ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第七十一話:ワールド海賊団

 ガープとセンゴクは軍艦数隻を伴ってワールド海賊団の捕縛に動いていた。

 コング元帥直々の命令ということもあり、二人は特に文句もなくとある島へと向かっている。

 文句もなく、とは言ったが──ガープにしてもセンゴクにしても、不満はあった。

 何故ならば、ワールド海賊団捕縛に当たって()()()()()()()()()()()()()()()()()()からである。

 

「ワールドを捕まえるだけならおれ達だけでも十分なはずだが……コングさんは何を考えてんだ」

「奴の能力が厄介なのは知っているだろう。奴の行動は世界政府へ直接的に害を与えている。いずれにしても放置は出来ない……海賊と組むのは業腹だがな」

「なーにが世界政府に直接害を与えている、だ」

 

 そんな理由で海賊と組むならカナタの時もやっている。

 いやまぁ、あちらは完全に世界政府だけに喧嘩を売ったので味方に付けられる海賊などいなかったのだが。

 ガープは嫌そうな顔で軍艦に乗り込んだ新兵たちを見ながらぼやいた。

 

「……ゼファーの奴は、教官として馴染み始めたみてェだな」

「ああ。あんなことがあったんだ、心が折れて軍を辞めたとしてもおかしくはなかったが……後方に下がったとはいえ、残ってくれたことは嬉しく思う」

「〝ゴッドバレー〟の事件があってからこっち、海軍も新兵育成が間に合っていないからな……正直、ありがたいところだ」

 

 かつて、世界政府に直接牙を剥いたロックスと言う男が暴れ回った時代。

 世界各地でロックスの手勢と化した海賊たちが海軍と正面衝突し、海に沈んでいく海賊たちと同様に海兵の屍の山も築かれた。

 海軍本部に勤務する将官、佐官も同様だ。

 ガープやセンゴクのような一握りの強者こそ残ったが、当時の海軍大将でさえ屍となるほどの戦場を越えられた海兵は多くない。

 海賊の数も当然減ったが、分裂した元ロックス海賊団──シキやリンリン、ニューゲートはそれぞれ自分の仲間を集め、この海で勢力を築き上げている。

 ガープと共にロックスと戦ったロジャーも健在だ。

 正直なところ、海賊の数に対して海兵の数が足りていないのは事実だった。

 

「この船に最近入った〝自然系(ロギア)〟の新兵もいる。ゼファーが特に目をかけているそうだぞ」

「ほう、そりゃ楽しみだ。次世代の芽も出始めたか」

 

 笑うガープとセンゴクのところに噂の新兵の一人が報告に現れた。長身の角刈り頭の男だ。

 真新しい水兵服を着て敬礼をし、はきはきと報告を始める。

 

「報告します! 現在、目的の島を目視できる位置に到着しました! いかがされますか!」

「おう、ご苦労」

「このまま遠巻きに目視出来る位置を維持しろ。海賊どもが動き次第、我々も動く」

 

 なし崩しに協力することになったとはいえ、ガープもセンゴクも肩を並べて戦うつもりは無い。

 下手に歩調を合わせるよりも個別に戦った方がいいだろう。合わせられるとも思えない。

 ガープは誰がワールドの首を狙っているのか確認しようと双眼鏡を覗き込み、島に滞在している海賊船を確認する。

 すると、おかしなものでも見たのか、何度か目をこすってもう一度確認する。

 

「……待て待て待て、なんであいつがいる! ワールド海賊団と因縁はねェだろう!?」

「なんだ、誰がいた?」

 

 困惑するガープの手から双眼鏡を取って覗き込むセンゴク。

 その視線の先には海賊旗のない巨大な船が一隻あり、その船上には見覚えのある姿があった。

 紫色の髪の巨人。一度は戦った非常に目立つ女。

 

「〝巨影〟……! と言うことは、〝魔女〟もいるのか!?」

「今回は敵対しているわけじゃないが……何を考えてるんだ、あの女」

 

 バーンディ・ワールドとカナタの間に何かしらの因縁があるとは聞いていない。もしかするとどこかで会っている可能性もあるが、あの二人がどこかでぶつかれば確実に海軍の情報網に引っ掛かる。敵対しているならなおさらだ。

 カナタが何を考えているのかわからないが……ガープは直感的に「碌なことにはならない」と思い始めていた。

 そしておそらく、その直感は正しい。

 

 

        ☆

 

