ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第六十六話:ワノ国

 ドレスローザでの用は全て終わった。

 小人族から武器も取り返せたし、物資の補給も終わったし、ワノ国への永久指針(エターナルポース)も手に入れた。

 あとは出航するだけなのだが、その日のうちに出航するほど急ぐ旅でもない。

 一日くらいはドレスローザの名物料理を楽しんだのち、ワノ国へ向かう。そう決めて様々な料理を楽しみ、海軍に見つかる前に退散するのだ。

 出航直前、ゼンが二枚の紙を持ってカナタの下へやってきた。

 

「……これがそうか」

「はい。カナタさんとクロさんのビブルカードです」

 

 事前に爪の欠片を貰っておき、〝新世界〟で店に持って行けばビブルカードを作ってくれる。

 もし後ろから付いてきている二隻のうちどちらかがはぐれても、このビブルカードを辿れば合流できるという訳だ。

 クロの方はよく迷子になるので念のために作った。

 

「助かる。これで迷子になっても探すのが楽になる」

「えー、オレそんなに迷子になった覚えはないぜ?」

「シャボンディ諸島で奴隷にされかけたくせによく言う」

「ヒヒヒ、あん時は首輪も手錠も海楼石じゃなかったからな。海軍に捕まって海楼石付けられたらヤベェかもしれねェけど」

 

 クロだって自然系(ロギア)の能力者だ。真面目にやればそうそう遅れは取らないはずなのだが、間が抜けているのか戦闘センスがないのか、単純な戦闘能力だけで言えば戦闘員の中でも下の方だ。

 もう少し何とかならないものかと思うが……こればかりは本人次第でしかない。

 

「……ま、捕まってもまたお嬢が助けてくれるだろ」

「毎回当てにされても困るのだがな」

「そう言っても助けてくれるところがいいところだと思うぜ。よっ、このツンデレ!」

 

 鈍い音がしてクロの頭にたんこぶが出来る。

 こりゃいかんと退散したクロにため息を吐き、カナタたちの後ろに付く二隻の航海士を呼んでカナタのビブルカードを渡しておく。

 迷ったらこれを辿れと使い道を教えて。

 傘下の海賊として忠実に後ろをついてきているが、何だかんだとよく言うことを聞く出来た部下たちだ。

 忠義には報いるのが上役の常だ。これを怠ると離反されたり裏切られたりする。

 勝手に期待して勝手に失望する分にはどうでもいいが、きちんと仕事をするなら褒賞を与えなければならない。

 古参も含めてある程度は考える必要があるだろう。

 

「……今はワノ国に行くことだけ考えておけばいいか」

 

 後で考えることにした。

 今は兎にも角にもワノ国だ。

 〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟に関する様々な情報を手に入れる最大のチャンスがすぐそこにある。

 ついでに質のいい武器を手に入れたい──と、此処まで考えてふと気が付いた。

 

「……おい、ゼン」

「ヒヒン。なんでしょう?」

()()()()()()()()()()()()()()

 

 ワノ国は世界政府加盟国ではないし、鎖国国家であるがゆえに他国との交易もない。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「あー……独自通貨、ですね……」

「……必要な資金は何かを売って手に入れる必要がある、か」

「一応完全に鎖国という訳でもないのですが……中に入れば独自通貨なので変わりませんね」

「そうなのか?」

 

 ワノ国の中で〝白舞〟という土地では唯一外との交易がおこなわれているという。

 とはいえ、それだけでワノ国全土の需要を満たせるわけでは無い。ゼンは為替をおこなったこともないので出来るかわからないし、交易するならそれに越したことはない。

 

「交易するなら何がいいですかねェ」

「そうだな……」

 

 自給自足が出来ていると考えると、ワノ国では手に入りにくいものがいい。

 ドレスローザで手早く大量に手に入って、ワノ国で需要がありつつ手に入りにくいもの──即ち、香辛料だ。ついでに銀や金の類も基本的にはどこの国でも価値はあるだろう。

 出航直前とはいえ、気付いただけよかったと思う。

 積めるだけ船に積んでようやく出航だ。香辛料は交易で使える上に何かと便利だし、何なら自分たちで使ってもいいので腐らない。

 潰しが利くという意味ではこれ以上のものは無いだろう。

 気を取り直し──カナタ達一行はワノ国へ向けて帆を上げた。

 

