ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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八章開幕です。
前章のキャラまとめも同時投稿してるので興味のある方はどうぞ


海賊王/ビリーバーズ・ハイ
第八十一話:〝黄昏の海賊団〟


 〝黄昏の海賊団〟──。

 ここ数年で急激に勢力を肥大化させている海賊団だ。

 船長は史上初ともいえる〝天竜人殺し〟で有名な〝竜殺しの魔女〟カナタ。懸賞金は22億を超え、その実力は海軍の英雄ガープでも一筋縄ではいかない。

 〝新世界〟にある〝ハチノス〟を拠点として活動しており、時折様々な海に足を延ばしては海賊狩り、海運などを行う()()()()()()()()秩序立った海賊団。

 世界政府も海軍も、ここまで肥大化する前に何とかしたかったが……こればかりは簡単にどうにか出来るものではなかった。

 そして──ついに、かの勢力はどうしようもないほど巨大化していた。

 これは、〝新世界〟でも名の知れた〝金獅子〟や〝白ひげ〟、〝ビッグマム〟、〝ロジャー〟に並ぶ五つ目の勢力としてその名を轟かせる中で、ロジャーが〝海賊王〟と呼ばれるようになるまでに起きた、裏の事件の話。

 

 

        ☆

 

 

「この島は夏島と言うだけあって夏は暑い。気候を変えていいか?」

「ははーん、さてはお前バカなんだな?」

 

 鈍い音と共にゲンコツが落ちる。

 あまりに暑いので部屋の各所に氷の柱を作って冷房代わりにしつつ団扇で扇いでいたカナタの仕業だ。

 小さいたんこぶを作ったスコッチは、「おれは正論を言っただけなんだが……」と頭を押さえつつ苦言を呈する。

 

「有史以来正論が人を救ったことはない。この暑さ、どうにかならないか?」

「なるわけねェだろ! むしろ暑いから気候を変えてやろうって考えの方がどうなってんだ!」

 

 呆れたようにため息を吐き、スコッチはやや過剰ともいえる涼しさを保つ部屋を見渡す。

 これは確かに涼しいが、それなら別の島を拠点に構えれば済む話だ。今から変えるのは面倒ではあっても不可能ではない。

 だが、ある程度整備されていて人が住んでいない島となると数が限られる。丁度いい島と言うのは中々見つからないのだ。

 

「条件がここよりいい島が見つかればな……今のところは暑いこと以外に問題もない」

「お前以外は暑いことにも問題はねェよ」

 

 カナタの愚痴はさておき、呼ばれた本題に入るスコッチ。

 

「今のところ海運に問題はねェな。海賊だから利用しねェってところもあるにはあるが、世界政府非加盟国で軍隊も貧弱だとそうも言ってられねェところが多い。割と需要はある」

「既存の商会が文句を言ってきたりはしていないか?」

「まァうちに文句言うほど肝の据わった奴は居ねェなァ。〝闇〟の世界の連中もボチボチ嫌がらせを始めてきたくらいだ」

 

 〝海運王〟〝倉庫業老舗〟〝闇金王〟に〝大手葬儀屋〟──裏の世界の強者たちも、自分たちの事業に手を出され始めて少しばかり頭に来ているらしい。

 今のところ影響は限定的だが、領分を侵した者には相応の報復を行うだろう。

 下手に潰すと影響が大きすぎるのでカナタたちにとっても手出し出来ないのが痛いところだ。

 

「シキやリンリンより余程手強い相手だ。もう少し大人しくしてくれると良いのだがな」

「そりゃ無理ってもんだろ。連中からすりゃあおれ達の方が新参で自分たちの顔を潰しかねないわけだしな」

 

 スコッチは肩をすくめる。

 カナタからすれば面倒この上ないが、その分野でならともかく金獅子さえ抑えつけられるほどの戦力を持つ〝黄昏の海賊団〟を止められる存在など早々いない。

 工作を仕掛けてくるのは目に見えていたし、実際そういう動きもあった。

 

