ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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ジャンプが月曜発売なので毎週月曜に投稿します(適当)


第三十六話:神はサイコロを振らない

 長い金髪に袴姿の男──〝金獅子〟のシキは船に据え付けられた玉座でうとうとと眠そうにしていた。

 いつもの葉巻も今はしておらず、シキの一存で連れてきた傘下の海賊たちも普段の雰囲気とは違う彼にやや戸惑っている様子だ。

 いきなり「〝楽園〟へ向かうぞ」と言われ、着いてきたはいいものの……何をするのかさえ聞かされておらず、どうすればいいのかと指示を待っている段階だった。

 そこへプップップーと間抜けな音を響かせながらピエロのような男──Dr.インディゴが現れ、身振り手振りで一生懸命に何かを伝えようとしてくる。

 皆がそれに注目し、何を伝えようとしているのか考え始め──。

 

「シキの親分! ウォーターセブンに到着しました!」

『喋るんかい!?』

 

 うとうとと眠そうにしているシキを除いた全員が突っ込みを入れた。

 大声で叫んだため、シキもはっとした様子でインディゴの方に視線を向ける。

 

「ん? おお……え? ジャヤ?」

「ウォーターセブンだって言ってんだろ!! ……それはそうと、シキの親分。お疲れなら部屋で休まれては?」

「そうだな……あの女のガキに会えると思うと夜も眠れなくてなァ」

「旅行を楽しみにしすぎて眠れない子供か!!」

 

 ジハハハハ! と陽気に笑うシキは、何度も見返した少女──カナタの手配書を眺める。

 インディゴはため息をつき、傘下の海賊たちに「指示は追って出す」と告げて用意した部屋へ戻るよう促す。今のシキは海賊艦隊提督としてはあまりよくない姿だと判断したためだ。

 

「随分とその少女に執着されてますね」

「まァな。こいつの母親であろう女に、ロックスの船に居た頃は何度も煮え湯を飲まされたが……何度も殺し合ったが……何度、も……あのクソ女ァ!!」

 

 いきなり怒りが爆発したシキをなだめ、お茶を用意させて一息つく。

 インディゴや他の幹部クラスにしか出来ないことだ。この男を怒らせてなお前に立つほどの度胸など、普通の船員には持てない。

 シキはお茶を飲み、あくびを噛み殺しながら話し続けた。

 

「オクタヴィアって女はな。性格はクソの極みだったが、強さだけは本物だった。リンリンなんかはよくサンドバッグにされていたからなァ」

「リンリン……というと、あの〝ビッグマム〟ですか。それはまた……」

「あいつは頑丈だから()()()サンドバッグにされてたが、大体の連中は軒並み一回で死んだ。扱いにくい女だったが、あの強さは実に魅力的だったぜ。部下に欲しいくらいにな……いや、やっぱりあの女を部下にはしたくねェ」

 

 つまり、シキの狙いとはごく単純なことで。

 

「あれの娘なら今後の成長性にも期待できる。青田買いって奴だな、ジハハハハ!!」

 

 葉巻に火をつけ、玉座から立ち上がって軽く体を動かすシキ。

 先日はアラバスタで海軍と一戦やりあったと聞いた。そこからどこかの島へ向かったかはわからないし、その後海軍ともぶつかった様子もなさそうだ。

 ここからは人海戦術で探す必要がある。

 

「ひとまず十八隻、八つの傘下の海賊どもを連れてきたが……どうだDr.インディゴ。探し当てられると思うか?」

「その辺りまでは何とも……偉大なる航路(グランドライン)も広いですからねェ」

「ジハハハハ! 違いねェ!」

 

 カナタとシキ、どちらの運がいいかという話だ。

 これで見つからなければ更に数を増やしたいところだが……あまりこっちにかまけすぎると〝新世界〟側が手薄になる。

 白ひげやロジャーは欲がないので仕掛けてくることはないだろうが、ビッグマムやそれ以外の海賊たちは日々しのぎを削っているのだ。下手に戦力を分散させるとシマが荒らされる恐れもある。

