ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第七十八話:宴

 ──金獅子海賊団、ロジャー海賊団及び魔女の一味と衝突。

 一面に大きく見出しが付けられた新聞は世界各地に届けられ、この大事件は瞬く間に世間に知れ渡ることとなった。

 戦場となったモベジュムール海域は以前にもまして気紛れな天候を引き起こす〝新世界〟でも有数の危険地帯となり、如何にこの三つの海賊団がぶつかった影響が大きかったのかが窺い知れる。

 新聞を運ぶカモメは西へ東へ空を渡り、各地の人々にその新聞を受け渡す。

 西の海(ウエストブルー)のとある考古学が盛んな島では、考古学者の女性が友人の元気そうな姿に安堵し、また上がった懸賞金に心配そうな顔を覗かせ。

 同じく西の海(ウエストブルー)のとある酒造が盛んな島では、〝新世界〟のゴタゴタを嫌った大海賊がしかめっ面で見知った顔の写る新聞を読み。

 北の海(ノースブルー)のとある島では、聖地から降ろされた天竜人の少年が憎悪の籠った目で新聞を読み漁り。

 偉大なる航路(グランドライン)の入り口、〝双子岬〟では「彼女らは元気にやっているようだ」と医者が笑いながら鯨に話しかける。

 ──そして。

 偉大なる航路(グランドライン)の前半、〝楽園〟と称されるその海でも特に医術の発展した島では、一人の女性が新聞を読んで目を細めていた。

 

「…………ロジャー、か」

「知り合い? 随分と目つきが悪いようだけど」

「知り合いと言えば知り合いだな。何度も殺し合った仲だ」

 

 かつてロックスと敵対し、その野望を阻んだ男。

 オクタヴィアとしても思うところはあるが、今は相手をするつもりは無い。

 

「あの子が選んだ道だ。今更口出しする資格もなかろう」

「うーん……親なら心配するのが普通、だとは思うけどね」

 

 カテリーナは机の上に散乱する医学の資料を片付けながら返答する。この家の主であるくれはは現在外出中で、その間に部屋の掃除を終わらせなければならない。

 オクタヴィアと二人で作業していたが、新聞が来た途端に手を止めて新聞を読み始めたのでカテリーナが忙しくなっていた。

 

「もー、先に片付けしようよ。早くしないとくれはさん帰ってくるよ?」

「……そうだな。あの子も無事ではあるようだ。心配は不要だろう」

 

 新聞を机の上に置き、自由に動くようになった左腕で重い物も難なく動かして掃除を終える。

 しばらくしてくれはが帰ってくると、机の上に置かれた新聞に気付く。

 くれはは暖炉の前に置かれた椅子に座り込み、眼鏡をかけてゆっくりと新聞を読む。

 

「ヒッヒッヒ。あの小娘も随分有名人になったもんだね」

「私の娘らしいといえば、そうかもしれないな」

「トラブルメーカーなのは母娘揃ってかい。厄介な体質さね……ところで、あんたはいつまでここにいるんだい?」

 

 左腕はとうに完治している。この島にいる理由も、くれはの下に居続ける理由ももうないだろう。

 暇なときにカテリーナへ医術を教えたりもしたが、彼女はまだ子供だ。初歩の初歩を教えただけで大したことはまだできない。

 「まさかこのまま居付くつもりじゃないだろうね」と睨みつけると、オクタヴィアは肩をすくめて否定した。

 

「私がいる理由はもうない。特に行く場所もなかっただけだ……折角だ。〝新世界〟にでも行くか」

「娘さんに会いに行くの? いいね、私も会ってみたい!」

「まだついてくるつもりか?」

 

 このままくれはの下で医術を学びながら過ごす方がいいんじゃないか、と暗にオクタヴィアは残ることを勧める。

 だが、カテリーナは首を横に振った。

 

「私もこの広い海を色々見て回りたいんだ。ね、いいでしょ?」

「……足手纏い一人くらいならどうにでもなるが、死んでも知らないぞ」

「大丈夫。オクタヴィアは強いしね!」

 

 ウインクしながらサムズアップするカテリーナに思わずため息をこぼすオクタヴィア。

 これは言っても聞かないなと判断し、連れて行くことを決めた。

 

