ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第三十四話:革命の灯火

 一ヶ月後。

 ドラム王国近海で釣りをしたり海賊を狩ったりしていたカナタたちだが、やることもなく暇を持て余していた。

 スクラはやることが多いだろうし、護衛に残してきたジョルジュたちはくれはに随分とこき使われているらしいが。

 

「暇を持て余すというのも悪くはないが、長期間続くと流石につらいものがあるな」

「だなァ……なァ、おれ次に寄港するときちょっと遊んできていいか?」

「節度を守ればな」

「オレも行きたい」

「保護者付きなら構わんぞ」

 

 どうせ後五ヶ月前後はドラム近辺から動けない。

 別の島に足を運んでもいいが、緊急時のことを考えるとどうしても船医の有無が課題になる。

 

「スクラ以外に医術が出来る奴はいないのか?」

「いたらこんなに悩んでいないさ。保守的な考えではあるが、医者というのは居るだけで違うものだ」

 

 タイガーも一人旅をしていた経験上、ある程度の怪我や病気に対する知識はあるが、それはあくまでも応急処置に近い。

 カナタたちが持つ知識とそれほど大きくは変わらないのだ。

 

「Dr.くれはの手伝いをさせられてるジョルジュたちが少しくらい医術を覚えて帰ってくるなら、スクラの仕事も楽になるだろうがな」

 

 それを見越して部下数名を連れて行かせたのもある。本格的な処置は出来ずとも、多少医療の知識があるだけでも違うものだ。

 もっとも、スクラと一緒に帰ってくることになるのだから今は結局何も出来ないのだが。

 デイビットも険しい顔で告げる。

 

「しかし、海軍も本腰入れて探していることでしょう。おれ達もドラムを拠点にしていては近いうちに見つかるのでは?」

「そうだな、余り長いことドラムにいては海軍にかぎつけられるだろう」

 

 とは言ったものの、世界政府加盟国ならどこでも同じようなものだ。

 どこかで永久指針(エターナルポース)を手に入れ、リトルガーデンに戻って潜伏してもいいが、あの島に滞在するならそれこそスクラが不可欠だろう。

 一時的にでも滞在してくれる船医がいれば、多少は自由に動けるのだが。

 

「スコッチ。ひとまず今回寄港するときに永久指針(エターナルポース)を探してほしい。行先は……出来れば世界政府加盟国ではない場所がいいが、無ければ無いでどこかの島の物を」

「わかった。どっか適当な島の永久指針(エターナルポース)買ってくる」

「デイビットはクロのお目付け役だ。本当にすぐどこかに行くから、目を離すなよ」

「了解です、船長殿」

「オレはガキかよ」

 

 目を離すとすぐにいなくなるのだから仕方がない。もう少し落ち着きを持ってくれれば一人で街に出してもいいのだが、下手をすると迷子になって帰ってこなくなるので目付け役が必須になっている。

 そうこう話しているうちにドラム王国が近くなってきた。

 海軍の影はない。まだ見つかってはいないようだ。

 だが。

 

(……妙に強い気配があるな。海賊、という訳でもなさそうだ。海軍か政府の狗あたりか?)

 

 一抹の疑念を抱えながら、ドラム王国へと寄港する。

 

 

        ☆

 

 

 一ヶ月ぶりに会うジョルジュは少し疲れた様子だった。

 毎日くれはにこき使われているようで、否が応でも薬の名前を覚える事になっているらしい。

 今回必要な物をリストアップした荷物を用意し、サミュエルに持たせてくれはの家へと足を運ぶ。特にカナタが行く理由はないが、理由の大半は暇つぶしだ。

 それに、今回は気になっていることがあった。

 

「……どうした? ギャスタの方に何かあるのか?」

「いや……そうだな、何かある、というより誰かがいるというべきか」

 

 カナタをして警戒するほどの強さ。

 街中に目を向けているカナタの視線の先には、黒いフードを被った一人の男がいた。

 同時に、その男も街中から町の外にいるカナタの方を見ている。

 

「こちらを見てはいるが、仕掛けてくる気はなさそうだな」

「じゃあ放っておいていいんじゃねェか? 厄介事は勘弁だぜ」

「そうだな。先にこちらの用事を済ませよう」

 

