ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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本作初の(ほぼ)全面ギャグ回です。
私はギャグ苦手なのであんまり書かないんですけどね…。


第三十五話:カマバッカ王国

 偉大なる航路(グランドライン)──夢の島〝モモイロ(アイランド)

 動物も草木も見渡す限りピンク一色。この島に集まる誰もが乙女の心を持っている。

 一週間ほどの航海を経て辿り着いた第二の女ヶ島と名高いこの島に、目的の人物はいた。

 

「そう……それでこのヴァターシを頼りに来たのね」

 

 でもその前に、と彼あるいは彼女は言う。

 手にマイクを持ち、派手な即席ステージの上で派手な衣装をまとい、マイクスタンドを叩き壊しながら叫ぶ。

 

「ン~フフフッ!! ウェルッ!! カマーーーッ!!! ようこそ、このカマーランドへ!! 歓迎するわ、ヒィーハー!!」

 

 四メートルほどの身長だが、体に対して顔の大きさがアンバランスなほどに大きい。ハイテンションで歓迎の用意をするように指示する彼を見ながら、カナタは少しだけ思った。

 

(うるさい……)

 

 ドラゴンはイワンコフのテンションにも慣れているのか、特に表情を変えることなく挨拶を交わしていた。

 後ろで泣き崩れるスコッチを無視し、カナタもひとまず挨拶を交わしておこうと船を降りる。

 

「ン~フフ。ヴァナータが〝竜殺しの魔女〟ね。噂はかねがね聞いているわ。まさかヴァターシを船に誘うとは思っていなかったけど」

「ああ、ドラゴンがお前ならば信用できるというのでな。実際に会ってから決めようと思っていた。思っていた人物とは全然違ったがな」

「あらそう? でも残念、ヴァタシは〝新人類(ニューカマー)〟! 想像なんて軽々しく超越するッチャブル!!」

 

 この島にいるのは誰もがオカマ──もとい〝新人類(ニューカマー)

 ホルホルの実を食べ、性別・体温・色素・成長・テンションなど、人体のホルモンを操る〝ホルモン自在人間〟であるイワンコフの手で性別を容易に変えられる。

 男が元は女だったかもしれないし、女が元は男だったかもしれない。

 ここは、そういう島なのだ。

 だからスコッチは号泣しているのだが。

 

「ウォォ……こんな地獄が、この世にあっていいのか……! 夢だと言ってくれェ……」

「夢じゃなーい! 夢の国!!」

「ぶへっ!」

 

 ただのまばたきで爆風を起こしてスコッチの顔に叩きつけるイワンコフ。

 続いて降りてきたタイガーは不思議そうな顔で周りのオカマ達を見ており、一緒に降りてきたクロは腹を抱えて笑っている。

 二人ともこんな場所は初めてだし、そもそもオカマという人種に会ったことがないので珍生物でも見ている気分になっていた。

 

「人間ってのは多種多様だな……」

「ヒヒヒ、こういうことがあるから旅は面白いんだよなァ」

「違いない。いい土産話が出来たもんだ」

 

 確かに面白い話ではあるかもしれないが、これが普通だとは思わないで欲しいところである。

 ひとまず落ち着く場所に移動し、親睦会を兼ねて食事にすることにした。

 調理の間に一通り事情を説明し、イワンコフに船に乗って欲しいと再度頼み込む。

 

「──なるほど。そういうこッティブルね。数ヶ月前に来たドラゴンがまた来たから、一体何があったのかと思っちゃったわよ」

「信頼して欲しいならそれなりの行動が必要だ。もっとも、この男は面白そうだから船に乗せたかったのもあるがな」

「でも、ドラゴンだって大きな目的があるのなら目立つのは良くナブルわよね?」

「海軍の追手は私たちで戦うさ。お前たちはあくまで客人として乗っていればいい。仕事はしてもらうがな」

「そういうわけにもいくまい。船員として置いてもらう以上は、最低限仕事はせねばな」

 

 とは言ったものの、ドラゴンやイワンコフが海軍中将や大将を相手に真正面から戦えるとは思っていない。カナタだって真正面から戦えば高い確率で負けるだろう。

 手っ取り早く強くなる方法など存在しない。日々の積み重ねが己の力をより高める。

 西の海(ウエストブルー)での五年間や、〝リトルガーデン〟での一年間は決して無駄ではなかった。

 逃げてばかりもいられない。

 いずれは、大将さえ打ち倒さねばならない。

 

「そういうことなら、ヴァターシのところからコックも出すわ! 何を隠そうこのカマバッカ王国には、代々伝わる新人類(ニューカマー)拳法がある!!」

 

 その奥義の中の一つに〝花嫁修業〟というものがある。

 体格、性格──食事という〝環境〟は人体の全てを作り上げる土壌だ。料理によってこの環境を作り上げる〝攻めの料理〟こそ、この島にいる強靭なオカマ達の力の源。

 ただし、この〝99のバイタルレシピ〟は文字通り奥義。気軽に教えるわけにはいかないため、イワンコフのところから数名コックとして船員を出すと言っている。

 

