ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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キャンペーン五日目

筆が乗ったなあと思ったら普通にいつもの1.5倍くらいになりました。


第六十四話:〝ゾウ〟

 カイドウの撒き散らした炎のせいで辺り一帯が炎上している。

 このままさっさと止めを刺すべきだが──決着がついたと見るや否や、取り囲んでいた国の軍隊が一斉にカナタに銃口を向けた。

 

「動くな! 〝竜殺しの魔女〟カナタ、並びに〝百獣〟のカイドウだな!」

 

 そこそこ強そうな手合いも交じってはいるが、カナタの敵ではない。()()()()()

 今は五日間戦い通したせいで疲れている。出来れば軍隊など相手したくはないが……そうも言っていられないかと、氷の壁を作って射線を遮り、港へ目掛けて走り出す。

 この分だと海軍も近くまで来ている可能性がある。百獣海賊団と海軍を同時に相手取るなどやってられない。

 止めを刺せなかったことは心残りだが、今はここを抜け出す方が先決だ。

 港町近辺も半壊状態で、百獣海賊団との戦闘が激しかったことを物語っている。

 皆が無事であることを祈りながら大通りを駆け抜け、港に辿り着く。

 

「──無事だったか」

 

 ソンブレロ号は無事だ。見る限り船員たちも。

 カナタの姿を見つけたジョルジュは、慌てたように船に乗れと急かす。

 

「戻ったか! 急げ、海軍の軍艦がもうすぐそこまで来てる!」

「食料や水は大丈夫か!?」

「なんとか合間を見て積み込んだ! 急がねェとまた中将が出張ってくるぞ!」

 

 並の中将ならまだしも、ガープやおつるが出張ってくると厄介だ。

 カナタは船に乗り込み、全員の無事を確認してひとまず安堵した。

 百獣海賊団も大半は倒したが、幹部格と思われる数名だけは崩せなかったとジュンシーは言う。

 

「おそらく動物系(ゾオン)の能力者だな。かなりタフで持久力もあった」

「数の多い下っ端はクロの闇でなんとかなったんだが、そいつらはどうしてもな……」

 

 グロリオーサと戦っていたクイーンと呼ばれる巨漢。

 ゼンと戦っていたキングと呼ばれた羽の生えた男。

 どちらもかなり若かったが、実力は他より頭一つ抜きん出て強かった。

 とは言え、こちらは戦っていた二人を始めとして同格以上の実力者がさらに複数いる。倒そうと思えば倒せたはずだが、戦況が不利と見るや三日目でどこかへ退いたらしい。

 

「好都合ではあるな。カイドウも相当タフだった」

「……お前がそう言うほどか」

「ああ。耐久力と回復力はリンリンと並ぶだろうな」

 

 殴っても蹴り倒しても起き上がる。まるでゾンビのような男だった。

 なので倒れるまで殴り倒し、起き上がっても蹴り倒し、氷漬けにしたり串刺しにしたりと色々やったが、それでもまだ生きていた。

 首を落とさない限り死なないのではと思わせる生命力は驚嘆に値する。

 本当に止めを刺せなかったのが心残りだ。放置すればまた強くなってカナタの前に立ち塞がるだろう。

 

「ここで殺しておくべきだったが……邪魔が入ったからな。出来なかったものは仕方ない。私たちと来る者は全員乗り込んだか?」

「ああ。降りたやつもいないわけじゃねェが、半数以上は残ってるぜ」

「そんなにか。戦いとは無縁の一般人も多かったはずだが……?」

「お前に恩義を感じて、ここで働かせてくれってよ。おれ達としても助かる部分は多いし、良いんじゃねェか?」

 

 料理人の手長族の男といい、スクラの手伝いを買って出ていた女医といい、助けてくれたカナタに恩義を感じて船に残る者も少なくないらしい。

 降りた者も残る者も、自分で決めたことだ。カナタはその選択を尊重する。

 出航の準備を急ぎながら、一つ一つ確認していく。

 

「怪我人は?」

「重傷が数人いる。それと軽傷がそこそこ。今は病室に放り込んでスクラに治療させてるところだ。お前、怪我は?」

「治った。それにかすり傷だ」

「怪我は? って聞いて治ったって返事はおかしいだろ」

 

