ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第七十七話:モベジュムールの海戦 その4

 ──感覚が研ぎ澄まされていく。

 一撃一撃が致死の攻撃であることは見なくてもわかる。確実に殺すつもりで、アプスは次々に鎖を生み出している。

 超人系(パラミシア)とは思えない能力だ。自分以外の物質を別の物質に変換するなど、今まで見たことがない。

 今まで以上に集中して、敵の感情を読み取り……どこを狙っているのかを正確に感じ取れなければ、一秒後には串刺しにされていることだろう。

 アプスにはそれが出来る力がある。

 

「まだ死なないのかい? 鬱陶しいな……!」

 

 ジュンシーの槍を武装硬化した腕で防ぎ、津波のように押し寄せる鎖がアプスの背後に回り込んだドラゴンへと向かう。

 身を捩ってギリギリのところでそれを回避し、攻撃を中断して後退するドラゴンへとアプスが追いすがる。

 一撃、二撃と拳をぶつけ合い、ドラゴンの足を鎖で絡めとって動きを封じ、心臓を狙って貫手が迫った。

 

「ぐ──!!」

 

 まずい、と冷や汗を流したその刹那──横合いから迫った刃がアプスの腕を止めた。

 

「彼女の仲間を殺させはせんよ」

「──シルバーズ・レイリー……何故君が邪魔をする!」

「そりゃあ、今回の我々はカナタの味方だからな」

 

 飄々とした態度を示す金髪の男──〝冥王〟シルバーズ・レイリー。

 ドラゴンを守るように間に入った彼は、手に持った剣を振るってアプスに向き合った。

 共に武装色の覇気を纏った武器をぶつけ合い、ビリビリと衝撃波を撒き散らして相対する。ドラゴンは間近でそれを浴びるが、足をからめとられているために動けない。

 如何にレイリーが強くとも、アプスもまた金獅子海賊団の最高幹部。覇気を纏った鎖はそうそう壊れはしないのだ。

 ゆえに。

 

「悪いが、少し手荒に行くぞ」

 

 ズバン!!! と──()()()()()

 鎖の基点になっているのはあくまでも船の方だ。なので、変質した鎖が断ち切れないなら足場を崩せばいいと船を叩き斬るレイリー。

 どうせ船は金獅子海賊団傘下のものだ。躊躇など必要ない。

 ドラゴンは緩んだ鎖から抜け出してすぐさまアプスから距離を取る。

 

「助かった。だが、何故アンタがここに?」

「カナタとは少しばかり縁があってね。色々偶然が重なってここに居合わせたわけだ」

 

 アプスから意識を逸らさず、しかし気になることだけを手早く確認する。

 「あいつは色んなところに接点があるな……」と半ば呆れながらも、今回はその縁に救われた形となる。何が命運を分けるかわからないものだ。

 船は斬撃でゆっくり沈みつつあるが、三人はうまくバランスを取りながらアプスの攻撃を避け続ける。

 

「一旦退くべきだ。シキの艦隊が相手では正面から相手をしてもキリがない」

「だが、あいつを放置すれば船の方に危険が行くぞ?」

「そこは君たちの腕の見せ所だな」

 

 どのみち防御を固めなければ危険なのは変わりない。

 ロジャー海賊団が参戦したせいか、リュシアンも本気で追い詰めにかかっている。遠目に見えるシキとロジャー、カナタの戦闘も激しさを増しているし、このままではいずれ巻き込まれるだろう。

 あの三人が本気で戦えば、多少離れた程度では安心も出来ない。

 

「我々もロジャーの足を引っ張るわけにはいかない。今は大人しく退くべきだと思うが──」

「──逃がすと思ってるのかい?」

 

 アプスが波濤(はとう)を思わせる程の鎖を生み出し、三人を絡めとろうと自在に動く。

 レイリーは巧みに剣を操って鎖を捌き、ドラゴンとジュンシーは沈みつつある船から一足先に離脱する。

 カナタ達の勝利条件は出来るだけ味方に損害を出さずに金獅子海賊団に損害を与えることだ。そういう意味で言えば、既に目的は達成できていると言えた。

 欲をかけば要らぬ犠牲まで強いることになるだろう。

 

「おれ達は先に船に戻る。アンタは?」

「何、君たちが逃げる時間くらいは稼ごう。炎上した船にいた仲間たちの救助に当たった方がいい」

 

