新章開幕です。
第七十話:騒乱の幕開け
一ヶ月の訓練期間も終わり、ワノ国の住人たちとすっかり仲良くなっていた。
おでんの家臣とカナタの部下は随分仲良くなったようで、訓練の合間に話をしたりすることも多かったようだ。
出航の前日には盛大に宴を開き、仲良くなったカナタたちの船出を祝福していた。
「……あっという間の一ヶ月だったな」
「規律も戦い方も何とか叩き込んだ。最低限使い物にはなるだろう」
「死ななければいい。強者は多いが、大抵の連中は私たちでやるからな」
幹部や船長といった実力者たちはカナタや幹部たちがいる。それ以外の一兵卒相手には負けないようにしておけばいい。
足を引っ張らなければ十分だ。元より誰かに倒してもらうつもりもないのだから。
カナタとジュンシーは訓練の成果におおよそ満足している。このレベルならそうそうやられはしないだろう、と。
「出航準備は出来たか?」
「忘れ物は無し、積荷も積んだ。この国で手に入れた物もな」
海楼石はこの国で加工されることが多い。近年では海軍でも運用されているが、大本の技術はワノ国から出たものだという。
少なくとも加工技術は随一だ。今後の能力者対策として、いくつか海楼石製の手錠を購入した。
武器の類も質のいいものを購入したので、しばらく武器には困らないだろう。
確認が終わったころにゼンとおでんたちが見送りに港近くまでやってきていた。
「別れは済んだか? またしばらく会えなくなるぞ」
「ヒヒン、大丈夫です。元より一時的な滞在とわかっていましたから」
「おれは父上の代理も兼ねてる。お前のことは嫌いだが、合同訓練は身になった。そこだけは礼を言う」
「相変わらずだな。もう少しボコボコにしてやればよかったか」
口の減らないおでんの言葉に思わずカナタも投げ返す。
この二人の関係も改善することはなかった。精々互いの実力を認めたくらいのものだろうか。
「まあまあ。我々も今日で出立です。今日くらいは友好的に行きましょう」
「……ゼン殿がそう言うなら」
「いずれまた訪れることにはなるがな。スキヤキ殿にはまた世話になる」
〝
古代文字を読めるスキヤキにはまた世話になるだろう。
おでんも読めることは読めるだろうが、カナタの船に乗らないのでその場で読むことは出来ない。
おでんがカナタの船に密航するのではと勘ぐった家臣たちもいたが、普段の様子を見ていれば大丈夫だろうと判断したらしい。おでんとは別にそれぞれカナタの部下と挨拶を交わしていた。
「信用されたものだな、おでんが私の船には乗らないと」
「業腹だがな。海外に行くならお前の船に乗るのが早いが、お前の船に乗ってちゃおれは息が詰まりそうだ」
「賢明だな。私もお前を船に乗せると問題ばかり起こしそうだから嫌だ」
「この野郎……!」
トラブルメーカーなら既にいるのでこれ以上は不要だ。
笑いながら拒否するカナタに、おでんは額に青筋を浮かべている。
ゼンがおでんを宥め、挨拶が済んだ船員たちが次々に船へと乗り込んでいくのを眺める。
「……次会うときは、お前をぶっ飛ばせるくらいには強くなっておいてやるよ」
「フフ、楽しみにしておこう」
結局、悪魔の実の能力すらろくに使うことはなかった。全力で使えば加減が出来ないのもあるが、影響範囲が広すぎるのだ。
局所的に天候や気候を変えてはその後の生活にまで影響する。全力など、到底出せるものではない。
能力を使わない状態だとしても、カナタとサシで戦えるほど強くなればほとんどの敵は敵と呼べなくなるだろう。
名実ともにワノ国の守り神となれる。
「──時間だ。出航する」
〝白舞〟にある〝
桟橋で手を振り、康イエやおでんが笑みを浮かべてカナタ達を見送っている。
「ゼン殿、カナタ殿! またワノ国に来るといい! 歓待しよう!」
「今度は絶対負けねェからな!」
二人の言葉に手を振って返し、嵐と渦潮の渦巻く海へと躍り出た。
☆
ワノ国を出て次の島に辿り着き、補給と情報収集のためにカナタはグロリオーサとカイエを連れて街へ出る。
気候はやや寒いが安定している。秋島の秋と言ったところか。食料は随分と豊富なようで、相場に比べるとずいぶん安い。
露店で安く売っている果物をいくつか買い、カフェで紅茶を頼みつつ小さめのナイフであっという間に皮をむいて切り分ける。