 

 カナタはワールド海賊団に恨みを持つ海賊たちと合流し、遠目に海軍の軍艦を確認しながら「厄介なことになったな」と思い始めていた。

 自分たちも例外の中に入るが、普通の海賊は海軍との伝手など持たない。

 つまり、ここに海賊たちを集めた海賊は海軍の回し者か、あるいは世界政府の回し者である可能性が高い。

 ワールド海賊団を捕縛することが最大の目的だろうが、その後まではどうなるかわからない。最悪その場で海軍と連戦する可能性まである。

 ガープとセンゴクの二人を相手に戦うなど御免被るのだが。

 

「もうすぐワールド海賊団の滞在する島に着くが……おれ達はどう動く?」

「しばらくは様子見だな」

 

 集まったのは大した連中ではない。仮にカナタたちが戦えばすぐにでも全滅させられる程度の弱い海賊ばかりだ。

 もちろん〝新世界〟まで辿り着いた以上は相応の実力を持つのだろうが……大半は一度ワールド海賊団にやられて弱体化した海賊ばかりだ。当てには出来ない。

 海賊たちを退け、ガープとセンゴクから逃げきれるなら相応のリスクを背負っても同盟を組む価値はあるだろう。

 駄目ならガープとセンゴクと一戦交えてでもワールドの能力を奪いにかかる。

 

「多少は傲慢に行かねばな。ただでさえガープとセンゴクの相手など負担が大きい」

「戦いたくてうずうずしてるのがいるが……まァあいつはいつものことだし放っておいていいか」

 

 ジュンシーを見ながらタバコを吹かすスコッチ。

 天気は良好。ワールド海賊団とて馬鹿ではないだろうから見張りは居るだろうし、既にかなり近付いているから気付かれていてもおかしくない。

 カナタが気配を探ったところ、そこそこ強い気配が一つと少し強めの気配が複数。この程度なら危険を覚える程ではないと判断する。

 

「向こうも打って出るだろう。大砲には気を付けておけ」

 

 それ以外の遠距離攻撃はカナタが対処する。

 カナタたちは少し離れたところで趨勢を見守る。観察している間にいくつもの海賊船でワールド海賊団を包囲し、一斉に砲撃を始めた。砲撃音が海原に響き渡り、爆発音と叫び声が空に混じって消えていく。

 〝世界の破壊者〟と呼ばれるだけあって、ワールドも弱くない。

 何らかの能力によるものか、巨大化した砲弾が次々に海賊船を沈めている。あれでは碌に消耗させることも出来ないだろう。

 海軍の軍艦も戦線に参加して攻撃を始めているが、直接ガープとセンゴクが出るならともかく海戦だとやや不利であることは否めない。

 ──流れが変わったのは、海戦が始まってしばらくしてからだった。

 

「……攻撃が止んだ? 何かあったのか?」

 

 海軍の軍艦と撃ち合いをしていたワールド海賊団の攻撃が止まった。

 諦めたわけでは無いだろうが、様子がおかしい。

 双眼鏡で詳細を確認してみれば、ワールドと思しき男が味方から銃を突きつけられている。

 様子を見ていると、船員たちはワールドに対して発砲を始めた──この土壇場で船員に裏切られたのだ。

 

「仲間割れ……? この状況で仲間割れとは、誰かにそそのかされたか?」

「仲間割れだァ? ワールドの奴はどうなったんだ?」

「銃撃を受けたが、致命傷には遠いな。仲間たちを自分の手で屠っている。だが、あの様子では海賊団として保てまい」

 

 ワールド一人だけ確保するにせよ、身柄を諦めて悪魔の実だけ確保するにせよ、この距離ではどちらも出来ない。

 敵船に乗り込んで何とかする必要がある。

 最悪に備え、悪魔の実を確保するための準備をして双眼鏡をスコッチに渡した。

 

「乗り込んでワールドを連れてくる。少し視界を悪くするぞ」

「それで簡単に天候を変えられるお前が恐ろしいよ、おれは……」

「一時的なものだがな」

 

 ゆっくりと暗雲が立ち込め、次第に気温が下がって雪が降り始める。

 船の指揮はドラゴンに任せ、カナタはなるべく海軍に気付かれないように注意しながらワールド海賊団の船へと近付く。移動方法は海の上を歩いてなので、余程こちらに注意を向けていなければ気付かれることはないだろう。