「リンリンも世界政府も飽きずによくやるものだ」

「あいつらからしてもおれらは目の上のタンコブみてェなもんだ。一応スパイもあらかた始末してあるが、どうするよ」

「スパイは定期的に洗う必要がある。フェイユンには苦労を掛けるが……」

 

 他人の悪意に敏感なフェイユンは、その見聞色の力である程度悪意を持って入ろうとするものを見分けられる。もちろんカナタもある程度は目を通すが、どうしても完全には弾ききれない。

 ある程度スパイが入るのは許容するしかない部分もある。

 

「あまり激しくなるようならすこし過激にやり返してやれ。舐めた真似をさせたままだとつけ上がらせることになる」

「そうだな。最近じゃどこからか妙に質のいい武器も流れてきてるみてェだし、政府も海軍の強化に金を出してる。おれ達も戦力強化は急務だなァ」

 

 カナタたちは海賊としてはかなりの穏健派だ。それもわかっているから〝闇〟の世界の連中はちょっかいを出すのだろう。

 その辺りの嗅覚は流石と言うべきか。

 まぁ痛い目を見てもらう事に変わりはないのだが。

 

「フェイユンは忙しい。クロに護衛を付けて潰させて来い」

「あいよ」

 

 広範囲を壊すならフェイユンかクロの二択だ。どちらが行っても更地になるのであまり変わりはない。

 スコッチは心の中で標的に合掌した。

 

「あとは今のところ問題ねェな」

「ではいつも通りに──む?」

 

 コンコン、と控えめなノックの音がした。

 カナタはすぐに許可を出すと、扉が開いてカイエが顔を出す。

 

「お仕事中ごめんなさい。カナタさん宛てに荷物が届いたから知らせてほしいと言われたのですが」

「荷物?」

 

 何か頼んでたのか、とスコッチは視線を寄越す。何かに思い当たったのか、カナタは「そういえばそろそろだったな」と零した。

 

「すぐに向かう。ありがとう、カイエ」

「いえ、では私はこれで」

 

 言葉少なに返答すると、カイエはすぐさまどこかへ行ってしまった。

 あの子も忙しないなと思いつつ、カナタは立ち上がって港へ足を向ける。

 

「何を頼んだんだ?」

「頼んだわけじゃない。あれば運がいいくらいに思っていた代物を探させていたんだ」

「あァ? なんだそりゃ」

「木材さ──宝樹〝アダム〟と呼ばれる世界最強の樹だがな」

 

 

        ☆

 

 

 宝樹〝アダム〟と呼ばれる樹がある。

 曰く、「世界最強の生命力を持つ」とまで言われる樹だ。

 とある戦争を繰り返す島で砲弾の雨にさらされようとも、島中の人間が死に廃墟と化しても、倒れることなく立ち続ける巨大な樹。

 世界にたった数本しかなく、裏のルートで売りに出されれば僅かな部分でさえ末端価格は優に億を超える。

 それほどの品物が今、カナタの目の前にあった。

 

「ほう、これが宝樹〝アダム〟か……見るからに頑丈そうだな」

「本体はあまりにデカすぎたんで持って帰れなかったがな。とりあえずうちの連中をそれなりに常駐させてる」

「それでいい。どうせ持ち帰っても置く場所がないからな」

 

 ジョルジュは疲れたようにタバコを一つ取り出し、火をつけ始める。

 樹に合った環境と言うものもある。宝樹アダムともなればどんな環境でも生き延びる生命力を持つかもしれないが、余計なリスクを背負う必要もない。

 ともあれ、これで世に数本しかない樹の一本を抑えることが出来たわけだ。

 時たま行う枝の剪定だけでも、大きさを考えれば十分様々な用途に使える。大きな収入源になるだろう。

 

「よくこんなもん見つけたな……一体どこに?」

「最近滅んだ〝ガルツバーグ〟だ」

 