 アプスと相対してなお余裕を見せるレイリーは、二人を逃がした上で時間稼ぎのために残った。

 その態度が気に入らないのか、アプスは沈みつつある船に鎖を突き刺してレイリーの足場を奪いながら追い詰めていく。

 レイリーはロジャーの右腕と呼ばれる実力者だが──アプスと大きく差があるわけではない。

 厳しい戦いだが、ロジャーが決めたことを補佐するのがレイリーの仕事だ。

 あの破天荒な男のやることに、呆れはしても文句などあろうはずもない。

 

        ☆

 

 

 レランパーゴの驚異的な頑丈さに辟易しつつ、ゼンは手助けに来たというスコッパー・ギャバンの手をありがたく借りることにした。

 ロジャー海賊団は誰もが個々に名を知られている。ロジャーやレイリー任せの海賊団では決してない。

 現に、手助けに来たギャバンはレランパーゴと正面から打ち合って戦っている。

 

「流石にロジャー海賊団。伊達ではありませんね」

 

 ゼンはレランパーゴの右手に持った戦斧を打ち払い、ギャバンは両手に持った手斧でレランパーゴの左手に持った戦斧を弾く。

 直後──爆撃のように降り注ぐ矢がレランパーゴを吹き飛ばした。

 

「うおっ、えげつねェな……援護はありがてェがよ」

「ヒヒン、彼女の弓の腕は一流ですから。援護は彼女に任せて一旦退きましょう」

 

 ドラゴンとジュンシーも既に船へと戻りつつある。ゼンも船に戻って防御に回るべきだろう。

 金獅子海賊団の船も多く沈んでいる。今なら切り抜けるのも難しくはない。

 どちらかが全滅するまで戦い続けるのでは、あまりにカナタたちに不利だ。

 空中を駆けるゼンは背にギャバンを乗せ、置き土産に船をぶった切って沈めていく。レランパーゴは能力者だ。海に落ちる可能性を増やしつつ、追いかけて来られないように道中で足場となる船を沈めておくに越したことはない。

 

「カナタの仲間ってのは変わった奴がいるもんだな……」

「そうですか? 確かに種族は色々いますが、彼女はそういう区分を気にしませんからね」

 

 巨人族にミンク族、それに手長族もいる。一時期は魚人も乗っていた。文化や生活様式に違いはあっても、言葉が通じるなら問題はそうそう起こらない。

 問題を起こすような輩は教育されることになる、というのもあるが。

 ゼンはギャバンを連れてソンブレロ号まで戻り、追ってくるレランパーゴはグロリオーサが迎撃する。

 

「戻りました! 状況はどうですか?」

「最悪だ! 怪我人は医務室にやったが、敵の攻撃がここに来て激しくなってやがる!」

 

 吐き捨てるようにジョルジュが告げ、直後に飛んで来た砲撃を剣で迎撃する。

 敵の船は減って弾幕も薄くなっているはずが、ここに来て更に砲撃が過密になっていた。

 主戦力が乗っているソンブレロ号でこれなのだ。後方にいる傘下の船では言うまでもない。

 防衛に全戦力を割いてようやく防いでいる。このままではもう一隻沈められるのも時間の問題だろう。

 

「──まずい、また来るぞ!」

「クソ、デイビット! 壁になれ!」

「合点承知!」

 

 無数の砲弾を相手にデイビットが船から飛び出して壁となり、大爆発を引き起こす。

 次々に誘爆して爆風が吹き荒れるが、これくらいなら何とでもなる。デイビットは〝ボムボムの実〟の能力者であるために爆発が効かないので、単純だが有効な手段だ。

 肉壁の如き防ぎ方にギャバンが呆れた様子でそれを見ていると、アプスと戦っていたドラゴンとジュンシーもまた船へと戻ってきた。

 

「レイリーがそっちに行ったはずだが、どうした?」

「おれ達が逃げるための時間を稼ぐ、と」

「そうか。まァあいつなら心配いらねェだろ」

 

 それだけの実力があると信頼している。

 今はそれよりも、金獅子海賊団から逃げるほうが優先だ。

 

「ロジャーと〝金獅子〟がまともにぶつかってる今、あそこに近付くのは危ねェ。どうにか回収して逃げてェところだが……」

「追いかけてくる〝金獅子〟をどうするかが問題だな」

「あれはカナタも相当ヒートアップしてるぜ。退けと言って素直に聞くかどうか」

 

 普段は冷静だが、頭に血が上ると何をしでかすかわからない。

 大局が見えていないわけでは無いはずなので、言えば聞くと思うが……仲間を逃がすために単身センゴクに立ち向かった前科もある。ましてや相手は〝空飛ぶ海賊〟のシキだ。

 ロジャー共々残って戦うと言い出しかねない。

 