「旅をするなら目的がないとね! どこか行きたいところとかある?」

「それはむしろお前に聞きたいところだが……そうだな、〝新世界〟に行くなら〝ハチノス〟に一度は行っておきたい」

「何かあるの?」

「大した物はない……だが、ジーベックの墓代わりに置いてきたものがある」

 

 しばらく行っていない。感傷に浸るつもりはないが、一度くらいは顔を出すべきだろうと思い。

 

「じゃあ、まずはそこだね!」

 

 そんな感じで、二人は〝ハチノス〟を目指すことにした。

 

 

        ☆

 

 

 昼間から酒の匂いが充満している。

 生きるか死ぬかの瀬戸際だったこともあり、今回ばかりは頑張った皆に酒と食事を大盤振る舞いしていた。

 戦闘員たちは軒並み疲れて先程まで眠っていた。カナタの船には非戦闘員も多く乗っているので、食事の用意などもそれほど苦にはならなかったのが幸いか。

 ロジャー海賊団も交え、勝利の酒宴が開かれる──前に、カナタたちは一度集まってやっておくべきことがあった。

 今回の戦いで死んだ者たちへの弔いである。

 

「ギーク、ジェット、ロズ──」

 

 船一隻が沈められた。傘下の海賊の船であり、それなりに船員が乗っていた船だ。

 ある程度は助けられ、治療を受けて生き残った者もいる。彼らはカナタの後ろに包帯でグルグル巻きにされたまま立ち並んでいた。

 カナタは死んでいった者たちの名前を一人一人読み上げ、最後に手に持った花を海へと投げる。

 海賊だ。死ぬこともある。

 弔いは生きている者から死んだ者への別れの儀式だ。蔑ろには出来なかった。

 簡素ではあるが、やらないよりはマシだろう。

 そうやって弔いを終え、昼を幾何か過ぎた時間帯から酒宴が始まった。

 

「金獅子の首は取れなかったが、今回はおおよそ我々の勝利と言っていい。今は勝利の美酒を味わえ──乾杯!!」

『乾杯!!!』

 

 ロジャー海賊団と合同で始まった酒盛りは盛大に。

 〝ハチノス〟の一角に用意された大量の酒と食事を前に、誰もが酔いしれ、歌い、自分が生き残ったことを実感する。

 普段は酒を飲まないカナタも、今回ばかりは酒を口にしていた。

 

「また懸賞金が上がったな」

「そりゃァ上がるだろ。〝金獅子〟をあそこまで正面から追い詰めたのはお前らくらいのもんだぜ」

 

 多くの海賊が挑み、蹴散らされてきた。あるいは力の差を思い知らされて部下になった。

 その中で多大な戦果を挙げて己が強さを示したのだ。懸賞金が上がるのも道理と言う他に無い。

 ロジャーは機嫌よく酒を飲みながら、カナタの手元にある手配書に目をやる。

 

「お前の仲間も、結構なタマ揃いなんだな。だが……」

「非戦闘員も多い。戦力を集中させたのも、本船だけは絶対に沈められるわけにはいかなかったからだ」

 

 女子供もそれなりにいる。

 ロジャー海賊団の船にも子供はいるようだが、彼らは同い年くらいのカイエと話しているようだった。

 こちらの視線に気付いた二人の少年──赤い髪の少年と、赤い鼻の少年がジュースを片手にこちらに駆け寄ってくる。

 

「バギーとシャンクスもまだまだガキんちょだからな。仲良くしてやってくれ」

 

 笑うロジャーに、カナタも「子供の扱いなど慣れていないのだが」と口ごもりつつも承諾する。カイエの世話は基本的にグロリオーサがやるのでカナタの出番はない。

 それ以外の子供は居るには居るが、それこそ非戦闘員の女衆が面倒を見ているのでカナタが出る幕などないのだ。

 

「船長、おれ達の事話してた?」

「そのツマミ貰っていい?」

 

 シャンクスがロジャーに問いかけ、バギーが目の前に置いてあるツマミをひょいひょいと手に取って食べ始める。

 「行儀が悪いから座って食べろ」とカナタが言うと、「海賊だから行儀なんか気にしねェ!」と反論する。

 生意気なのでゲンコツを落として黙らせた。

 

