ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第七十五話:モベジュムールの海戦 その2

「ヒュウ、連中もやるじゃないか。あの二人を抑えられるとは思わなかった」

 

 リュシアンは口笛を吹いてアプスとレランパーゴを抑える敵を褒め称える。

 相手が誰であろうと強き者には敬意を表するのが彼なりの礼儀であり敬意だ。当然、滅ぼせと言われたからには手を抜くことなどありはしないが。

 自分の仕事には真摯に向き合うのが彼の流儀でもある。電伝虫を使い、被害が拡大していく左翼艦隊へと連絡を入れる。

 

「こちら旗艦。左翼艦隊、被害報告を」

『こちら、左翼艦隊のマッド海賊団! 目視出来る範囲では既に十隻ほど沈められています! 継続して攻撃中です!』

「把握した。砲弾でやられたのか?」

『いえ、単なる大砲の弾なら落とせるはずですが……』

 

 だろうな、とリュシアンは思う。

 単なる大砲の弾で船が吹き飛ばされる程度の海賊なら〝新世界〟まで辿り着けるはずがない。

 カラクリがある。恐らくは何らかの悪魔の実の能力だろうと判断し、続けて敵艦の進路妨害に移った右翼艦隊へと連絡をつなぎなおす。

 

「こちら旗艦。右翼艦隊、報告を」

『こちら右翼艦隊のバルク海賊団! 巨大な渦潮のせいで足を取られている艦隊多数! 船の壁で敵艦の進路は妨害できています!』

「良し、ではそのまま船の側面から大砲を撃ち続けろ。相手側には何らかの能力者が乗っている。何かわかれば報告しろ」

『了解!』

 

 通話を切り、戦況の推移を見守る。

 元より海賊の集まりだ。艦隊と呼ばれていても、その実体は軍には程遠い。大雑把な指示を出してそれにその場その場で対応させるのが精一杯だろう。

 そういう意味では、リュシアンは海賊として身を立てるべきではなかった。

 が、海賊になったものは仕方ない。

 

「敵旗艦は能力者多数、腕のいい航海士もいる、大砲程度じゃ手間取らせるのが精一杯か」

 

 中々厄介な状況だ。

 少数精鋭の海賊だということは事前に聞いていたが、特に厄介なのは旗艦に集中しているらしく、後ろの二隻は大砲の迎撃ばかりで反撃できていない。

 付け入るなら()()だな、とリュシアンは顎をさすって考える。

 

「左翼艦隊へ通達。照準を敵旗艦から隊列中央の船へ変更、合図の後に一斉射撃せよ」

 

 船長の腕が立つ海賊なら新世界にはそれなりにいる。

 だが、この海で生き残るには一人だけの強さでは頭打ちとなる。数という力には何者も及ばない。

 旗艦であるソンブレロ号は強固な防衛網が敷かれている。乗っている連中もアプスとレランパーゴの二人をはね返したことからそれなりの手練れだ。

 ならば、その周りから切り崩していくのが戦略というもの。

 リュシアンは容赦なく、その砲口を向けた。

 

「──左翼艦隊、撃て!!」

 

 

        ☆

 

 

「彼が本気を出したようだね」

 

 アプスは海上に降り注ぐ雪崩を回避しながら、鎖を傘下の海賊の船に巻き付けて自在に空中を移動していた。

 海の上で雪崩など本来起こりえないが、新世界の気候天候を常識で測る方が間違っている。雷が降り注ぎ続ける島もあれば、上空にある島に引っ張られる海域もある。

 空を蹴って同様に回避したドラゴンとジュンシーは、視界の外から虚を突くように攻撃してくる鎖を弾きつつアプス本体へと攻撃を繰り返す。

 覇気の練度も、多対一の戦い方も、二人より巧みだ。

 伊達に金獅子海賊団の幹部を名乗ってはいないらしい。

 

「君たちもやるようだけど、少しずつ崩されていくよ。仲間たちが一人一人沈んでいくのを眺めるのが好みかな?」

「──あちらも心配ではあるが、お前を抑えるのがおれ達の仕事だ」

「おぬしを野放しにする方がよっぽど危ないことくらい理解している」

「……へぇ、僕らに逆らうなんて脳みそまで筋肉が詰まってるだけの馬鹿な敵かと思っていたけど、存外そうでもないみたいだね」

 