 それでも、動く価値があるとシキは判断していた。

 

「名前だけは何度も聞きましたけど、そのオクタヴィアなる人物の手配書などは見たことがありませんが」

「ん? 見たことねェか。〝残響〟のオクタヴィアってんだが」

「寡聞にして存じませんな」

 

 そうか……と顎をさするシキ。

 ロックス海賊団のことは情報統制を敷かれている節がある。一般には出回っていない情報だと言ってもいいのかもしれない。あれだけ暴れ回ったのも懐かしい話だが、互いに殺し合いをするくらいには仲の悪い海賊団だったことも事実だ。

 だが、それにしたって忘れられるのが早すぎるようだが……インディゴはあまり情報収集に熱心な方ではない研究者なので、彼が知らないだけかもしれない。

 

「世の条理って奴だなァ……追々教えてやる。ひとまずおれァ寝るぜ」

「了解しました。ゆっくりお休みください」

「おう。適当に探させて、見つからなかったらその時はその時だ。別の方法を考える」

 

 海軍も追っている以上、あまり時間をかけすぎると互いにぶつかることもあるかもしれないが、シキはそんなものを欠片も気にしていなかった。

 邪魔をするなら潰す。絶対強者として当然の手段だ。

 

「ロックスの船に居た連中でもオクタヴィアの顔を知らねェやつは多いが、知っててこいつの顔を見れば殺しに行くだろう。その前に何としても見つけねェとな」

 

 多少不利益を被っても、この少女を味方に引き込めるなら安いくらいだと、シキは再び笑った。

 ──もっとも、母親と同じような強さで味方になる見込みが全くないのなら、消した方が後々脅威にもならないだろうと考えてもいるのだが。

 

 

        ☆

 

 

 ゼファーとセンゴクは頭を痛めていた。

 カナタを追って部隊を展開したはいいものの、足取りは全くつかめずに既に三ヶ月が経つ。本部からも一度戻ってくるように再三通達されていたところに〝金獅子〟の襲来だ。

 本部に戻らず警邏をするようにとの元帥からの通達が降り、ウォーターセブン近海からいくつかの島を渡って警戒を強めていた。

 二人で次の動きを考えていると、ノックをした後にベルクが報告書を持ってきた。

 

「ロンズ中将、サウロ中将。共に捜索するも見つからずとの報告が入っております。また、〝金獅子〟はウォーターセブンにて逗留中。傘下の海賊たちは散らばって移動中とのことです」

「そうか……〝金獅子〟め、このクソ忙しい時に一体何をしに来やがったんだ」

「奴は狡猾な男だ。何かしらの目的があって動いているとみるべきだが……今回は何の兆候もなかったことが気がかりだな」

 

 どんな時でも策を講じて動く男が、今回に限っては突発的に動いている。

 あるいは海軍が兆候に気付けなかっただけなのか……どちらにしても、後手に回ったのは事実だ。

 

「傘下の海賊どもが散らばって移動してるってのが気になるな。何かを探しているのか?」

「……まさかとは思うが、〝魔女〟を傘下に加えようとしているのか?」

 

 だとしたら、海軍としては非常に憂慮すべき事態だ。

 金獅子の勢力がまた強くなることもあるが、カナタの成長性を考えると今後〝新世界〟のパワーバランスが大きく崩れる可能性がある。

 自身の強さもさることながら、多大な勢力を持つ〝金獅子〟

 驚異的な個の力を持つ〝ビッグマム〟

 世界を亡ぼしかねない力を持つ〝白ひげ〟

 そして一騎当千の実力と少数ながらも強力な仲間を率いる〝ロジャー〟

 今でこそ争いつつも均衡を保っている勢力図が、ここに来て崩れる可能性があるなど考えたくもない。

 

