ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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GW家に居ろキャンペーン二日目


第六十一話:〝新世界〟

 船のコーティングが終わるまでの期間、カナタはジュンシーと共に新人とジンベエを鍛え上げた。

 この短期間では流石に基礎的なことをやることしか出来なかったが、やらないよりはずっとマシだろう。

 新人たちもほとんどはへばっていたが、何人かは見どころがありそうだ。

 触発されたのか、時間を見つけて鍛えていたジョルジュやスコッチも覇気を扱えるまでもう少しと言うところだ。毎日の修練が大事なので気長にやるしかないだろう。

 

「二週間はあっという間だったな」

「色々楽しんだり鍛えたりしてりゃあ時間なんかあっという間だろ、そりゃ」

「最低限の底上げはしたかったが……流石に二週間ではな」

 

 鍛錬で倒れ伏す新人とジンベエを尻目に、カナタ、ジョルジュ、ジュンシーの三人で成果を話し合っていた。

 最低でも一ヶ月は欲しいし、覇気の鍛錬を目的とするなら年単位での修行が必要だ。一朝一夕で身に着く力ではないため、〝新世界〟の実地で力を付けさせるしかないだろう。

 やらねば死ぬと脅せば嫌でもやるだろう。

 やらない奴は本当に死ぬだけだ。カナタとて万能ではないのだから守り切れないこともある。

 

「ここから先は過酷な海だ。降りたい奴は降ろしても構わないが……」

「ここで降ろされても困る奴ばっかりだろ。シャボンディ諸島で助けたやつの中には魚人もいたみたいだが、そいつはさっさと逃げたみたいだしよ」

「過酷な海か……くはは、血が滾るな」

 

 戦いをこそ求めるジュンシーは今すぐにでも行きたいと気が高ぶっているし、反対に根は臆病なジョルジュはあまり乗り気ではない。

 ゼンとフェイユンは買い出しに行き、スコッチは浮上のやり方を習っていた。

 出発の準備は十全に出来ている。明日にでも魚人島を発つことは出来るだろう。

 

「タイガーとはしばしの別れだな」

「海は広いが、旅をしていればまたいつか会うこともあろうさ」

「……タイのアニキはお前さんらと一緒に行きたがると思っておったが……違うのか?」

 

 ジンベエはむくりと起き上がって尋ねる。

 どうしても聞きたかったことだ。ここまで旅をしてきて仲良くなって、ここで別れるのかと。

 また一緒に旅をするものだと思っていた。

 

「元々魚人島に着くまで船に乗せる約束だったからな。自由に海を渡るなら私の下にいるより独りで動いた方が良かろう」

 

 政府や海軍、海賊など……カナタは何かと目を付けられることも多い。

 それらをすべて弾き返すことは不可能ではないが、タイガーは今までのように自由に動くことが出来なくなる。

 今までのように冒険家として動くなら窮屈だろう。

 極論、カナタとタイガーでは目的地も違うのだし。

 

「そうか……アニキはお前さんらと一緒に行きたがると思うが」

「私は基本的に来るもの拒まず、去るもの追わずだ。好きにさせるさ」

 

 傘下や部下も増えたが、好きなようにさせることがほとんどだ。最低限定めたルールさえ守れば後は自由にさせている。

 ここまで来て「海賊ではない」と言うのも無理があるのかもしれない。そろそろ考えるべきか……と割とまじめに考えていた。

 結局、政府の許可なく海を渡っていればそれは海賊なので同じなのだけれど。

 

「まァその辺は後回しでいいがよ……」

「どこか拠点を置ける国を探す必要もある、か」

「旅をしていればそのうちいい国が見つかるのではないか?」

「天竜人を殺した一味を受け入れる国があるといいけどなァ……」

 

 最悪、国一つ乗っ取ってでも場所を作る必要がある。そこまでせずとも世界政府加盟国以外なら大丈夫だとは思っているが。

 問題は、大半がリンリンやシキのシマになっていることだ。

 最近は〝百獣海賊団〟という海賊団も台頭してきている。〝新世界〟の荒れた海の中にシマを作らずとも良いのではとジョルジュは言うが、どのみちリンリンやシキには目を付けられている。いつか戦う相手なら同じ海に居たほうがいい。

