ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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今回はちょっと文字数多め。


第五十四話:悩み

 ──人間、生きていれば悩むことの一つや二つはある。

 〝ビッグマム海賊団〟の襲撃から一週間が経ち、腕に覚えのある命知らずがウォーターセブンへと攻め入ること三隻目。

 上から下まできれいに真っ二つにされた船に腰かけ、カナタはため息を吐いた。

 

「暴れて少しは気が晴れるかと思ったが……そうでもなかったな」

「て、テメェ……! おれたちの船を、よくも……!」

 

 今回の騒動でカナタの懸賞金は上がらなかった。

 新聞の記事には〝ビッグマム海賊団〟と〝残響〟のオクタヴィアが激突と大きく見出しを付けられ、ここに〝魔女の一味〟も含めた三つ巴の乱戦と書かれていたが……事実とは異なるし、政府としても事態を完全に把握できてはいないのだろう。そもそもカナタとリンリンの懸賞金はそう変わらない。たとえ倒しても額が上がるかと言われれば首をひねるところだ。

 

「運が悪かったな。海賊ならそういうこともある。覚えておくといい」

 

 沈みゆく船と運命を共にする彼らには、カナタの忠告など届いていないだろう。

 賞金狙いなのか名を上げるためなのか、こういった命知らずは意外と多い。海賊なのだから直情的で考えなしなのも当然かもしれないが、それにしたって命の危機くらいは感じ取って欲しいものである。

 自慢気に名乗りを上げていたが、口ほどにもなさ過ぎて既にカナタの記憶にはない。前半の海ならこれが平均なのだろうか。

 

(流石に歯応えがないな……こんなものか?)

 

 ウォーターセブン沖で沈んだ船から飛び降り、海を凍らせて足場を作る。

 沖を散歩しながら考え事をしていて偶然見つけた海賊船だが、金などろくに持たない小物だった。よくウォーターセブンまで来られたなと感心するほどの弱さだったが、どちらかといえばしょっちゅう海軍大将だの〝金獅子〟だのといった怪物に追われる方がおかしいのだ。

 海軍に追われる方は自業自得だが、〝金獅子〟や〝ビッグ・マム〟に狙われるのは母親関連なので恨み言の一つも言いたくなる。

 父親も父親で爆弾だったので頭が痛い限りだ。

 

「……ロックスか」

 

 五年ほど前まで活動していた海賊らしい。

 らしい、と曖昧なのはなぜかというと、政府が彼らの情報のことごとくを揉み消したためにあまり情報が出回っていないからだ。それでも人々の間でまことしやかに〝ロックス海賊団〟という存在が噂されている。壊滅したということだけが世界中に報じられたが、船員の多くは散り散りになったと聞く。

 あまりに残虐、冷酷な所業は瞬く間に島々へと響き渡り、新聞すら使わずにその脅威を世界に知らしめた〝悪の代名詞〟とでもいうべき海賊。

 情報を集めようとロックスについて聞いてみれば、人の姿をした化け物だとか、死んでくれてせいせいしただとか、罵詈雑言ばかりが飛び出してくる。

 聞いているだけで気が滅入るというものだ。

 会ったこともない男を父親と言われるのも妙な話ではあるが、その父親が誰に聞いても罵詈雑言を飛ばされる存在だった時の気持ちたるや……計り知れないものがある。

 暗澹たる気持ちで船を停めている岬へと帰路につく。

 

「おう、帰ってきたか。今日はフェイユンが大物釣りあげてきたぜ」

「ああ、外からでも見えた。張り切っているようだな」

 

 ウォーターセブンは毎年の高潮(アクア・ラグナ)やそれに伴う地盤沈下のせいで農業がほとんど出来ない。そのため、食料の大部分は輸入に頼る形になる。

 最近はどこぞの海賊が無理やり徴収したり大暴れしたせいで慢性的な食糧不足に陥っていた。

 金があっても物がないのだ。

 こうなってはもう仕方がないので自分たちで獲ることにしていた。

 先程戻ってくる際にチラッと見たが、今日は海王類の大物を釣り上げていたようなので食べるものには困らないだろう。

 外では海王類を解体してバーベキューにするつもりらしく、がやがやと準備で騒がしい。

 

「少しは気分は晴れたか?」

「あまり。頭の痛くなることばかりだ。船長というのは大変だな」

「船長であることとお前の悩みはあんまり関係ない気がするが……まァしばらくはゆっくり出来るだろ。悩み事は今のうちに存分に悩むこったな」

 