「誰かの傘下に入るような女には思えねェが……いや、それよりも〝新世界〟に入ってすらいねェルーキーを傘下に? 〝金獅子〟にしちゃあ随分と妙な……」

「……あの男は決して考えなしで動く奴じゃない。何か、意味があるはずだ」

 

 平穏などという言葉とは程遠い男でもある。まさか遊びに来たわけではあるまいし、ある程度の戦力を割く必要があるのは確かだ。

 ガープは相変わらずロジャーを追いかけているようだが、あの男を海軍本部に呼び戻さなければならないだろう。大将に匹敵する戦力なのに色々動き回っているあの男が自由人過ぎるだけなのだが。

 ゼファーとセンゴクもこのままカナタを追うのは難しいかもしれない。

 

「〝魔女〟を優先したかったが……相手が〝金獅子〟ならそうもいかねェな」

「それなのですが」

 

 ゼファーが頭を悩ませていたところで、ベルクが一枚の資料を机に置いた。

 近くの支部からの情報を共有して得た資料らしい。

 

「可能性は低いのですが……ここ最近、ドラム王国にて月に一度不審な船が停泊しているそうなのです。港があるのに港に停泊せず、一日程度停泊しては居なくなっている。アラバスタ王国から記録指針(ログポース)で辿る次の島に居なかったことと、付近の島でも発見報告がないことを考えると……ゼロではないと判断しました」

「なるほどなァ……どうせ当てもねェんだ。ここを探してダメなら〝金獅子〟の対応に注力する。それでどうだ、センゴク」

「ああ、それで行こう」

 

 期待するほどでもないだろう。不審船などよくある話で、海賊船が海軍から姿を隠すために偽装していることもよくある。

 カナタたちは海賊旗も帆にマークもないから一見すると海賊船に見えない。商船として大っぴらに港に着けなければ不審船として通報されるのは十分あり得る話だろう。

 

「ロンズとサウロにも通達しておけ。ここが外れならコング元帥からの要望通り〝金獅子〟の抑えに回る。当たりなら〝魔女〟を捕縛する」

 

 

        ☆

 

 

 ドラム王国。

 再びこの国を訪れたカナタたちは、イワンコフを見て百面相をしているジョルジュたちを放って降ろす荷物の確認をしていた。

 

「なァ……なんだこれ……?」

「これとは随分な言い草だっチャブルわね! ヴァターシの名はエンポリオ・イワンコフ! カマバッカ王国の女王よ!!」

「珍獣か……? 珍獣なんてゼンやサミュエルで十分だぜ」

「おれは珍獣枠かよ!?」

 

 ジャガー人間なので珍獣と言えば珍獣だが……それを言ってしまうと、動物(ゾォン)系悪魔の実の能力者はみんな珍獣になってしまう。

 ゼンはミンク族の中でも極めて珍しいので珍獣と言っても差し支えはないのかもしれないが。

 

「スクラの勉強が終わるまでだ。最速で半年とは聞いているが、余裕をもって数ヶ月ほど伸ばしても大丈夫なようにな」

「ン~フッフッフ!! よろしくお願いするわ!! ヒーハー!!」

「ああ、よろしく頼むな……」

 

 疲れた様子のジョルジュはもはや突っ込む気力もなさそうだ。くれはに相当こき使われていると見える。

 先日も薬草やキノコを求めて山に入り、危うく遭難しかけた上にラパーン──熊のような体格を持つ肉食の兎──に襲われたらしい。

 ゼンもサミュエルも雪上戦闘には慣れたようで怪我はない。

 

「一ヶ月居ないだけで人が増えるとは思わなかったぜ」

「ドラゴンは先月この国で会ったが……そうだな、お前たちと別れてから勧誘したから会ってはいないのか」

 