「ロジャーもその辺りは考えて……いや、どうだろうな」

 

 あれはあれで何も考えずに突っ走るタイプなのでタチが悪い。

 作戦とか、そういうものを考えられるタイプでもないので成り行きに任せるしかないのかもしれない。

 負けることだけはないと断言できるのが救いか。

 

「サシで戦えばロジャーが負けることはねェだろうが、カナタがどこまで戦えるかだな」

「……それ以前にあの二人、連携とか出来るのか?」

 

 全員が押し黙る。

 ロジャーもカナタも突出して強いがゆえに他人と合わせる戦い方をしてこなかった。カナタの方はまだ船員と協力することはあるが、ロジャーとの連携などいきなりでやれるわけがない。

 

「……これ、実は結構まずいんじゃねェか?」

 

 ギャバンは冷や汗を流して呟いた。

 

 

        ☆

 

「沈め、ロジャー!!」

「わははは!! この程度でおれを倒せると思ってんじゃねェ!!!」

 

 シキとロジャーの、互いに武器に纏わせた覇気がぶつかった。

 海上に浮かぶ氷の大地は衝撃でひび割れ、ロジャーは浮かぶ足場を転々として海に落ちるのを回避する。

 シキはその能力で海を操り、いくつもの獅子がロジャーの後を追う。

 

「カナタ! そっち頼んだ!」

「便利屋扱いだな、全く!」

 

 追いかけてくる獅子を一息に凍らせるカナタ。

 動きの止まった獅子の氷像をロジャーが剣を一振りして砕き割り、カナタが再び作り上げた氷の大地を疾走する。

 先程から似たようなことの繰り返しだ。海の上という不安定な足場では、どうしてもロジャーの動きが制限されてしまう。実力はあってもそれを活かす場所がこれではどうしようもない。

 

「ええいクソ、厄介だな! お前なんとか出来ねェか!?」

「無茶を言うな。私だってどうにもならないから奴に合わせて空中戦をやってるんだ」

「どうにか引きずり降ろせばこっちのものなんだがな……」

「まるで地上戦ならお前の方が強いみてェな言い草じゃねェか! えェおい!」

 

 斬りかかってきたシキの剣戟をカナタが受け止め、鍔迫り合いに持ち込んだ。

 直接武器同士がぶつかることは最早なく、武器に纏わせた武装色がどれだけ強いかで優劣が決まる。その点で言えば、確かにシキは世界でも一、二を争う実力者だ。

 しかしカナタも押し負けてはいない。

 武装色の覇気を重ねて纏うことで青紫色に変化しており、覇気による強化のおかげでシキにも力負けしていないのだ。

 

「小賢しい真似だ。それが何時まで続くか見物(みもの)だなァ!!」

「そう易々と落とされるものか。今回はお前の首を落とすために来たのだからな……!」

 

 追いかけられることには慣れているが、いつまでもこの状況を続けるのは無理がある。

 特にカナタは色々な事情で敵が多い。潜在的なものまで含めればキリがないほどに。

 母親関連でシキやリンリンに追われ、それに加えて天竜人関連で海軍にも追われる。恐らくロックス繋がりで潜在的には〝白ひげ〟も敵だ。

 広い海でも五指に入るほどの実力者たちがこぞってカナタを追っている。出来る事なら一つでも多く潰しておかなければ、困るのはカナタなのだ。

 それもこれも全て〝ロックス〟のせいだ。

 ……天竜人に関しては自業自得だけれど。

 

「ここでお前の首を獲る。リンリンも、いずれは〝白ひげ〟もな」

「ほう! 吼えるじゃねェか! リンリンはともかく〝白ひげ〟は強ェぞ。おれとタメを張るくらいにはな!」

 

 鍔迫り合いから一歩引き、連続した剣戟でカナタを攻め立てる。

 既に何度も見た剣術だ。真似できるくらいには熟知している。

 涼しい顔で捌きながら、カナタは狙いを定めた。

 

「どのみち敵に回るだろう。お前たちは皆、あの女のことが嫌いらしいからな」

「ジハハハハ! そりゃあそうだ! あの女が嫌いなら当然、お前に矛先が行くよなァ!!」

「だから殺すんだ──〝神戮〟」

 

 覇気と悪魔の実の能力を武器に重ねる。黒く染まった槍の周囲の空気が一層冷たくなり、横薙ぎに振るわれた刃は急激に空気を冷やしてダイヤモンドダストを作り出す。

 オクタヴィアが使ったそれは雷を纏っていたが、カナタの使うそれは冷気を纏う。

 触れた傍から凍り付く、絶対零度の斬撃。

 ()()()()()()()()だ。

 

