ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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予定から大幅にずれてるので章タイトルそのうち変更します。
何にも探求してねぇ。


第五十話:一難去って

 シキとの決戦の翌日。

 カナタは医務室のベッドの上で下着姿になり、スクラに包帯を取り換えて貰っていた。

 

「経過は良好。相変わらず人間離れした回復力だな」

「最近は特にな。昔はここまでじゃなかったのだが」

 

 強靭化していく肉体に比例して回復力も高くなっているように思える。鍛えれば鍛える程回復する力も強くなるなど、聞いたこともないのだが。

 スクラとしてはそれこそ研究したいほどだった。

 

「だがかなりの深手だ。あと三日は安静にしていろ」

「多少運動するくらいは構わ──」

「安静にしていろ」

「わかった。わかったからその手に持っているメスを下ろせ」

 

 昨日の夜からずっとベッドで拘束されているカナタは非常に暇らしく、少しばかり体を動かしたい気分だったが……スクラは般若のような顔でそれを押しとどめた。

 カナタの返答を聞いて手に持ったメスを下ろし、どかりと椅子に座ってカルテを書き始める。

 

「当然だ、この愚患者め。僕が安静にしろと言ったら安静にしていろ。普通なら二週間はベッドに縛り付けておくくらいの重傷だったんだぞ」

 

 他の船員よりもずっと頑丈なカナタでそれだけの大怪我だったのだ。金獅子という男の規格外の強さがわかる。

 傷跡こそ残らないだろうが、包帯を替える際に確認した時点ではまだ治り切っていなかった。下手に動くと治るものも治らない。

 

「どのみち船も動かせないからな」

 

 今のウォーターセブン近海はほぼすべて氷に覆われている。砕氷船でもなければ船など出せない。

 が、今回は別に問題があった。

 

「……フェイユンも随分と落ち込んでいたな」

 

 戦闘中、フェイユンがうっかり足を滑らせて()()()()()()()()()()()()のだ。落ち込みもするだろう。

 嵐の中での戦闘ということもあり、かなり足場が悪かったのもある。

 もっとも、倒れこんだだけで圧し折れるようなメインマストでは遅かれ早かれ折れていた。船自体は中古なので型も古いのだ。

 

「船を修理するか新しくするか、考えなければな」

「いい加減新しくしてもいいんじゃないか。この船は随分と古いんだろう?」

 

 西の海(ウエストブルー)で商人をやっていた時分に購入したものだ。あの時は元手も少なかったので、なるべく安く手に入れようと型落ちの船を購入した。

 天竜人を殺した後で別れた船員たちが乗っていった船の方が幾らか新しかったが、いまさら言っても仕方のないことでもある。

 運がいいのか悪いのか、ウォーターセブンは造船業で栄える島だ。金さえ積めばいい船を作ってもらうことも出来るだろう。

 ついでに船大工を探してもいい。

 

「資金に関しては余裕もある。それなりに頑丈な船をつくるのが一番だが……この辺りはジョルジュとも相談しなければな」

「僕は医務室さえきちんと作ってくれれば何でも構わないが」

「必要なら金は惜しまんさ」

 

 数日は情報や物資を集める必要があるだろうが。

 カナタが着替えている間にスクラは荷物を片付け、カルテを片手に「今日の診察は終わりだな」と言って部屋を出ていく。

 そこへ丁度入れ替わるようにドラゴンが現れた。

 

「む、終わったのか?」

「ああ、ちょうど今終わったところだ。何か用事か?」

「ガープが来ている。船の前で待っているが、どうする?」

「安静にしていろ、とは言われたが……ずっと寝ている必要もなかろう。少し待たせておけ、すぐに行く」

 

 戦いに来たわけでは無いだろう。見聞色の覇気で探っても戦意は見えない。

 カナタは手早く私服の上からコートを羽織って船を降りる。

 空を見上げてみれば、雲一つない台風一過の空模様と言ったところだった。少しばかり空気は冷えるが、これは仕方のないことだろう。

 船を降りたすぐ近くにガープとベルクの二人が立っており、ドラゴンと何か話をしているようだった。

 いち早くカナタのことに気付いたガープは片手をあげてカナタに声をかける。

 