 ジョルジュは帳簿をつけながら笑う。

 忙しい時は悩む余裕すらない。悩めるのはそれだけ余裕のあるということなのだと。

 オクタヴィアとの会話は今のところ誰にも話していない。信用はしているが、どこから情報が洩れるか分かったものではないからだ。海軍や政府にバレるとろくなことにならないのはわかり切っている。気を付けるに越したことはなかった。

 

「コックも本格的に見つけねばな……船大工もどこかにいればいいのだが」

「トムは誘えないのか?」

「一度誘ってみたが断られた。船で旅をするよりもここで船を作る方が性に合っている、だそうだ」

「そりゃァ残念だ。手に職付けたやつってのは貴重なんだがな」

 

 貴重だが、追われる立場になってもいいという職人が果たしてどれだけいるか。

 断られるのが普通だろう。なかなか難しいものだ。

 料理に関してはカナタがやってもいいが、毎日やるのはかなり骨が折れる。数十人分を賄うのにも中々労力が必要だ。

 

「のんびり探すとしよう。少なくとも二、三ヶ月は必要なようだからな」

 

 私は部屋で休むと言い残し、カナタは自室へと戻っていった。

 

 

        ☆

 

 

 その夜。

 岬で海王類の肉を使ったバーベキューをしながら、カナタはドラゴンにいくつか質問をしていた。

 

「お前、〝ロックス海賊団〟について何か知っているか?」

「ふむ……確か、〝白ひげ〟〝金獅子〟〝ビッグ・マム〟──それに〝王直〟や〝銀斧〟も所属していたと聞く」

 

 なにぶん、政府もロックス関連の事件は揉み消そうと新聞に載せていなかった。正しい情報は中々出回っていない。

 その中でもドラゴンの話は信用できるものだ。何せ父親が直にロックスと戦っている。

 本人はあまり話そうとはしないそうだが。

 

「あらゆる海を踏破し、あらゆる国を恐怖に陥れた……世界政府を直接狙ったテロリストのような集団だったらしい。おれの目的を考えると同じ事をやることになりそうだ、他人のことを悪くは言えんな」

 

 海王類のステーキにかぶりつきながら、ドラゴンは自嘲するように語る。

 世界政府を打ち倒すという意味では同じだが、その後の目的は違う。卑下するものでもないだろうが、ドラゴンは世界政府を打ち倒すことによって生じる混乱を懸念しているようだった。

 世界を滅茶苦茶にしたいわけではない。世界政府を倒し、天竜人の権力を奪うことが出来れば何をやってもいいわけでは無いのだ。

 

「テロリスト、ね……それに見合う強さはあったのだろうな」

「かつて〝残響〟のオクタヴィアを右腕として、どこぞの島で海軍と戦い、負けた海賊か……ガープは話そうとしなかったが、ロックスはガープとロジャーの二人がかりでようやく倒せるような化け物だったらしい」

「何? 何故そこでロジャーが出てくるんだ?」

「おれも知らん。ロックスとロジャーの間にも何かしらの因縁があったんだろう」

 

 そうか……と酒を一口飲みながら、カナタは思考を巡らせる。

 ロジャーとは何かと縁があるらしい。命を助けてもらった恩人だが、同時に父親の仇でもあったと。復讐などやるつもりは毛頭ないが。

 ガープは……ああいう男だ。ロックスを直接倒したとは知らなかったが、海兵と海賊ならそういうこともあるだろう。

 しかし、と視線をドラゴンに向ける。

 

「ドラゴン、ガープ、ロジャー、ロックス……〝Dの一族〟とやらは意外と多いのだな」

 

 かく言うカナタも血筋は〝Dの一族〟に連なっている。互いに引き合う訳でもないだろうに、縁というのは不思議なものだ。

 

「海軍にはガープの他にもいるそうだぞ。詳しいことは知らないが」

「あれだけ大きな組織なら二人や三人いても変ではなかろう……しかし、〝D〟というのは一体何なのだろうな」

 

 ドラゴンも理由までは知らないらしい。ガープも、その親も……ずっと昔から、名前についていたのだと。

 オクタヴィアが言った「〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を探せ」というのも、あるいはそのことを知るためなのかもしれない。