「──ッ!!?」

 

 ダイヤモンドダストが空気中に煌めく。

 斬撃は吸い込まれるようにシキの首へと走り、覇気を纏った刃がカナタの槍を防ぐ。

 二つの刃は甲高い音を立ててぶつかり合い、同時に触れた場所からシキの肉体へと冷気が迸って肉体を一瞬で凍り付かせた。

 動きが止まったシキの首へと、再び別の角度から槍を走らせる。

 

「──ッ!!」

 

 シキは内側から覇気を放出することで凍り付いた体を無理やり動かし、カナタの槍を二本の剣で受け止めた。

 

「テメェ……その技、オクタヴィアの……!!」

()()()()()()()()()()()()()。誰に言っても理解されないがな」

 

 元より体格も同じで血も繋がっている。親が出来るなら子に出来ても不思議ではない。

 こればかりはカナタにも修練無しに使えなかったほどの技だが、それでもシキを追い詰めることが出来る程の力だ。

 まともに受ければ体力の消費は免れず──そして当然、この隙を見逃すロジャーではない。

 

「おれもいるんだぜ、忘れんな!!」

「! ロジャー!!」

 

 カナタの槍を弾き、咄嗟に反転してロジャーと武器をぶつけ合う。

 だが、今度はカナタに対して無防備な姿を見せつけることになった。

 

「クソ──」

「──その首、貰うぞ」

 

 目にも留まらぬ一閃。

 剣による防御は間に合わないと判断したシキは、僅かに体を逸らして鎧のように覇気を纏った。

 覇気を纏えば鋼鉄にさえ負けぬ硬度を得られる──ただし、それで防げるのは相手が格下だった場合のみ。

 同格かそれに近い実力者なら、シキの覇気を打ち破ってダメージを与えられる。

 シキの纏った覇気を突き破り、その斬撃はシキの額を深々と切り裂いた。

 

「──ぐ、がァァァ……! クソがァ……!!」

 

 斜めに切り裂かれた傷から血を流し、シキは憤怒の形相を浮かべながら後退する。

 一度ならず二度までも、後れを取った不甲斐ない己に激怒した。

 例えロジャーとカナタの二人がかりであったとしても、海賊ならば卑怯などという言葉は存在しない。ただ、その二人を跳ね除けられなかった己が弱かったと断じるのみ。

 僅かに距離を取ったシキに対し、カナタとロジャーは肩を並べてシキを睨みつける。

 

「このまま押せば奴の首を獲れそうだな」

「いや、難しいと思うぜ。おれ達はともかく、()()()がな」

 

 くいっと親指で仲間たちの乗る船の方を指さし、「あっちはだいぶ危ねェし、追い詰められた金獅子も手強いぜ」とロジャーは言う。

 シキの首を獲れても、仲間たちが全滅したのでは意味がない。

 カナタもその辺りはまだ冷静なのか、このチャンスをふいにしても仲間たちを守る方に天秤が傾いた。

 

「……背中は任せた。私は船までの道を作る」

「おう、任せろ!」

 

 海を凍らせて足場とし、船までの道を作る。

 おそらくシキは追ってくるだろう。多少傷を負わせたとはいえ、それだけで落とせるほど容易い相手では無い。

 それゆえにロジャーに後ろを任せ、カナタは道を作りながら船へと急ぐ。

 

「おれが逃がすと思ってんのかァ!!?」

 

 空を飛ぶシキは怒りに任せて大津波を引き起こし、自身の艦隊すら飲み込まんとしている。

 だが、それだけならば対処は容易だ。

 

「ロジャー、少し冷えるぞ。覇気で防御しておけ」

「ん? おお、わかった!」

 

 ロジャーに忠告をして、カナタはその能力を使う。

 片手を振ればシキの引き起こした大津波を一息に凍らせ、天に手を掲げればたちまち雲が集まって雪を降らせる。

 雪に触れれば人であろうと船であろうと凍り付く紅蓮の華。

 

「ほう、こりゃスゲェな!」

「迂闊に触れるなよ。この力は見境が無いんだ。お前も凍るぞ」

「なんつーことしてんだお前!?」

 

 降ってきた雪に驚き、それに触ろうとするロジャーをカナタが窘めた。

 シキを足止めするためとはいえ、敵味方の見境なく凍り付かせるような力を振るうとは思わなかったらしい。

 ロジャーが白い息を吐きながらカナタの後ろを走り、時折背後を確認してシキが何かしてこないかを見張る。

 カナタの生み出した雪が鬱陶しいのか、随分と動きが鈍い。

 

