ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第七十九話:二日酔い

 宴の翌日。

 大盛り上がりを見せたロジャーたちの宴も終わり、酒臭い息をまき散らしながらゾンビのようにうろうろする船員たちが各所に見られた。

 酒の飲み過ぎで大半が二日酔いになったらしい。

 呆れた様子でそれを見るカナタは、「この分だと今日の出航は無理だな」と予定を後に伸ばした。

 急ぎの用事があるわけでもない。一日二日出航を伸ばしたところで問題はなかった。

 

「お前たちはどうする?」

「うちの連中も大半が二日酔いで潰れてる。出航は明日だな」

 

 案の定ロジャーも酔いつぶれており、無事だったレイリーは「どうしたものか」とため息を吐いて笑っていた。

 年少組も酒を飲んでいないので無事だが、こちらは夜更かしした影響でまだ寝ている。

 

「……君の父親に関して、ロジャーは何か言っていたか?」

「ロジャーにも言ったが、私は父親に会ったこともないんだ。今更仇がどうと言われても困る」

「そうか……君がそういうなら」

 

 元より興味も薄い。ややほっとした様子のレイリーを尻目に、カナタは二日酔いになってない者たちを集めて後片付けをさせておく。

 今や誰もいない無人島とはいえ、今後拠点として使う予定があるので片付けくらいはさせておかねばならないだろう。

 ……拠点として使うのもいつになるかわからないが。

 

「お前たちはどこかに行く目的があるのか?」

「ん? ああ……一応、前人未到の世界一周が目的ではあるが」

 

 カナタの質問に答えるレイリー。

 〝水先星(ロードスター)島〟にも辿り着いたが、そこが最後の島ではない。その先にある島を探して、ロジャー達は旅を続けているのだ。

 となれば当然、〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟も集めている。

 

「あれを解読出来る者がいるのか?」

「いや……我々はあれを解読出来てはいない。どうにかして読みたいとは思っているが……君たちはどうなんだ?」

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 レイリーが目を見開いて驚く。

 ロジャーたちが長年求めてやまない人物を、目の前の少女こそが知っているというのだから驚くしかないだろう。

 

「ワノ国の将軍である光月スキヤキ殿。あるいはその息子である光月おでんなら〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を読める」

「……驚いたな。そこまで辿り着いていたのか」

「私たちも色々なルートから情報を仕入れているのでな。ワノ国に関しては縁者がいたこともあるが」

 

 西の海(ウエストブルー)、オハラの考古学者たちも読めるだろうが、あちらはあまり危険に巻き込みたくはない。

 勧めるならワノ国の方だろう。

 ふむ、とレイリーは考え込み、「読んでもらうように交渉出来るのか?」と質問を投げかけた。

 

「私たちは将軍とゼンが旧知の仲だったから余計な手間は省けたが、そちらはどうだろうな。ゼンが一筆書けば無下にはされないだろう、とは思うのだが」

「そこまでしてもらうのもな……」

「私は二度お前たちに救われた。これくらいなら何も問題はないさ」

 

 「それとも、解読したものが直接欲しいか?」とカナタは問いかけた。

 レイリーが答えようとしたとき、横合いからロジャーが大声で叫ぶ。

 

「要らねェ!!」

「……起きてたのか、ロジャー。解読したものがあれば最後の島にかなり近付くぞ?」

「要らねェって言ってんだろ! おれ達は誰も見たことがねェものを探して旅をしてんだ! あるかどうかも、道筋も、自分で見つけなきゃ意味がねェ!! つまらねェ冒険なんざするつもりはねェ!!!

「フフ……そうか、それは残念だ」

 

 ロジャーなりのこだわりなのだろう。

 あるとわかっているものをただ取りに行くわけでは無い。本当にあるかどうかもわからず、誰も見たことのない宝を探して、この広い海を旅しているのだ。

 ショートカットなど言語道断、と言うことらしい。

 時間をかけてでも自分で辿り着いてこそ意味のある道のりと言うものもある。結果だけを求める男ではなかったということだ。

 それだけ言うと、ロジャーは再び横になっていびきをかき始めた。カナタとレイリーは肩をすくめて会話を続ける。

 

「……まァ、それはそれとしてワノ国の情報は欲しいがな。ロジャーがいくら張り切っても読めなければ意味がない」

「ああ、それは構わない……が、一つだけ約束して欲しい」

「約束?」

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 レイリーは意味が解らずに首を傾げた。

 「どういうことだ?」と疑問を呈する彼に、カナタは「これは予想だが」と前置きして。

 

「お前たちが一緒に来いと言えば、光月おでんは一も二もなく船に乗るだろう。〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟も読めるはずだ」