「おう、来たか。まさか本当に〝金獅子〟を追い返すとはな」

「信用していなかったのか。もっとも、私も少し危ないところだったがな」

 

 偶然雷が落ちなければ、シキに大怪我を負わせることも出来なかっただろう。カナタとしても運に助けられたことは業腹だが、こればかりはどうしようもない。

 一方で、話を聞いていたガープは嫌そうな顔をしながら「雷か……」と呟いていた。

 

「何か気になることがあるのか?」

「あァ……オクタヴィアは雷の能力者だ。射程範囲は知らねェが、海軍の軍艦が船影を捉えることも出来ずに落とされたこともあった。奴の仕業って可能性もゼロじゃねェ」

 

 オクタヴィアの生存が確認されている今、ガープの懸念はそこにある。

 過去に大暴れしたロックスという男が背を預けた存在が、今もなおどこかに潜んでいる。この際ロジャーのことを置いてでもオクタヴィアの動向を探る必要さえあると思っていた。

 それほど危険な存在なのだ。

 

「娘のお前を助けるために遠距離から狙撃した、って可能性もあるか」

「……私との戦いに集中していたとはいえ、シキの見聞色をかいくぐってか?」

「あの女はシキより強い。ロックスがいねェ今、この海で最強の存在はあの女かもな」

 

 ガープは腕組みして吐き捨てるように断言した。

 無論、ガープやロジャーとて戦えば簡単にやられることはないだろう。〝白ひげ〟とて負けていない。

 だが──ロックスという怪物の存在は、ガープの記憶にこれでもかと焼き付いている。その怪物と共にいた女を警戒せずにいる理由はない。

 

「お前は会いたいと思わねェのか? 実の親だろ?」

「興味はない。会って話すこともないからな」

 

 ざっくり斬り捨てたカナタに、ガープは思わず大笑いした。

 目の前の少女がオクタヴィアの娘というのもガープにとっては驚きの話だが、その少女と自分の息子が同じ船に乗っているというのも不思議な話だ。

 ドラゴンが乗っていなければこうして話すこともなかったと思うと、運命というのはよくわからないものだと感じる。

 

「お前らはいつまで滞在するつもりだ?」

記録(ログ)が溜まればすぐにでも発つ──と言いたいところだが、船がこれだからな」

 

 カナタが視線を向けた先には、圧し折れたメインマストが船の傍に置かれていた。

 これをどうにかしない限りは船を出せない。困ったものだと肩をすくめる。

 

「その辺りはおれ達の関知するところじゃねェからな。だが、そうか……お前らが出てからおれ達も出航する予定だったが」

「何かあるのか?」

「あー、まァな」

 

 ちらっとベルクの方を見て、首を横に振られたのでガープは言うのを止めた。一応極秘扱いらしい。

 海軍としては〝金獅子〟の代わりに居座るのが〝魔女〟に変わっただけ、と言われかねないので追い出したいらしいが、船がないのではどうしようもない。

 カナタ達よりも優先して戦わなければならない相手がいるらしく、あまり長時間留まることも出来ないとか。

 大変だな、とカナタは他人事のように言う。

 

「半分はお前のせいなんだがな……話はこれだけだ。今回は見逃してやるよ」

 

 ため息を一つ吐き、ガープは踵を返して街へと戻っていく。

 この場でカナタを倒して連れて行くことも可能ではあったろうが、あちらこちらに尋常ではない被害が出る上に他の作戦に支障が出る。

 事前に決めていた通り、カナタ達には手を出さずにいることにしたわけだ。

 

「……何かと忙しそうだな、あの男も」

「そうだな。厄介事に巻き込まれるのはおれもあの男も同じだ」

「自分で言っていては世話もない」

 