 街ごと吹き飛ばそうとする攻撃があったので、それを止めるために攻撃を遮ったら少し火傷をしただけだ。

 それ以外では怪我もない。そもそもの話、武装色を纏っていてもカナタの見聞色を破れなければ攻撃など当たらないのだから。

 

「一応見せとけ。スクラの奴、『ケガをしたならどれだけ軽傷でも一度は見せろ』って口を酸っぱくして言ってるからな」

「今は重傷者が先だ。それに海軍の軍艦から逃げてからでいい」

 

 急いで帆を張り、港から船を離して出航させる。

 軍艦はもう間近まで来ている。砲撃が始まっているが、そちらはフェイユンやジュンシー、ドラゴンに任せておいていいだろう。

 カナタはゼンのところへ行き、ビブルカードを出せと手を差し出した。

 

「それを辿れば〝ゾウ〟に辿り着けるんだな?」

「そうです。深い霧と押し返す海流で来る者を阻む場所ですから」

 

 詳しい話は近くまで行ってからでいい。ひとまず方角がわかればいいので、カナタの言うようにジョルジュが舵を切る。

 色々と想定外のこともあったが、無事に切り抜けることが出来た。

 次の目的地は、幻の島とも呼ばれる島──〝ゾウ〟だ。

 

 

        ☆

 

 

 〝ゾウ〟とは、巨大な象の背に栄えた土地の名だ。

 深い霧と海流で来る者を拒み、常に象が動き続けるために一定の場所には存在しない幻の島。

 

「……なるほど、記録指針(ログポース)では辿り着けないわけだ」

 

 そもそも陸では無いから磁気を発しない。ゆえに辿り着けない。

 象はフェイユンの最大状態よりもさらに数十倍大きい。その巨大さに誰もが目を丸くしていた。

 

「我々〝ミンク族〟はこの人を寄せ付けぬ島にて、千年の昔より存在すると伝承があります」

「千年!? そんなに昔からか……」

 

 思わずあんぐりと口を開けるスコッチ。

 紡いだ歴史はとても長く、それこそ〝空白の百年〟以前からあるのではないかと思わせる。

 だが、それよりも問題がある。

 

「これ、どうやって上るんだ? 象の背中に国があるんだろう?」

「そうですね。どうやって上るかについてですが……レッツクライミング!!」

「「「フザけんな!!!」」」

 

 ゼンの言葉に思わずキレて返す船員たち。

 実際、空を駆けることのできる面々を除けば素手でよじ登る以外に背中まで辿り着く方法はない。

 〝月歩(ゲッポウ)〟を覚えさせておくべきだったな、とは思うものの、どのみち船員全員を連れて行くわけにもいかない。ある程度は船番で残す必要がある。

 非戦闘員の面々だけ残すわけにもいかないので、幹部が交代で降りることになるだろう。

 滞在期間にもよるが。

 

「……ひとまず私とゼンが行って話を付けてくる」

「それがいいでしょうね」

 

 この高さでは上からロープを垂らすことも出来ない。ミンク族は登り降りをどうしているかゼンに問うてみたが、そもそも登り降りをする必要が無いから手段が存在しないと言っていた。

 自給自足出来るのならわざわざ降りる必要もないのだろう。

 一部のはねっかえりだけが海へ飛び出すのだ。

 カナタとゼンは空を駆けて登頂し、国の入口であろう門のある場所に辿り着いた。

 

「何者だ!? ゆガラ達、今……空を飛んでいただろう!?」

「ヒヒン、懐かしい……何もかもが」

「お前……もしや、ゼンか?」

 

 門番をしていたらしき羊のミンクが目を丸くし、ゼンをマジマジと眺める。

 

「ええ、そうです。久しぶりですね」

「なんと……! 帰ってきたのか!? そっちの人間は?」

「今お世話になっている船の船長です。良ければ船員の方々も招待したいのですが」

「そうかそうか! では少し待っていろ!」

 

 カンカンと鐘を鳴らし、門を開いてニコニコしながら国へと招いてくれる。

 これは大丈夫と思っていいのか、と視線でゼンに問いかけるカナタ。頷き返すゼンを見て、カナタは電伝虫を取り出した。

 簡潔に「大丈夫だ、登って来い」と告げ、門番に数名後から登ってくる旨を伝えて先に国へと入る。

 門の先には森があり、森の中の道を抜けた先にはミンク族が暮らす街──クラウ都がある。

 

