
ひときわ強い覇気──カナタのいるところまで。
「──随分、あの子を警戒していたようだな」
「当然さ! 巨人族の兵隊はおれが一番欲しかったものだ……ましてや、フェイユンは強かった! 警戒して当たり前だ!!」
先の戦争でも、フェイユンはカイドウ相手に暴れていた。
逆に言うと、カイドウが抑えていたからフェイユンの被害がほとんどなかったと言える。以前にワノ国で戦った時は、フェイユンひとりでとんでもない被害を出していたくらいだ。
警戒してしかるべきだろう。
とにもかくにも、封じ込めて後回し。それさえ出来ればあとはどうにでもなると考えたのだろう。
「取り戻したきゃあ、おれを倒すことだね!!」
「言われずとも、そのつもりだ」
星明りしかなく、視界が悪い中でも、2人は互いの位置を読み違えない。
卓越した見聞色があるから、というだけではない。
強烈な覇王色の覇気が、能動的な感知をせずとも居場所を教えてくれる。
「その首ここに置いていきな、カナタァ!!!」
「ここで消えろ、リンリン!!」
夜闇の中でも、黒い雷は一際強く瞬いた。
次週は日曜仕事につきお休みです