 船の縁に張り付き、様子を窺っていると、黒いスーツの男たちがワールドたちと話しているのが聞こえてきた。

 

「──お前たちまさか、サイファーポールか!?」

「あァ!? なんだそりゃ!?」

「世界政府の諜報機関だ……まさか、仲間として入り込んでいるとは……」

「如何にも。仲間としてしばらく過ごさせてもらいましたが、これもすべて任務。ここまでです」

 

 サイファーポール。

 世界政府の諜報機関が海賊として入り込み、内側から崩壊させたのかと理解し──カナタは目を細めて動いた。

 

「──ッ!!?」

 

 奇襲に対応出来なかったサイファーポールは次々に投げつけられた氷の槍で船に縫い付けられ、凍り、首を圧し折られ、胸部を打撃で撃ち抜かれていくなどして絶命していく。

 次々に倒れていく仲間を見て焦ったサイファーポールの一人は、奇襲してきたカナタに六式と覇気で応戦。しかしそれを容易く制圧してサイファーポールを全滅させた。

 海賊団一つを内側から崩壊させた手腕は見事なものだが、直接的な戦闘力に関してはそれほどでもなかったらしい。

 もっとも、この場合は相手が悪かっただけかもしれないが。

 カナタは膝をつく大男──ワールドの前に立ち、見下ろしながら話しかけた。

 

「お前がバーンディ・ワールドだな?」

「……テメェは、誰だ?」

「〝竜殺しの魔女〟……! 十五億の賞金首が、おれ達に何の用だ!?」

 

 点滴をつないだ小柄な男がワールドの横で驚いたように声を上げる。先のサイファーポールのことを知っていたのもこの男だ。

 ワールド海賊団における頭脳なのだろう。

 ワールドはその言葉に驚き、銃弾をまともに受けて血塗れの体でカナタを睨みつけた。

 

「おれの首でも取りに来やがったか……!?」

「名を揚げるつもりならたかだか二億程度の首など取ろうとは思わん。お前の実力次第では〝金獅子〟を相手取るための同盟を組もうと考えていたが……」

「ハッ……仲間に裏切られて、死にかけているおれを笑うか……」

 

 致命傷ではないと思っていたが、銃弾はかなりダメージとして深いらしい。それとも裏切られたという精神的な問題もあるのだろうか。

 少なくともまだワールドを守ろうとしている仲間が数名いる。

 さてどうしたものか。

 能力込みで考えれば、恐らく実力はかなり高い。シキに及ばずともシキの幹部と渡り合えるくらいであれば御の字、くらいに考えていたが……この状態では同盟を組むことも出来ないだろう。

 

「シキを相手に戦う気はまだあるか?」

「……この状況で、それを聞く意味があるのか? おれは今にも殺されそうだってのに」

「治療ならこちらで請け負ってやろう。ガープとセンゴクも私なら退けられる。だが、その代わりにお前たちは私の部下として働いてもらう──お前が選べ」

 

 海賊団としては壊滅したも同然だ。ガープとセンゴクから逃げることも出来ないだろう。生き残りたいなら、カナタの部下になるのが一番いい。

 ここで死ぬか。

 プライドを捨ててでも生き残るか。

 ワールドは隣にいる兄──ビョージャックに視線をやり、裏切らなかった部下を見る。

 覚悟を決めた彼は、立ち上がってカナタを睨みつけた。

 

「──舐めんな。おれは誰かに頭を垂れて生きるつもりはねェ!!」

「……そうか。では、その在り方を尊重しよう」

 

 部下二人、そしてワールドはカナタに抵抗しようと構える。

 カナタは氷で作り出した槍を構え、決死の覚悟で戦おうとする戦士への礼儀を持って対応する。

 

「〝世界の破壊者〟バーンディ・ワールド──その心臓、貰い受ける」

「やれるもんならやってみやがれ! おれは、おれ達バーンディ兄弟はこんなところで終わらねェ──!!」

 

 ワールドは超人系(パラミシア)、モアモアの実の倍化人間。

 六式もある程度扱える上、その速度を百倍まで倍化させることが出来る能力者だ。単純な速度勝負ならカナタでも分が悪い。

 自身の能力の長所がわかっているワールドは、全身を武装硬化して身をかがめ──疾走する。

 文字通り目にも留まらない速度だ。

 ガープやセンゴクでも手を焼くほどの力を前に、カナタは気負うことなく自然体で対応する。

 

