ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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幕間 海軍/ロジャー/???

「遅かったな、センゴク」

 

 アラバスタの海軍屯所にて、ゼファーはくつろいだ様子でマリージョアから来たセンゴクを出迎えた。

 数日遅れで出発したので到着時刻も同様に遅れ、カナタたちとの戦闘には間に合わなかったのだ。

 センゴクがいれば、また違った結果があったかもしれない。結果論だとしてもそう思わざるを得なかった。

 すぐにでも追いかけたいところではあったのだが、軍艦が全て沈められたので追いかけようにも追いかけられない。どうせならとセンゴクを待つことにしたのだ。

 

「お前がいながら逃げられたのか、ゼファー」

「ああ。お前を海に突き落として逃げたってのも納得いく実力だったぜ。ありゃ天才だな、海軍にいりゃあ将来的に大将だって目指せただろう」

 

 ただし、海軍で上り詰めようと思うと経歴と学が必要になる。

 ガープなどやっていることは適当に見えるが、あれで必要な知識は持っているのだ。

 ゼファーは水を飲みながらソファに座りなおし、一度拳を交えた少女を思う。

 

「お前やおれを出し抜ける辺りを見ると頭は使える。覇気も使えて自然系(ロギア)の能力者で実力もある。経歴はどうなってるか調べたか?」

西の海(ウエストブルー)生まれ、六年前に商人としてジョルジュ一家を立ち上げた際の創立者の一人だが……それ以前の経歴がまるで見つからない」

「見つからない? どういうことだ?」

「わからん。どこを探しても〝()()()()()()()()()()()は見つかっていない」

「……奴は現在十六歳。六年前の時点で商人として動き始めていたのは海軍の記録にも残っている」

 

 ガープが担当した海賊被害の報告書に名前が記載されていた。あの男自身は適当だが、部下は書類仕事をきちんとしている。

 商人として動き出して間もない時期だろう、と判断できる記録だった。

 ゼファーは顎をさすりながら眉を顰める。

 

「十歳以前の記録がない、か……あの女、謎だらけだな」

「孤児の記録までは流石に残っていないから、恐らくはその辺りだと思うんだがな」

「それにしたって商家の創立者の一人に十歳の小娘がいるんだぞ? 何かしらあるとみて間違いないだろう」

 

 証拠や記録が数多く残っていたであろうマルクス島は、世界政府の命令とはいえ海軍の手で焦土と化している。情報を得ることは叶わない。

 その点を考えると失敗したとしか思えないが、世界政府にとっては何より面子が大事だったのだ。

 海軍だって護衛として中将が出ていながらこのような大事件を起こされて面子が丸つぶれだ。元帥であるコングも頭が痛かっただろう。

 センゴクはゼファーの対面に座り、水差しからコップに水を注いで一息に呷る。

 

「実際に戦ってみた感想はどうだ?」

「武装色の覇気はおれとまともに打ち合えるくらいに強く、見聞色はおれに一歩及ばねェくらいか。お前の話だと覇王色も使えるんだったな」

「……おれと戦った時はそこまでじゃなかった。武装色はおれの方が圧倒的に強かったし、見聞色も同じだ」

「それでもあの小娘はお前を出し抜いた。頭が使える能力者ってのは実に厄介だ」

 

 当時のセンゴクだって中将の中では抜きんでて強かったのだ。それを出し抜いて海に叩き落して逃走するなど、多少強いだけで出来ることではない。

 運のいい奴、で済ませていい話でもない。当時十五歳の少女がセンゴクから逃げきったなど、海軍本部では誰もが驚いた。

 そして次は大将ゼファーの手からも逃げてみせた。

 これを、海軍は見逃すことはできない。

 

「新しい手配書も出来たようだが、大して額は上がらなかったな」

「本当はもっと上げてもいいと思うんだが、懸念しているのはあまりに上がりすぎることで奴が注目されて〝旗頭〟になることだろう」

 