「ここは〝ゾウ〟の背中にある国。〝モコモ公国〟だ──歓迎するぞ! ガルチュー!」

 

 当たり前と言えば当たり前の話だが、周りのどこを見てもミンク族だらけだ。ガルチューと言いながら頬ずりするのがこの国流の挨拶らしい。カナタもそれをされた。

 ただ、それぞれ見た目は違う。犬、猫、羊に牛や山羊……ゼンは比較的壮年の面々と知り合いのようで、懐かしそうに話をしている。

 ゼン曰く、魚人や人魚と同じで親と子で違うミンク族が生まれるのが当たり前らしい。現にゼンの父親は牛のミンクで、母親は兎のミンクだと話していた。

 ……その中でも、ゼンの姿はやはり特異だ。

 疎外感のようなものがあったのだろうか。

 

「何年ぶりだ、ゆガラ! いきなり国を飛び出したと思えば、こうしていきなり帰ってくるとは! 無事でよかったぞ!」

「ここを出てから、もう二十年以上は経ちますか……ワノ国にて、古くからの兄弟分である光月家の方とお会いしたりもしました」

「なんと! 長旅だったのだな……積もる話もある。そちらの船長殿もいることだ、今宵は宴にしよう! 旅の話を聞かせてくれ!」

 

 宴だと言ってゼンとカナタは手持ち無沙汰になる。その間にあとから来る者たちを案内しなければならないので、カナタは一度門のところへと戻ることにした。ゼンは古い知り合いと積もる話もあるだろうと思ったためだ。

 それほど時間もかからず、ジュンシーとドラゴンが登ってきた。

 この二人ならそうだろうな、と思う反面、誰を残してきたのかが気になる。

 

「スコッチとジョルジュが残るそうだ。儂とドラゴンは後ほど交代する」

「そうか。だが、あの二人は登れるのか?」

「これくらいはやってもらわねばな」

 

 グロリオーサとカイエもフェイユンに引っ付いて登ってきているらしく、人数的にはそこそこいるようだ。

 こうなると降りるときの心配もした方がいいが……まぁ、どうにかするしかないだろう。

 

「しかし……なんというか、落ち着かない場所だな」

「……心がざわつく、か?」

「ああ。お前もか?」

 

 ドラゴンとカナタは共通して()()()()()()()()()()()()感覚を覚えていたが、他の者はそうでもなかったようだ。

 特に理由はわからないが、それほど広くない国を見聞色で探っても何かあるわけでもない。

 首を傾げつつも放置する以外になかった。

 次にフェイユンが登ってきて、最後にサミュエルだ。

 

「くそー! フェイユンに負けるとは……!」

「私の方が大きいので負けられません! ドラゴンさんとジュンシーさんはあっという間に登っちゃいましたけど……」

 

 ジャガーは木登りが得意な動物なので、サミュエルとしては負けられなかったのだろう。

 フェイユンの肩に乗ってきたグロリオーサとカイエも珍しそうにキョロキョロと周りを見渡している。

 登ってきたのはこの面々だけのようなので、彼らを連れてクラウ都へと歩を進める。

 宴の準備の最中、連れてきた面々をまた歓迎するように「ガルチュー!」「ガルチュー!」と頬ずりをしてくるミンク族たち。

 滅多に客人が来ないこともあってか、陽気で友好的だ。

 巨人族は特に珍しいのか、かなり群がっていた。

 

「宴の準備をしている間に、私たちは公爵の下へ行きましょう」

「公爵?」

「はい。この国の長のようなものです」

 

 ひつギスカン公爵と呼ばれているミンクがこの国の長らしい。

 ゼンは二十年以上前に国を飛び出した身だが、それでもこの国は故郷だ。一時世話になるなら挨拶をせねばならない。

 クラウ都のさらに奥、森の中にある砦の中に彼はいた。

 

「おお……無事に戻ったか、ゼン」

「はい。心配をおかけしました」

「それはお前の父母に言うがいい。当時は大変な騒ぎになったものだ……だが、随分と覇気に溢れる男になったな」

「いえ、私もまだまだ修行中の身の上です」

 