「オカマが船に乗るのか!? 嫌だぜおれァ!!」

「嫌って何よ! 私たちを船に乗せないっていうの!?」

「差別よ差別! オカマ差別反対!」

「やかましい!!」

 

 スコッチを始めとして猛反対の声を上げる船員数名。

 カナタとしては別にオカマが乗ろうがどうでもいいのだが、彼らにとっては非常に困ることらしい。

 船長権限で無理やり乗せてもいいのだが、余り強権を使いすぎると後々遺恨を残しかねない。無茶なことはやらないに限る。

 イワンコフは……まぁ、乗るしかないのだが。

 

「ならコックたちに新人類(ニューカマー)拳法を習わせるか?」

「それならいい」

「スコッチてめぇ!?」

「他人事だと思いやがってこの野郎!」

「うるせえ! オカマが乗るよりお前らがなんちゃら拳法習ってレシピ覚えたほうが後々得だろ!? 強くなれるだろうしよ!」

「言っておくけど、この〝99のバイタルレシピ〟は新人類(ニューカマー)拳法奥義! 軽々しく教えるわけにはいかなっシブル!!! 知りたきゃ心を乙女に!! 新人類(ニューカマー)拳法を真面目に学ぶことね!!」

「本末転倒じゃねェか!!?」

 

 オカマを乗せたくないのにレシピを学ぶにはオカマになるしかないとはこれ如何に。

 スコッチがもうどうしようもなくなりつつあるこの状況で、縋りつくようにカナタの方を見る。

 彼女ならどうにかしてくれる、と信じて──。

 

「お前が学ぶか?」

「嫌に決まってんだろアホンダラァ!!?」

 

 即座に裏切られた。

 

 

        ☆

 

 閑話休題(それはさておき)

 実際問題、困っているのは船医だけなので船に乗るのはイワンコフだけでいい。〝攻めの料理〟に興味はあるが、奥義の一つだというのなら気軽に教えて貰えない理由も理解できる。

 料理を食べるだけならカマバッカ王国に立ち寄ればいいので、スクラの修行が終わるまでカナタたちはここを拠点にするだけでいい。

 スコッチと数名の船員は嫌がるだろうが、まぁそれはそれ。

 あれも嫌だこれも嫌だと子供のように言われても困るので、最低限これだけは妥協させた。

 

「ウィッチィガール。ヴァタシが船に乗るのは構わないけれど、どこか目的地はあるの?」

「目的地か……特にどこかに行きたいということはないな。今のところは船医の勉強が終わるまでの時間つぶしだ」

 

 あとは一月に一度ドラム王国に寄港する必要がある、ということだけだ。

 それ以外であれば特に用事はないため、どこか行きたいところがあるのならば連れて行くこともできる。

 もっとも、追われている身なので長期間滞在するわけにはいかないのだが。

 

「どこか行きたいところでも?」

「いいえ、特に行きたいところがあるわけではないわ」

 

 手でバッテンを作りながら答えるイワンコフ。

 オカマ達が料理を配膳しているのを目で追いながら、「特に行くところがないのなら、この島で新人類(ニューカマー)拳法を習ってみない?」と言う。

 

「私がか?」

「そう。拳法と言っても戦うばかりの技ではないのよ。美容、健康……そういった〝女の武器〟を磨くための拳法でもあるの!!」

「そうか。私は生まれてこの方化粧もしたことがないからわからんな」

「ヴァナタ化粧なしでそれなの!!?」

 

 厚化粧をしているイワンコフは言うに及ばず、カマバッカ王国の誰もが自分を磨くために化粧をする。

 というか、化粧無しのスッピンでこの美しさなのだという事実に周りのオカマたちが打ちひしがれていた。

 周りが男所帯ばかりだったということもあったが、カナタ自身〝そういうもの〟に欠片も興味を抱かなかったので、化粧などしたこともない。

 そういえば、とふと思い出す。

 

「──ああ、いや。姉……のような知人に一度化粧をしてもらったことはあるな。自分ではやったことがない」

「勿体無い!! 自分の美しさを磨く!! それが持って生まれた自分への義務であり、生んでくれた親への感謝というものっチャブル!!!」

「私は孤児だから両親とは会ったことがないし、孤児院からは人攫いに売られたから感謝と言われてもな」

「ヴァナタ、ハードな人生送ってるわね……」

 

 イワンコフも思わずテンションが下がった。

 ひとまず続きは食事が終わってからにしようと、皆思い思いに食事を始める。

 カマバッカ王国、新人類(ニューカマー)拳法総本山の誇る〝攻めの料理〟は、確かに体の内側から気力が湧いて出るような凄まじいものだった。

 肉体を内側から作る。そういう発想をしてこなかったこともあり、ゼファー相手の鍛錬をするにも持って来いの島かもしれない。

 巨人族が入れるほどの巨大な食堂ということもあって、フェイユンも食堂で料理を次々に平らげていた。

 

「美味しいですね! 私どんどん食べられます!」

 