 勢力を拡大させたいところではあるが、当てもないのでひとまず島を回りながら金獅子海賊団の勢力を削るところから始めるつもりだった。

 

「〝金獅子〟か……奴の幹部もそれなりに強い奴はいるだろう。楽しみだな」

「おれは勘弁してほしいが……」

「奴の部下なら有用な悪魔の実の能力者もいるだろう。出来るだけ生かして捕まえたいところだな」

 

 能力者狩りをおこなってこちらの能力者を増やせば、それだけ戦力強化につながる。

 ジュンシーのように悪魔の実を食べたがらない者もいるが、それはそれで構わない。いざというとき泳げる人員は確保しておきたいのもある。

 ジョルジュとスコッチの二人は出来れば能力者にしたいところだ。

 

超人系(パラミシア)動物系(ゾオン)自然系(ロギア)か……お前はどれがいい?」

「どれがいいって言われてもな……フワフワの実は便利そうだが、あれを奪うのは至難だろうからなァ……」

「何にしてもお前とスコッチは幹部格だ。そう簡単にやられてもらっては困るからな」

 

 モノにもよるが……能力者になれば、一段階程度は実力が上がると見込める。相性次第では格上とも戦えるようになるだろう。

 これからの海ではカナタだけではどうにもならない事態になる可能性も十分にある。全体的な戦力の底上げは急務だ。

 特に、これから重点的に狙われるであろう〝金獅子海賊団〟と〝ビッグマム海賊団〟に対抗するためには。

 

「戦力拡充、領土獲得……ただ戦うだけならゲリラ戦法も有効ではあるが」

 

 どこまで続くかと言う話でもある。ゴールの見えない戦いはつらいものだ。

 完全に倒すまで続くなら、どこかと同盟を組むのもいいかもしれない。その場合、今シキに噛みついているという〝ワールド海賊団〟が第一候補になる。

 船長のバーンディ・ワールドは二億の賞金首だ。最低限の実力は保証されている。

 あれはあれで見境なく暴れ回る狂犬という話なので難しいかもしれないが。

 ともあれ、一度行ってみないことには何とも言えないだろう。

 

「今日中に準備は整う。明朝出発するから、そのつもりで準備を整えておけ」

「了解。新人どもは早めに休んでおけよ」

 

 ジンベエはかなりタフなのでまだ若干余裕がありそうだが、無理をしてもいいことはない。ギリギリやれるところまでやってしっかり休むのが肝心だ。

 それに、覇気は一朝一夕で身に着くものでもない。教えた鍛え方を毎日しっかりやっていればいつか身に着くものだ。

 座り込んで頭を下げるジンベエは、動くのも億劫だろうが構わず礼の口上を述べる。

 

「……どうもお世話んなりやした。稽古つけていただいて、感謝の念に堪えません」

「構わん。次に会うとき、お前がどれだけ強くなっているかが楽しみだよ」

「期待を裏切らねェように毎日しっかり修練しやす!」

 

 次に会うときはタイガーの右腕になっているかもしれない。義理堅い男のようなので裏切ることはないだろう。

 魚人島でやることは一通り終わった──あとは、〝新世界〟に行くだけだ。

 

 

        ☆

 

 

 明朝。

 〝陽樹イブ〟が朝日で輝き始めた頃、カナタたちは出航準備を整えて船に乗り込んでいた。

 

「……もう行くのか。しばらくゆっくりしていきゃァいいのによ」

「人生は短い。生き急ぐくらいで丁度いいくらいだとも」

「そんなもんか……」

 

 名残惜しいが、タイガーは魚人島に残る。

 浮上のやり方は既に習っているし、航路もある程度は把握している。指針(ログ)も溜まっているし、ずるずると滞在していては出航する機会を見失ってしまうだろう。

 旅は出会いと別れの繰り返しだ。縁があればまた出会えると握手を交わし、笑って別れる。

 