 羊のミンクであるひつギスカン公爵は涙ぐみながら無事を喜び、カナタたちにも歓迎の意を示した。

 そこで、ふと思い出したようにゼンが言う。

 

「そういえば……くじらの森の奥には赤い〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟があるのです。見ていきますか?」

「何!? そんな重要なことを今言うのか!?」

「お恥ずかしい話ですが、すっかり忘れてました」

 

 恥ずかしそうに頭を掻くゼン。

 国を出て長いため、今の今まですっかり忘れていたのだろう。何せこの国よりも外海で過ごした期間の方が長いほどだ。

 見る分には構わぬと快諾したひつギスカン公爵は、案内を申し出た犬のミンクに任せて執務に戻る。

 部屋を出ようとした際、こちらもまた思い出したように言葉を投げた。

 

「そうだ、一つ聞きたい。外海でイヌアラシとネコマムシという名前のミンク族を見なかったか?」

「イヌアラシとネコマムシ?」

 

 ゼンはカナタの方に視線を向け、カナタは首を横に振る。

 他の面々もまた、見たことも聞いたこともないという。

 「そうか……」と静かに項垂れるひつギスカン公爵に、ゼンは疑問を浮かべた。

 

「外海に出て行った()()()()()()ですか? ヒヒン、私の後輩のようなものですね」

「ああ。とんだ悪ガキどもだった……いなくなったのは一年前。まだ七歳だった」

「七歳で外海へ!?」

 

 ゼンとて外海に出たのはもっと後のことだ。

 七歳で海へ出るなど些か無謀が過ぎる。航海術をまともに学んでいるとは思えないため、高確率で難破か遭難しているだろう。

 

「……お前はどうやって海へ出たんだ?」

「手作りの船で、昔この〝ゾウ〟へやってきた海賊が置いていった永久指針(エターナルポース)を使って航海したのです」

 

 それでも遭難したのだ。出て行った二人は死んだと見るのが順当ではある。

 運が良ければ、もしかしたら……と言う程度だ。

 機会があれば探しますと月並みな回答をし、ゼンはカナタたちを連れてくじらの森へと向かう。

 犬のミンクの案内を受けて隠し扉を通り、その最奥にある場所へ辿り着く。

 

「……二つ目の〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟か。順調といえば順調だが」

 

 どちらにしても読むことが出来ないので、魚拓のようにして集める事だけしておくべきだ。解読自体はあとで読める者を探して読ませればいい。

 残りはリンリンが持つ物と、恐らくワノ国にあるであろう物の二つ。

 〝最後の島〟まであと半分。

 

「奥に描かれているのはなんだ?」

「あれはワノ国の将軍、〝光月家〟の家紋です」

 

 ミンク族とは遥か昔から兄弟分として固い契りを交わしたのだと、常々言い伝えられてきた。

 イヌアラシとネコマムシがいなくなったのもこの家紋を見せてからだったそうなので、もしかするとワノ国へと向かったのかもしれないと言っていた。

 ゼンもまた、懐かしそうに家紋を見て呟く。

 

「光月スキヤキ様には、頭が上がりません……あの方には随分とお世話になった。おでん様も、今は随分と立派になられたことでしょう」

「光月スキヤキに光月おでんか……」

「はい。〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を作った石工の一族です」

「「「はァ!!?」」」

 

 ゼンの言葉に誰もが驚き、カナタは「またこいつは……」と頭を抱えた。

 

「ニョんと……鎖国国家ワノ国の話は聞いていたが、まさかその国の将軍が……」

「何故お前はそういうことを早く言わんのだ」

「そういうところだぞ」

「なんだかわからんが重要なことか! ウハハハハ!」

 

 サミュエルはさておき、次々に罵倒されるゼン。流石に堪えたのか、肩をがっくりと落としている。

 だが、縁があるなら話は早い。

 

「ワノ国の光月スキヤキに私たちが手に入れた〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を読んでもらおう。なんならおでんでも構わない」

「ヒヒン。そういうことなら、私から頼んでみましょう。一時はおでん様の教師を務めた身です。なんとか説得して見せますとも」

 

 読める者の当ても出来た。

 本来なら西の海(ウエストブルー)にある〝オハラ〟まで持って行って読んでもらおうと考えていたが、下手に巻き込まずに済むならそちらの方がいい。

 世界政府に狙われるのも中々面倒なのだ。

 目的を果たしてくじらの森を後にした一行は、再びクラウ都に向かう。宴の準備も終わり、今か今かと待っていたらしい。

 