 肩をすくめて船に戻るドラゴンとカナタ。

 どちらかといえばガープとドラゴンは自分から厄介事を作りに行っているような気もするが、巻き込まれる側からすればどちらでも同じことだった。

 

 

        ☆

 

 

「では新しい船をつくることで決定だな」

 

 夜、船内の甲板で皆が思い思いにくつろぎながら話し合いをした結果、そういうことになった。夜風で肌寒い中でも彼らの熱気には関係ないらしい。

 口笛を鳴らしたり拍手したりと騒々しいが、カナタはそれを諫めながら続きを話す。

 

「船は巨人族も乗れる大型の物になる。資金もそれなりに必要になるため、今船にある資産に手を付けないように」

「値段はいくらぐらいだと見積もってるんだ?」

「新造となるとオプション込みでも七億は必要だろう。期間もそれに伴って長くなる」

 

 人数的に言えば現状でも船の大きさに対して少なすぎるくらいだが、巨人族が乗ることを考えると必然的に大型船以外の選択肢がなくなる。

 フェイユンはまた縮こまってしまったが、大型船に慣れている面々は「まァそんなもんだろうな」と頷いている。

 資金の出処はシキの傘下の海賊たちが持っていた金品だ。〝支配〟を旨とするだけあって相当貯め込んでいたため、カナタたちの懐もかなり温かい。

 多少の無茶は利くだろう。

 

「スコッチの腹もまたデカくなったからな、そろそろ船もデカくしないと扉を通らねェんじゃねェかと思ってたところだ」

「何だとこの野郎!? おれは動けるデブだからいいんだよ!」

「デブってところは否定しないのか……」

 

 スコッチと他の船員が酒に酔ってギャーギャー言っている隣では、タイガーとクロが酒を飲みながら料理に舌鼓を打っていた。

 

「おれァ魚人島までの付き合いになるが、新しい船ってのはやっぱりわくわくするもんだな」

「ヒヒヒ、オレはこの船以外に乗ったことねぇからなァ。どんな船になるのか今から楽しみだぜ」

 

 巨人族ほどではないが巨体のタイガーにとっても、船が大きいに越したことはない。

 ウォーターセブンから記録指針(ログポース)が示す島は魚人島だ。共に旅をするのはここまでの関係とはいえ、これだけ長く留まっていると別れるのが惜しくなってくる。

 今後も一緒に旅をしてもいいと思えるが、冒険家として様々な場所を訪れたいというのも本音だ。

 一度区切りをつけるのも悪くはないだろう、とタイガーは思っていた。

 視線を向けた先では、酒を飲みながらああでもないこうでもないと、まだどこに頼むのかも決まっていない船について熱が入っている。

 

「冷蔵庫は最新のやつで頼むぜ! 大量に入る奴をな!」

「バカ、それは部屋単位で作るべきだろ。カナタに氷室を作ってもらおう。そうしたら金がかからねェ」

「スコッチ、私が頼んだアイスクリームはどこにおいた?」

「このクソ寒い時にアイスなんか売ってるわけねェだろ! この島特産の水水アメ買ってきたからこれで我慢しろ!」

「最近はカナタばかり戦っていて羨ま……いや、負担をかけている。儂らももっと戦いた……いや、負担を分散させるために前に出るべきではないか?」

「それ本音が漏れてますぜ……おれも能力をもうちょっと使いこなせるようにしたいんですよねェ」

 

 各々があれが欲しいこれが欲しいと、次第に船から外れて宴会のようになっていた。

 夜遅くまで酒盛りは続き、流石に寒いと部屋の中に場所を移してはまた酒を飲み、皆次第に酔いつぶれて眠っていた。

 

 

        ☆

 

 

 翌朝。

 夜遅くまで騒いでいたにもかかわらず、カナタは特に疲れた様子も見せずに甲板に出ていた。

 ニュース・クーが来たのだ。

 新聞を一つ取って金を払い、朝の冷える空気から逃げるように部屋に戻って新聞を広げることにする。

 途中で顔を出したラウンジには皆が酔いつぶれて寝ており、特に酷いのは上半身裸で腹に盛大に落書きをされたスコッチだ。たまにくしゃみをして風邪を引きそうなので、近くにあった上着を投げてかけておく。