「また会おうぜ、タイガー!!」

「次来るときは旨い酒持ってくるからなァ!!」

「元気でやれよ、兄弟!」

「美人な嫁さん捕まえろよ!」

 

 最後の奴にだけは「うるせえ! 余計なお世話だ!!」と反論したが、それ以外は笑って手を振るタイガー。

 出立すると事前に伝えていたため、見送りにはネプチューン王子もいる。彼らからしても、カナタたちのような大物がいなくなるのでほっとした気分だろう。

 門を出てから〝クウイゴスの木片〟を出し、海上に向けて出航する。

 ここから先は猛者たちの集う海。ロジャーたちのいる海だ。

 ──行きたい場所も、行くべき場所も多い。大変な旅になるだろうが……未知を知る楽しさはそれをきっと上回るだろう。

 

 

        ☆

 

 

 〝新世界〟で最初に訪れる島は三つある。

 〝ライジン島〟、〝リスキーレッド島〟、〝ミストリア島〟──魚人島から記録指針(ログポース)で辿れる島はこのどれかになる。

 大抵の海賊は〝ミストリア島〟を選ぶ。

 理由は簡単で、三つの指針の中でこの島の磁気が最も安定して〝安全な島〟だからだ。

 前半の海を乗り越えた者たちばかりで生半可な海賊などいないが、それは〝新世界〟の基準で言えばまだまだルーキー。

 ゆえに、安全な島だからこその危険も存在する。

 

「この島を治めるのは懸賞金三億を超える〝鬼武者〟のドレッド様だ……無事に生きてこの島を出たいなら金を出せ。それが嫌なら傘下に下ることだ」

 

 構成員五百名を超える規模の大きい〝鬼武者海賊団〟がこの島を縄張りとし、〝新世界〟に来たばかりのルーキーから金を巻き上げたり傘下に加えたりして勢力の拡大を図っていた。

 当然、この島を訪れたカナタたちもその標的となり得る。

 港に掲げられた海賊旗を一瞥し、港を監視しているそこそこ強そうな男へと視線を移す。

 

「誰がやる?」

「あいつも結構強そうだぞ……あった。〝大角〟って呼ばれてんな。懸賞金は億を超えてる」

「デイビットやサミュエルでは勝てんか。では儂が行こう」

「? どうした、怖気付いたのか?」

 

 甲板で簡単に話し合いをした後、ジュンシーが一人港に降りていく。

 大刀を持った鎧武者の男は油断なく構え、部下数名が「金を出すか傘下に下るか、好きに選べ!」と喚き散らす。

 

「どちらも御免だな」

「……お前、見た顔だな」

「副船長! こいつ、〝六合大槍〟のジュンシーですよ!!」

「ってことは、こいつらは〝魔女〟の……!?」

「副船長……お前で二番手なら、それほど期待も出来んか」

 

 露骨に不満そうな顔をしたジュンシーに、男は青筋を浮かべる。

 ジュンシーよりも遥かに巨体で、身長はおよそ四メートルを超えるほど。これだけの巨漢から威圧されれば並大抵のものは委縮するだろう──が。

 今更そんなもので臆するほど、経験不足ではない。

 

「〝新世界〟は魔境だと言うから期待したが、そうでもなかったようだな」

 

 大刀を鞘から出して振り下ろす男。

 それを紙一重で避けて大きく踏み込み、鎧に守られた腹部へと武装硬化した拳を叩きつける。

 鎧は一撃で粉々になり、衝撃はそれだけでは防ぎきれずに大きく吹き飛ばされる。

 

「ふ、副船長!!」

「テメェ、よくも……! 誰に手ェだしたかわかってんのか!!」

「文句があるならかかってこい。海賊だろう」

 

 懸賞金が億を超えていても、覇気すらまともに使えない者がこの先生きて行けるとは到底思えない。

 不安に思ったからこそここで戦力の拡充をしようとしたのかもしれないが。

 何にしても、手早く制圧した方が良さそうだが……この島で集め続けたためか、数だけは多い。

 むくりと起き上がった男も、口から血を流しながら再び大刀を構える。

 

