ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第六十七話:光月おでんの憂鬱

 宴を開き、夜通しスキヤキとゼンが懐かしそうに話していた次の日の事。

 手配してもらった宿にて、スキヤキに読んでもらった〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟の内容を精査して海図を描く準備をしていると、にわかに宿の前が騒がしくなる。

 何事かと思って顔を出してみれば、カナタの倍はあろうかと言う背丈の大男が仁王立ちして宿の女将と話しているところだった。

 

「だから、おれは父上の客と言うやつに会いてェだけなんだって!」

「スキヤキ様から『絶対に会わせるな』と言われているんです。お願いですからお引き取り下さい!」

 

 非常に厄介事の気配がするので黙って顔を引っ込め、また作業に戻る。

 別室のドラゴンは「何事だ?」と尋ねてきたが、どうもスキヤキが会わないよう手を回しているため、言うとおりにしておいた方がいいだろうと伝えておく。

 どうせカナタはやることがあるので部屋から出るつもりは無い。

 ドラゴンは特にやることもなく暇なようなので、姿を隠して宿の裏口から外に出て行ったようだが。

 押し問答を続けること一時間近く。

 随分粘るなと思いながら作業を終え、窓の外をのぞき込む。

 ──すると、視線に気づいたか、あるいはずっとこちらを見ていたのか……大男がカナタに気付いた。

 

「いるじゃねェか……ちょっと会って話をするだけだ! 降りてきてくれねェか!?」

 

 大声でカナタを呼ぶ男。

 「おでん様!」とどこかから来た侍たちが宥めようとしているが、おでんと呼ばれた男は退く気もなさそうだ。

 スキヤキの意図に反することになるが……あまり居座られては宿としても迷惑だろう。

 カナタは渋々部屋を出て階段を降り、正面入口から顔を出す。

 

「うるさい男だ。静かに出来ないのか?」

「おお……お前が海外から来たという商人か!? なるほど別嬪だ。噂になるだけはある」

 

 おでんは実に機嫌が良さそうに笑い、カナタの姿を上から下まで眺める。

 

「……見た目は別嬪だが、それ以上に底知れねェな。かなり強いだろ、お前」

「そういうお前も中々強そうだ。うちの部下といい勝負をするだろう」

 

 カナタと比べればまだ弱いが、ドラゴンやジュンシーと比較すればいい勝負になるだろう。

 おでんはにやりと笑い、「自信がありそうだな」と刀に手をかけた。

 慌てたように後ろに付く侍は諫めようと言葉を投げかけた。

 

「おでん様! ここで刃傷沙汰は拙いですよ!」

「おっと、そうだな。それに戦うことが目的じゃねェんだった」

 

 うっかりしていたと言わんばかりに額を叩き、おでんはまっすぐにカナタの方を見やる。

 

「おれをお前の船に乗せてくれ!」

「いいぞ」

「駄目と言っても──うぇ!? いいのか!!?」

「自分から言っておいて驚くとは……」

「駄目ですよおでん様! ワノ国には国外に出ることを罰する法律があるんですから!」

「うるせぇな……相手がいいって言ってんだ。構わねェ!」

 

 おでんが聞く耳を持たないと判断した錦えもんと呼ばれる侍は、次はカナタに向き直って説得し始める。

 曰く、ワノ国には出国を強く罰する法律があり、勝手に連れて行っては困ると。

 本人に言っても聞かないのだから船の船長であるカナタに言えばどうにかなるだろうと思ったようだが、カナタとしては本人が好きなようにやらせればいいと思っていた。

 

「私は来る者拒まず去る者追わず、だ。乗りたければ好きにしろ」

「話が分かる女だ! じゃあ早速出立の準備をするぜ!」

「ただ、事情は知っておきたい」

 

 適当に近くの茶屋へと足を運び、茶と団子で一服しながらおでんと錦えもんに話を聞くことにした。

 海外に出ることを禁じる法律がありながら、おでんはこの国を出たいという。そこまでやる理由はあるのか、と。

 

「そんなもん、この国が窮屈だからに決まってる!」

「窮屈? ワノ国は他の島と比べても幾分広い方だ。窮屈と感じる程ではないと思うが」

「広さの話じゃねェよ! あれは駄目、これは駄目と……この国はおれには小さすぎる!」

「ふむ」

 

 法律、ルール……そういったものが自身を縛り付けることがどうしても苦手なのだろう。

 強さはあるし、慕われてもいる。本人がそう思わずとも君主としては最低限やっていけるだろうが、本人は国にいるより外に出たいと。

 わからないでもないが、そういう理由であればカナタの船は向いていない。

 

