ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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スキップするとは言ったんですが、このまま原作時間まで飛ぶわけでは無いです。
ちょこちょこイベント挟むのでそこまでスキップしつつ進行するというだけで。


第八十話:〝水先星(ロードスター)島〟

 〝ハチノス〟でロジャーたちと別れ、数ヶ月ほど旅をした。

 〝新世界〟各所で対〝金獅子〟の動きが活発化しており、カナタたちが戦ったことによって支配力が落ちたと判断されているようだった。

 そちらに手を取られるなら襲われる心配もないと、カナタたちはゆっくり島を巡りながら海の果てを目指す。

 常に溶岩が噴き出る島ではカナタが溶岩を氷で覆い尽くし。

 雷が降り続ける島では老婆から奇妙な傘を買ってやり過ごし。

 通常では考えられないような島々、海域、天候を越えて──〝記録指針(ログポース)〟は遂に、最後の島を示した。

 

 ──その島は、何もなかった。

 

 暴風、高波、大雨……およそ考えられる限り最悪と言っていい天候を抜け、それほど大きくもない島に辿り着く。

 世界の中でもこの島の名を知る者は少なく、辿り着いた者さえ数えるほどしかいない島。

 名を、〝水先星(ロードスター)島〟と言う。

 道中の悪天候とは打って変わり、晴天に恵まれた中で一同は島へと上陸する。

 

「何にもねェな、この島」

「それほど大きくもない。探索してみないことにはわからないが、住んでいる人もいないようだ」

 

 植物が生い茂る島だが、動物の気配さえない。虫がいくらか存在している程度で生き物の気配がしないのだ。

 それほど広くはなく、探索は半日もかからずに終わった。

 見つかったのは一つの石碑のみ。それ以外には取り立てて目立つものは無い。

 

「……この石碑、〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟かと思ったが、違うみてェだな」

「使われてる文字が古代文字じゃねェ。おれ達でも普通に読めるぞ」

 

 ジョルジュとスコッチが興味深そうに鎮座する石を確認している。

 似たようなものは今までいくつか見てきたが、今のところ古代文字が使われていないのはここだけだ。

 

「……〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟に使われている石とも違うな。ここだけ後で設置したんだろう」

 

 古代文字で書かれた〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を読ませないために文化を滅ぼそうとした何者かがいたとして。

 それに対抗するために情報を記し、導くための一助とした〝情報を与える石〟なのだろう。

 学者肌の船員が物凄い勢いでメモを取り、興奮気味に色々と書き連ねている。考古学者ではないはずだが、学者として興味をそそられるのだろうか。

 カナタは石碑を一通り確認し、内容を知って溜息を吐く。

 

「ほとんど知っていることばかりだな。ここではない最後の島があること。そこに辿り着くためには〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟を四つ集める必要があること」

 

 本来はこの島に辿り着いてようやくわかることなのだろう。

 そして最後の島へと辿り着くには〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を求めて海を渡り、過去の歴史を探らねばならない。

 カナタの目的地は最後の島ではなく、区切りをつけるために〝水先星(ロードスター)島〟へとやってきただけだ。

 無論、興味はあるので情報を集め続けはするが、これまでのように積極的にとはいかないだろう。

 

「……ひとまず、この島で野営を行う。準備をしよう」

 

 今後の方針を決めるにせよ、今日はこの島で野営だ。ゆっくり考えればいいだろう。

 

 

        ☆

 

 

 早朝に到着して半日以上が過ぎるが、記録指針(ログポース)はこの先の島を指すことはない。

 やはりこの島が記録指針(ログポース)で辿り着ける最後の島なのだろう。

 目立つ物と言えば石碑くらいで、それ以外は自然が豊かなだけの何もない島。天然の要塞ともいえるこの島になら、石碑をそのまま置いても破壊されはしないと踏んだのか。

 今となっては作った者の考えなどわかるはずもない。

 海岸沿いをキャンプ地として野営を作り、食事と酒を楽しみながら皆が話している中、カナタの隣にドラゴンが座った。

 

「ここから先の目的はどうするんだ? 当面の目的だった〝水先星(ロードスター)島〟には辿り着いた。〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟を探して最後の島に向かうのか?」

「……いや、最後の島には向かわない。情報は集め続けるが、優先度は下だな」

「そうか」

 

 旅が終われば解散という訳にはいかない。

 これはまだ序章だ。ここから先は組織として繁栄させるために様々な手段を取る必要がある。

 奪い続けるだけの海賊でも生きて行くことは出来るが、それだけでは未来がない。奪い続けて、奪う場所が無くなれば滅亡するしかなくなるからだ。

 であれば、おのずと選択肢は決まってくる。

 

「〝ハチノス〟を拠点に海運と海賊狩りを主にやるつもりだ。悪名ではあるが、広く知れ渡ったならそれなりに使いようもあるだろう」

 

 世界中に名の轟くカナタへと挑戦する者は存外少なくない。

 海賊として名を揚げようと考える愚か者は意外といるものだ。無論、襲い掛かってきた海賊は全て返り討ちにしているが。

 ドラゴンはカナタの今後の展望を聞き、何かを考え込む。

 

「……お前はどうする?」

 

 カナタは考え込んだ様子のドラゴンへと、答えの分かり切っている質問を投げかけた。

 

「おれは……船を降りる。元よりお前の信頼を得るためだけに乗ったのだからな。個人的にこの島に興味があったのもあるが……それも達成された以上、おれはおれで動きたい」

 

 ドラム王国でカナタの信頼を得るためだけに船に乗り、海軍や海賊と戦っては共に酒を飲み交わした。

 ドラゴン自身、これ以上共にいれば本来の目的を忘れかねないという理由もある。カナタは「私の信頼を十分得られたと?」と笑い、ドラゴンも「そうでなくては背中を預けはしないだろう」と笑う。