 カナタは男から視線を切り、くれはのいる街外れの大木へ向かうことにした。どうあれ、街中ではカナタも派手には動けない。

 街から少し離れている家に着き、スクラとくれはの顔を見て荷物の確認をさせてから家を出る。

 玄関から見える場所に、その男がいた。

 男はフードを外しており、その顔がよく見える。カナタもフードを外して風に髪をなびかせ、男に相対した。

 

「……〝竜殺しの魔女〟だな。なるほど、ドラム王国にいるとは思わなかった」

「私に何か用か? あいにく、そんなに怪しい姿の知り合いなど記憶にないが」

「用というほどの事でもない。ただ、一つ聞いてみたいことがあっただけだ」

 

 カナタは眉を顰め、男の言葉を待つ。特に何か聞かれるようなことなど覚えはないが、内容によっては答えてもいいと考えていた。

 

「──天竜人を殺した理由を聞きたい」

「……天竜人を殺した理由?」

 

 新聞には載っていなかった。凶悪な犯罪者と方々で言われるカナタに、それを聞くためだけに追いかけてくるというのも酔狂ではある。

 だが、その程度なら隠すほどの事でもない。

 

「私にとって大切な船員を、あの男は奴隷にしようとしたからだ」

「それでも、普通なら天竜人に逆らおうとは考えないだろう。商人として動いていたならなおさらだ。奴らの権力の強さはわかっていたはず」

「私は権力にひれ伏して船員を見捨てることはしない」

「……それで、全てを失うことになってもか」

「仲間の命以上に失って困るものなどなかろう。金も地位も名誉も名声も、あとから幾らでも取り戻せる」

 

 そうか、と男は小さくこぼした。

 男は腕を組み、目を瞑って数秒何かを考え込んだ。

 やがて考えがまとまったのか、男はやがて眼を開いて話し始める。

 

「まずは名を名乗ろう。おれはドラゴン、ただの旅人だ」

「ドラゴンか。それで、もう聞きたいことはないのか?」

「ああ、君の考えはわかったからな。問答は不要だ」

 

 カナタは少しだけ身構え、ドラゴンの出方を見る。

 だが、ドラゴンは動く様子はなく、戦意も持たずに語り掛けてきた。

 

「おれは、この世界は間違っていると思っている」

「……間違っている?」

「そうだ。海賊や人攫いの被害もそうだが、天竜人に納める天上金の存在が恒久的に被害を広げている。おれは、天上金を納めるために貧困に喘いで滅びかけている国を知った」

 

 国民は飢えるしかなく、貴族や王族でさえ天上金を納めるために質素な生活を強いられる。いや、貴族や王族が質素な生活をするならまだいい。

 自分たちは特権階級だからと一般市民に負担を押し付け、自分たちは贅沢な暮らしをしている国もある。

 ドラゴンは見聞を広めるためにこの海を渡り歩き、そういった国々を見てきた。

 

「すべてが世界政府と天竜人のせいだというつもりはない。だが、この格差社会を何とかしたい」

「……革命でも起こすつもりか」

「それも一つの道だろう。だがおれは何も知らない、それゆえに世界を回って世界を変える方法を模索している」

「なるほど。それで天竜人を殺した私のところに」

 

 同じ考えを持つ同志かもしれないと思ってか、あるいはこの世界で唯一〝天竜人を殺した女〟だからか。

 どちらにしても、ドラゴンにとっては会う価値のある相手だと判断したのだろう。

 

「同じことがあれば、きっと君はまた天竜人を殺すだろう」

「当然だな。私にとって敵なら殺すまでだ」

「では、もしもおれがこの先、世界政府と敵対することがあれば──その時は手を貸してほしい」

 

 ドラゴンはカナタへと手を差し出す。

 一度は天竜人を殺し、世界政府と敵対したがゆえに。

 再び敵対する可能性がわずかにでもあるのならば、世界政府を倒すためにその力を貸してほしいと。ドラゴンはそう言っている。

 カナタは少し考えこみ、にやりと笑う。

 

「手を貸してほしいなら──私にとってそれほど価値のあることか、説得してみせることだな」

「……なるほど。世界政府と海軍を真正面から相手取ることになる。それだけの価値があるか理解してもらう必要があるのは道理だな」

「そうとも。だから、()()()()()()