 カナタは古代文字を読むことは出来ないが、()()()()()()()()()()には心当たりがある。

 海王類のステーキを綺麗に切り分け、フォークで刺して食べながら姉と慕った人物を思い出す。

 

「……少し、その辺りも考えたほうがいいかもしれないな」

「何がだ?」

「世界政府は〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を読むことを禁じている。オクタヴィアは〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を探せと言った……未知なる〝最後の島〟に辿り着くにはそれが必要だと言ってな」

「なるほど……」

 

 〝水先星(ロードスター)島〟の先にある島だとオクタヴィアは言っていた。カナタはうろ覚えだが、最後の島の名前を思い出そうとして……思い出せずに諦める。

 必要なら思い出すだろう、と楽観的に考えながら。島の名前そのものにはあまり興味もない。

 

「〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟の事には詳しくないが、書いてある古代文字に関しては読める人物に心当たりがある。一度〝水先星(ロードスター)島〟まで行ってみて、他に何の手掛かりも無いようなら古代文字を解読してもらう必要があるな」

 

 出来る事ならあまり迷惑をかけたくはないが……あちらも古代文字を読んで〝空白の百年〟を研究しているのだ。危ない橋を渡っているのは同じだろう。

 有事の際は近くに居たほうが守りやすい。そういう意味でも手近な場所にいてほしいものだが。

 しかし、だ。

 

「こういった情報を知っているということは、オクタヴィアはその〝水先星(ロードスター)島〟とやらに辿り着いたということか?」

「さてな、私にもわからない。あるいはロジャーの奴も辿り着いたことがあるのかもしれないが──」

「……ロジャーと知り合いなのか?」

「一度会ったことがある。命を救ってくれた恩人だ」

 

 思えば、あの時ロジャーが〝西の海(ウエストブルー)〟にいたのも〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を探すためだったのかもしれない。

 オハラは考古学の聖地だ。古代文字や〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟について情報を得るなら、まずはそこを探す──確かに道理と言えるだろう。

 

「奇妙な縁もあったものだな。これでお前は〝新世界〟にいる大海賊のうち、三人と縁を持ったことになるわけだ」

「……業腹ながらそうなるな」

 

 三人のうち二人とは関わりなど持ちたくもないのだが、状況がそれを許すまい。

 しばらくは大丈夫だろうが、〝新世界〟に入った時のことを考えると今から頭痛がする。

 カナタが嫌そうな顔をしていることに気付いたのか、ドラゴンはカナタのコップに手酌して気を紛らわせる。

 

「ロジャーと会うことは嫌ではないが、後の二人は会ったところでまたぞろ厄介なことになるだけだろう。〝白ひげ〟も元ロックス海賊団の船員なら、ひと悶着ある可能性は十分にある」

 

 オクタヴィアは多方面で恨みを買っているようだからな、とため息を吐く。

 何とも頭の痛いことばかりだ。悩み事ばかりでため息を吐いていては幸せも逃げてしまうだろう。

 ドラゴンに注いでもらった酒を一息に呷り、海王類のステーキを口にする。シンプルに塩と胡椒だけで味付けしたものだが悪くない。

 焼きすぎて少々硬いのが難点だが、これくらい歯応えがあった方がカナタとしては好みだった。

 トムやアイスバーグ、ココロも誘っており、視界の端ではそれぞれ食事と酒を楽しんでいるようだ。ホスト役はスコッチに任せたため、カナタは特にやることもない。

 

「……しばらくは平穏だと良いがな」

「平穏とは程遠い生活をしているからな。特に何もしていなくても、厄介事というのは向こうからやってくるものだ」

「フフ、確かにそうだ」

 

 せめて少しくらいは休ませてほしいものだ、と思う。

 視線を空に向ければ、明々と輝く月が頭上に来ていた。

 この海の果ても、あれくらいはっきりと見えていれば楽なのだが──そんなことを思いながら、カナタはまた一口酒を飲んでいた。

 

 

        ☆

 

 

 一週間後。

 〝魔女の一味〟に──というより、カナタに客が訪れていた。

 天竜人だ。 

 

 

「……私に何の用があるんだ?」

「おれが知るか。海軍の軍艦を引き連れてきたらしいが……」

 

 またぞろ厄介事か、と呟く。

 ジョルジュは無言でコクリと頷き、二人同時に肩をすくめた。

 海軍から呼び出しを受けている。今更ではあるがカナタは賞金首だ、警戒はするが……今戦争をするつもりとは思えなかった。心配の必要はないだろう。

 