 ニコニコしながら食べるフェイユンの姿に感じ入るものがあったのか、周りのオカマたちは我先にと彼女のお世話を焼いている。

 

「これが……母性……!」

「私の中の母性が目覚めるわ……!」

「愛って、こういうものね……!」

 

 トゥンク……とときめいているその様子を見ながら、カナタとイワンコフは視線を交わす。

 

「フェイユンは随分と気に入られたようだな」

「この島に来るのは大体がニューカマーで、誰かの世話を焼くなんてことは滅多にないから仕方ナッシブル! 良ければ好きなようにさせてあげたいけど、いいかしら?」

「フェイユンも嫌がってはいないようだ。好きなようにやらせても大丈夫だろう」

「ありがとう! 感謝するわ!」

 

 スコッチも料理は認めたようでバクバクと食べていた。

 人に関しては好き嫌いのある奴だが、食べ物に関しては食べられるなら大丈夫の精神が養われている。主にリトルガーデンで。

 まぁ、あの時は本にも載ってない果物はまずサミュエルに毒見させてから食べていたので、被害を受けるのは基本的にサミュエルだったのだが。

 

 

        ☆

 

 

 懇親会も込めた食事は終わり、各々一休みしながら今後の活動計画を練っていた。

 

「世界政府加盟国以外なら、我々が移動してもバレることは少ないだろうが……」

「この辺りにあったか……イワ、永久指針(エターナルポース)は持っているか?」

「そうね。ヴァターシというか、ヴァターシのキャンディ*1たちがいくつかの永久指針(エターナルポース)を持っていたっチャブル」

「海賊を狩って金品を強奪してもいいんだが、特に用事もないならドラムとここの往復だけにして修行の期間にあてたい」

「修行? 何のために?」

「ゼファーを倒すためだ。逃げてばかりもいられないからな」

 

 カナタ、ドラゴン、イワンコフの三人は海図を確認しながら会議を続け、ひとまず次の一ヶ月はカマバッカ王国で過ごすことに決定した。

 どのみちイワンコフが新人類(ニューカマー)拳法を教えてくれると言っていたこともあり、多少滞在が長引くことはあっても損はないだろうと判断したのだ。

 それにしても、と──カナタはカマバッカ王国の宮殿から外を見る。

 

「うちの船も人が増えたものだ」

「元は何人だったんだ?」

「最初は……そうだな、三十人に満たない数だった。商人になって人が増えて、一時期は二百はいたはずだ」

 

 マルクス島のゴロツキどもを集めて人夫として雇い、中古のガレオン船二隻を使って西の海(ウエストブルー)を回っていた。

 ほんの一年前のことのはずだが、妙に懐かしく感じる。

 

「フェイユンとゼンを拾って、私が天竜人を殺してからまた三十人ほどに戻り……偉大なる航路(グランドライン)に入ってからスクラやお前と出会ったわけだ」

「フフ……元は商人だったのねェ。ヴァナタの過去はちょっと気になるけれど」

「あまり素性を詮索してやるな、イワ。話したくないこともあろう」

 

 特に元々孤児で、更には人攫いに売られたという過去もある、下手に聞くべきではないとドラゴンはたしなめた。

 カナタは特に気にした様子もなく、「昔は生き残るのに必死だったからな」と答える。

 孤児院の時のことは今まで誰にも話したことはない。言う必要がないということもあったし、誰も聞こうとしなかったのもある。

 

「特に面白いことなどない。精々ハゲジジイの院長が私に──というより、私の親に怯えていたくらいか」

 

 何故かと疑問を持ったことはあるが、それを解消する前に売られてしまったのでもはや興味も失せている。

 だが、くれはと会った時もそうだったが、母親とカナタは随分そっくりらしいので今後間違えられることもあるかもしれない。

 面倒な話だが、変な輩が寄ってこなければいいのだが、と願うばかりだ。

 

 

        ☆

 

 

 マリンフォードにある海軍本部。

 その一室、元帥の椅子に座る男──コングが慌てた部下から報告を受け取っていた。

 

「ほ、報告します! 〝金獅子〟のシキが新世界にて軍の監視船を全て沈め、行方不明に! その後、ウォーターセブン付近にて()()()()()()()の目撃報告があり……」

「奴め……! 一体何が目的だ?」

 

 コングは頭が痛そうに額を抑え、ひとまずゼファーとセンゴクに一報を入れておくように指示を出す。

 あの二人は今別件で出ているが、〝金獅子〟ほどの相手ともなると並の中将では相手をするのは難しい。

 ガープは例によってロジャーを追いかけているし、おつるは本部に詰めているが別件で忙しい。すぐに動けて対処できるのはあの二人くらいのものだ。

 

「何事もなければいいが……」

 

 ゼファーが追いかけている女の手配書を見て、ため息をつく。

 妙なことが続く場合、原因は意外と同じことが多い。

 ()()がそうでないことを願うばかりだと、コングは静かにお茶をすする。

 

*1
(カマバッカ王国の住人もといイワンコフの部下)




そろそろ投稿頻度を週一くらいにしようかなと思ってます(マスターランク7の顔)(発売日に買った)

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