 二人を見下すように笑うアプス。

 危ない橋を渡ることは今までにもあった。

 その度に戦い、生き延びてきたのだ──相手が誰であろうとも。あるいは戦力差がどれほど絶大であろうとも。

 傘下の海賊たちも、船にいる仲間たちも、出来る限り鍛え上げてきたのはこういう時のためだ。

 一朝一夕で落とされるほどやわではない。

 

「儂らではなく自分の心配をしたらどうだ? 二対一は気は進まんが、おぬしを落とすことも不可能ではないぞ」

「言うじゃないか。だったらそれだけの力を見せてみなよ!」

 

 黒く染まった鎖がジュンシーへと殺到する。

 傘下の海賊の船であることなど関係なく、串刺しにしようとするそれらを弾き、時に避けて凌ぎ──自身へと意識を集中させる。

 横合いからドラゴンがアプスへと殴りかかり、見聞色で察知したアプスは武装色を纏って攻撃を防いだ。

 一瞬の拮抗の後に打撃の応酬があり、接近戦でドラゴンが押し負けて吹き飛ばされた。

 それをカバーするようにジュンシーが割り込み、六合大槍を巧みに操ってアプスの攻撃を捌く。

 

「まだまだ弱いね。この程度で僕に挑もうなんて、舐めてるとしか思えないよ!」

 

 鎖の一本がジュンシーの足に巻き付き、体を持ち上げて海へと投げ飛ばす。

 それを追いかけようとするアプスの背後へドラゴンが奇襲をかけ、アプスは背中から幾本もの鎖を出して迎撃する。

 

「ぐ──っ!!」

 

 アプスにはまだ余裕がある。

 二人がかりでもまだ実力の底を引き出せない。だが、カナタはこの男より強いシキと戦っているのだ。

 たった一人で戦う彼女の背中を、居場所である船を守るのがドラゴンたちの戦いだ。ならば、弱音など吐いてはいられない──!

 

「舐めるな!!」

 

 飛び出した鎖を無理やり掴み、ドラゴンは力任せに振り回して船へと叩きつけた。

 びっくりした顔のアプスへと追撃に動き、アプスは先程よりも多数の鎖を出してドラゴンを迎撃する。

 まるで壁のように迫る鎖に一瞬動きが鈍くなるが、ドラゴンは冷静に感覚を研ぎ澄ませた。

 

(──焦るな。冷静に、敵の感情を読み解け)

 

 敵の思いを、感情を、狙いを──アプスがどこを狙うのかを感じ取る。

 激流のように押し寄せる鎖を前に、ドラゴンは僅かに身を捩った。

 

「──何?」

 

 アプスの攻撃を()()()()()

 確かに数に任せて狙いは雑だったが、それだけで避けられるほど簡単な攻撃ではない。

 加えて、鎖の中に捕えたことは事実。このまま絡めとってしまえばそれでおしまいだ。

 広がった鎖を束ねるように、内側へと収束させ始め──船の外から突っ込んできたジュンシーがずぶ濡れのままアプスの顔面へと強烈な拳を叩き込んだ。

 船を破壊しながら船室へと突っ込み、しかし大した傷も負わずにすぐに立ち上がる。

 

「これでもまだ倒れんか……!」

「……痛いじゃないか」

 

 軽く口を切ったのか、口端から僅かに血が出ている。

 雑に片手で血を拭い、不機嫌そうにドラゴンとジュンシーを睨みつける。

 

「面倒な連中だ。君たちに構っていられるほど、僕らも暇じゃあないんだけどね」

「ならば儂らを倒すことだな。もっとも、そう簡単にやられるつもりもないが」

「まだ勝てると思っているのか? 僕らを敵に回した時点で、君たちは終わりだと何故理解しない」

 

 ビリビリと覇気で船が軋んでいる。

 更に、アプスの体ではない部位──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──殺すよ。君たちの存在は不愉快だ」

「ジュンシー、気合を入れろ。今までの敵とは一味も二味も違うぞ」

「くはは、厄介さなら海軍大将ともいい勝負だな! 俄然やる気が湧いて来たところだ!」

 

 警戒するドラゴンと笑うジュンシーへ、アプスは苛烈な攻撃を始める。

 

 

        ☆

 

 

「オオォォォ────ッ!!!」

 

 叫び声と同時に戦斧(ハルバード)が振り下ろされる。

 その一撃は落雷の如く。

 まともに受ければ敵の命を断絶させる刃は、しかし命に届くことなく空を切る。

 

「ぜえい!!」

 