 懸賞金が高いことと強いことはイコールではない。

 これは世界政府に対する危険度の高さなので、実質的に戦闘力がなくとも懸賞金が高い場合もある。

 だが今回はそのパターンではなく、天竜人に逆らった挙句殺害し、海軍中将から逃げ延びて一年間誰にも見つからずに潜伏。なおかつ海軍大将からさえ逃れるという異質さもあった。

 センゴクはため息をつきながらソファにもたれかかり、天井を見ながら呟く。

 

「これは独り言だが、天竜人は恨みを買うことも多いからな」

「……ああ、そういうことか……」

 

 その名の下に集まるのが誰であれ、カナタが()()()()()()()()()()()()()()になることをこそ政府は恐れている。

 反政府軍、あるいは革命軍。

 そんなものが出来てしまえば、世界政府としては何をおいても最優先で戦わねばならないからだ。

 だからこそ、世界政府は懸賞金をあえて上げずに海軍に討伐を任せようとしている。ゼファーにセンゴクを派遣しているのはその意思の表れだ。

 しかし。

 

「だとするなら、〝生け捕りのみ〟ってのはどういうことだ? 公開処刑のためか?」

「こっちは世界政府からの命令という訳じゃないらしい。コング元帥から聞いた話だが、殺されたドンキホーテ・クリュサオル聖の弟──ドンキホーテ・ホーミング聖からの要望だと。政府もどうせ公開処刑にするからと許可を出したようだ」

「弟……仇は自分の手で、ってことか?」

「違う。何故かはおれも知らないが、〝魔女〟と一度話をしてみたいと」

「話を? ……天竜人の考えることはわからんな」

 

 ゼファーはため息をついてソファに体を預ける。

 センゴクは体を起こし、もう一つの手配書をテーブルに置いた。〝巨影〟のフェイユンのものだ。

 巨大化したフェイユンが海の上で軍艦を持ち上げているところが写真に収められており、まるで軍艦がおもちゃのようにさえ見える。

 サイズ的にはほぼ同じ。人型巨大戦艦とでも呼べそうだ。

 

「何にせよ、奴にも一筋縄ではいかなそうな部下がいるようだ。おれとお前の二人がかりでやると言っても油断は出来んぞ」

「そうだなァ……ありゃ実際に見るとすごかったぜ。驚きで目を丸くしちまった」

「おれだって写真を見た時は目を疑った。こんな巨大な人類がいるなんて想像したこともなかったからな」

 

 普通の巨人族の十倍近い大きさだ。海王類の巨大な種ならばこれくらいの体躯はあり得るだろうが、巨人族だとしてもこの大きさは信じがたい。

 カナタたちの船だってそれほど大きいという訳ではなかった。悪魔の実の能力によるものだということは明らかだ。

 それでも、浅瀬の海では足が浸かる程度なので能力を完全に封じるということも難しい。

 軍艦六隻を沈めた力は脅威と言って余りある。

 

「おれの見聞色で感知した限り、少なくともあと二人はそれなりに強いやつがいるぜ」

「……やはり脅威だな。この島でやつらは一体なにを?」

「それなんだがな」

 

 ゼファーは一度立ち上がって、別のテーブルに置かれた資料を手に戻ってくる。

 それをセンゴクに手渡し、再びソファに座って「読んでみろ」と促す。

 センゴクは数枚の資料にサッと目を通し、怪訝な顔をした。

 

「……堤防工事の肉体労働? 危険生物の討伐? どういうことだ?」

「姿を隠して普通に肉体労働して路銀を稼ぎ、ついでにコブラ王子が討伐しようとしていた危険生物の討伐を請け負ってこれを討伐。両方とも既に支払いを終えているそうだ」

「路銀稼ぎか……略奪しているものと思っていたが」

「報告によると随分大人しい。普通に働いて普通に金を稼いで工事関係者とも仲良くなってやがる」

 