「天竜人──ドンキホーテ・ホーミング聖か。今度は一体何の用なのやら」

 

 予期せぬ客に辟易しながらカナタは一人で軍艦に向かう。

 当然のように警戒した海兵からは銃口を向けられるが、カナタは一切気にした様子もなく降りてきたホーミング聖とその後ろに控えるベルクに視線を送る。

 ベルクは武装こそしているが、あまりやる気があるようには感じられない。ホーミング聖は逆にやる気に満ちているようだ。

 

(これは面倒事の予感がするな……)

 

 奇しくも──というべきか、順当というべきか……カナタの予想は当たっていた。

 

「久しいな、ホーミング聖。此度は何の用でここに来たのか聞いても?」

「ああ、久しぶりだ。と言っても、あれから一月くらいだがね」

 

 苦笑するホーミング聖は「食料を持ってきたんだ」と言った。

 眉を顰めて訝しがるカナタに、今度はベルクが説明を始める。

 

「ウォーターセブンが〝金獅子〟の一時的な拠点として使われていたころから食料不足が懸念されていた。この島では食料が自給できないためだ」

「……それで機を見て食料を売りさばこうと?」

「商人の考え方だな。当方としては理解は出来るが共感はしない──ホーミング聖はこの大量の食料をこの島に寄付すると仰られている」

 

 それは、まずい。

 カナタは考えなしのホーミング聖の行動に思わず手で額を抑えた。ベルクも同意見なのか、ホーミング聖から見えない位置で肩をすくめている。

 

「……島民全員に行き渡るだけの量はあるのか?」

「軍艦に積めるだけ積んできたが、人口を把握しているわけでは無い」

「……画一的な物か? そもそも食料の配給なのか?」

「栄養が偏るといけないから、という理由で多種多様の食材になった。食材をそのまま配るつもりとのことだ」

「……お前たちの上司やここの市長に話を通したか?」

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 関わるべきではないと即座に判断し、「私に関係ないなら帰る」と踵を返した。

 が、ベルクがそれを呼び止める。

 

「貴殿を呼んだのは別件だ。〝残響〟のオクタヴィアが現れたと聞き、情報を纏めるようにと言われている」

「そっちか。そうだな、私が関係ありそうなのはそっちだものな」

 

 ホーミング聖の件はカナタを呼んだこととは別件らしい。

 厄介事に関わらなくて済んだと喜ぶべきか、海軍に直接「情報を渡せ」と言われるようになったことを嘆くべきか。一応高額の賞金首なのだが。

 ホーミング聖は別の将校と共にどこかへ移動し、ベルクは手にメモ帳を持って質問する体勢に入っている。

 そういえば、こういう時に一番に駆り出されていた男がいない。

 

「時にガープはどこへ行ったんだ?」

「〝残響〟が現れたと聞いてウォーミングアップに山を五つほど崩したところ、海軍に猛抗議が来たので謹慎になっている」

 

 カナタも思わず笑ってしまった。

 確かにガープならばやりかねない。本人は至って真面目に海賊を討伐しようとしているのだろうが。

 ひとしきり笑った後、「オクタヴィアなら〝ビッグ・マム〟と戦って帰った」と告げる。

 話した内容を海軍に教えるつもりもない。ある程度誤魔化して伝えればいいだろうと考えていた。

 

「ふむ……事前情報とあまり変わりはないか」

「賞金首に馬鹿正直に聞いて正しい情報が得られると思っているのか?」

「当方の見立てでは、貴殿と〝残響〟の間には特筆すべき感情はないと考えていた。貴殿は()()()()()()()()()()()()()()()()()タイプだろう」

「……」

 

 カナタは目を細めてベルクを観察する。

 この男の観察眼はかなりのものだ。実力もジュンシーと対等以上に戦ったと聞く。大佐としてはやや異常な強さだろう。

 戦えば負けはしないが、食らいついては来ると感じていた。

 

「どこか拠点にしている場所などは言っていなかったか? 今回戦った目的などは?」

「それはわからない。その辺りのことは言葉を交わしたわけでは無いからな」

「……そうか。ではそう報告を上げておく」

「用事はそれだけか?」

「ああ。手間を取らせた。感謝する」

「……」

「賞金首に感謝する、などと言ったことが不思議と言わんばかりの表情だな。当方はガープ中将の下で働くことが多い。必然、似た思考になってもおかしくはなかろう」

 