 気合一閃、下からレランパーゴの心臓を狙って槍を振るう。

 ゼンの一撃は強靭な肉体によって受け止められ、防御行動に移ることなくレランパーゴはゼンの首を狙って戦斧を振るった。

 ギン──!! と武装色の覇気がぶつかり合い、海上で衝撃波が散って雹が砕ける。

 

「ぐぬ、防御すらしないとは! 頑丈にも程がありますよ!」

 

 既に数発ぶつけているが、レランパーゴはびくともしない。

 しかし、完全に効いていないわけでは無いようだ。多少なりとも傷は出来ているし、単純に耐久力が異常なだけなのだろう。

 海にでも落とさなければ倒せそうにない。

 

「──ッ!」

 

 ──刹那、上空からレランパーゴの眼球を狙って覇気を纏った矢が降り注ぐ。

 咄嗟に空を蹴ってそれを回避し、追い打ちをかけるようにソンブレロ号からまっすぐ飛んで来た矢を打ち払った。

 直後にゼンが距離を詰め、上から叩き落すように槍を振るう。

 流石のレランパーゴもこれは拙いと感じたのか、両手の戦斧を使ってゼンの攻撃を防ぎ、海に落とされないように味方の航行する船へと降り立った。

 

「……結構、つよい?」

「おや、話せるのですか。獣のようだと思っていましたが……理性があるならそれはそれで厄介ですが」

 

 少なくとも会話が成り立つだけの知性はあるらしい。ゼンが言うと話がややこしくなるのだが、本人は気にした様子もない。

 獣のような暴力性のみでも十分強いが、それを活かせる理性があるなら尚更厄介だ。

 グロリオーサの援護を貰ってもなお崩せない強さ──これが、この海で覇権を競う強者の最高幹部。

 いつになく、血が滾る。

 

「ふっふっふ、海軍大将と戦った時も血が滾りましたが、此度は一味違う相手でいいですね」

 

 いつも同じ面々と鍛錬するだけの日々だった。

 ゼファーを相手に〝月の獅子(スーロン)〟まで使ってようやく互角だったことを反省し、より技術を磨き、覇気を鍛え上げてきた。

 今以上に強くなるなら、より強い敵に挑むのが一番だろう。

 そういう意味では、今回の戦いは渡りに船と言える。

 

「今の主は随分と好戦的だ、故に私も鍛錬を怠る理由無し──」

 

 武装色を何重にも纏って腕と槍は赤黒く染まり、全身が白く染まっているレランパーゴとは対照的だ。

 周りの海賊たちなど気にも留めず、ゼンはレランパーゴだけをじっと見つめる。

 

「────ッ!!」

 

 一閃、二閃。

 連続で振るわれた槍はレランパーゴの戦斧とぶつかって激震を起こし、戦場となった船を破壊しながらその首を狙う。

 直感的にまずいと感じたのか、レランパーゴはゼンの槍を正面から受け止め、弾き返しながら力任せに戦斧を振り下ろした。

 ゼンはそれを避け、ゼンの倍はあろうかという巨体を下からかち上げるようにぶつかる。

 

「ふっ、はっ!!」

 

 受け止めたレランパーゴの体が浮くほどの衝撃が走り、続いて踏み込みと同時に二撃目を当てた。

 船の上を滑って衝撃を流し、追撃に走ったゼンをレランパーゴは迎撃する。

 

「ぐぬ──!」

「オォ──!」

 

 漏れ出る雷が閃光となって迸り、雲がかかって薄暗い海上を照らし出す。

 レランパーゴはミンク族でもなく、雷の能力者でもない。単なる動物系(ゾオン)の能力者ではなく──幻獣種の能力者だ。

 

「新世界というのは魔境ですね! 世界でも数少ない幻獣種の能力者がこうもゴロゴロと!」

 

 動物系(ゾオン)の中では古代種と幻獣種が特に希少だ。後者は自然系(ロギア)よりも希少とさえ言われるほどに。

 

「この程度ではないでしょう。貴殿の全力、見せてもらいましょう!」

「う? ……うん。全力で、やる!」

 

 より強固に武装色を纏ったレランパーゴとゼンが、激しく打ち合う。

 余波だけで船が壊れていき、そのたびに足場を変えて──時折援護射撃が飛んでくるが、レランパーゴは地に足がついていればものともしない。

 強靭さで言えばゼンが今まで出会ってきた敵の中でも指折りだ。それだけにやりがいがある。

 口端に笑みさえ浮かべながら、ゼンは敵を打ち倒さんと槍を振るう。

 