 少なくとも海賊のやることではない。

 もっとも、本人たちも海賊を名乗っていないので暫定的に〝魔女の一味〟と呼んでいるが……これを無法者とは言い難い。

 元が商人だけあってか、秩序だった行動をしている。海賊でも規律を絶対とする船はあるが、これほど大人しい海賊は多くない。

 一般人に危害を加えているわけでも無いようだ。

 

「奴らが犯した罪は天竜人の殺害のみだが、それだけに惜しい……あれほどの逸材、海軍に欲しいくらいだ」

「最悪の犯罪だからな。海軍ではもはやどうすることも出来ん。同情は……まぁ、無いでもないが」

 

 事が事だ。センゴクもゼファーも、カナタに対して同情はする。

 だが、それとこれは別の話。海軍としては確実に彼女を取り押さえなければならない。

 そのためには戦力が必要だ。

 

「報告を上げた本部大佐のベルクは元々ガープの部下らしいが、今回駐留部隊からおれの部下に移ってもらうことにした。書類作業も出来るし、何より強い。実践経験を積めばもっと上まで行けるだろう」

「少しでも戦力が欲しいところだからな、おれの方でも本部に追加で援軍を要請しておこう」

「お前から逃げた時は重傷だったようだが、おれが相手をしたときはろくに傷も与えられなかった。油断は出来ねェ、気合入れろよセンゴク」

「一年でそれほどに成長を……次は逃がさん」

 

 次会った時が奴らの最後だと、センゴクは再び水を呷って気合を入れなおした。

 

 

        ☆

 

 

「ワハハハハ!! おらレイリー、飲んでるか!?」

「ああ、飲んでるよ。今日は随分と上機嫌だな、ロジャー」

「これが飲まずにいられるか! カナタが生きてて、今度はゼファーから逃げたってんだぜ!」

 

 酒を片手に上機嫌で笑うロジャー。

 レイリーはつまみをかじりながら今日の新聞に目を通す。

 海軍大将〝黒腕〟のゼファーと〝竜殺しの魔女〟カナタがアラバスタ王国のあるサンディ島沖にて衝突。軍艦九隻を沈め、これから逃走。

 カナタの懸賞金が上がるのはもちろん、彼女の部下であろう巨人もまた賞金首になっていた。

 

「軍艦とサイズ的には同じくらいか。凄まじい大きさだな。これも悪魔の実の能力か?」

「多分な。一度会ってみてェもんだぜ」

「あの子ならそのうち〝新世界(この海)〟に来るだろう。焦ることはない」

 

 偉大なる航路(グランドライン)前半の海を踏破することは彼女たちにとって難しくはないだろう。

 問題があるとすれば、魚人島へ行く際だ。

 シャボンディ諸島で船をコーティングして魚人島へ行く必要があるが、その瞬間を海軍本部が見逃すはずもない。

 何せ、シャボンディ諸島のすぐ近くには海軍本部を有する町、マリンフォードがあるからだ。

 大将を始めとして多くの戦力を投入することは想像に難くない。

 

「なァに、あいつなら誰が相手でも勝ち抜けるだろうぜ」

「随分とあの子を買っているようだな。お前にしては珍しいことだ」

「おォよ。あんなちんちくりんの小娘に何が出来るかって思うぜ、普通はよ」

 

 だが、とロジャーは酒をジョッキに注いで一口口に含み、味わうように嚥下する。

 酒が美味いと空になったレイリーのジョッキに注ぎ、にやりと笑いながら続けた。

 

「だからこいつは勘だ。おれの勘はよく当たるぜ? 相棒」

「……そうだな、おまえの勘は不気味なほどよく当たる。占い師でもやったらどうだ?」

「んなつまらねェことはやらねェ! おれは自由に海賊やってんのが一番だ!」

 