「だったら私の船はやめておけ」

「……何故だ?」

「船とて一つの組織。規律は当然ある……お前が思っているより、私の船は規律が多いぞ」

 

 一つ一つ船の上でのルールを聞かせていると、おでんの顔が段々と嫌そうな顔になってくる。

 遂には机に突っ伏してしまい、どうしたのかと錦えもんが目を白黒させた。

 

「今回は……諦める……」

「えェ~~~~!!? おでん様が自発的に諦めた!?」

 

 あまりに衝撃的だったのか、錦えもんは椅子に座ったままひっくり返った。

 一方のカナタは「だろうな」と言わんばかりの顔をしている。

 一人旅ならまだしも、同じ船に乗って暮らす船員であればそれなりにルールはある。ある意味船が一つの国のようなものだ。

 ワノ国の法律や決まりごとが窮屈だからとカナタの船に逃げても、船にあるルールが守れないのならワノ国にいるのと何ら変わりはない。まぁカナタの船は他の海賊などと比べるとかなり厳しい規律を敷いているのだけれど。

 これがロジャーであれば「好きにやれ!」とでも言いそうなものだが、生憎カナタはそういう性分ではない。

 

「満足したか、錦えもんとやら」

「あ、ああ……今も驚きで心臓がバクバク言っておるが、そういうことならこちらとしてもありがたい」

 

 元より大名。国から出るのは下の者にも示しがつかない。

 そういう意味では確かに良かったのだが、おでんらしくないと思わず視線を向ける錦えもん。向けられた本人は折角の機会だというのにしょぼくれていた。

 カナタは団子を一つ口に運び、舌鼓を打ってお茶を頂く。

 

「他人の船がダメなら自分で船を出すことだな」

「おれがやらなかったと思うのか? 当然何度も出ようとした……だが、おれ自身に航海の才能がねェんだ。毎回失敗して戻る羽目になる」

「生きて帰れるだけ儲けものと思え。ワノ国周辺の海は常に悪天候だ、一度出れば戻るのも至難だぞ」

 

 並の人間なら船から放り出された時点で命を諦めるレベルだ。航海の才能がないならなおさら出ることは諦めたほうがいい。

 一部の能力者以外は泳げたとしても海に落ちれば命はない。それが〝新世界〟なら尚更のこと。

 

「おれは海外に行きてェんだよ! 世界が見てェんだ!!」

「我儘な……私の船でも乗っ取ってみるか?」

「船だけ乗っ取ったっておれは船を動かせねェだろ」

「密航したところで海に放り出して終わりだからな。今回は縁がなかったと思って諦めろ」

 

 がっくりと項垂れたおでん。

 今まで海外から誰かが来ることなどなかったが故に、これが最大のチャンスだったのだが……乗った先でも同じように多くの規律に縛られるのでは国を出る意味がない。

 そこを何とかと頼み込むも、カナタは聞く耳を持たない。

 

「特別扱いしろとは言わねェ! どこかの島まで送ってくれるだけでもいい!」

「私の船に乗るなら()()()()()のが最重要項目だ。言うことを聞かない者を連れて行く理由はない」

 

 乗りたければ乗せるが、それは規律を守るという前提があってこそだ。

 規律を乱す者はいずれ不和を招く。

 この男は堅苦しい慣習やワノ国の法律を嫌って国外に出ようとしている。その感覚のままカナタの船に乗っても、恐らく規律を守ることはないだろう。

 自分が約束を守らないのに相手に約束を守れなどとは片腹痛い。

 

「それとも、私を打ち負かして言うことを聞かせてみるか?」

「……いや、それは止めておく」

 

 いつもなら挑発に乗っているところだが、カナタはスキヤキの客分として都に滞在している。

 如何におでんが破天荒でも、父の客人と喧嘩をするつもりは無かった。

 お茶と団子を楽しんだのち、カナタは一度城に行くという。ついでのようにおでんと錦えもんも城を訪ね、ゼンと鉢合わせしておでんがひっくり返った。

 

「ゲェッ、ゼン殿ォ!? 帰ってきてたのかよ!?」

「おでん様、お久しぶりです。相変わらずの破天荒ぶり、私の耳にも届いていますよ」

「ウ……いや、それは……」

「お、おでん様?」

 