「ゼンが無事に帰郷したことに! 珍しい人間の訪問者たちに! 乾杯!!」

 

 ドラゴンとジュンシーは宴の半ばでジョルジュとスコッチに交代すると言っていたが、それはそれとして酒を飲んで楽しんでいた。

 象の背中を登るのも一苦労なのだ。他の船員たちでは訪れる事すら困難だろう。

 移動するなら何かしらの準備をしなければならない。こういう時、空を飛べる悪魔の実の能力者が羨ましくなる。

 ちびちびと酒を飲んでいると、カイエが一人で歩いてきてカナタの隣に座った。

 少しの間沈黙があり……カイエが口を開く。

 

「……世界には、こんなにいろんな種族の人たちがいるんですね」

「そうだ、世界は広いぞ。人魚、魚人、ミンク族、巨人……様々だ」

「……悪魔の実の能力者も、珍しくないんですか?」

「うちの船にも能力者はそれなりにいるからな」

 

 かく言うカナタも能力者だ。

 泳げなくなるデメリットはあるが、それを補って余りある力が手に入るのが悪魔の実でもある。

 カイエはジュースを手に、ジッとカナタを見つめる。

 

「……私も、能力者です」

「ああ、ヘビヘビの実の能力者だとグロリオーサが言っていたな」

「その能力で……お父さんを石にしたんです」

「……石に?」

 

 ヘビヘビの実の能力で相手を石にする能力──だとすれば、その悪魔の実の能力は。

 

「幻獣種か。驚いたな」

 

 悪魔の実の中でも、特に自然(ロギア)系は希少とされる。だが、それよりもさらに希少な部類として動物(ゾオン)系幻獣種というものがある。

 姿を変え、更にそれぞれで特異な能力を有する。

 ある種、二つの悪魔の実を口にするに等しいため、欲しがる者は後を絶たない。

 先日戦ったカイドウも、恐らくは幻獣種の能力者だろう。

 

「蛇の姿に変わり、相手を石にする能力……ヘビヘビの実の幻獣種、モデル〝ゴルゴーン〟と言ったところか」

「私も、強くなれますか?」

「そうだな。希少な能力だ。鍛えればきっと強くなる……だが、あまりその能力は好きではないのだろう?」

「でも、強くならないと……グロリオーサは、また怪我しちゃいます」

 

 クイーンと戦い、グロリオーサは重傷とまでは言わずとも傷を負った。

 カナタたちの中でも、巨人族であるフェイユンを除けば恐らく最年長に位置する。長く戦いから離れていたこともあって衰えが見え始めているのだ。

 それでも船員の中では上から数えたほうが圧倒的に早いのだが、本人も力の衰えは自覚しているだろう。

 

「私、この能力はあんまり好きじゃないんです。でも……強くないと、またいなくなっちゃいます」

 

 この能力を得たことで親から捨てられたが、この能力を使って強くならなければ親代わりのグロリオーサを失うかもしれない。

 先日の百獣海賊団との戦闘は、カイエの意識に大きな影響を与えたらしい。

 あれだけ凶暴な海賊団との戦闘を見せれば、意識も変わろうというものだが。

 カナタはカイエの頭を撫で、「焦るな」と言う。

 

「まだお前は幼い。もう少し大人になってからでも遅くはない」

「でも……」

「心配せずとも、私がいる。もっと色んなものを見て、ゆっくり学んでから強くなればいい」

 

 否応なしに戦いに巻き込まれることは今後もあるだろう。強くなるなら早いに越したことはない。

 だが、こんな幼い子にまで求めるのはあまりに酷だ。出来る事なら平和に暮らしてほしいものだが、カナタの船に乗っている以上それは難しい。

 

「……はい」

 

 カイエはやや納得しがたいような顔をしていたが、小さく頷いた。

 カナタと違って守ってくれる大人がいるのだ。存分に頼ればいい。親に捨てられたことは不幸だが、グロリオーサに拾われてカナタたちと出会ったことは決して不幸ではないのだから。




備考
カイエ 5歳
イヌアラシ 7歳
ネコマムシ 7歳

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