ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。


第四十四話:〝金獅子〟

 のどかな風景を通り過ぎ、程なくして街へとたどり着く。

 遠目に見る限りでは特に争っている形跡はなさそうだが、住人の中には怪我をしているものが多い。女子供の姿は見えず、外に出ているのは働き盛りの男ばかりだ。

 街のすぐ近くまで来てしまえばあちらも流石に気づいたようで、武器を手にカナタたちの方へと歩み寄ってくる。

 

「おいおい、なんだお前ら。ここは金獅子海賊団の拠点の一つとして使ってんだ。木端海賊が逆らっていい相手じゃねェぞ」

「拠点か。いつから使っているんだ?」

「質問できる立場か? おれ達はな、シキの親分の命令で〝竜殺しの魔女〟の行方を追って……追って……」

 

 話していくうちに尻すぼみになり、カナタの顔を凝視する。

 流石に最近更新された手配書が強く印象に残っているのか、見間違えるということもなかったようだ。

 

「て、テメェ! 〝竜殺しの魔女〟!? 何でここに!! 港の連中はどうした!?」

「どうした、と言われてもな。クロ、返してやれ」

「あいよー、っと、〝解放(リベレイション)〟」

 

 クロの体から生み出された闇が上空に立ち昇り、飲み込んだものを吐き出し始める。

 先程飲み込んだ海賊たちも例に漏れず〝闇〟から解放されていき、血塗れのままで無造作に打ち捨てられていく。

 

「お前ら!」

「や、闇に……闇に引きずりこまれた……」

 

 ひどく恐ろしいものを見たように、飲み込まれた海賊たちは一様にガタガタと震えていた。

 尋常ではないその様子に思わず息をのみ、躊躇いもなく能力を行使したクロを強くにらむ。

 

「能力者か……! 総合賞金額(トータルバウンティ)が二十億を超えてるんだ、能力者くらい何人もいるよなァ!」

「どうする。シキの親分には見つけ次第すぐ知らせろと言われたが」

「すぐ連絡するに決まってんだろ! あいつら、おれ達にどうこう出来るレベルの海賊じゃねェ……!」

 

 僅か三十人程度と思えば、一人一人が異常なほどの実力者。

 そういった少数でも恐ろしく強い海賊団という存在を、彼らは他にも知っている。

 

「ロジャー海賊団みてェな化け物ぞろいかよ……シキの親分が傘下に欲しがるわけだぜ……!」

 

 あそこまで突き抜けた強さでなくとも、シキが欲しがるには十分すぎる強さだと肌で感じ取った。

 同時に、見つけたら捕縛ではなく「おれに連絡しろ」と言った意味も理解する。

 カナタたちは海賊たちの様子など気にもせず、住人が怯えながらこちらを見ていることに気付いて一つだけ告げておく。

 

「住人には手を出すな。私たちの目的はあくまで海賊だけだ」

「承知している」

「そこまで野蛮になった覚えはないぜ」

「ならば良い。手早く制圧するぞ」

 

 誰もがそれぞれ武器を構え、一斉に動き出した。

 〝新世界〟に居を置く海賊とて、その強さはピンキリだ。傘下に収まる程度の海賊で、カナタたちを止められるはずもなく──それほど時間はかからず、海賊たちは全て制圧された。

 

 

        ☆

 

 

「さて」

 

 広場で全滅させて縛り上げた海賊たちを前に、カナタは一息つく。

 聞くべきことは色々とあるが、何から聞くべきか。そう考えているところで、縛り上げた海賊の一人が吼えた。

 

「お前ら、おれ達を倒したってことは〝金獅子〟と敵対したってことだぜ。ハァ、ハァ……あの人の恐ろしさを知らねェから、そんな無謀な真似ができるんだ」

「……呆れたな。自分たちが負けたら親分に泣きつくか」

 

 果たして泣きつかれた金獅子はどう動くか。

 よくもうちの子分どもを、と怒れば身内に甘い。

 売った喧嘩で負けて泣きつく奴は要らん、と見捨てれば冷酷と言える。

 金獅子の気性など会ったこともないカナタからすれば想像の域を出ないが、時折聞く噂から推測するに後者だろう。

 どちらにしても、配下の海賊が負けたとあっては面子を保つ意味でも一度は仕掛けてくるだろうが。

 

「そもそもの話、何故金獅子は〝こちら側〟に来たんだ?」

「……お前を捕まえて部下にしたいと、シキの親分が言ったからだ」

 