「おれ達にとっては悪いことではないが」

「だが、奴は光月家の跡取りだ。ワノ国の現将軍のスキヤキ殿には義理もある。下手に国外に連れ出されると私の立つ瀬がない」

「ははあ……なるほどな。それは確かにそうだ」

 

 カナタとは折り合いが悪く船に乗ることはなかったが、ロジャーとおでんは恐らく気が合うだろう。どちらも似たような男なのでその辺りは想像が容易い。

 自分から情報を与えておいて何だが、スキヤキへの義理があるカナタとしてはロジャーとおでんを引き合わせるべきではない。

 今更言っても聞かないだろうから釘を刺すだけにとどめておくが。

 ……もっとも、おでんもきっかけ一つで簡単に海外に出る男だ。勝手にふらふらされるよりは居場所を把握できていた方がいいかもしれない。

 ロジャーにせよおでんにせよ、カナタの言葉一つで止まるような男ではない。釘を刺したという事実だけ用意しておけば言い訳は立つかもしれないが、おでんの家臣には文句を言われるだろう。

 

「……どれだけ効果があるかはわからないがな」

「実際に本人に会ってみないことには何とも言えないな」

「恐らくあの二人は意気投合するだろう。ブレーキも利かない」

 

 まず間違いなくおでんはロジャーの船に乗る。気質が同じなのだ。

 自由を求めて世界を旅したいおでんにとって、ロジャーは文字通り渡りに船。見逃す男ではない。

 

「そもそもワノ国には国外に出ることを罰する法律もある。集めた〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を読んでもらうだけなら問題もないだろうが……」

 

 かなり制約をかけられることになる。果たしてロジャーがそれを許容できるかどうかだが……まぁまず無理だろう、と二人の意見は一致した。

 

「スキヤキ殿やおでんの家臣にとっては教えないほうが良かっただろうが、私にはお前たちへの恩があるからな」

「気にしなくても良かったというのに。だが、まァ情報はありがたく受け取っておこう」

 

 二度命を救われたのだ。恩に報いるならこれが一番だと判断したまで。

 ……二度目に限って言えば、カナタだけなら死ぬことはなかっただろうが、仲間たちは無事では済まなかった。

 もっと力が必要だ。

 

「私たちは〝水先星(ロードスター)島〟に向かう」

「ほう、ひとまず世界一周、という訳か」

「ああ。他に行く場所も特にはないしな」

 

 希望があれば聞くが、他に寄り道する場所と言えばフェイユンの故郷である〝エルバフ〟くらいだ。

 ひとまず〝水先星(ロードスター)島〟に向かうのを最優先として、その後色んな島々を回るのがベストだろう。

 

「電伝虫の番号は以前伝えた時から変わっていない。何かあったら連絡してくれ。協力が欲しいなら出来る限り手伝おう」

「ああ、ありがとう。助かるよ」

 

 レイリーも長いこと海賊をやっているので大抵の事には慣れているが、それでも不測の事態と言うのは起こり得る。特におでんの件に関しては顛末がどうなっても教えるのが筋であると考え、「少なくともワノ国に行ったら一度は連絡を入れる」と告げた。

 カナタも「そうしてくれ」と返答し。

 

「最後に一つ、ロジャーが起きた後で見せておきたいものがある」

 

 最も重要な情報を、ロジャーに渡すことにした。

 

 

        ☆

 

 

「……こいつは……!」

「赤い〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟か!」

「〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟と呼ばれるものだ。ここに置いているのは元々魚人島にあったものだがな」

「奪ってきたのか?」

「ああ。下手に他の誰かに見つけられると厄介だと思ったのでな」

 

 〝ハチノス〟の地下。

 薄暗くジメジメしたその場所に鎮座した巨大な石を前に、ロジャーとレイリーは来ていた。

 カナタの案内で辿り着いたそこには〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟が二つあり、どちらも写し取って紙として持ち歩く。

 

「まさかこんなところにあるとはな……ほかにある場所も知ってんのか?」

「知っている。〝ワノ国〟にもあるし、〝ゾウ〟という場所にもある」

「合計三つ……もうそこまでわかってんのか。スゲェな!」

「だが、あと一つがどうしてもわからん。私の方でも地道に探してみるが、あまり期待はしないでくれ」

「いやいや、これ以上の情報を知っちまったら面白みが無くなっちまう! 十分だぜ!」

 

 カナタは既に解読したものを持っているが、他の誰かに情報を渡さないためにここに隠している。ロジャーなら構わないと見せたが、今後誰かに見せることはないだろう。

 そのうちカナタたちが最後の島に上陸した後でなら、教えても構わないかもしれないが。

 最後の島に何があるか次第だろう。

 