氷の皿に載せて盛り付け、街の様子を眺めながら紅茶と果物を楽しむ。
「この島では何日くらい滞在する予定なニョだ?」
「この島は大体一週間くらいだな。休暇もかねてのんびりやるさ」
シキにせよリンリンにせよ、ここ一ヶ月で縄張りの騒動は大方鎮めたらしい。
もう少し長引いてくれればよかったのだが、最低限部下たちを鍛える時間が稼げただけ良しとしておくべきなのだろう。
海軍もここのところ活発に動いているようで、ロジャーとやり合ったガープ、シキとやりあったセンゴクの話題などが新聞に載っている。
ゼファーが大将を退いた影響は少なからずあったはずだが、ガープやセンゴクなど、海軍にはいまだ猛者が多い。遠からずこちらも鎮火するだろう。
「ゲリラ活動をやっていたワールド海賊団も、ここ最近は何度か金獅子海賊団の本隊とぶつかって撃退されている。流石にシキ本人は出ていないだろうが……接触するなら早い方がいいのは確かだな」
シキ本人が出ているならワールド海賊団を逃がすはずがない。おそらく戦ったのは幹部だろう。その金獅子海賊団の幹部と衝突して島一つを焦土に変えながら逃走したらしい。
ワールド海賊団としては金獅子海賊団の縄張りを荒らすだけでも価値があるので、金獅子海賊団としては頭が痛いところだろう。
バーンディ・ワールド。
二億の賞金首だが、シキを相手にこれだけ大立ち回りをやっているところを見るに金額が上がってもおかしくはない。
もぐもぐと果物を食べるカイエの頭を撫でながら、グロリオーサは疑問を口にした。
「海賊同士で同盟を組むつもりなニョか?」
「今のところはな。敵が同じなら支援してもいいと思っている」
「ふむ……海賊同盟というのは、基本的に碌な結末を迎えない。新聞でしか知らニュが、このバーンディ・ワールドという男、こちらの言葉に耳を貸すような男とは思えニュがな」
「組まないというならそれはそれで構わない」
おそらく能力者であろうワールドを捕えてスクラの薬の被検体にしてもいい。
最終的に能力を奪えるならそれで十分だ。無理に味方に付けることもないだろう。
ワールドの部下に能力者がいれば一石二鳥くらいに考えている。
「問題は、シキとリンリンが予想以上に早く事を収めていることだな」
「どちらも勢力としては格上だ。戦力が分散している間に消耗させられれば良かったが」
「そこは仕方ない。ワールド海賊団のようにゲリラ戦法で少しずつ削っていくしか無かろう」
本隊を直接叩けるならそれでもいいが、シキにしてもリンリンにしても部下の数が桁違いだ。如何に強い部下を育てても、数という力には何者も及ばない。
幹部とて相当な強さなのだろうだし、策を考える必要がある。
「今は無視して、少しずつこちらの勢力を拡大するという手もあるが……」
「無理だろう。シキの奴がそれまで大人しくしているはずがない」
あれだけカナタにこだわっていた男が、のんびり準備する暇を与えてくれるはずがない。
状況が落ち着けばすぐにカナタの首を狙ってくるだろう。
「……逃げ回っても見つかるのは時間の問題か」
「打って出たほうが良かろうな。幹部一人、傘下一隻でも減らしていければそれだけこちらが有利になる」
「それは経験か?」
「私も海軍や他ニョ海賊から追われたことがある身ゆえな」
ではその経験に従おう。
まずはワールド海賊団と接触。交渉が成功するにせよ失敗するにせよ、少なからず戦力は増える。
悪魔の実の能力者であることが前提だが……億を超える賞金首は大体能力者だ。確率としては悪くない。
問題は、ワールド海賊団の居場所がわからないことか。
「こればかりはな……情報屋でもいればいいニョだが」
「〝新世界〟には伝手も何もないからな。あるいは海軍なら居場所を掴んでいるかもしれないが……」
ガープに聞いても教えてくれはしないだろう。どこかでワールド海賊団の情報を探さねばならない。
──そう考えていると、船に戻った後でスコッチとジョルジュが情報を拾ってきた。
酒場で大々的に情報を流していた奴がいたらしい。
「……その話、本当か?」
「ああ。ワールド海賊団の居場所が分かったらしい。どうする?」
「本当、だとは思うけどな」
ジョルジュはやや訝しげだ。
まずは情報を手に入れた経緯から話すことにする。