 バクバクと肉を食い始めたロジャーを尻目に、レイリーは笑って新聞に目を戻す。

 世界政府としてはあまり注目させたくない案件のようにも思えるが、新聞会社に所属する記者たちは随分と気概があるらしい。

 ここまで金額が大きくなり、場所も次第に割れ始めた以上は海軍だけでなく賞金稼ぎにも襲われることになるだろう。

 海軍大将でさえ取り逃がすほどの相手を狙う賞金稼ぎが果たしているのかどうかは不明だが。

 

「ふふ……次に会う時が楽しみだな、カナタ」

 

 手配書を見ながら、笑みを浮かべるレイリー。

 そこに写った顔に、誰かの面影を感じながら。

 

 

        ☆

 

 

「最近はあまり話を聞かないからくたばったかと思ってたぜ、〝金獅子〟。何の用だ?」

「ジハハハハ……! 相変わらず口の減らねェ野郎だ! だが、今日はちょいと聞きてェことがあってなァ、〝白ひげ〟」

 

 〝新世界〟の海の一角。

 〝白ひげ〟の有する船、モビー・ディック号にて、二人の大海賊が話をしていた。

 世界政府および海軍にとっては卒倒しかねない事実だが、〝金獅子〟はその悪魔の実の能力によって空を飛べる。海軍の包囲網など容易にかいくぐれた。

 葉巻に火をつけ、一服しながら懐から取り出したのは先日の新聞だ。

 そういえばマルコが『とんでもないルーキーがいる』と言っていたな、と白ひげは考え、それ関連かと顎をさする。

 

「こいつを見ろ。()()()()()()()()()()()?」

「こいつは……」

「ジハハハハ。おれも見た時は驚いたぜ。あの女が生きているのかとな……だがそんなはずはねェ。あの女は死んだはずだ」

「ああ、それはおれも保証してやる。確かにあの女は海に沈んだはずだ」

()()()()()()()()()()()

 

 一年前。

 天竜人を殺害して指名手配になった際に徹底的に調べた。もしまだ西の海(ウエストブルー)にいるのならと凪の帯(カームベルト)を越えて捜索させたこともある。

 そしてつい先日、再び新聞を賑わせた事件と二つの手配書。

 〝竜殺しの魔女〟と呼ばれた少女の()()()()()()()()()()()()()()を見て、〝金獅子〟のシキは居てもたっても居られずに白ひげの船に来た。

 眉をひそめて考え込んだ白ひげは、恐らく正解であろう答えを出す。

 

「……奴の娘、か?」

「ま、大方そんなとこだろう。だが、次の問題は()()()()()って話だ」

「……見目はよくても性格は最悪だったからな。口説こうとして殺されかけたやつは両手両足の指じゃ足りねェくらいだ」

「ジハハハハハ!! 確かに見た目だけはよかったな!」

 

 奴は船の中でも常に仮面をかぶっていた。素顔を知っている奴はそう多くないがな、と白ひげは言う。

 だが、とシキは笑みを浮かべたまま言う。

 

「この小娘が奴のガキだってんなら……お前、どうする?」

「どうもこうもねェ。もうおれはあの船の一員じゃねェんだ、何かする義理もねェな」

「そうか……だったら、こいつはおれが貰ってもいいな?」

「好きにしろ」

 

 白ひげはそれ以上話す気はないというように、酒を持ってこいと言い出す。

 シキはついでにそれを飲んでから帰ろうと腰を下ろし、手配書を今一度確認する。

 シキの知る女は手配書こそあったが素顔はほとんど誰にも見せなかった。同じ船に乗る仲間でさえ素顔を知るものは少なく、素性も全くと言っていいほどわからない。

 だが、その美貌と強さだけは一線を画していた。

 

「見れば見るほどよく似ている……オクタヴィア。()()()()()()()()()()のガキが、今になって姿を現すとはな」

 




フラグだけは乱立させていくスタイル。
ロジャー視点で色々書こうと思ったんですけど、思ったより書くことないなと気付いて今後ちょっとずつ出そうと思っていた設定出していくことに。

次回は人物纏めです。数がだいぶ増えたので簡素にやります。
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