「いやはや……まさかの大収穫だったな、ロジャー」

「おう、カナタがここまで色々知ってるとは思わなかったぜ」

「何かと縁があったのでな。〝ゾウ〟にも、〝ワノ国〟にも」

 

 地下から戻り、笑いながら無人の街を歩く三人。

 あちこちに縁があったおかげでロジャーよりも先を行っているが、最後の一つはカナタにもわからない。

 まさか海に沈んでいる可能性も、と考えないではないが、地上をくまなく探したわけでは無いのだから考えるだけ無駄だろう。

 海中にあるなら魚人や人魚の仲間を増やすまでの事だ。

 

「〝金獅子〟の野郎もまた襲ってくるかもしれねェが、その時はどうする?」

「あれだけの戦力を整えて落とせなかったんだ。しばらくは大人しくしていると思いたいがな……襲ってくるなら返り討ちにするまでだ」

「わはは! 気の強いこった!」

「母親関連であれだけ襲われていればな。あとはリンリンやカイドウもいるが……まぁ、こちらも今ならどうにでもなるだろう」

「母親? 父親関連なら〝金獅子〟から幾らか聞いたが……」

 

 レイリーはチラッとロジャーの方を見ながらそう言う。

 今のところロジャー以外はカナタの親について誰も知らない。バギーとシャンクスも聞いてはいるが理解はしていないだろう。

 「言っていいのか?」とロジャーは視線を寄越し、「構わない」と頷くカナタ。

 ロジャーはレイリーの方に向き直り、近くに誰もいないことを確認して小声で言う。

 

「コイツの母親はオクタヴィアだ。ロックス海賊団のな」

「な……!!?」

 

 パクパクと口を開け閉めし、言葉が出ない様子のまま視線をカナタの方に向けるレイリー。

 普段は冷静な彼も、今回ばかりは動揺を隠せていない。

 

「じゃあ、お前……父親は、まさか……!」

「ロックスだとよ」

「──ほ、本当なのか!!?」

「ああ、本当だ。そうだろ、カナタ」

「事実だ。オクタヴィア本人から聞いたからな」

 

 会ったことがないのでどれくらい似ているかは不明だが、これまで会ってきたロックス海賊団の面々の反応から察するに父親には似ていないのだろう。

 代わりに母親そっくり過ぎて狙われているが。

 

「とんでもない爆弾だな……あの男に娘がいたとは……」

「父親母親どちらがバレても面倒なことになる。基本的には他言無用で頼む」

「そりゃ構わねェが」

「兄弟とかはいないのか?」

「私が知っている限りではいないな。あるいはどこかに腹違いの兄弟でもいるかもしれんが」

 

 あー、とロジャーとレイリーは顔を見合わせる。

 

「……あり得るかもな」

「ロックスも人の子だ。子供の一人や二人くらい居ても変ではないか」

 

 まぁリンリンやシキに狙われている理由はよくわかったらしい。これ以上聞くと藪蛇になりそうだとレイリーは肩をすくめる。

 隠し事はもうないが、あるとすれば精々ドラゴンの素性くらいか。あれも知れば驚くだろうが、本人は話す気がなさそうなのでカナタから言うことでもない。

 

「しかしあの二人が両親か……君の強さの根源が何となくわかった気がするな」

「本名はロックス・D・カナタになるのか?」

「昔の名前は捨てたんだ。それとロックスの名前で呼ぶな」

 

 昔の名前を知っているのはもうオクタヴィアしかいない。孤児院があった島は原因不明のまま滅んだと新聞が報道していたし、その島以外の誰かと交流があったわけでもない。

 カナタが言わなければ誰も知ることはない名前だ。

 

「お前がそういうならそうしよう。誰だって思い出したくないこともあらァな」

「そうだな。これだけ色々な情報を貰ったんだ。我々としても君に害するようなことは避けたい」

「そうしてくれるとありがたい」

 

 二人には「くれぐれも他言無用で頼むぞ」と念を押し、船に戻る。

 出発は翌日だ。運が良ければまた会うこともあるだろうが、海賊家業は海風気任せ波任せ。潮の向こうで夕日も騒ぐというもの。

 カナタはカナタの。

 ロジャーはロジャーの目的のために、それぞれ動くことになる。

 出会うときは、きっとまた嵐になるだろう。

 

 




書くことがn……面倒くs……このままのペースだと原作まで流石に長すぎるのでちょっと時間飛ばします。
ロードスター島に行って、今章は終了の予定です。シキとかに関しては幕間にて。

これ物凄い原作崩壊要素っぽくてワノ国編大きく変わりそうな予感がひしひしと(元から原作通りなんて不可能ですが)

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