 

        ☆

 

 

 ──それは、まさしく災害だった。

 空へと逆さまに流れる海、降り注ぐ巨大な雹。斬撃は天を裂き、海を割ってなお留まることなく世界を揺らす。

 互いの能力だけで天変地異にも等しい影響を及ぼしながら、時折空中でぶつかった余波で海を荒れ狂わせる。

 

「テメェ、どこまでも厄介になりやがって──!」

「それはお互い様だ。わざわざお前の得意なフィールドで戦っている以上、文句は言わせんぞ」

 

 元より空中戦ならシキに分がある。

 その状態でも実力は拮抗している以上、地上での戦いならカナタに分があると取られても文句は言えない。たとえ天候が安定しない海域におびき出されていたとしても、それで揺らぐならそれまでの存在ということ。

 額に青筋を浮かべて両手に持った剣を振るい、切り刻まんと連続で振るう。

 

獅子・千切谷(しし・せんじんだに)!!」

 

 シキの能力で逆巻く海が水滴に分解されるほどの斬撃の嵐。

 まともに受ければミンチになるそれを、カナタは槍一本で受け切ってシキの目の前へと肉薄する。

 

「ぬるい。この程度で私を殺せると思うな──!」

 

 槍に覇気を纏わせ、海へと叩き落すべく振り下ろす。

 シキも同様に両手の剣に覇気を纏わせ、武器は直接ぶつかることなく覇気が衝突した。

 たった一撃で空を覆う雲の一部が吹き飛び、押し負けたシキがやや高度を落として海面すれすれを飛行する。

 

獅子威(ししおど)し──〝御所地巻き〟」

 

 切り裂いた海が獅子に形を変え、上空にいるカナタに喰らい付く。

 カナタは焦ることなく槍を一閃し、力任せに吹き飛ばして海上に降り立った。

 

「……ふむ。思ったよりぬるいな」

 

 かつてウォーターセブンで戦った時は、短時間の戦闘でも多くの傷を負っていた。

 しかし、今は傷一つ負うことなくシキの攻撃の全てを捌くことが出来ている。大きな成長という他に無いだろう。

 シキ本人を空から引きずり落とすには未だ至らないが、以前よりは肉薄できていると言っていいだろう。

 

「クソ……やっぱりあの時殺しておくんだったぜ。あの女の娘だ、強くなるのなんざわかり切ってたってのによ」

 

 イライラした口調でシキは葉巻に火をつける。

 先程までは雹が降ったり小雨が降ったりしていたが、今しがたのぶつかり合いで局所的に雲が吹き飛んだので雹も雨も止んでいた。

 風はそれほど強くないのでシキの能力への影響は大きくないが、元よりカナタは全力のシキを相手に戦うつもりで来ている。ここで退くことを良しとはしない。

 葉巻の煙が風に揺蕩う中、カナタはジッとシキを見つめて隙を窺っていた。

 

「おれを倒すにはまだ足りねェが……いずれ脅威になるとわかってるなら、ここで潰さねェ理由もねェな」

「出来ると思うのか? この程度で」

「抜かせ。お前が一番厄介だが──テメエの部下はそれほどじゃあねェようだからな」

 

 シキの視線の先には、一斉射撃によって炎上する一隻の船があった。

 カナタの部下──傘下に入った海賊の船だ。

 

「リュシアンは本人もそれなりに強いが、艦隊の指揮をやらせるに限る。おれの狙いをちゃんとわかってるからなァ」

 

 三隻連なった中で中央の船がやられたため、前方と後方に船が分断されている。

 進路を阻むように動いた艦隊からの砲撃を防ぐため、ソンブレロ号を先頭にしたことが仇になった形だ。

 これが数の力だ。

 部下一人一人はそれなりに強いかもしれないが、艦隊の数の前には屈するしかない。シキの強さはその艦隊にある。

 

「……これで私を追い詰めたつもりか?」

「いいや。オクタヴィアは仲間殺しをしても顔色一つ変えやしなかった。本人も殺してたしな。だからテメエにも期待はしねェ──だが、数を減らせばテメエの勢力は弱まるだろう?」

 

 たった一人で海を渡るパトリック・レッドフィールドという例外こそいるが、それを除けば海賊としての強さは勢力としての強さだ。

 勢力が減じれば、あとは他の海賊や海軍が勝手に追い込んでくれる。

 じわじわと周りから削っていくのが、この女には最適のやり方だと判断したまでのこと。

 そうでなくとも、カナタは前回の戦いから見ても仲間を重要視しているのは理解している。平静を欠けば覇気も揺らぐ。

 実に()()()だ。

 