 くれはの家の目の前で話していたが、ジョルジュは覚えていないらしい。

 ひとまず全員が顔合わせをしたところで、イワンコフも興味があるからとくれはの家までついて来た。

 数名で荷物を運びつつ街外れの大木に向かい、そこでイワンコフはくれはとスクラに顔を合わせることになる。当然と言えば当然だが、イワンコフは曲がりなりにも船医代理として乗っているので医術そのものにも興味はあるらしい。

 どちらかといえば、方向性は健康維持だとか体型維持だとか、そういう方面に向かうのだが。

 

「ホルモンを打ち込んで顔面だけが成長する……? そんなホルモン存在しないんだが……?」

「まァまァ落ち着けスクラ。悪魔の実の能力者に常識なんて通用しねェだけだ」

 

 額に青筋を浮かべてブチ切れているスクラをジョルジュが一生懸命になだめていた。

 悪魔の実の能力者というのは常識の範囲内に収まるものではない。言っても仕方のないことではあるが、どうしても納得がいかないらしい。

 

「ンフフ。ヴァナータ、医者としては随分腕がいいようだけど、悪魔の実に関してはそれほどでもナショナブルなようね」

「僕は医者だが悪魔の実について研究している身でもある。それでも納得のいかないことくらいはあるものだ」

「そういうのダメよ。悪魔の実に常識が通用するなんて思ってはいけナッシブル!」

「そうか。解剖させてくれ」

「脈絡ないにもほどがあるわよ!?」

 

 随分にぎやかになったものだ。くれはも「またみょうちきりんな連中連れてきたね」と呆れた顔をしている。

 ひとまず急ぎの用事はなくなったので、しばらくはカマバッカ王国で時間を潰しながら海軍の出方を見ることになるだろう。

 ついでに〝99のバイタルレシピ〟を狙ってコックたちを鍛えさせてもいいかもしれない。

 だが、問題があるとすれば一つ。カマバッカ王国を出立した直後に新聞で報じられた出来事だ。

 

「……気になることといえば、これだな」

「おれ達もこの記事は見たが、本当に〝金獅子〟がこっち側の海に来てるのか? なんであんな大物が……」

「さてな。何をしに来たのかは知らないが、あんな奴を呼び寄せるような傍迷惑なものに心当たりもない。出会わないことを祈るばかりだな」

 

 フェイユンとゼンは西の海(ウエストブルー)に逃げる前に〝新世界〟で金獅子傘下の海賊を潰したらしいが、それに気付かれたとも考えにくい。

 今更になって動くことでもないだろうから、恐らくは別の事だと思われるが……少なくとも、カナタには心当たりがなかった。

 〝新世界〟で巨大な勢力を誇る金獅子など、本来ならこちら側の海に居ていい存在ではない。

 出会わないことだけを粛々と祈るしか、今できることはないのだ。

 

「いずれはこいつらを退けて〝新世界〟の海を渡ることになる。いつまでも逃げていられる相手では無いが、今相手をするのは時期尚早だな」

「本当にこいつらを敵に回して大丈夫かよ……おれは不安で仕方ないぜ」

「私たち自身が力をつけることもそうだが、何より勢力の増強を考えねばな。今の三十人余りの状態では巨大な組織を相手に逃げ回ることしかできない」

 

 金獅子に傘下の海賊がいるように、カナタに従う部下を増やす必要がある。

 今のところは当てもないし、部下に出来たとしても海賊は裏切りなど日常茶飯事だ。

 ひとまずは今やれることをやるしかないのだが。

 

「そういえば、ラパーンは兎なのだろう? 美味いのか?」

「曲がりなりにも肉食獣だ。肉は硬くて臭いから食えたもんじゃないぞ」

「……食ったのか?」

 

 サミュエルは食べたらしい。

 

 




 0世代ではガープ、センゴク、おつるが中将の中でも突き抜けて強い(センゴクは後に元帥まで昇進する)わけですが、この時期ってゼファー以外に大将いなかったんでしょうかね。
 いないってことは流石に無いんでしょうけど……。

 ロジャー世代の話書いてる二次増えてくれー頼むー。

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