 

「おれはおれで世界に革命をもたらすために動く。手伝ってくれるか?」

「愚問だな。助けが必要になったらいつでも呼ぶと良い」

 

 ドラゴンのことは認めている。その考えも、それなりに長いこと同じ船で過ごしたので理解出来る。

 ならば手伝うことに否はない。

 元より天竜人の統べる世界など壊れたところで困りはしないのだから。

 

「いざとなったら呼ばせてもらう。当面は基盤になる組織作りだな」

「その辺りはお互い苦労しそうだ……どこで降りる?」

東の海(イーストブルー)だ」

 

 ドラゴンの故郷の海である東の海(イーストブルー)。その海から、革命への第一歩を踏み出すつもりだとドラゴンは言う。

 もっとも、カナタと会う前から活動そのものはしていた。一時期共に海を渡った〝オカマ王〟イワンコフもドラゴンの思想に共感した一人だ。

 カナタの船に乗ってから活動はほとんどしていなかったこともあり、以前声をかけていた面々にもう一度声をかけていくつもりらしい。

 先日の〝金獅子〟の一件でドラゴンも懸賞金をかけられた。海賊でありながら革命活動をするというのは些か不利なところもあるだろうが、この男なら恐らく大丈夫だろう。それくらいの信頼はある。

 

「では、航路を考えねばな」

 

 一度凪の帯(カームベルト)を通って西の海(ウエストブルー)へと移動し、偉大なる航路(グランドライン)に入りなおしてから再び凪の帯(カームベルト)を通って東の海(イーストブルー)へ向かうことになる。

 魚人島を経由して前半の海である〝楽園〟に戻ってもいいが、今のところ〝新世界〟で信頼できるコーティング屋に出会っていない。安全に行くなら遠回りでも凪の帯(カームベルト)を通るルートを選ぶべきだろう。

 ……大型の海王類の巣を通ることが果たして安全と呼んでいいのかは疑問だが。

 

「イワンコフによろしく言っておいてくれ」

「ああ。わかった」

 

 イワンコフも一時期とはいえ共に旅をした仲間だ。協力が必要なときは呼んでくれればいいと思っている。

 カナタは酒を飲み、「海賊団としての名前も決めねばな」と呟いた。

 

「結局、海賊としてやっていくのか?」

「他に道はあるまい。賞金首になって以降、特に海賊を名乗るつもりは無かったが……ここまで来ると、いっそ海賊として名前を表に出した方が色々都合もいい」

 

 あれこれと変な名前で呼ばれるよりは統一させた方がいいだろう。海運などもやっていくなら組織としての名前も必要だ。

 以前使っていた名前はもう使えないだろうから、海賊団としてやっていくというだけの話でもある。

 だが、カナタには案がない。どうしたものかとため息を吐いた。

 

「何かいい案はないか?」

「ふむ……おれは特にそういうものを考えたことはないが……」

 

 顎に手をやり、空を見ながら考える。

 薄暗くなり、太陽が水平線の彼方に沈みゆくのを見て、ドラゴンは口を開いた。

 

「天竜人の世を終わらせることを目的として動く海賊団。斜陽の世界を変えるもの──〝黄昏の海賊団〟と言うのはどうだ?」

「──〝黄昏の海賊団〟か。悪くはない」

 

 海賊旗は絵が得意なものに追々作らせればいいだろう。

 名前さえ決まっていれば、後はそれに沿って作ればいいだけだ。

 

「では、新たな海賊団──〝黄昏の海賊団〟の門出を祝って」

 

 カナタとドラゴンは手に持ったコップをぶつけ、酒を飲み交わす。

 ──この日、〝新世界〟最後の島で一つの海賊団が産声を上げた。

 

 

        ☆

 

 

 その後の話をしよう。

 凪の帯(カームベルト)を通って西の海(ウエストブルー)へと移動し、偉大なる航路(グランドライン)に入りなおしてから再び凪の帯(カームベルト)を通って東の海(イーストブルー)へ。

 ドラゴンを送り届けるためにやや遠回りの航路を使い、時に海賊、時に海軍とぶつかりながら旅をした。

 時折子供を拾ったり、オルビアに会いに行こうとして止めたりしつつ、大きな問題が起こることはなく。

 偉大なる航路(グランドライン)の入り口にある〝双子岬〟ではクロッカスと再会し、〝魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)〟でそれらしき船を見たことだけを伝え、スクラと医療に関する話を夜通ししたり。

 以前使った航路とは別の航路を通って〝楽園〟を通り抜け、約一年かけて〝新世界〟へと戻ってきた。

 魚人島にも当然立ち寄ったが、タイガーは旅に出ていたようで会えず、実力を磨いたジンベエを数日ほど鍛え上げたりして過ごした。

 当然、カナタがいなかった間に〝新世界〟の状況も変化が起きている。

 リンリンは勢力を伸ばし、シキはゴタゴタを片付けて組織の再編に奔走し、ロジャーはワノ国に長く滞在し、ニューゲートは西の海(ウエストブルー)から〝新世界〟へと舞い戻る。

 

 ──大海賊時代と呼ばれる時代が始まる六年前。

 世界政府から一大勢力として認知されたカナタたちは、〝ハチノス〟を拠点に組織を肥大化させていた。

 




原作と比べるとこの時点でも割と相違点は多いんですが、まあその辺どうなるかを想像してもらうのも二次創作の楽しみかなと思いつつ。
今章は幕間を投稿して終わりになります。
次章はカナタさん19歳!

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