 親子の盃を交わした以上は逆らえるはずもない。

 それだけの理由で多くの部下を引き連れて前半の海──〝楽園〟を訪れることに疑問もあったが、親の命令は絶対だ。

 傘下の海賊たちはそれぞれ〝楽園〟の島々を回り、情報収集にあたっている。

 

「なるほど。私も厄介な奴に狙われたものだな」

「〝金獅子〟つったら大海賊だろうに、そこまでしてカナタを部下にしたがってんのか?」

「理由なんざおれ達も知らねェ。動き出したのは最近だが、それ以前から情報を集めてはいたんだ」

 

 世界中を驚愕させたとはいえ、カナタはまだ前半の海に居る小娘だ。金獅子が狙って〝新世界〟から来る理由に心当たりもない。動き出した時期を考えれば強さを察することも難しいだろう。

 が、それが初頭の手配の頃から興味を持たれていたとなれば多少は察することも出来る。

 

「天竜人の殺害がそれほど気に入ったのか? だがそれにしては……」

「お前を見つけたらシキの親分に連絡しろと言われてる。気になるなら直接聞いてみることだな」

「……そうだな。直接問いただしてみるのも悪くない」

「おい、正気か!? 〝金獅子〟と直接やり合うのはまだ早ェぞ!」

「くはは、構うまい。あちらは我々を狙っているのだ。儂もいつまでも逃げているのは性に合わん」

 

 困惑するジョルジュとは正反対に、ジュンシーは獰猛な笑みさえ見せていた。

 金獅子傘下の海賊たちが持っていた電伝虫を使い、〝金獅子〟へと直接連絡をする。

 準備をスコッチに任せ、カナタはジョルジュたちと共に拠点としていた建物へ入る。

 拠点としているだけあって物資のほかに海図もいくつか並べられており、それぞれ別の海賊団が拠点として利用している島の名前が書き連ねてあった。

 同様に、拠点間移動のためと思われる〝永久指針(エターナルポース)〟も並べてある。

 金獅子の目をくらませるなら、拠点にしている島を一つ一つ制圧していくのも一つの手だ。

 

「敵対するなら先手を取った方が有利ではあるが……どう思う?」

「本気で追いかけてくるだろうなァ……上手いこと海軍でもぶつけられりゃあ、力を削ぐことも出来るかもしれねェが」

 

 拠点としている島を見るに、世界政府加盟国には手を出していないのだろう。海軍や世界政府とやり合うにはまだ時期尚早だと考えているのかもしれない。

 物資を奪う意味でも、拠点としている島々を襲撃するのはアリだろう。

 話をしてみて、金獅子が追うのを諦めるならそういったことをする必要もなくなるのだが。無理だろう。

 ジョルジュと共にため息をついたところで、電伝虫の準備が出来たとスコッチが呼びに来た。

 広場に戻ると、既に電話をかけて金獅子に繋いでいる最中だという。

 程なくして、はっきりとした声が聞こえてきた。

 

『……おれだ』

「お前が金獅子か」

『あァ……お前が〝魔女〟か。うちの連中を締め上げたみたいだが、直接連絡してくるとは度胸があるじゃねェか』

「どうやら私を追っていると聞いたのでな。お前に狙われる理由に心当たりもないと不思議に思っていたところだ」

『なんだ。お前、母親から何も聞いてねェのか?』

「私は孤児だ。親の顔など見たこともない」

『何? ……ふむ。だがお前の顔は母親と瓜二つだ。他人ってこともねェだろう』

 

 また母親か、とカナタは密かにため息をつく。

 くれはの時もそうだったが、カナタの母親は随分と顔が広いらしい。それにいろんなところで恨みを買っていると見える。

 

「……それで、その母親と私が何の関係がある。まさか自分が父親だとでも?」

『んなわけあるか──オクタヴィアはおれが認める数少ない実力者の一人だ。その娘ってんなら、将来に期待が持てるってもんだろう』

「要するに青田買いか。〝新世界〟に辿り着いてもいないというのに、随分性急だな」

『ジハハハハ! オクタヴィアは色んなところで恨みを買ってるからな! 誰かに殺される前におれが確保するのも一興だと思ったまでだ』

 

 例えば、と金獅子は一人の名を挙げた。

 