「なるほど──お前のやり方は十分に理解した」

 

 ならばこそ、此処で殺すしかない。

 これ以上の被害を看過することが出来ないのなら、この場でシキの首を獲ることこそが最善手。

 冷静さを欠くことなく、怒りのままに覇気と能力を解放し──急激に周辺海域の気温が下がっていく。

 

「ジハハハ! なんだ、随分やる気になったじゃねェか!」

 

 笑うシキへと斬りかかり、シキはそれを剣で防ぐ。

 カナタの槍の軌跡を辿るように氷の刃が生成され、時間差でシキの手を休めることなく攻め立てる。

 吐息は白く染まり、極端なほどに低下していく気温に体の熱が奪われる。

 

「凍り付け──」

「甘ェな!!」

 

 全身を覇気で覆うことで体の内部を凍り付かせず、シキは返す刀でカナタの首を狙う。

 斬撃を避けることなく反撃に転じ、カナタの首が落ちると同時にシキの頬に一筋の傷が生まれた。

 直後にカナタの首から上が再生し、攻撃などなかったかのように動き続ける。

 

「そういや自然系(ロギア)だったな。厄介な能力持ってやがるぜ」

 

 武装色の覇気を纏えば自然系(ロギア)の能力者だろうとダメージを受ける。しかし、卓越した見聞色の使い手であれば武装色の攻撃さえ避けることは可能だ。

 シキの見聞色も相当なレベルだが、カナタの見聞色もまた未来視に至るほど卓越している。

 切り傷から血が流れることはなく、僅かに滲んだ血も極寒の環境のせいで凍り付いていた。これほど激変した環境の中では、シキほどの強者であろうと体力の消耗は避けられない。

 呼吸をするだけで肺が凍り付きそうになる。

 カナタは当然影響など受けず、先程と同じ──否、先程よりも技巧が精細になっていると言っても過言ではない。

 

「──斬波ァ!」

「──威国!」

 

 二本の剣から繰り出される十字の斬撃。

 僅かな溜めの後に放たれる巨大な斬撃。

 一瞬の拮抗の後に相殺され、直後に二人の影が交錯する。

 その衝突は雷鳴のように響き、拮抗する二人の力は空や海へと影響を及ぼしていた。

 

「ジハハハハ!! テメエがちんたら戦ってる間に、テメエの仲間は死んでいくぜ! 見てみろ! 炎上した船は沈んだ! 後二隻沈めればテメエらは全滅だ!!」

 

 上機嫌で刃を振るい、シキは次に狙われるであろうカナタの傘下の船を見て嘲笑う。

 カナタは目を細め──怒りのままに刃を振るった。

 連続してシキと剣戟を交わし、上空でぶつかる二人の姿が爆発した船の光で照らし出される。

 

「そら、自慢の仲間が沈んでいくぜ。気分はどうだ?」

「貴様──!」

 

 鍔迫り合いをするカナタとシキ。笑うシキは激情を煽ろうと口を開き──カナタの怒りが頂点に達した。

 気温が更に低下し、能力が暴走しているとも取れる状況になりつつある。

 その中で、爆発が連続して起こった。

 カナタの船は今しがた沈んだものを含めても三隻しかない。多少シキの艦隊に被害は出ているようだが、カナタの船からは距離のある位置だ。反撃で落とされる場所ではない。

 ()()()()()()

 ──答えはすぐにわかった。

 

「わはははは!! また会ったな、〝金獅子〟ィ!!!」

 

 その海賊船は二人の人魚像を船首に掲げ、シキにとっては見慣れた海賊旗が風になびく。

 大きさはソンブレロ号と比べれば小さいが、少数海賊である彼らにとっては十分な大きさを誇る。

 その船の名を、オーロ・ジャクソン号。

 掲げられた海賊旗と、聞こえてきた声にシキが激怒した。

 

「──ロジャー!! テメエ、何しに来やがったァ!!!」

 

 海賊、ゴール・D・ロジャー。

 いつでも快活に笑うその男は、シキの疑問に迷うことなくこう答えた。

 

「何しにだとォ? んなもん決まってんだろ!! 友達を助けに来たんだよ!!!

 

 ──ロジャー海賊団、参戦。

 




アプスはどちらかというとドゥよりグゥ寄りな感じで書いてます。

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