「しかし、逃げると言ってもどこに逃げるんだ?」

「どっか適当な島に逃げ込めばいいだろ。ここから少し距離があって撒くのに都合のいい島に心当たりはあるか?」

「……出来るなら人がいない島がいいだろうな。となると、永久指針(エターナルポース)があるのは〝ハチノス〟くらいか」

「よし、じゃあそこにするか」

 

 シキが能力で浮かせては放り投げてくる氷の塊を処理しながら、カナタとロジャーは行き先を決める。

 シキ一人だけが追ってくるならいくらでも対処のしようはある。艦隊さえ足止めしてしまえばこちらのものだ。

 

「先に船に戻っていろ。私は敵の艦隊を足止めする」

「わかった。おれたちはお前らの後を追いかける」

 

 オーロ・ジャクソン号までの道を氷で作り、カナタは次の動きを指示しなければならないので一度ソンブレロ号へと戻る。

 今回はクロが操舵を担当しており、永久指針(エターナルポース)を使って〝ハチノス〟へ行くようにとスコッチとジョルジュ含めて告げておく。

 カナタは一度船を降りて敵の艦隊の足止めに向かい、広範囲を一斉に凍らせて身動き一つ取れないようにすると、近くの船でレイリーが戦っているのを発見した。

 敵の幹部と戦っている彼も回収しなければならないだろうと思い、寄り道に走る。

 

「──レイリー、手助けはいるか?」

「カナタ! シキの方はいいのか?」

「奴も追ってきている。離脱するなら早い方がいい」

「逃がすつもりは無いと──何度言わせる気だい?」

 

 足場となっている船が変質して鎖が現れ、カナタの体を串刺しにしようと狙いを定めた。

 

超人系(パラミシア)か? だが、それにしては妙な能力だ」

 

 己が変質する、あるいは己の体から何かを生み出すのが超人系(パラミシア)の特徴だ。元からある物質を別の物質に変化させる能力が果たして存在するのか?

 疑問はあるが、それは今考えるべきことではないと思考を切り替え、槍を片手にアプスの懐へと入り込んだ。

 一斉に動いた鎖がカナタの体を串刺しにするも、カナタはそのまま武器に覇気を纏わせて思いきりアプスへと叩きつけた。

 

「──吹き飛べ」

 

 横薙ぎに振るわれた槍はアプスの体を容易に吹き飛ばし、遠くにある別の船に衝突する。

 突き刺さった鎖を引き抜き、貫かれた部分を氷が覆って元通りになった。体を流動的に変化させて避けたので、貫いたように見えてもダメージはない。

 

「今のうちに移動する。こっちだ」

「あ、ああ……仮にもあの男は金獅子海賊団の最高幹部だったのだが……見違えたな」

 

 アプスに油断があったわけでは無いだろう。

 ただ、カナタの実力が昔と比べて尋常ではなく上がっているだけ。

 「今ではおれより強いやもしれんな……」と哀愁を漂わせるレイリーだが、それに気付くことなく一足先に海の上に降り立つカナタ。

 ひとまずレイリーもソンブレロ号に乗せ、ギャバン共々砲弾の迎撃にこき使ってやることにした。

 

「追え!! たった数隻、何故仕留め切れねェ!!」

 

 激怒するシキの言葉にリュシアンたちも必死に追いすがるが、カナタの遅延工作にやられて船が動かない。

 シキの能力で船を浮かべて空を移動させようとするも、この気紛れに天候が変わり続ける海域では何十隻もある艦隊を浮かせたところで移動も覚束ない。

 

「今回はここまでだ。次は一隻残らず沈めてやるから覚えておけ」

「カナタァ!!!」

 

 笑うカナタに怒るシキ。

 ──かくして、後の世にモベジュムールの海戦と呼ばれる戦いは幕引きとなった。

 

 

        ☆

 

 

 魔女の一味の被害は船一隻。

 対し、金獅子海賊団の損害は数十隻。半壊と言っても過言ではないその戦果に、近海で監視していた海軍も息をのんだ。

 世間を騒がすロジャー海賊団と新進気鋭の魔女の一味が海賊同盟を組んだと言ってもいい状況に、海軍、世界政府の誰もが頭を抱えることになる。

 




もっといろいろ書こうと思ってたんですけど、これ下手すると一章丸々使うなと思って短めにしました。原作まであんまり長すぎると私のモチベーションも落ちかねないので。

あとガープは突っ込もうとしてセンゴクに押さえつけられてました。
次話は戦後処理(の予定)

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