ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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ゼロ巻読み直したら若いころのガープの口調が違ったので修正しました。


第三話:モンキー・D・ガープ

 

 クロを引き連れて船に戻ったところ、ジュンシーに変な顔をされた。

 

「どーもどーも、初めまして。オレはクロ。嬢ちゃんが仲間にしてくれるってんでついてきました!」

「こやつも悪魔の実の能力者だ。色々あって連れてきた」

 

 頭が痛そうに額に手を当てるジュンシー。

 既に苦労人としての立場が確立されているような気もするが、本人は出来るだけ考えないことにした。

 

「……その男はこの島にいたのか?」

「そうだ。詳しい経緯は後ほど話そう。この島の住人に見られないほうがいい」

「厄介ごとか。先に相談してほしかったものだな」

 

 ジュンシーはそう言って船に乗る。

 肩をすくめるカナタに「おいおい、今更追い出されても行くとこねえよオレ?」と笑うクロ。

 ひとまず船室に入り、どかりとソファに座り込んだジュンシーの反対側にカナタとクロが座る。

 

「それで、どういった経緯だ?」

 

 カナタは一日歩き回ったこと、山頂付近でクロを見つけたこと、クロの境遇などを手短に話した。

 クロは自分の話だというのに説明はカナタに放り投げ、本人は興味津々な様子で船室を見ている。

 

「……なるほど」

 

 クロを一瞥し、ジュンシーは説明を聞いてソファにもたれかかる。

 呆れとも諦めともとれる溜息を吐いて、カナタの方へと視線を向けた。

 

「定期航路を結ぶ可能性が高い島だが、それをふいにしても良いのか?」

「商売など他の島でも出来る。だがこの男は一人しかいない」

「そうか。ならば良い」

 

 元よりジュンシーは護衛でしかない。口出しするのは筋違いだと思ったのだろう。

 交渉役は怒るかもしれないが、それはカナタの問題だ。ジュンシーは子守のためにいるわけではない。

 それに、個人的にも悪魔の実の能力者には興味があった。

 

「クロ、お主の悪魔の実の能力はどんなものだ?」

「ん? オレが食ったのはヤミヤミの実っていうんだけど、何が出来るかって言ったら……ほとんど使ってこなかったからわかんねぇな」

 

 痛みを人間の限界以上に抱え込める、ということ以外はほとんどわからないらしい。

 あとは文字通り『闇』を広げることができるくらいはわかるらしいが、具体的なことは不明だ。

 

「海の上でやるのはリスクもある。どこかの島に着いたときにある程度使って理解をしておけ」

「あいよ」

 

 ひとまずはよろしく頼む、ということで握手を交わす二人。

 カナタはそんな二人を尻目に海図を取り出し、次の目的地を確認する。

 元居た島──マルクス島からティジャ島へ移動し、そこから別の島を経由してマルクス島へ戻るルートだ。

 

「次はどの島に向かう予定になっている?」

「オハラだ。世界中から考古学者が集まる、考古学者たちの島だと聞く」

「考古学者たちの島か。面白そうな本でもあれば買うのも悪くないな」

 

 生きるために知識は必要だ。殴れば解決することも多いが、それだけで終わらないこともある。

 学べる場があるなら学びたいこともあった。

 そう思うカナタを傍目に、ジュンシーは別の懸念事項を伝える。

 

花ノ国(かのくに)にも近づく。気をつけねばなるまい」

「何かあるのか?」

「花ノ国を拠点とするギャングがいる。八宝水軍と呼ばれる連中だ」

 

 幹部級以上は全員が覇気使い。いかに自然系(ロギア)の能力者であっても分が悪い。

 苦々しい顔をしている辺り、何か思うところもあるのだろう。だが、カナタは無理に聞き出そうとは思わなかった。

 必要になれば自分から話すだろう。出会って日が浅いのだから、そういうこともある。

 