「死ね──ッ!!」

「──未熟」

 

 勝負は一瞬だった。

 ワールドの速度でも尚カナタに攻撃を当てることは叶わず、カナタはワールドの速度にカウンターを合わせる形で心臓を貫く。

 完全な致命傷だ。返り血を浴びたカナタは、槍を引き抜こうと半歩下がる。

 

「ぐ、がはっ……」

「ワールド!!」

 

 ビョージャックの叫び声を聞いて、崩れ落ちかけたワールドの足がもう一度力を取り戻した。

 引き抜かれかけた槍を掴み、死に際の全力で一矢報いようと拳に武装色の覇気をありったけ込める。

 

「流石に十五億、伊達じゃねェな……だが、タダでは死なねェ!!」

 

 兄を含め、ワールド海賊団は全滅するだろう。だが、冥土の土産にその首を貰っていく。

 この距離なら逃げることも出来ず、避けることも難しい。確実に当てられると判断し──カナタはその拳を正面から弾き返した。

 ワールドの拳はカナタの覇気を破れずに弾かれ、カナタは槍から手を放して狙いを定めた。

 

「武装色の強さなら自信があったようだが、そちらも未熟だったな──だが、その気概は認めよう」

 

 最後の最後まで敵の喉元に食らいつく気力の強さがあったからこそ、ワールドはこれほどまでの力を手に入れたのだろう。

 だからカナタも手を抜くことなく、確実にその首を刎ねる。

 再び作り出した氷の槍に覇気を纏わせ、ワールドが次の動きを行う前に即座に首を落とした。

 

「惜しい男だった」

 

 実力は額に相応しい、いやそれ以上のものがあった。

 それだけに、対金獅子同盟を組むには良い相手だったのだが……別のやり方を模索せねばならないだろう。

 少なくとも悪魔の実を一つ手に入れただけでも満足しておくべきだ。

 

「貴様、よくも船長を!!」

「殺してやるダス!!」

 

 ワールドを裏切らなかった部下の二人が敵討のために襲い掛かってくる。

 機関士のガイラムと船医のナイチン。ワールドが世界を取ると信じて疑わなかった船員たち。

 ガイラムの方は能力者らしく、空気をキューブに圧縮して手に持ったハンマーで飛ばしてくる。ナイチンは拳法使いのようで、ガイラムの攻撃の邪魔にならないよう側面からカナタへと襲い掛かる。戦うならワールドと協力すればよかっただろうが……もっとも、ワールドの能力が速度を活かしたものである以上、邪魔な味方を近くに置くのは足を引っ張るだけだった。

 どちらも実力は未熟。ワールドを殺したカナタの下に付くつもりもないだろう。

 復讐など考えられても厄介だ。ここで殺しておくのが良い。

 襲い掛かる二人を即座に斬り捨て、ビョージャックの元へと歩きだそうとして、背後からの奇襲を感知した。

 

「──テメェ、よくも船長と仲間たちを!!」

 

 巨人と魚人のハーフ──一般に巨魚人(ウォータン)と呼ばれる種族だ。

 巨人の体躯で魚人空手を扱えると考えるとそれだけで脅威だが、覇気も使えないのではカナタの前では張子の虎にも等しい。

 襲い来る巨魚人(ウォータン)の男を一息に氷漬けにし、改めてビョージャックの前へと歩み寄る。

 

「……お前はどうする?」

「おれは……おれは、ワールドがいたからこの海で戦って行けた。あいつがいない海に、未練はない」

「……そうか」

 

 かつてビョージャックとワールドは二人で世界の果てを目指して海に出た。

 海賊になり、その航路にあるものは全て壊してきたのだ。その苛烈さ故に〝世界の破壊者〟と呼ばれるまでになった。

 だが、それらの評価は全てワールドありきのもの。頭脳として副船長を務めていたビョージャック一人では出来なかったことだ。

 

「手に負えないものまで敵に回したことが、おれ達の敗北の原因だったのかもしれない……お前も気を付けることだ、〝魔女〟」

「忠告、痛み入る」

 

 互いに一度は世界政府を敵に回した身だ。サイファーポールの悪辣な手腕も一度は見ることが出来た。

 ビョージャックに先はないが、カナタは今後も敵に回すことになるだろう。

 

「では──さらばだ」

 

 ──この日、海賊団がまた一つ壊滅した。

 




最後の方がだいぶ駆け足になってしまった感が…。
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