 

        ☆

 

 

 ──ワノ国近海。

 常に渦巻く悪天候、岩礁と押し返す海流の最後に待ち構える巨大な滝。

 座礁した船がそこかしこに流れ着いている。カナタたちとて一歩間違えればああなるだろう。気を付けて操舵しなければならない。

 選ぶ急流を間違えれば船はたちまち大破する。

 そこは航海士の腕の見せ所──カナタはきっちり海流を読み、無事急流を抜けて滝付近へと辿り着いた。

 

「……どうやって登るんだ?」

「私は最初は鯉にしがみついて登ったのですが、今回は別の方法で行きます」

 

 ()()()()のだ。

 通常、この方法で入国するには〝白舞〟大名である霜月康イエの許可が無ければ無事には通れないが……ここにはカナタがいる。

 凍り付かせた滝を叩き割り、上からさらに落ちてくる水を氷の傘で防ぎながらその奥──〝潜港(モグラみなと)〟へと辿り着く。

 積荷や船員はゴンドラで引き上げるのだ。

 しかし、当然ながらいきなり見知らぬ船が入り込めば警戒される。

 

「何者だ!?」

「止まれ! どうやってこの場所のことを知った!?」

「ヒヒン、驚かせて申し訳ない。霜月康イエ様はいらっしゃいますか?」

「何……!?」

 

 警備にあたっていた侍の下へ降り立ったゼンは、出来る限り温和な態度で大名である康イエがいるかどうかを尋ねる。

 訝し気にゼンのことを眺める侍たち。ワノ国でも随一の猛者たちと言うだけあって肝が据わっている。

 多分、彼らの中でゼンのことは妖怪扱いだろうから。

 

「私の姿と『ゼンが訪ねてきた』と告げてもらえればわかるかと思います」

「貴様、康イエ様とどういう関係だ……!?」

「過去に友誼の宴を開いていただきました。荒事にはしたくありません、取次をお願いします」

 

 ゼンの発する覇気に気圧されたのか、侍たちはやや後ずさりながら刀を構え、うち一人が伝令としてゴンドラへ走る。

 待つこと十数分──侍たちもゼンも動かずに互いの動きを見張っていると、ゴンドラが降りてきた。

 伝令に走った侍と、ハリネズミのような髪形の堂々とした男性──霜月康イエが息せき切って降りてきたのだ。

 

「ゼン殿! 伝令を聞いてもしやと思ったが……やはり貴殿だったか!!」

「康イエ様! ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです!」

 

 互いに笑いながら握手を交わし、康イエは周りの侍に「おれの友人だ! 丁重に扱え!」と一喝する。

 周りの侍は一斉に姿勢を正し、謝罪するように頭を下げた。

 

「いえ、私も長くワノ国を離れていた身。今や私のことを知る者も少ないでしょう」

「……そうだな。貴殿がワノ国を出てから十年以上が経った。あのおでんも今や〝九里〟の大名だ……時が過ぎるのは早いものだな」

「なんと、あの〝九里〟の大名におでん様が!?」

 

 目を丸くするゼンに、思わずと言った様子で康イエが笑う。

 

「そうとも! 昨年の話だ。〝九里〟の荒くれどもをまとめ、あの〝地獄〟を人の生きる〝(さと)〟に変えたのだ!!」

「あのおでん様が……なんと立派に……」

 

 話が弾んで立ち話が長くなりそうなところで、カナタは船から声を上げた。

 このままでは日が暮れてしまう。

 

「ゼン。まずは話を付けるのだろう。長い話は酒の肴に取っておけ」

「そうですね。まずはこちらを優先しましょう」

「……あちらの御仁は?」

「ヒヒン。今お世話になっている船の船長です。〝潜港〟に来たのは交易で通貨の都合を付けたいという理由もありまして……」

「なるほど……しかし、あれほど若い娘がこの三隻の船の船長を?」

「ええ、見た目に寄らぬ豪傑です。私の背に乗せても良いと思うくらいには」

「ゼン殿がそう言うほどか……なるほど。交易の件は了承した」

 