 妙にタジタジになるおでんを見て、錦えもんは首を傾げる。

 何をやったんだとカナタがゼンに問うと、昔少しばかり教師役をやっただけですと答えた。

 

「昔から言うことを聞かない悪童でした。遊郭へ入り浸って城の金を使い込んだり、酒の勢いで博徒たちと大喧嘩したり……それが今では九里の大名とは、立派になったものです……」

「碌なことをやっていないな」

「うるせェ! 昔のことだ! それに、やったことを後悔してもいねェ!」

 

 子供のころから遊郭やら酒やらで騒ぎを起こしていたらしい。今でも十分破天荒だが、昔からのようだ。

 おでんは居心地悪そうにしている。昔の自分をよく知る者は城に多いが、ゼンはまた別らしい。

 スキヤキの友人兼家臣だったという理由もあるし、おでんの家庭教師であったという理由もある。唯一おでんを止められる存在だったのだ。

 

「ゼン殿は昔からめちゃくちゃ強くて勝てたことがねェ……今となっては負けるつもりもねェがな」

「ほう、言うようになったではないですか。〝天羽々斬〟と〝閻魔〟を使いこなせるようになって、この国では頂点に立ったかもしれませんが……海外にはより強い者も多い。まだまだ井の中の蛙ですよ」

 

 〝天をも切り落とす〟と呼ばれる〝天羽々斬〟。

 〝地獄の底まで切り伏せる〟と呼ばれる〝閻魔〟。

 共に〝大業物二十一工〟に属する銘刀である。

 ワノ国で唯一おでんだけが使いこなしていると呼ばれる刀だ。それを扱うおでんとて並の実力ではない。

 

「いいぜ、だったらおれの今の実力を見せてやる!」

 

 ゼンとおでんは互いに火花を散らしながら城の外に出て行った。どこか広い場所で手合わせでもするのだろう。錦えもんも一礼しておでんに付いていったが、あの男はストッパーとして機能していない気がする。大丈夫かとカナタはぼんやり考えながら、視線をスキヤキに移した。

 一晩中飲み明かして顔色の悪いスキヤキはと言えば、酷く痛む頭を押さえながら二人を見送っていた。

 

「……ゼンは何故ああも元気なんだ……まだ若いな……」

「調子が悪いのであれば休まれてはどうですか?」

「そうしたいのは山々だがな……いや、客人に心配されるとはこのスキヤキ、一生の不覚だ……」

 

 これだけ調子が悪いのでは公務にも支障が出る。

 素直に休んだ方が賢明だろう。

 

「ゼンは好きなようにさせますが、私とドラゴンは一度〝白舞〟へ戻ります。交易の件もありますし、置いてきた部下たちもいますので」

「そうか。昨夜は楽しい宴だった……康イエもゼンとは友人だ。あまりゼンを引き留めるとあやつもへそを曲げてしまうだろう」

 

 スキヤキは笑って「ゼンも連れて行ってやってくれ」と言う。

 午前中は諦めて休むことにしたのか、スキヤキはふらふらと部下に付き添ってもらいながら部屋から出て行き、カナタもまた城を出てゼンを探すことにした。

 他と比べて強い気配を辿っていくと、都から少し離れた場所で剣戟を交わす二つの影があった。

 大刀二振りを自在に操るおでんと、一本の槍を自在に操って互角以上にわたり合うゼン。

 実力的にはややゼンが優勢だ。

 近づくカナタに気付いたのか、錦えもんは手を挙げて「こちらだ」と呼び寄せる。

 

「おでん様と互角以上に張り合うとは……凄まじい槍の名手でござるな」

「奴は私の船の中でも一、二を争う実力者だ。あの男より強い者などそれほど多くは……」

 

 いない、と言おうとして脳裏をよぎる人数が多かったので途中で言葉を切った。

 平均的な実力で言えば強い方だが、ゼンより強い者はこの海にそれなりにいる。

 今やカナタもそちらに入るのだ。

 

「海とは広いのでござるな……」

「ああ、広いぞ」

 

 その後、ゼンとおでんの戦いは数時間続けても決着が付かなかった。

 ゼンに「一度〝白舞〟に戻る」と告げ、ドラゴンと合流しておでんたちと共に一路〝白舞〟へと向かうことになる。

 

 

        ☆

 

 

 その夜。

 黒炭オロチ、黒炭せみ丸、黒炭ひぐらしの三人はとある家屋で密談をしていた。

 突如として現れたカナタたちの存在で計画にズレが生じ始めていたため、必要だと判断してひぐらしが集めたのだ。

 そして、会議が始まって早々にひぐらしはオロチに対して「今は絶対に目立つ行動をするな」と指差した。

 