「いってェーー!! 何すんだよ!!?」

「屁理屈を言うな。海賊だろうと貴族だろうと、マナーというのは相手を不快にさせないためにあるんだ」

「わはははは! 固いこと言うなよカナタ。ガキのやることだ」

「こういうことは子供だからこそ言っておくべきだと思うがな」

 

 三つ子の魂百までともいうし、子供のころからきちんと教育しておくに越したことはない。もし堅気に戻るつもりなら一般的なマナーくらいは知っておいた方がいい。

 まぁ、その辺りは船長であるロジャーの決めることだ。カナタが口を出すべきではないだろう。

 ロジャーの背に隠れたバギーはそろそろと手を伸ばしてツマミを取ろうとするが、カナタが見ているのに気付くとサッとロジャーの背に隠れた。

 

「何やってんだよバギー。座って食べればいいだろ」

「うるせェ! またゲンコツしてくるかもしれないだろ!」

「ちゃんと座って行儀よく食べれば何も言わないさ。な、そうだろカナタさん」

「ああ」

 

 シャンクスはロジャーの隣に座り、ツマミに手を伸ばしてパクパクと食べ始める。

 カナタが何も言わないので、バギーはロジャーを挟んでシャンクスと反対側に座り、ツマミとしておいてある海王類の肉を食べ始める。

 酒のツマミなのでやや塩辛く固いが、そこは飲み物片手に食べるものなので問題ない。

 カナタの横に置かれた新聞に気付いたシャンクスは、「それ、今日の奴? 見てもいいか?」と問いかけた。

 

「構わない。私とロジャーが海賊同盟を結んで〝金獅子〟と戦ったのではないか、という飛ばし記事が書かれているだけだがな」

「? 船長、同盟結んだの?」

「結んでねェ! 新聞屋が勝手に言ってるだけだ。わはは、勝手に言わせとけ」

 

 あくまで今回のことはロジャーが偶然、カナタとシキが戦っているところに割り込んだだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。

 世界政府や海軍としては記事が本当なら頭が痛いことだろうが。

 

「懸賞金も凄いことになってる」

「ああ。うちの連中は軒並み懸賞金が上がっているな。ロジャーの方はそうでもない」

 

 途中参戦したからか、それとも元からシキと同格とみなされているからか……理由としては後者の方が可能性が高い。

 シャンクスは新聞に挟まれた手配書を取り出し、パラパラとめくり始める。

 〝尖爪〟サミュエル──懸賞金7500万ベリー。

 〝爆撃〟デイビット──懸賞金9000万ベリー。

 〝暴風〟スコッチ──懸賞金9500万ベリー。

 遂にサミュエルやスコッチにも懸賞金がかけられた。〝金獅子〟の艦隊を相手に大暴れした以上、海軍としても見逃せない実力者だったのだろう。

 

「ジョルジュの奴には懸賞金が付かなかったが、あちらも時間の問題だろうな」

「実力はあんのか?」

「それなりだ。シキのところの大都督ほどではないがな」

 

 アプス、レランパーゴ、リュシアンの三大都督。

 シキの艦隊をより強靭なものとしている実力者たちだ。この三人と立ち向かえるレベルの実力者なら、億超えは当然だった。

 〝天蓋〟グロリオーサ──懸賞金1億3800万ベリー。

 〝竜爪〟ドラゴン──懸賞金2億5500万ベリー。

 〝巨影〟フェイユン──懸賞金2億8000万ベリー。

 〝六合大槍〟ジュンシー──懸賞金3億8000万ベリー。

 〝赤鹿毛〟ゼン──懸賞金4億ベリー。

 誰も彼もが相応の実力者。億を超えればそうそう上がらない懸賞金も相当上がっている。

 ドラゴンは今まで懸賞金がかけられていなかったのが不思議だったが、とうとう懸賞金をかけられたらしい。

 

「〝金獅子〟の奴をあれだけ派手にブチのめしたんだ。お前の懸賞金がこれだけ上がるのも当然って話だぜ」

 

 ロジャーは酒の飲みすぎで赤くなった顔のまま、シャンクスが見ていた手配書を一枚とる。

 〝竜殺しの魔女〟カナタ──懸賞金22億4000万ベリー。

 

