ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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遅刻しました。古戦場とか古戦場とか古戦場で忙しかったんです。


第四十七話:模索

 クイーン・ママ・シャンテ号。

 〝ビッグ・マム〟ことシャーロット・リンリン率いるビッグマム海賊団の母船とも呼べる巨大な船である。

 シャボンディ諸島を拠点として様々な場所ににらみを利かせており、彼女がここを根城にし始めて以降は天竜人すら降り立っていない無法地帯となっている。

 彼女自身が強大な力を誇る大海賊とはいえ、数多の賞金稼ぎが名前だけのこけおどしだとなめてかかり、その首を晒すことになった者も少なくない。

 

「ママハハハ! 〝金獅子〟の奴、部下の拠点がいくつも襲われているそうだよ。あのクソッタレの娘も中々やるようじゃないか」

 

 リンリンは実に狡猾に、密偵を様々な島に放って情報収集に徹していた。

 幹部のほとんどは彼女の子供たちであり、海賊としてはリンリン一人の力に依存している部分が大きいにも関わらず、これほど強大な勢力として認識されているのは──ひとえに、彼女の生来の強さと警戒心の高さゆえだった。

 十七年前から毎年子供を生み続けているというのに、他の勢力と小競り合いこそ起こすも致命的な状況に至らない。

 子を宿し、産むという行為は実に繊細でリスクが高い。それをこなしてなおこれだけの立場にいる彼女のリスクマネジメントの高さは称賛するべきだろう。

 

「だけどママ、そいつが〝金獅子〟と一戦やらかすつもりなら、獲物を取られちまうんじゃないか?」

「そうだねェ……先に〝金獅子〟を潰しておきたいけど、今はあまり動かないほうがいい」

 

 身重の体を見下ろし、リンリンは小さくため息をつく。

 怒りに任せてシャボンディ諸島まで来たのはいいが、よりにもよって産気づき始めた時期だった。船医を必ず一人傍につけるようにはしているが、それでも出産のリスクは決して低くならない。

 オクタヴィアの強さを身をもって知っているリンリンとしては、今の状態でカナタと戦うことは出来る事なら避けるべきだと理性ではわかっていた。

 母親ほどの強さはないだろうと思っていても、念には念を入れるべきだと。

 

「〝魔女〟もそう簡単にくたばるタマじゃねェだろう。〝金獅子〟と潰し合って、弱ったところを狙ってもいいね」

「ちょこちょこ居場所を変えてるみたいだし、捜索は継続ってことでいいかな、ママ」

「ああ、そうしておくれ。優秀な息子に育ってくれておれは嬉しいよ」

 

 笑いながら息子──長男であるペロスペローの頭をなでるリンリン。

 

「〝魔女〟以外にも結構懸賞金高いやつもいるし、おれ達も準備をしておくよ、ペロリン♪」

 

 このシャボンディ諸島にいるのはビッグマム海賊団の総戦力。

 船長たるシャーロット・リンリンを始めとして、〝美食騎士〟シュトロイゼンにタマゴ男爵。

 リンリンの実の子供であるペロスペロー、カタクリ、ダイフクにオーブンたち。

 多くの部下が船と共に拠点を築き上げており、海軍でさえ手を出しかねる程のそうそうたる面々が戦いの時を待っている。

 

「ママハハハハ!! 頼もしいじゃないか、ペロスペロー。しばらくは奴らの動向を調べて──ウッ

「……ママ?」

 

 バリバリとチョコを齧っていた手が唐突に止まる。

 ペロスペローはリンリンの様子に眉を顰め、どうしたのかと首を傾げて──。

 

「う……産まれる……」

「えェ~~~!!? 今!!?」

 

 唐突に来た陣痛にペロスペローは驚き、びっくりしながらも船医をすぐに呼んで対処を任せる。

 バタバタと船医たちが部屋に入って対処を続ける中、自分がやれることはないと部屋を出て船のテラスへと向かう。

 すると、そこには丁度午後のティータイムで歓談するシュトロイゼンとカタクリ、オーブンの姿があった。

 

「珍しいな、ペロリン♪ カタクリが一緒にいるとは」

「個人的なメリエンダはさっき終わった。やることもないんだ、たまに話すくらいはいいだろう」

「そりゃいいことだ。私にはアツアツの紅茶を」

 