「なるほど、タフさは相応のようだ」

「ほざけ……! お前が強いのは身に染みてわかった。だが、おれだって修羅場を越えてここまで来たんだよ……!!」

 

 振るわれる大刀を武装硬化した両腕で捌きながら時折強烈な一撃を加えていくジュンシー。

 戦闘技術もそうだが、何より二人の実力差を大きくしているのは覇気の有無だろう。武装色も見聞色も、十全に使える者とそうでない者なら前者の方が圧倒的に有利だ。

 それこそ、他の要素で大きく差をつけていない限りは勝ち目もない。

 僅か数分で副船長と呼ばれた男を下し、逃げていく連中を追うべきか一瞬迷う。

 動く前に、船の甲板からジュンシーへと声がかかった。

 

「船長の方もお前がやるか?」

「ああ、三億の首だろう? なら楽しめるだろう。他はどうする?」

「そうだな……うちは非戦闘員も多いが、カナタが残るって言ってるから大半が出てもいいな」

 

 特にフェイユンとゼンが出るというのだから問題なく制圧は出来る。が、時間はかかるだろう。

 デイビットやサミュエルも久々の戦闘とあってやる気を見せていた。

 防衛をやるなら最悪カナタさえいればいいので、予備の人員として残るドラゴンとグロリオーサを除いて戦闘員は皆出るつもりらしい。

 

「もうすぐ昼だ。昼食までには潰してしまえ」

「はーい」

「ヒヒン、わかりました」

「昼までって……あと一時間もないんじゃねェのか?」

「おれに任せろ! ウハハハハ、久々の戦闘だぜ!」

「おれも、前みたいな醜態を晒さねェようにやりますぜ」

 

 港を仕切っていた副船長と呼ばれていた男を倒してから、既に辺りは騒がしい。

 ここで新しく彼らの部下になった者たちまで合わせると七百を超えるだろうか。とはいえ、大半は〝楽園〟を越えたとは言え雑兵だ。

 カイエは不安そうにグロリオーサに引っ付いていたが、来る敵来る敵皆薙ぎ倒して街の方へと進むジュンシーたちを見ていると心配はいらないと悟ったようだ。

 ジュースを飲みながら観戦モードに入っている。

 

「外海の者たちは覇気を使えない者が多いと聞いていたが、〝新世界〟でもあまり変わらニュのだな」

「まだ入口だからな。流石に〝新世界〟では覇気使いも多いだろう」

 

 比率としては少ないかもしれないが、名を大きく上げる程の海賊は例外なく覇気使いだ。三億くらいまでならピンキリだろうが、四億を超えるとかなりの割合で覇気使いと思っていいだろう。たまに名も知られていない者が覇気使いだったりするので油断は出来ないが。

 「自分を無敵と勘違いした自然系(ロギア)の寿命は短い」と言われるように、これまでの海で無敵を誇った自然系(ロギア)の能力者でも、此処から先の海では地力が無ければ脱落するだけだ。

 ……前半の海でもシキやリンリンに襲われたカナタからすれば、「何をいまさら」と言いたくなる話だが。

 

「高額の賞金首は能力者であることも多い。手っ取り早く強くなりたいなら悪魔の実を食べるのが楽だろうからな……ドラゴン、お前は何か食べたい悪魔の実はあるか?」

「おれか? おれは……特にはないな」

 

 ドラゴンは今のところ困っているわけでもないので、悪魔の実に手を出す気はなかった。

 ゆくゆくは何かしらの悪魔の実を食べる可能性は高いが……少なくとも、今は必要とはしていない。

 

「それと、これは別件だが……この島を制圧した後、情報を集めて明日には島を出る。そのつもりでいてくれ」

「何? 滞在しないのか? 指針(ログ)はどうする?」

永久指針(エターナルポース)を使う。なるべく早く訪れておく必要があると思っていてな」

「そうか。わかった、そのつもりで準備しておこう」

「どこニョ島に行く予定なニョだ?」

 

 カナタは簡潔に答える。

 かつてロックス海賊団が生まれた島──海賊島〝ハチノス〟だと。

 

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