「──これだけの金額を懸けられた賞金首なんざ、そうそう見ねェ。〝金獅子〟とあれだけやり合ったお前の強さを、誇っていいと思うぜ」

「自分を卑下するつもりはない。次会えば奴の首も落としてやりたいところだが」

「あいつのお前に対する執着も相当だが……お前もあいつに恨みでもあるのか?」

「私の方は恨みも何もない。降りかかる火の粉を払っただけだ……奴は私の母親が嫌いなんだと。部下になるなら良し、ならないなら海の藻屑にすると言ってな──二度撃退した」

「わははははは!! 何だ、女絡みか! お前の母親ならさぞ美人だっただろうな!」

「お前も会ったことがあるはずだぞ」

「んん? いや、おれは覚えがねェが……」

「私の母親はオクタヴィアだ」

 

 ブーッ!! とロジャーが口に含んだ酒を吹き出した。

 バギーとシャンクスはロジャーが酒を吹き出したことに驚いてひっくり返り、カナタは自分の方に酒がかかりそうだったので氷で壁を作っていた。

 ゲホゲホと咳き込むロジャーは、びっくりした顔でカナタの方を見る。

 

「母親がオクタヴィアだと!? じゃあお前、あの女の娘か!?」

 

 酒に酔っているせいか、若干言葉遣いが怪しい。

 それはともかく、ロジャーはどうしてもそこが気になるようだった。

 

「そうだと言っている。父親も母親もロクデナシだ」

 

 カナタは「改めて考えるとロクデナシばかりの血筋だな」と自虐するように笑う。

 父親も母親も世に名を知らしめた悪党だ。系譜を辿ればそういう者たちばかりが出てくるだろう。

 カナタ自身も今や立派な賞金首なので、人のことをとやかく言える立場でもないのだが。

 

「……そうか……お前が、あの女の……」

 

 ばたんと後ろに倒れるロジャー。

 シャンクスとバギーは心配そうにロジャーの顔を覗き込むが、ロジャーはすっかり酔いが醒めた様子で起き上がった。

 そのまま立ち上がってカナタの周りをグルグルと回りながら確認し、またカナタの対面に座り込む。

 

「言われて見りゃあ後ろ姿はそっくりだな」

「ロックス海賊団の連中は私の顔を見るなり、母親が奴だと看破したが」

「オクタヴィアはずっと仮面をつけてた。素顔を知ってんのは同じ海賊団だった奴くれェだろ」

 

 そういえば悪趣味な仮面をつけていたな、とウォーターセブンで会った時のことを思い出す。

 ロジャーは顎をさすりながら海王類の肉を摘むカナタの顔を見て、「しかし」と口にする。

 

「よく似てるが、どれだけ似ててもあいつとは全然雰囲気が違うな……」

「……私は一度しか会ったことがないから、その辺りのことはわからんな」

「そうなのか? あいつはもっとこう……擦れたというか、弱い奴に興味ない、みたいな感じだったような……」

 

 ロジャーの記憶の中にあるオクタヴィアはカナタよりももっと苛烈な性格だったらしい。

 仲間殺しが絶えないとされるロックス海賊団にいたのだ。彼女が仲間を大事にするタイプではないことくらいは容易に想像できる。

 カナタとは正反対のタイプだ。

 

「じゃあ父親は……」

 

 誰なんだ、と聞こうとして口を閉ざした。

 親に対してあまりいい感情を抱いていないとはいえ、流石に自分が殺した相手を教えろというのもどうなんだと思ったらしい。

 あー、とかうー、とか言い淀んだ挙句、「やっぱりいい」と頭を掻いて誤魔化す。

 一人で百面相するロジャーにカナタは思わず笑い、シャンクスとバギーにも「船長一人で変顔してる」と笑われていた。

 

「うるせェ! それよりカナタ、お前らは次はどうするんだ?」

「どうする、とは?」

「逃げ回るだけかって聞いてんだよ。旅の目的とかねェのか?」

「そうだな──ひとまず、〝水先星(ロードスター)島〟を目指している。その後は辿り着いた後で考えるつもりだ」

「〝水先星(ロードスター)島〟か」

 