 傍に控えた従者に紅茶を注文しながら席に座り、ひとまず状況が動いていないことを告げる。

 

「頭は十二億、その部下の〝赤鹿毛〟〝六合大槍〟〝巨影〟も億超えだ。海軍大将を何度か退けているらしい」

「それはまた……〝魔女〟の母親はママと因縁があるんだろう? 奴らからこっちに仕掛けてくることはないのか?」

 

 オーブンが腕組みしながら問いかける。

 実際、リンリンがここまで執心するほどに殺したい相手なら、相手からしてもリンリンへ何かしら考えていても変ではない。

 ペロスペローは熱々の紅茶を受け取りながら答えた。

 

「わからん。私もその辺りは詳しくないんだ。だが〝魔女〟は今のところ〝金獅子〟との戦いに比重を置いているようだし、こちらに仕掛けてくることはないと思っていいだろう」

 

 詳しいことはペロスペローも知らない。リンリンは思い付きで行動することも少なくないが、ここまで感情的になって動くことは珍しいのだ。

 過去に在籍した海賊団での因縁らしいが、その辺りに詳しいのはむしろ──と、ペロスペローはシュトロイゼンに視線を向けた。

 ショートケーキを食べながら考え込むシュトロイゼンは、それを飲み込んだ後でため息をついた。

 

「美味なるケーキを食べながらする話じゃないが……〝魔女〟の母親、オクタヴィアは確かにリンリンからすれば殺したいほど憎い相手だろう」

「……何をしたんだ?」

「何を、か……難しいな。だが──オクタヴィアはリンリンより強く、何度もリンリンを殺しかけたことは確かだ」

 

 大海賊と語られるほどの強さを誇るリンリンだが、ロックス海賊団にいた頃はそれでも最強とは程遠かった。

 船長であるロックスを始めとして〝白ひげ〟エドワード・ニューゲート、〝残響〟のオクタヴィアなど──多くの怪物たちが在籍していた船なのだ。

 リンリンの強さはカタクリたちも良く知るところだが、それより強いともなると想像がつかない。

 

「気に入らなかったことが多かったのもあるが、殺し合った原因は『飯の前に菓子を食べるな』というオクタヴィアの一言だった……」

『それだけ!!?』

 

 ペロスペローとオーブンは同時にびっくりして思わず突っ込みを入れる。

 だが普通なら何事もないような一言でも、相手がリンリンであれば話は別だ。

 

「甘いものが何より好きなリンリンは反発してオクタヴィアに挑み、返り討ちにあったのさ」

「それがもう信じられねェ……あのママが返り討ちとは」

「オクタヴィアの強さは常軌を逸していたからな。リンリンの癇癪は過去にもあったが、そのたびに力づくで止めていたのもあの女だ」

 

 食べたい物が浮かんだ際、それを食べるまで暴走して止まらない〝食い煩い〟。

 見境なく暴れるリンリンを止めることが出来るものなど、少なくともペロスペローは見たことがない。

 

「そのオクタヴィアの娘ってんなら、まァ潜在的な強さはお前たち以上って可能性は高いな」

「なるほど……だがおれ達だって負けるつもりはねェ」

「当たり前だ、ペロリン♪ ママより強いっていうオクタヴィアは居ねェんだ。〝魔女〟はママが相手をするとしても、それ以外ならおれ達で何とでもなる」

 

 相手がどれほど強くとも、最大のネックである相手がいないならやりようはある。

 ぺロスペローとオーブンは笑い合い、シュトロイゼンは何も言わずにショートケーキを切り分けて口へ運ぶ。

 一方でカタクリは紅茶を口に運びながら、目標である〝竜殺しの魔女〟の手配書を見ていた。

 

(……そう簡単に行けばいいがな)

 

 少なくとも十二億という高額な懸賞金をかけるだけの〝何か〟があると、政府は判断したということでもある。

 それがカタクリたちにとって凶と出ないことを祈るばかりだった。

 

 

        ☆

 

 

 聖地マリージョア、パンゲア城。

 五老星はガープとホーミング聖から上げられた報告書を一通り確認し、今後のことについて話し合っていた。

 