「特に最近はよく噂を聞く。棟梁が代替わりしたこともあり、勢力を拡大しようと躍起になっているらしい」

「ふむ……出会わないことを祈るばかりだな」

「全くだ」

 

 ジュンシー個人としては戦いたい気持ちもあるのだろうが、自分の役割を考えればそうもいかないと理解している。

 航路の確認と積荷、船員のチェックを終えてから、夜明けと同時に出航する。

 船長は一応カナタということになっているため、航海士を含めてそれらの確認を終えて一日を終えた。

 

 

        ☆

 

 

 風は穏やか。波も荒れず、快晴。

 出航には良い日だ、とカナタはこぼす。

 チェックを終え、時間を迎えて一斉に帆を張る。オハラへはおおよそ4日ほどの船旅になるという。

 ニュース・クーの新聞を読み、のんびりと船旅を楽しむカナタ。ジュンシーは日課の鍛錬をおこなっており、クロは面白そうにその鍛錬を眺めていた。

 昨夜話題に出ていた、八宝水軍が商船を襲ったと新聞に載っている。

 

「……いずれは私も覇気を身につけたほうがいいかもしれんな」

「能力だけに胡坐をかけば足をすくわれる。鍛錬するならば早いに越したことはあるまい」

「運動などほとんどしていないが、私でも身につけられるのか?」

「才能が有無をいう部類のものだ。儂には何とも言えん」

 

 面白そうだというクロを含め、カナタは覇気の鍛錬をすることにした。

 武装色は肉体を鍛えるとともにやった方がいいというジュンシーのアドバイスを受け、まずは見聞色の覇気を身につけるべく鍛錬を始める。

 

「どうすればいい?」

「難しいことはない。お主等に目隠しをして、気配だけで儂を捉えるだけだ」

 

 視覚に頼らず、聴覚に頼るでもなく、気配を感じとるのが見聞色の覇気。

 甲板の上で背中合わせに立つカナタとクロ。その周りを音もなく移動するジュンシー。

 当然だが、一朝一夕で身につくものではない。欠かさず行うことでもしかすると身につくかもしれない、という難易度の高い技術なのだ。

 

 

        ☆

 

 

 そうして、三日が経った。

 今日も今日とて覇気の鍛錬か、と思っていたところで、見張りから大声で警告の声。

 

「てっ、敵襲!! 九時方向から海賊船です!!」

 

 慌てて甲板に飛び出し、敵船を確認する。

 風にはためく海賊旗。帆に大きく描かれた髑髏のマーク。

 

「あれはどこの海賊団だ!?」

「あれは……海軍からのリストには載ってません!」

「何? ということはルーキーか?」

 

 商船として申請した際、海軍から貰った近海での注意事項や最近名を揚げている海賊のリストを貰っている。だが、少なくとも今襲ってきている海賊の名は載っていないという。

 船員たちと会話している間にも海賊船は徐々に近づいてくる。迎撃するにしても近づかれるのは拙いと考え、カナタはジュンシーに視線を向ける。

 

「どうする。この距離なら接敵される前に海を凍らせて逃げられるぞ」

「……そうだな。乗り移られると厄介だ。儂はともかく、お主等はな」

 

 基本的には陸で暴れていた小さいマフィアたちに過ぎない。本物の海賊たちとの戦闘は荷が重いと判断し、カナタの能力による迎撃を図る。

 やることはごく単純──冷気を操作し、相手の船の周囲を凍らせるだけ。

 一面を氷に変え、敵の海賊船の動きを封じている間に逃げようとした──が。

 

「──砲撃が来るぞ!」

 

 砲撃音が響くと同時にジュンシーが動き、正確に船に飛んできた大砲を弾き飛ばす。

 相手はあきらめていないのか、氷を壊そうと砲撃したり船から降りて攻撃したりしている。

 

「急いで距離をとれ!」

 