 要は「天竜人を害した以外は特に目立つことはしていないから放っておいていい」ということ。

 凶悪犯罪者なら〝新世界〟の海に腐るほどいる。〝楽園〟の海に多くの戦力を割くのは海軍としては愚策なのだ。

 加えてガープは天竜人を嫌っている。ベルクもそうなら、今回の仕事に乗り気でないのも納得できる。納得していないが仕事はきちんとやるタイプではあるようだ。

 

「当方は当方の善に従って動いている。貴殿は未だ悪と認定していない」

「それは僥倖だ。お前は大佐の割に、あまり敵に回したくないくらいには強いと聞いている」

「貴殿の部下も相当強かった。また手合わせ願いたいと思っている──それと、当方は既に准将だ」

 

 先日の〝ビッグマム海賊団〟との一戦で階級が上がったらしい。

 強大化する海賊たちに対し、海軍側も戦力を求めているということか。大変だなと他人事のように考えるカナタ。いや全く以て他人事ではないのだが。

 階級で判断するほど愚かではない。ガープなど実質大将のようなものなのだし。

 

「しかし……こう何度も私のいるところに天竜人が来ると、要らぬ詮索をされそうだな」

「当方も同じ考えを持っている。特にホーミング聖と貴殿が殺害したクリュサオル聖は兄弟だ。天竜人の間で権力争いなど到底起こりえないが……関係性を勘ぐる者も出てくるだろう」

 

 もっとも、それでカナタたちの懸賞金が上がるといったことはないだろう。既に限界まで上がっていると言ってもいいのだから、気にするだけ無駄というものだ。

 余計な罪状が増えそうではあるが──それも今更だ。

 海軍と海賊につながりがあるのも世間一般的には良くないイメージがつくが、新聞各社を自由に動かせる世界政府がバックにいれば世論の操作も可能となる。

 報道するもしないも思いのまま、というわけだ。

 

「ほかに用事がないなら私は戻る」

「ああ、手間を取らせた──そうだ。どれくらいこの島に滞在する予定か、聞いても?」

「船が出来るまで数ヶ月はかかるだろう。具体的な日取りはわからない」

「そうか。海軍としても貴殿らの所在を把握しておいた方が色々楽なのでな」

「喧嘩がしたいなら他所へ行って欲しいものだが」

「言われずとも、最近は大物海賊たちが〝新世界〟で次々に動きを見せている。しばらく貴殿らに関わる余裕はないだろう」

 

 〝金獅子〟と〝ビッグ・マム〟が〝楽園〟に来たことで〝新世界〟の海が荒れに荒れている。

 海賊同士の縄張り争いが激化して被害を受けるのは市民である以上、海軍としてもこれを無視は出来なかった。

 しかもここに来てロックス海賊団の幹部の生存が確認されたのだ。今カナタたちに戦力を差し向ける余裕などない。

 

「〝残響〟の足取りを探す必要もある。当方も本来なら警邏に当たらねばならないのだが……」

 

 天竜人の指示である以上は海軍も否とは言えない。

 現場をかき乱す独断専行など、迷惑以外の何物でもなかった。

 カナタも同情しそうになったが、天竜人の横暴を許している以上はこれくらい苦労してもいいだろうと思いなおす。

 ドラゴンの計画も、今のうちから本格的に練っておいた方がいいのかもしれない。

 

 

        ☆

 

 

 ──そうして、数ヶ月後。

 カナタたちの首を狙っていくつもの海賊団がウォーターセブンを訪れ、またいくつかの海賊団は傘下につきたいと言い出し、勢力をわずかに拡大させていた。

 新しい船──〝ソンブレロ号〟も完成し、次の島に向かう準備も整った。

 その中で、世界中を騒がせたニュースが一つあった。

 

 ──とある天竜人に海賊を使った天竜人殺害の嫌疑が掛けられ、一家丸ごと聖地マリージョアを追放となっていた。

 

 




 今回で五章閉幕となります。
 イイ感じに区切りが出来たので(予定と全く違うところとはいえ)切ってしまえとなりました。修正に頭を抱えております。お前のせいやぞシキ(八つ当たり

 感想とかいただけると嬉しいです。


 END 激突/スプリンター

 NEXT 帰郷/Seabed

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