「ひとまず〝魔女〟については放置でいいだろう。この思想が本物であれば、現状では急いで軍を派遣するほどではない」

「あのオクタヴィアの娘とは思えんが……思想は環境に左右されるものでもある。孤児として育てられていたのであれば、オクタヴィアの思想を受け継いではいないだろう」

「オクタヴィアの娘ということは、父親は()()である可能性が高いのが一番頭の痛いところだが……不確定のところまで考えても仕方がないか」

「ともあれ、現状は〝金獅子〟と〝ビッグ・マム〟に注力できる。そこだけは喜ぶべきだ」

「〝魔女〟と〝金獅子〟がぶつかろうとしている。互いに潰し合ってくれるのが一番いいのだが……」

 

 やはり現状で一番対処するべきと判断しているのは〝金獅子〟の一件だった。

 カナタたちは天竜人を殺害こそしたが、それ以外で明確に政府への敵対行為をおこなったわけではない。海軍による追撃にしてもそれほど大きな被害は出していないのだ。

 現状では優先度を下げても構わない、というのが五老星の意見だ。

 

「ホーミング聖は彼女と話してから何か雰囲気が変わっていた。やはり、彼女も他者に与える影響力が大きいところがあるな」

「単なる覇王色の使い手というだけではない。かつてオクタヴィアに心酔した愚かな王の二の舞にならないことを祈るばかりだ」

 

 かつてオクタヴィアが引き起こした事件の一つを思い出しながら、五老星は一斉にため息をついた。

 ああいったことにならないと断言できないのが怖いところではあるが、報告書を見る限りでは大丈夫だろう。

 もしホーミング聖が似たようなことを引き起こすのであれば──その時はその時だ。非情な決断をすることになる。

 

「ガープが敵対的な行動を取っていないことが意外ではあるが……あの男のことだ。危害を加えたのが天竜人だけならまだ良いとでも考えているのだろう」

「あれも強くはあるが……扱いにくいことは確かだな」

「それでも海軍に所属しているだけマシと言えるだろう。ロジャーのようになられても困る」

 

 現状は大将と並んで海軍最高戦力に近い存在だ。思想はあまり歓迎できたものではないが、下手に手を出すことも出来ない。

 力と名声を持つ英雄は権力者にとっては常に疎ましいものだ。

 それでも海軍にいるだけマシだと思うしかない。ロジャーのように暴れ回る無法者の方がよほど厄介なのだから。

 

「〝金獅子〟の動向はどうなっている?」

「未だウォーターセブンから動いてはいないようだ。だが、傘下の海賊たちが〝魔女〟によって狩られているせいか、彼らを集めているようだな」

「ふむ……情報を〝魔女〟に流すことで二人をぶつけることは出来ないか?」

「我々は彼女の信用を得ていないが……ガープはどこかで伝手が出来ているようだ。あの男から情報を流させることは可能だろう」

 

 対処すべき案件は多い。

 最優先で対処するべき〝金獅子〟も、単に海軍をぶつけるより海賊同士で潰し合ってくれた方が何かと都合がいい。

 ウォーターセブンは造船所として名高い場所だが、最近は高騰する木材や手に入らない部品も多く、路頭に迷う者たちも増えている。

 世界政府加盟国ではあるが、造船所ならば他にもいくつか存在する。世界政府にとって大きな痛手となるほどではない。

 

「優先すべきは海を大きく乱す〝金獅子〟の討伐だ。多少は被害が出ても構わない」

「オクタヴィアの娘だ。倒せる可能性は十分にある」

「では決定だな」

「多少ならこちらから融通を利かせてもいいだろう。討伐できれば、の話ではあるが」

 

 海軍を直接ぶつけるには制約も多い。海賊同士ならば被害の矛先を擦り付けられるのも都合がいいところだ。

 五老星はそう考え──ガープを介して情報を流すことを決定した。

 

 

        ☆

 

 