 交易をする分には問題ない。

 多少時間はかかるが、持ってきた品物を確認して支払いをするまで康イエの治める〝白舞〟に宿を用意してくれるという。

 盗みは基本的にありえないが、念のために手に持てるような貴重品は出来る限り持って行くべきだ。

 不届き者がいれば康イエの顔に泥を塗ることになるので侍たちの眼光もすさまじい。

 ワノ国で使えない金品は鍵をかけておけば大丈夫だろうし、魚人島から持ってきた〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟は持ち運べるようなものでもない。カナタの部屋にある最上大業物〝村正〟だけはカナタの腰につけ、ゴンドラに乗って〝白舞〟へと登る。

 

「──ここがワノ国か」

 

 今まで見てきた島のどれとも違う景色が広がっていた。

 建物の様式、文化、文明……鎖国国家であるがゆえに独自に発達したそれらは、時折噂に聞くワノ国の姿からかけ離れている。

 

「ここはワノ国が〝白舞〟……我が霜月家が治める土地だ。ゆるりとしていってくれ、お客人」

 

 自らが治める土地を誇るように、康イエは笑って迎え入れた。

 

 

        ☆

 

 

 交易の代金の清算は少しばかり時間がかかる。

 急にやってきて即日納品即日換金とはいかないものだ。量を考えても二、三日はかかるとみていい。

 康イエはある程度外貨の換金もしてくれるようなので、少額ながら小遣いを渡された船員たちは騒ぎを起こさないことを条件に観光しようと散らばっていった。

 とはいえ、あまり遠くには行けないので近隣の街へ行くくらいだが。

 一方で、カナタとゼン、ドラゴンの三人はワノ国の中心に位置する場所──将軍の暮らす〝花の都〟に向かっていた。

 ワノ国に訪れた最大の目的を果たすためであり、ゼンが世話になったという光月スキヤキに会うためでもある。

 

「〝白舞〟から〝花の都〟へは矢文を飛ばしてあるそうです。話は通っていると見ていいでしょう」

「……通信手段はないのか?」

「無いですね。とはいえ、ワノ国の矢は千里を越えて飛びますから、大事であればすぐに伝わります」

 

 徒歩で移動するにはやや遠い距離ということで馬を二頭貸してもらい、ゼンと並走させながら都を目指す。

 自分で走った方が圧倒的に早いといえばそうなのだが、折角の好意を無下にするのもどうかと思ったのだ。結果としては尻が痛くなってしまったが。

 慣れないことはするものじゃないと思いつつ、都の入口で待っていた侍に案内されて都の中央──将軍の住む城へと案内される。

 

「都と言うだけあって、ここはかなり発展しているな」

「刀を腰に下げた侍たちがそこかしこにいるな。ワノ国の侍たちは世界政府も手を出しあぐねる程と言うが……」

 

 ワノ国の武人を総称して〝侍〟と呼ぶ。

 ゼンの話によれば忍者もいるようだが、彼らも枠組みとしては侍の一部なのだとか。

 平均的な実力は高いが、カナタの見聞色の範囲内で言えばドラゴンやジュンシーほど強い者はほとんどいない。いても片手で数えられるくらいだ。

 

「練度で言えば〝白舞〟の侍がワノ国一の強さでしょうね。彼らは唯一外との繋がりがあるので、常に精強でなければならないのです」

「なるほど……確かに組織としての練度で言えばかなりの強さだった」

「都にもちらほら強そうなのが何人かいるが、都の番人か何かか?」

「ヒヒン、侠客でしょうか? 私がいた頃にも名を揚げていた方がいましたし」

 

 案内人にその辺を聞いてみると、現在のワノ国で一番有名なヤクザは〝花のヒョウ五郎〟なのだという。

 手を出さぬようにと言われたが、言われずとも手を出すつもりは無かった。

 ヤクザの相手など面倒なことに関わるつもりは無い。

 

「しかし、我々は目立ちますね」

「一番目立っているのはお前だと思うが」

「ミンク族と光月家は兄弟分なのだろう? ワノ国とゾウで交流はなかったのか?」

「無いですね。あったらああも心配されませんでしたよ」

 

 それはそうか、と納得する二人。

 深い関係はあっても交流があったのは過去の話。だが「何かあったら互いに協力し合う」という口約束にも等しい、しかし命よりも重い誓約を結んだ仲だ。

 ゼンもまた、その関係性を頼ってワノ国にまで来たのだから、少なくとも約束は果たされているということだろう。

 そうこう話しているうちに城につき、上へ上へと登って将軍のいる広間へと通された。

 護衛に数名、腕の立つ侍。

 屋根裏には怪しい動きをしていないか見張る忍者。

 その奥に──ワノ国の将軍、光月スキヤキがいた。

 