最近の話だ。ワールド海賊団に対し、複数の海賊で連合を組んで倒そうとする動きがあるという。
ワールド海賊団は元々あちらこちらで大暴れして一般市民にも海賊にも多大な被害を与えてきた。それゆえに〝世界の破壊者〟と言われ、それにふさわしい実力を備えている。
ワールド海賊団に恨みを持つ海賊は多く、誰かが「復讐のために海賊連合を作る」と言い出したのがきっかけらしい。
居場所を掴んでワールド海賊団に奇襲をかけ、バーンディ・ワールドを倒す。それだけのために作られた海賊連合なのだと。
そして今、ワールド海賊団の居場所が判明したために各地からワールドに恨みを持つ海賊たちが続々と集まりつつある。
「……なるほど」
「どうも、ワールド海賊団を壊滅させたいから色んなところに情報を流して海賊を集めてるみてェだな」
「居場所だけは確かだと思うぜ」
だが、こうなると少し考える必要がある。
シキを倒すためなら悪評ばかりのワールドでも手を組むが、デメリットが上回るとなれば話は別だ。
余計なものに手間取られながら相手に出来る程、シキは安い相手では無い。
「ふむ……一度行ってみれば真偽ははっきりする。どうせダメ元だ、行ってみよう」
ビブルカードで合流する予定らしく、スコッチは手持ちのビブルカードをカナタに渡してくる。
このビブルカードで行き着く場所に海賊連合の本隊がいるらしい。
「三日後、ここから一日くらいの場所にある島に合流だそうだ」
色々都合よく進んでいるが、どうも彼らは色んなところでワールド海賊団の話を振って味方を増やしているようだった。カナタの参戦は想定外だろうが、その辺りは目を瞑って欲しい。
数に頼って集めていればピンキリなところも出てくるだろう。
ただ、ワールドは二億の首だ。
それを討ち取ったとなれば、恨みがあろうとなかろうと自身の名を轟かせることも出来るだろう。その辺りが目的の海賊も少なからず交じっていると見える。
「……ワールド海賊団は倒すのか? それとも同盟を?」
「評判という意味では、ワールド海賊団と組むのは悪手だな」
現状、組む上でのデメリットが多い。
実力にしても、シキの幹部に敗走するレベルなら組むより能力を奪った方が戦力強化になるだろう。
ひとまず一度会ってから考えるべきだ。
手に入れたビブルカードを懐に入れ、カナタは次の動きを考えていた。
☆
「ジハハハハ!! 久しぶりだなロジャー!! おれの部下になる覚悟は出来たかァ!?」
「わはははは!! 笑わせんじゃねェよシキ!! テメェの部下になるつもりなんざ、これっぽっちもねェ!!」
〝新世界〟、とある海域にて。
この海における四人の強者のうち二人がぶつかっていた。
片や海賊大艦隊の大親分〝金獅子〟のシキ。
片や少数ながらも精鋭の揃う海賊団の船長〝鬼〟のロジャー。
ロジャーの実力に惚れ込んだシキが度々ロジャーを部下にしようとぶつかっていたが、今回の戦いは実に数ヶ月ぶりだった。
「現実を見ろ、ロジャー! 忌々しい海軍も、〝白ひげ〟もリンリンも、おれとお前が組めば全て蹴散らせる!! こんなにうまい話があるか!!?」
「現実を見ろだァ!? ふざけんじゃねェぞシキ!! 海賊ってのは
天候は快晴。波は穏やかだが〝新世界〟の海は時に気紛れな嵐を起こす。この辺りの海域は突発的に天気が変わることが多い場所だった。
その中で、二人の強者は睨み合って言葉をぶつけ合う。
片や〝支配〟を求めて。
片や〝自由〟を求める。
海賊なら、言葉でわからなければ倒して言うことを聞かせる──二人はいつもそうだった。
そして今回もまた、二人の意見は決裂する。
「今日という今日は逃がさねェ!! 海に沈めてやらァ!!」
「かかって来いよシキ!! ぶっ飛ばしてやらァ!!」
二人の覇王色がぶつかり、それを機にシキの艦隊とロジャーの船が動き始めた。
いつも通りの海戦が始まり、集まった幹部と部下たちがロジャー海賊団の面々と戦い始める。
その中でも、やはりロジャーとシキは一際激しい戦いをしていた。
「しばらく見なかったが、カナタにやられて忙しかったみてェだな!!」
「ああ、クソ面倒だったがな……いや待て、お前なんであの女の事知ってんだ!」
「知り合いだ! 偶然会ったことがある!」