「……動くな? 色々手を回す段階だろう。今動かないでいつ動くんだ」

「ニキョキョキョキョ……まだ若いね、オロチ。手を回すのはいつでも出来る……だが、お前の命は一つしかない。下手に動けばその首、簡単に刎ね飛ばされるよ」

「何……!?」

 

 脅すように顔を近づけるひぐらしに対し、オロチは下がりながらひぐらしを押し返す。

 ババアに近寄られても何も嬉しくない。

 

()()()はね、わしの知ってる中じゃ取り分け()()()()()()()()()()だ」

 

 ひぐらしが何かを思い出すように視線を上げ、恐ろしさにぞわりと背筋を震わせる。

 かつてひぐらしはとある海賊団に所属していた。ワノ国において権力闘争の果てに家が取り潰しとなり、その復讐を行うための準備を整えようとしたのだ。

 所属していたとある海賊団の船長にその能力を見出され、互いに利用し利用されの関係の果てに手に入れた悪魔の実を持ってワノ国へと帰ってきた。

 オロチに与えた〝ヘビヘビの実〟がそうだ。

 そして、準備を整えて後ろ盾を選別している最中──カナタたちが現れた。

 

「あの女の動き次第では後ろ盾として候補に挙げても良かったが……光月家と縁が深いのであればそれも不可能。なら関わらないのが賢明ってもんさ」

「そんなにヤバい奴なのか……?」

「ヤバいなんてもんじゃない! ()()()()()()から、本人じゃなくあの女の母親ではあるがね……ニキョキョキョ」

 

 本人でないことは確実だ。本人であれば、どれだけ隠そうともすべての会話は筒抜けになる。

 隠し事など不可能──密談がバレていない時点で、カナタとオクタヴィアは別人だと判断できる。

 

「……何をしたんだ?」

「色々さ。奴と関わると碌なことがなかった」

 

 かつての仲間を疫病神か何かのように言うひぐらしに、オロチも怪訝な顔をする。

 思い出したいことではない。

 同じ船には乗っていたが、船員同士での殺し合いは日常だった。魔境のような船の中でも絶対に手を出してはいけない数名──特に船長と副船長。そして今、この海で名を揚げている数人。

 凶悪さで言えば誰も彼もが超一流の悪党だが──当時の船長と副船長は、まさしく別格だった。

 

「……敵対すれば滅ぼし、傘下に入れば〝支配〟する。世界政府でさえ正面から打倒せんとした男を、世は〝悪魔〟と呼び……その〝悪魔〟が一声かければ容易く国を亡ぼす女を〝残響〟と呼んだ」

 

 今でこそ世界最強は彼らだと名を挙げられるロジャーやニューゲートと言った実力者も、当時はまだ最強から遠かった。

 あの時は名実ともに〝悪魔〟が世界最強だった。

 その遺志が残っているとすれば……〝残響〟にそっくりの少女に違いない。

 ひぐらしはそう考えた。

 

()()()()()()()()()。身の程を知るのは大事だよ、オロチ……ニキョキョキョ……」

 

 元より後ろ盾になってもらう海賊の手綱を握れるとは考えていないが……ひぐらしたちにとって、カナタはあまりにも荷が勝ち過ぎると判断せざるを得なかった。

 オロチは知る由もないが、ひぐらしが手に入れた情報から考えれば妥当だろう。

 この国に復讐したいオロチと外部から目的が見えないカナタでは、後ろ盾とするにはあまりに博打が過ぎる。

 大人しく時期を待つのが賢明だ。

 

「おでんを連れて海外へ行ってくれれば御の字だが……その辺りは運次第さ」

「……わかった。おれも下手には動かねェ」

「わかればいいのさ……だが、長期滞在をするのであれば何かしら考えないといけないね……」

 

 ひぐらし、せみ丸、オロチの三人の密談は深夜まで続き、カナタ達への対処を話していた。

 

 




敵対→死ぬ。
味方に付ける→やり方によっては不興を買って死ぬ。
中立を保つ→光月に不利益を与えたことがバレれば死ぬ。
うっかりオクタヴィアのことを口走る→死ぬ。
存在がバレないようにする→生き延びる。

と言うことでこういう形に。
ハードモードだけど原作でもバレたら死ぬし是非もないネ!
存在を知らないと対処できないマネマネも大概だし仕方ない。
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