 美食の街、プッチ。

 偉大なる航路(グランドライン)でも有数の〝食〟の街であるここで、カナタたちは休息をとっていた。

 ガープたちとバナロ島で会談して以降、三つの島を回って金獅子傘下の海賊たちを潰していたため、リフレッシュのためにも訪れたのだ。

 訪れた三つの島のうち二つで海賊を討伐したものの、一つは既にもぬけの殻だった。

 おそらくはシキが個別に撃破されることを嫌って傘下を集め始めているのだろう、とカナタたちは判断し、次の一手を考えるためにもいろいろなところで情報収集をおこなっている。

 

(ウマ)ァァァイッ!! この人参料理、実に美味です! あるだけ包んでもらえませんか!?」

「え、ええ、いいですよ。しかし結構な量がありますが……」

「お金なら十分にありますとも! ええ、レシピを教えてくれるのであればなお良い!」

「レシピは流石にちょっと」

「そうですか……では買うだけにしておきましょう! ヒヒン、いい買い物でした! 流石は〝美食の街〟ですね!」

 

 大興奮で人参料理を大量に包んでもらっているゼンの近くでは、フェイユンが巨人族用のカップにジュースを入れて貰っているところだった。

 食料も金も、道中で倒した海賊から大量に奪ったものがある。多少使ったところで微々たる量だ、というレベルであった。

 これには金庫番のジョルジュもにっこり顔で皆に小遣いを渡すほどであり、各々リフレッシュ期間を楽しんでいる。

 

「儂らも相当目立つ方だと自負しているが、あの二人は別格だな」

「ああ。あの辺だけ人が寄ってこねェ。目立つ分見つけやすくていいぜ」

 

 ジュンシーとスコッチはそれぞれ手にタコ焼きを持ちながら、ゼンとフェイユンの二人の方へと視線を向けていた。

 この二人も風貌が明らかに堅気ではないので人が近寄ってこないのだが、得てして本人たちはそれに気づかないものである。

 対照的なのはカナタだった。

 イワンコフに怒られたこともあり、多少は見た目を気にするようになった彼女。黒い水兵(セーラー)服を着て様々な場所で服や日用品を買い漁っていたところ、大量の男たちにナンパされる羽目になっていた。

 これにはさすがのカナタも辟易したようで、一度船に戻って船番をしていたドラゴンを荷物持ち兼男避けにしたほどである。

 買い物の途中で小休止を挟み、近場のレストランに入って食事を取ることにした二人は、邪魔の入らない部屋で次の行動を相談していた。

 

「──手詰まりだな。〝金獅子〟の勢力を多少は削ることが出来たが、それでもそれほど多くはない。今の状態で〝金獅子〟の本船と戦うのはリスクが高い」

「……意外だな。喧嘩を売った以上はリスクを背負ってでも戦いに出ると思ったが」

「そうせざるを得ないのならな。だが今回は私たちが攻め込む側だ。主導権は私たちにある」

 

 誰かを失うリスクを背負ってまで、シキと戦うメリットはない。

 少しずつ戦力を削っていく戦法が使えない以上、後は攻め込む以外にないのだ。この方法が取れないなら素直にシキの討伐は諦めるべきであった。

 ドラゴンは腕組みし、ふむ、と考える。

 

()()()を通じて〝金獅子〟の動向はつかめているが……お前がそう言うならその判断に従おう」

「動向が掴めても戦力が足りん。仮にシキの強さがガープやセンゴクと同格だと考えても、私一人では手に余る」

 

 センゴクの時も、結局カナタは単独で打ち倒すことは出来ていない。

 どれだけ強がりを言おうとも決定的な戦力差は存在するのだ。そこを打破出来ない限りは動けない。

 絶対に討ち果たしたい相手という訳でも、討ち果たさなければ自分たちが死ぬという状況でもないのだから、現状では嫌がらせに留めておくべきだった。

 

「……戦力か」

「戦力だな。奴は傘下の海賊があと五つほど残っているのだろう。であれば、今まで倒したような連中があと五つあると考えるべきだ」

 

 一つ一つの海賊団はそれほどではなくとも、徒党を組めば厄介な存在になる。

 相手取るにはこちらの数が足りない。

 

「ふむ……おれとしては、叩けるうちに叩いておいた方が後々良いと思うが……戦力か……」

 

 では、とドラゴンは一つの提案をした。

 

「あの男をこちら側につけるのはどうだ?」

 

 その提案に、カナタは思わず目を丸くした。

 

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