「……何?」

 

 ドラゴンはやや困惑した様子でカナタを見る。

 カナタはなおも変わらず、その価値を示して見せろと告げた。

 

「お前に賭ける価値があるかどうかだ。信頼を得るなら同じ飯を食べ、同じ船に乗り、同じように過ごすのが一番だろう?」

「なるほど、それも道理だ。ああ、いいだろう。おれを船に乗せてくれ。必ず君からの信頼を勝ち取って見せるとも」

「フフ……お前のような男は嫌いじゃない。何も世界政府を打倒して世界の王を名乗ろうという訳じゃないんだろう?」

「ああ。おれの目的は、あくまで権利の格差を是正することにある。必ずしもおれが頂点に立つ必要はない」

「いや、革命を起こすならお前が一番上だ。私はそういうことをする柄ではないのでな」

 

 カナタの最終的な目的はあくまで偉大なる航路(グランドライン)の踏破にある。その最終着地点をいくつも増やすわけにはいかない。

 今まで誰も踏破出来ていない以上、そこには何かしらの理由があると考えるべきだ。だから、それをやるまでカナタは革命などやるつもりは毛頭ない。

 時間がかかるだろう。革命など起こせずに終わる可能性もある。

 ゆえに、ドラゴンがトップとして組織を作り出す必要がある。カナタはあくまでその手伝いをするだけだ。

 世界の王を名乗ろうというのなら余計な敵を増やしかねないから、そこだけは釘を刺しておかねばならなかった。

 

「短期間に人が増えるとはな……まぁ、うちの船は部屋が余っているから多少増えたところで何ともないが」

「おれ以外にも最近増えたのか」

「ちょっとした縁で魚人と仲良くなってな。船が壊れたらしく、魚人島まで送り届ける予定だ」

「そうか、おれは魚人島に行ったことがない。新世界の海も含め、その辺りの見聞も広めねばな」

「熱心な奴だ」

 

 カナタは笑い、一度くれはの家に戻って「船に戻る」と告げて家を出る。

 ドラゴンを伴って船へと移動しながら、先に話しておくべきことを話すことにした。

 二人とも黒いフード姿なので傍から見ると非常に怪しい。

 

「私たちがドラム王国を訪れたのは、うちの船医がこの島で医術を学びたいと言ったからだ。その研修期間が終わるまで、ドラム近海から離れられない」

「船医がいないからか。だが、追われる身だろう」

「そこが問題でな。既に一月ほどこの周辺にいるが、そろそろ見つかってもおかしくはないと考えている」

 

 海軍とて間抜けではない。世界政府加盟国に頻繁に出入りしていれば船を見られることもあるし、怪しい船なら通報されていてもおかしくはない。

 一ヶ月に一度寄港する必要こそあるが、本来ならばそれ以外はドラム周辺にいるべきではないのだ。

 一度怪しまれると罠を張られる。

 

「そうか……おれの知り合いでよければ、船医を紹介しよう。半年ほどでいいならあちらも了承するはずだ」

「何? 伝手があるのか……そうだな、出来ればそうしてくれると嬉しい」

 

 一時的に滞在してくれる医者がいるならそれを頼るのが一番いいだろう。数名ドラムに残したままになるが、どのみち一ヶ月に一度は会うのだから問題もない。

 ドラゴンは懐から永久指針(エターナルポース)を取り出し、その医者のいる島を告げた。

 もっとも、正確に言うならば医者ではないらしい。

 悪魔の実の力、それとそれなり以上の医術の知識を持っているために医者としての働きが出来ると、ドラゴンは言う。

 

「この島だ。モモイロ島、カマバッカ王国。数ヶ月前に一時滞在し、同志となった男──本人が言うところの〝ニューカマー〟がいる」

 

 名を、エンポリオ・イワンコフ。

 




世界政府に敵対する三銃士が揃ってしまった回。今日も五老星は胃が痛い。
ドラゴン、ほとんど原作で出てないので割とオリキャラに近い感じで作ってます。原作でもうちょっと詳しい描写が出たら「これは若い頃だから…(震え声)」って誤魔化します。
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