「──久しいな、ゼン!! お前が戻ってきたと聞いて、私は胸が躍ったぞ!」

「ヒヒン、お久しぶりです、スキヤキ様! 壮健のようで何よりです!!」

 

 ゼンの記憶の中にいるスキヤキよりも幾分年を取って皺が増えているようだが、人間ならばそれも当然。

 懐かしそうに談笑する二人の横でカナタとドラゴンはしばらく静かにしており、話が一段落したところでスキヤキは二人に話を振った。

 

「──して、横の二人はゼンとどのような関係が?」

「今お世話になっている船の船長と、その補佐をやっておられる方です」

「おお、そうなのか! 船に世話になっているとは、今は商船でもやっているのか?」

「似たようなものですが……いえ、色々ありまして、今は追われる身です」

「何と、追われているのか!?」

 

 世間知らず、と言うのがスキヤキの印象だ。

 当然といえば当然ではあるが、ワノ国の外から情報など入ってこないため、世界政府の存在自体も知らないのだろう。

 時折国外に出ていく者もいるようだが、基本的にワノ国では海外に出ることは違法である。

 

「お前には世話になった。好きなだけここにいると良い」

「ありがたいお話です。……して、実はスキヤキ様に内密のお話がありまして」

「ふむ?」

 

 出来れば他の誰にも聞かせたくない、と言うゼンの話に眉をピクリと動かし、スキヤキは周りの侍たちに「下がっていろ」と命じる。

 しかし、と反抗する侍たち。

 カナタたちは海外の者だ。ただでさえ信用できない相手だというのに、内密の話をするためとはいえ護衛もなしに部屋を出るのは納得できないのだろう。

 たとえ忍者が潜んでいたとしても、だ。

 

「御庭番衆たちも退かせよ。私の命令である」

「……わかりました」

 

 スキヤキの強行に苦渋の顔をしながら、侍たちは部屋を出る。

 見聞色で探ってみたが、お庭番衆と呼ばれた忍者たちもいないようだ。

 カナタはドラゴンに目配せし、持ってきたバッグから数枚の紙を取り出す。

 

「実は、こちらを見ていただきたく」

「──こ、これは……!!?」

 

 二枚の〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟と、二枚の〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟だ。

 スキヤキは驚きで目を見開き、食い入るように石の写しを見る。

 

「何故これを……これは、光月家に代々伝わる暗号だぞ!?」

「国外において手に入れたものです。〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟に書かれていた物の写しになります」

「……それは国外にて手に入れたのか?」

「そうですね。我々は現在、この謎を追っています」

 

 驚きで虚脱した様子のスキヤキは、そこで視線をゼンからカナタへと移す。

 

「そなたたちがこれを集めているのか? ゼンは武人だ。こういったものに興味を示すとは考えにくい」

「そうですね。我々はこの文字を読める者を探し、ゼンに心当たりがあると言うのでこうしてワノ国に赴いた次第です」

「そうか……これは、何を目的とした物なのだ?」

「我々にもわかりません。歴史や過去に遺失した兵器などが書かれていると噂されていますが、真実は今のところ誰にも」

「なるほど……」

 

 スキヤキは納得したように紙の一枚を持ち上げる。

 ゼンにはかつて秘密の暗号を見せたことがある。光月の創り出した〝壊れない石〟の存在も然り。

 そこからスキヤキを訪ねて情報を得ようとするのは、なるほど道理でもあるだろう。

 ただし……スキヤキが知っているのは、〝古代文字〟と〝壊れない石〟の存在だけだ。過去に光月家の先祖たちが作ったそれの存在を知ってはいても、石そのものがどこにあるのか、何が書かれているのかまでは知らない。

 最初に手に取ったのは魚人島にあった石の写しだ。

 

「この紙に書かれているのは、〝ジョイボーイ〟なるものから〝人魚姫〟なるものへの謝罪文だ。歴史のようなものではないようだが……」

「なるほど、謝罪文……」

 