 現状、記録指針(ログポース)を辿って行き着く最後の場所とされる島だ。

 何はともあれ世界一周。その後は様々な海を観光目的で回るのも良し、どこか居心地のいい場所を見つけて居座るも良し、だ。

 

「いいことだ。逃げ回るだけなんざ楽しくねェからな。海賊やってるからには自由でなくちゃならねェ!」

「海賊を自称しては……いや、もうこの言い訳も通じんな」

 

 今となっては広く知られた悪党だ。海賊ではないなどと言ったところで理解されはしないだろう。

 海賊を自称して何か不都合があるわけでもない。この辺りが頃合いだ。

 とは言え、すぐに名前が思い浮かぶわけでは無いので保留にしておくが。

 

「最終的には……そうだな。ロックス海賊団の生き残りを倒して回るか」

 

 父親の尻拭いなど御免被るが、今のところシャクヤク以外のロックス海賊団の船員は誰も彼もがカナタに良くない感情を向けている。

 いつまでも襲われるのは面倒なので、こちらから先に潰して回るのがいいかもしれない。

 シキとて、正面から戦えば厄介だが取り巻きの艦隊をこまめに潰していけばいつか倒せる。それに劣るリンリンなど言うまでもない。

 〝白ひげ〟は未だ未知数だが……強さはともかく、ロックスの船に居たという時点で性格は期待しないほうがいいだろう。

 

「ニューゲートは強いぜ。おれと同じくらいにな」

 

 にやりと笑うロジャー。

 対するカナタも笑みを浮かべる。

 

「なら倒せるな。今は無理でも、追いつける強さだ」

「わはははは!! 言うじゃねェか!!」

 

 大笑いするロジャーの隣では、シャンクスとバギーが不機嫌になっていた。

 ロジャーを倒せると言ったのが気に食わなかったのだろう。

 

「船長がお前なんかに負けるか! ロジャー船長は最強なんだぜ!」

「そうだそうだ! ロジャー船長は最強だぜ!!」

「時代は変わるものだ。かつて最強と呼ばれた海賊も、ロジャーとガープに倒されて移り変わった」

 

 ロジャーも、いずれはそうなる。カナタだっていずれは敗北するときが来るだろう。

 その時が何時になるかはわからないが。

 カナタの言葉にシャンクスとバギーは押し黙る。ロジャーも神妙な顔で顎をさすり、「ロックスか」と呟いた。

 

「だが、あいつに関しては世界政府が執拗なほどに情報統制をしたはずだ。まだ若いお前が良く知って──」

 

 ロジャーの言葉は、途中で途切れた。

 シャンクスたちを見ていた瞳が、ロジャーの方を向いたからだ。

 雰囲気も顔立ちも性格も、何もかもが全く違うロックスとカナタだが──唯一、その瞳の色だけは共通していた。

 過去、ロジャーの前に立ち塞がった最大最強の敵。海軍と協力することでようやく倒せた当時最強の海賊。

 そして、母親だというロックス海賊団出身の女。

 すべてが、繋がった。

 

「──お前、まさか……」

「気軽に名前を口にするな。バレると色々面倒なんだ」

 

 カナタは思い出すのも嫌そうな顔で酒を呷る。

 確かにバレれば海軍は今まで以上に執拗に追いかけるだろう。それくらい厄介な血筋だ。

 なるほど、とロジャーは腑に落ちた。シキがあれほど執着するわけだ。

 かつて一度だけ船長と認めた男。実力は自分以上だと嫌でも認めざるを得なかった女……シキにとって、カナタという存在は限りなく〝期待値が高い〟存在なのだろう。

 ロジャーではシキの内心を推し量ることは出来ないが、何となくそう感じていた。

 

「……お前も、色々と難儀してんなァ」

「遅かれ早かれバレるだろうがな。結局、私に平穏な生活は無理だったということだ」

 

 カナタは溜息を吐いた。

 日は沈みかけ、夜の帳が落ちようとしている頃合いだった。宴はまだ始まったばかりで、周りは酷く騒がしい。

 夕暮れの陽光は眩しく、沈みゆく太陽がカナタに丁度重なる。

 影になって見えないその少女の顔に──雰囲気も何もかもが違う、かつての敵の姿が重なった。

 




備考
シャンクス 7歳
バギー   7歳

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