空から二振りの剣を振るってロジャーに斬りかかったシキは、ロジャーの言葉に眉を顰めた。
「知り合いだァ!? お前、あの女が誰の娘か知ってんのかよ!!」
「知らねェな!! あいつが誰の娘だろうが、同じ釜の飯を食ったなら友達でいいのさ!」
一日二日程度の、ほんの短い間だったが──同じ船で同じ釜の飯を食べた間柄だ。ロジャーにとってはそれで友達と呼ぶには十分だった。
シキは額に青筋を浮かべながら剣を振り、剣に纏わせた武装色の覇気を叩きつける。
ロジャーはそれを涼しい顔で受け切り、逆にシキの腕を斬り飛ばそうと構えた。
「舐めんな!」
ロジャーの斬撃を受け止め、覇王色の衝突で海が荒れ狂う。
フワフワの能力でロジャーの船──オーロ・ジャクソン号を支配下に置こうとするが、そうする直前にロジャーの攻撃で集中力を削がれる。
力任せに振るわれた斬撃を何とか受け止めながら吹き飛んだシキは、海を切り裂きながら距離を取った。
「何が友達だ! ふざけたこと抜かしやがって!」
切り裂かれた海は巨大な塊となって空に浮かび、オーロ・ジャクソン号諸共ロジャーを海に沈めようと落下し始める。
ロジャーは笑って覇気を纏わせた剣を振り、巨大な海水の塊を真っ二つに切り裂いた。
シキはオーロ・ジャクソン号の甲板に立ち、にやりと笑うロジャー目掛けて疾走した。
「えらくご立腹じゃねェか。そんなに負けたのが悔しいのか?」
「ああ、そうだな、それもある。だがな……あの女が誰の娘か知ってりゃあ、そんな軽口は出て来ねェはずだぜ!」
「誰の娘かってのがそんなに大事かよ!」
「
ロジャーの連続する斬撃を次々に弾き、シキは至近距離で押し込もうと鍔迫り合いになる。
「テメェも無関係じゃねェぞ。何しろ、おれの予想が正しけりゃあ──
「何!? どういうことだ!!?」
「ジハハハハ!! 本人から聞け!」
シキはそれ以上答えるつもりは無いらしく、ロジャーは気になって無理矢理聞き出そうと本気で剣を叩きつける。
武装色を纏った剣がぶつかり合い、衝撃は天を裂いて雲を吹き飛ばした。
どうしても答えさせようとするロジャーの猛攻を凌ぎ、シキはロジャーを逃がさずその首を落とそうと剣を振るう。
どちらも「この程度じゃ死なないだろう」という信頼があった。長いこと戦い続けてきたが故の信頼でもあるのだろう。
二人の戦いは長時間続き──結局、艦隊を相手に戦い続けることを諦めたロジャー達が逃走する形で幕を閉じた。
そして、その夜。戦い疲れて皆休んでいる中、ロジャーは甲板で星空を見ながら酒を呷っていた。
「ロジャー、シキの言葉を気にしているのか?」
「ああ……まァな」
そこへ現れたのは副船長であるレイリー。
シキの言葉は少なからずロジャー海賊団の船員たちにも聞こえていた。バギーやシャンクスは知らないだろうが、それ以外の船員はカナタのことははっきり覚えているのだ。
ロジャーは酒瓶をグイっと傾けて酒を飲み、口元を袖で拭って垣立に背中を預ける。
「……おれァカナタを仲間に誘ったこともある。だが、あいつの親の仇だってんなら、おれはあいつにひでェことをしたのかもな」
「だが、あの子はそのことをおくびにも出さなかった」
ガリガリと酒瓶を持ってないほうの手で頭を掻くロジャー。
うじうじと悩むのは
どうしても気にはなっていた。
「……おれ達は海賊だ。こういうこともある。だが、友達の親の仇だって言われるとな……」
「カナタは何も言っていないからな。お前に気付けというのも無理がある話だろう」
「そりゃそうだが」
「実際に会って、話してみればいい。あの子は聡明だ。話せば……まァ、パンチの一発くらいで許してくれるかもしれんぞ?」
「わはは、そりゃ痛そうだ」
ロジャーとレイリーは笑い合い、拳をゴツンとぶつけ合った。
「シキの言葉が本当だったら殴られるだろうな」とロジャーは言い、レイリーは「お前を動揺させるための嘘かもな」と言う。
真実はカナタ本人にしかわからない。
どうせそのうち会おうと思っていたのだ。少し早まったにすぎないと考え。
「よし、そんじゃカナタの奴を探してみるか!」
ロジャーは再び酒を飲み、動くことを決めた。
ワールドの部下にキュブキュブの実(物・人などをキューブにする能力)の能力者がいると知って「なるほどね」となった。