 スキヤキが嘘をついていたとしても確かめるすべはない。だが、嘘を吐く意味もない。

 ゼンが信じたこの男の誠実さを信じるしかないだろう。

 スキヤキはもう一枚を手に取り、目を通して内容を咀嚼していく。

 海賊島ハチノスに在った石の写しだ。

 

「……これは、〝暗月〟と呼ばれる侍……いや、この読み方は少し違うな……騎士か? その存在と、〝Dの一族〟の盟約を記した内容だ」

「〝暗月〟……」

 

 騎士の一族。

 Dの一族。

 引っかかる言葉だ。オクタヴィアの言葉が脳裏をよぎる。

 ──〝Dの一族〟を探せ。我々は彼らと共に戦う〝騎士〟の一族。

 

「……私も〝そう〟だとでも言う気か」

 

 カナタは考え込みながら小さく呟いた。

 オクタヴィアはロックス・D・ジーベックという男を見出し、彼と共に戦った。

 ではカナタはどうすべきか。

 図らずもドラゴンと行動を共にし、今現在肩を並べて戦っている。今後のことはわからないが、少なくとも見殺しに出来ない程度には情も移っている。

 一族だの血脈だのに興味はないが……古くから引き合うものなのだろう。なるようにしかならないのなら無理に引き離すこともない。

 

「時を待て。再び〝彼〟が現れる時を……誰かを待ち続けると言った内容でもあるな。この紙からわかるのはこれくらいだ」

 

 スキヤキは一息置き、怒涛の展開に思わずため息を吐く。

 古い友人が訪ねてきたかと思えば、一子相伝の暗号で書かれた紙を見せてくる。歴史の一端を知ったせいか、他にはどんなものがあるのか気になってきていた。

 これではおでんのことを放蕩息子と笑うことは出来んな、と茶を飲みながらスキヤキは思う。

 再び紙を手に取り、内容に目を通す。

 残りの二枚は魚人島とゾウにあった〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟だ。

 

「この二枚はどこかの場所を表しているのか? わかりにくい言い回しだ……」

 

 スキヤキが読み上げることを一つ一つメモし、解読していくカナタ。

 古代文字を読むことは出来ても、航海士としての知識は全くないスキヤキでは場所を割り出せない。

 一通り読んでもらった情報を精査し、「これをもとに海図を描くことが出来る」とカナタは言う。

 

「四つの地点を示し、その中央にまだ見ぬ島が浮き上がる……か」

「そこに誰も行ったことのない島があると?」

「そうだな。残りの二つを探す必要があるが……」

「……赤い石を探しているのであれば、少しばかりついてくるがいい。この国にも()()はある」

 

 そういえばここにもあったな、とカナタはうすぼんやり考える。

 カナタ達三人はスキヤキの後ろに続いて城の倉庫に入り、そこに鎮座している赤い石を見上げた。

 

「順調も順調、恐ろしいくらいだな」

「後の一つに関しては全く手掛かりがない。地道に探すしか無かろうさ」

 

 実際のところ、全くないわけでは無いのだが……まぁその辺りは誰に言っても信じてもらえるわけでも無し、カナタは一人胸の内に秘めておくだけだ。

 そもそもぼんやりとしか覚えていないので地道に探した方が確実なのは事実だ。

 広間に戻った四人は、一仕事終えてどっと疲れが出たのでお茶を飲んでいた。

 

「どれくらいワノ国に滞在する予定だ?」

「そうですね。その辺りは彼女の意思一つですが……」

「少なくとも一、二週間は滞在したいと思っています。我々もこの国の質のいい武器には興味がありますし、何より情報を精査する時間が欲しい」

「そうか。では今日くらいは泊まっていけ。城下町の宿を手配しよう」

「ヒヒン。それはありがたい。しかし、康イエ様に連絡を入れねばなりませんな」

「康イエのところに滞在しているのか?」

「我々は〝潜港〟より上がってまいりましたので」

 

 康イエにはスキヤキから矢文を飛ばすそうだ。

 カナタは子電伝虫を使ってジョルジュに連絡を入れ、今日は戻らない旨を伝えておく。

 ゼンも積もる話があるだろうし、カナタ達は城下町で目立ちつつもワノ国の文化を肌で感じることにした。

 

 ──翌日。海外から船が来たと聞きつけた光月おでんが現れ、カナタに対して「おれを船に乗せろ!」と勝負を挑んできた。

 


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