 ジュンシーの迎撃に合わせて航海士の男が指示を出す。やや航路はずれるが、四の五の言ってる場合ではない。

 次いで海軍への通報をして、逃走を始める。

 それほど大きい船ではないのが幸いし、小回りを利かせて逃げる。相手の船は二回り以上大きいが、氷に邪魔されて動けないまま砲撃の射程範囲から出た。

 

「ここまで離れれば安全か?」

「しかしすげぇな旦那。大砲の玉ってあんなポンポン蹴り飛ばせるもんなのか」

「修行を積めばな」

 

 油断なく海賊船を見据えるジュンシーとカナタ。

 やがて見えなくなったところで、ようやく肩の力を抜いた。

 

「初航海で海賊に出くわすとはな。運が悪い」

「構わんさ。私の力で迎撃できることがわかったからな」

「ルーキー相手ならば、とつくがな」

 

 カナタの言葉に思わず言葉を漏らすジュンシー。

 歴戦の海賊ならば遅れをとった可能性もある。油断や慢心は足をすくわれるだけだと、ジュンシーは理解していた。

 

        ☆

 

 

 数時間後、通報を受けた海軍の軍艦が現れ、事情聴取を行いたいと言ってきた。

 特にやましいこともないカナタは快諾したが、どちらかといえば困惑したのは海兵の方だった。

 責任者として呼んだ中に10歳の少女が混じっていたのだから、困惑するなというほうが難しいかもしれないが。

 ともあれ、航海士兼組織代表としてスコッチという男に白羽の矢が立った。

 軍艦に初めて乗ったカナタは興味深そうに海兵や大砲などを見ており、はぐれないようにジュンシーが時折注意していた。

 

「こちらです」

 

 案内役の海兵が通した先には、筋骨隆々とした一人の男がいた。

 黒髪を短く切りそろえたその男は、煎餅を食べながらどかりとソファに座ってくつろいでいる。

 

「おう、来たか! なんじゃ子供も一緒か? ほれ、煎餅くうか?」

「いただこう」

「おう! うまいぞ! 茶もどうだ!」

 

 差し出された煎餅を一枚とり、バリバリと食べるカナタ。案内役の海兵をちらりと見るジュンシー。申し訳なさそうに首を横に振る海兵。

 笑いながらお茶を入れ、「座れ座れ」と手招きされた。言われる通りにソファに座ったカナタ、ジュンシー、スコッチの前に部下の海兵たちがお茶を並べる。

 

「さて、まずは自己紹介だな。おれはガープ。モンキー・D・ガープ。そこそこ偉い」

「責任者代理のスコッチです」

「護衛のジュンシー」

「代表の関係者、カナタだ」

 

 面倒じゃからさっさと済ませるぞと言い、ガープは面倒くさそうにいくつか質問して部下が議事録を作成する。

 本当に形式上のものらしく、通報を受けて出撃した際に提出するものらしい。

 ざっくりした報告用の議事録を作った後、バリバリと煎餅を食べながらガープはつぶやいた。

 

「なんじゃい、無名の海賊か。八宝水軍かと思ったわ」

「やはり最近被害が増えているのですか?」

「うむ。出来れば潰してやりたいところだが、花ノ国の軍部にまで食い込んでいるからな。こっちとしても下手に手出しできん」

 

 それ一般市民に言っていいのかとスコッチは思うが、八宝水軍に関してはもはや暗黙の了解のような状態なのだろう。

 ガープもいつまでも西の海(ウエストブルー)に居られるわけではない。活動を大人しくさせる程度はしたいのだろうが、難しいのが現状だ。

 

「今は偉大なる航路(グランドライン)も不安定。この辺りも荒れるかもしれん。商売するなら気を付けることだな」

「お気遣い、ありがとうございます」

「嬢ちゃんも十分気を付けるんじゃぞ!」

 