『シャーロット・リンリン。今あいつはシャボンディ諸島でお前のことを待ち構えている。魚人島に行くには必ず通る必要がある場所で構えてるあたり、本気のようだぜ』

「シャボンディ諸島?」

「〝赤い土の大陸(レッドライン)〟の近くにある諸島だ。魚人島に行くにはそこで船をコーティングしてもらう必要がある」

『そうだ。詳しいやつがいるようだな』

 

 コーティングを知らないカナタに対し、タイガーは「船をシャボンで包むんだ。船が海中を進めるようにするためのものだな」と説明をする。

 

「どうしても通らなければならないのか?」

「魚人島以外のルートは聖地マリージョアを通るルートしかない。金もかかるし船も乗り捨てることになる。何より、お前には許可が下りないだろう」

 

 魚人島出身でいろんなところを旅しているタイガーはその辺りにも詳しい。

 シャボンディ諸島は魚人や人魚が捕まって奴隷にされることも多い場所であるため、そう近づける場所でもない。だが、タイガーほどの強さがあれば船の調達なども可能だったのだろう。

 魚人本人はともかく、カナタ達が魚人島に行くにはどうしたって船をコーティングする必要がある。

 そもそもの話、タイガーを魚人島に送り届けるという目的があるので魚人島に向かう以外の選択肢はない。

 

「我々にはルートが限られているわけか……」

『だが、おれに限ればもう一つのルートがある』

 

 シキは超人系(パラミシア)フワフワの実の能力者だ。

 触れたものを浮かせることのできる能力を使えば、魚人島を通ることなくマリージョアの上空を抜けて〝新世界〟と〝楽園〟を行き来できる。

 この場で傘下になるなら、安全に〝新世界〟に移動させてやる、とシキは言う。

 

「お前の傘下になるつもりなどない。理由がなんであれ、敵がいるなら踏み潰すまでだ」

『ジハハハハ!! その気の強さは母親そっくりだな。大言に見合うだけの強さはあんのか?』

「さてな。〝ビッグ・マム〟がゼファーやセンゴクより強いなら話は別だが、そうでなければどうにでもなる」

『──ほう、言うじゃねェか』

 

 電伝虫越しにシキが笑みを浮かべたのがわかる。

 〝獅子〟に例えられるほどの男は、獰猛な本性を露わにした。

 

『お前は奴の娘だ。ああ、強いだろうってことは大方予測出来てた。おれの部下にならねェってんなら──殺した方が良さそうだ』

「誰が来ても同じだ。私は私の前に立ち塞がる者は誰であろうと踏み潰す」

 

 今までもそうだった。

 天竜人だろうと、海軍大将だろうと敵対するなら戦ってきた。次に大海賊を相手取ることになったとしても、カナタは退くことはない。

 

『いい根性だ。首を洗って待ってろ──近いうちに殺しに行ってやるよ』

 

 ガチャリ、と通話が切れる。

 ジョルジュはまたしても額に手を当てて頭痛をこらえ、スコッチは「もう知らん」と言わんばかりに明後日の方向を向いている。

 対照的にジュンシーは好戦的な笑みを浮かべ、クロは相変わらず何も考えていないような顔で笑っている。

 

「まぁ、そういうわけだ。海軍大将の次は〝金獅子〟と〝ビッグ・マム〟が敵になった」

「お前……いや、いい。そういうやつだってわかってたからな」

「ひとまずこいつらを片付けて、そのあと出航の準備をする。詳しい話は船に戻ってから全員いる場所でやる」

 

 もう海賊たちを生かしておく理由もない。物資も資金も全て奪ったのなら、その命も奪う。敵の傘下の海賊ならなおさら。

 

「一つずつ金獅子の拠点を潰して回るぞ。数を揃えられるのが一番厄介だ」

 

 

        ☆

 

 その後、船に戻ったカナタはドラゴンに声を掛けられ、カナタの自室で二人きりになっていた。

 重要な話だ、というので他人に聞かれないよう配慮したのだ。

 

「……それで、何の用だ?」

「次の目的地についてだ。現在金獅子の拠点の一つになっている島でいいのか?」

「ああ。〝永久指針(エターナルポース)〟があったからな。まずはここから近いバナロ島を目指す」

 

 そこまで話したところで、ドラゴンはやや言い淀んでから、覚悟を決めたように口を開いた。

 

「お前に会って欲しい人がいる」

「……会ってほしい人? 誰だ?」

「海軍中将ガープ──そして、ガープが護衛している天竜人だ」

 




早速予定からずれて行っている気がする…。

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