 丸くなって寝ているフェイユンには厚手の毛布を丁寧にかけ、それ以外の男衆には雑にそこらにある毛布をかけて最低限風邪を引かないようにさせる。

 いびきがうるさいのでここでは読めないと判断し、毛布を掛け終えると部屋を出る。

 自室でゆったりしながら新聞を開き、中身を読む。

 おそらく今日あたりの新聞に載っているだろうと当たりを付けていたが──予想は当たったようだ。

 

 ──〝金獅子〟のシキ、〝竜殺しの魔女〟カナタと激突!

 

 先日の一戦が大きく新聞に取り上げられていた。

 〝新世界〟におけるシキの勢力を削ぐつもりなのか、ルーキーであるカナタから敗走したと書かれている。これではシキを舐めてかかる輩も出てくるだろう。

 当然、カナタの懸賞金にも変化があった。

 

 ──〝竜殺しの魔女〟カナタ 懸賞金十五億ベリー。

 

 上り幅としては前回ほどではないにせよ、これでも十分すぎる程の増額だ。

 賞金額は政府にとっての危険度を表す数値として扱われることもあるが、今回は純粋にカナタの実力を鑑みての事だろう。

 出来る限り有利な状況で戦ったとはいえ、〝新世界〟で幅を利かせる大海賊と正面からぶつかって撃退したのだ。政府としては危険度を上げる他に無い。

 カナタ本人からすればあまり興味のないことだが。

 新聞を一通り読み終わるころには、船員の皆が続々と起き始めていた。二日酔いで顔色の悪い者もいれば、風邪を引いたかもしれないとくしゃみをする者もいる。

 しばらくは平穏無事に過ごしたいものだが、ガープが何か急用があると言っていたことが気にかかっていた。

 こういう嫌な予感は得てして当たるものだ、と思いながら。

 

 

        ☆

 

 

 ──これは数日後の話。

 シャボンディ諸島に拠点を築いていたビッグマム海賊団に対して、海軍は大将ゼファーを始めとして多くの戦力を投入。これの撃退に成功し、ビッグマム海賊団は〝楽園〟の海をさまようことになった。

 大なり小なり傷を負った〝ビッグ・マム〟を追うべきと進言したゼファーの言葉は却下され、シャボンディ諸島から追い出した事だけを見て「作戦成功」と政府は判断した。

 深追いしてしっぺ返しを食らうことを恐れたのだ。

 そして。

 シャボンディ諸島から出た〝ビッグ・マム〟は、最初に狙っていた標的のいる島──ウォーターセブンを目指す。

 

「ママハハハハ……! 待ってな、〝魔女〟……おれが直接殺しに行ってやるからよ……!」

 

 ──〝ビッグ・マム〟がシャボンディ諸島から追い出されたことが報じられた日。

 ドラム島の一角で、カテリーナが正座してくれはに問い詰められていた。

 

「……で、あのバカはどこ行ったんだい?」

「それが……『娘と昔の知り合いに会ってくる』って……数日で戻るとは言ってたけれど」

「昔の知り合い、ね……あいつの知り合いなんて大概碌な奴じゃないだろうが……」

 

 治療中の左腕は未だ完治していない。

 先日ようやく動くようになった程度で、まだこれからリハビリも行わなければならないというのに。くれはは「仕方のないやつだ」とため息を吐いた。

 つい数時間前までオクタヴィアが寝ていたベッドの脇には、新聞が置かれていた。

 外を見れば、今日も雪が強く吹雪いている。

 

「……嵐が来るね」

 

 オクタヴィアが動いたのならろくなことにならないだろうと、くれはは諦めたように開け放たれていた窓を閉めなおした。

 




折角なのでボーナスステージ(連戦)いきます。

予約投稿ガッツリミスってて笑いが出ました。
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