 煎餅を食べながらこくりと頷くカナタに「可愛いのぅ」と笑うガープ。

 やることも終わり、立ち上がって船に戻ろうとするスコッチとカナタ。その中で、ジュンシーだけはガープを見ていた。

 

「ガープ殿。折り入って頼みがある」

「なんじゃ?」

「一手、手合わせ願いたい」

「ほう! おれと勝負か! いいぞ、甲板に行くか」

 

 真剣な顔をしたジュンシーの頼みにあっさりとOKを出し、先に部屋を出て行った。

 カナタはちらりとジュンシーをみたが、ガープほどの猛者と力を比べられるとあってか、獰猛な獣のような笑みを浮かべていた。

 スコッチに肩をすくめて「どうしようもない」とアピールし、ガープに続いて甲板へと出る。

 日差しが強い。カナタはスコッチを伴って端に避け、相対するガープとジュンシーを見ていた。

 

「よし、どこからでもかかって来ていいぞ!」

 

 甲板で仁王立ちして待ち受けていたガープ。周りには何だ何だと海兵たちが集まっているが、相対する二人は気にした様子もない。

 

「では、胸を借りるとしよう」

 

 静かに構えるジュンシーを見て、ガープは何かに気付く。

 

「その構え……お前さん、花ノ国の出身か?」

「如何にも。だが、出身というだけだ。八宝水軍と関わりはない」

「ならいい」

 

 腰を落とし、呼吸を整え、覇気を纏う。

 対するガープも笑みを浮かべながら構え、その拳に覇気を纏う。

 一瞬の静寂の後──甲板が抜けるかと思うほどの踏み込みでガープの懐に潜り込み、その拳を放った。

 

「ハァ──ッ!」

「ぬぅ──ッ!」

 

 互いの拳がぶつかり合う。

 強烈な覇気を纏った拳を正面衝突させたためか、空気がびりびりと振動していた。

 やがて互いに弾かれるように距離をとり、ジュンシーはガープに対して一礼する。

 

「……感謝する」

「ぶわっはっはっはっは!! これくらい構わんわい!」

 

 拳を交えてこそわかることもあるのだろう。男はこういうの好きだな、とカナタは思っていた。

 二、三言話したのち、ジュンシーはすっきりした様子でカナタの下へ戻ってきた。

 

「すまんな、勝手なことをして」

「構わん。得るものもあったのだろう」

 

 そうして船へと戻ろうとして、ふと足を止め振り向いた。

 

「そうだ、ガープ殿」

「うん、どうした嬢ちゃん?」

「先の海賊だが、おそらくまだ足止めをくらっているだろう。沈めて貰えると助かる」

「そりゃ構わんが」

「よろしくお願いします、ガープ殿」

 

 ガープの返答に微笑みを浮かべるだけのカナタの態度を拙いと思ったのか、スコッチが慌てて頭を下げる。

 必要なことは告げたと判断したのか、カナタたちは船へと戻った。

 

 

        ☆

 

 

 カナタたちが去った後。

 先程襲われたといっていた場所に到着し、ガープの部下たちが絶句する。

 

「これは……」

「なるほど。足止めか」

 

 辺り一帯が凍り付き、身動きが取れなくなった船が一隻。海賊旗も掲げられているし、帆にも髑髏マークがある。間違いなく海賊船だ。

 ガープは躊躇なく砲弾を投げて撃沈させ、部下に後始末を任せる。

 

(あの嬢ちゃん、海賊に襲われたという割に妙に落ち着いていたが……やっぱ能力者だったのか)

 

 自分で対処できるとわかっていれば、あれだけ落ち着いているのもわからないでもない。

 それに、と拳をぶつけた男を思い出す。

 

(あれだけの覇気を纏った拳は久々だった。チンジャオにも劣らんな)

 

 あの男を護衛に置いているなら多少の心配もなかろうな、と思わず笑みを浮かべる。

 またやりたいもんだ。そう考えながら部屋へと戻った。

 

 

 

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