 戦争を繰り返す島にある、という噂は前々から聞いていた。

 噂を確かめる意味でも「戦争の終わらない島」である〝ガルツバーグ〟へと捜索に行かせたのだ。

 

「〝ガルツバーグ〟っていやァ、あの〝ガルツバーグの惨劇〟が起きたっていう?」

「ああ。二つの国が戦争していた根本的な理由も宝樹アダムによるところがあったらしい。そこを私が抑えてしまえば戦争が起きることもなかろう」

 

 宝樹アダムはそれ単体で莫大な富を生み出す。欲に目がくらんだものがこれを手に入れてしまえば、際限なく手に入る富に笑いが止まらなくなる。

 狙ったものが複数人いれば争いになる。規模が膨らめば当然、それは戦争ともなるのだ。

 戦争していた二つの国が近年滅んだのも簡単に手に入った理由だが、生き残った民はカナタの手である程度コントロールした方がいいだろうと考えていた。

 

「私が言えたことではないが、欲の皮が突っ張っていると碌なことを考えないからな」

「ワハハハハ、まァ手にしたのが国か海賊かって話だわな! うちが手に入れたのは運が良かったってことだ!」

「それなりの戦力を常駐させる必要がある。新兵の育成も急がねばな」

「そっちもだが、こんなもん売りさばく販路はあるのか?」

「欲しがる奴はいくらでもいるさ。造船業をやっている島もそうだが、船以外の建物を作る際にもこの強度はすさまじい」

 

 それに、売れなくても自分たちで使えばいい。この樹を使った建物の強度はどんな攻撃でも揺らがないものとなるはずだ。

 ゆくゆくは〝ハチノス〟の建物も宝樹アダムで作っていきたいところだ。これがあるか無いかで町全体の強度が変わってくるだろう。

 何なら、〝闇〟の世界の連中に餌として流してやってもいい。自分たちの利益になると思えば下手なちょっかいも少なくなる。

 不利益になるなら潰す。利益になるなら生かす。海賊家業はこういう世界だ。

 

「近くロムニス帝国に向かう。準備をしておけ」

 

 〝ハチノス〟からほど近いあの国には既に販路を開拓している。造船業もやっていると考えると、需要も少なからずあるだろう。

 ……だが、ここ最近何かときな臭い動きがある。あの国の動きには気を付けたほうがいいかもしれない。

 

「あいよーっと。おい、()()()()!」

「うす! 何すか!」

「ひとまず休憩だ! その後で出航準備をする。声かけてこい」

「わかりやした!」

 

 ジョルジュの声に反応して小走りで近付いて来た小太りの少年は、休憩するという言葉を伝えるために今度は船の方へと走り去っていった。

 偉大なる航路(グランドライン)で拾った孤児の一人だ。他の子供よりよほど力があるので荷物持ちをやらせたりしているが、それでも年齢はカイエとさして変わらない。

 あまり無茶なことはさせないようにはしていた。

 もっとも、カナタだけは少年に対して別の意見を持っていたが。

 

(……ティーチか……)

 

 まだ年若い少年だが、得体のしれない感覚があった。それが今後どう転ぶかはわからないが……今は様子見に徹するべきだと判断していた。

 少なくとも仕事は真面目だ。子供にしては実力もある。他の子と差別をする理由はなかった。

 

「スコッチは今回留守番だ。次の区画の修理も進めるから、手が空いた連中に片付けさせておけ」

「おう、わかった。次は綺麗な姉ちゃんと酒を飲める店も作ってくれ」

「必要な建物が終わったらな」

 

 娯楽は少なくとも必要だろうから歓楽街は作らねばならないが、その辺りはカナタもよくわからないので適当にやりたい奴に放り投げておこうと考えていた。

 海賊ばかりの島とは言え、規律の厳しさは国軍とさして変わらない。

 傘下に入った海賊があまりの規律の厳しさに夜逃げした例もある。ちょっと訓練を受けさせただけでこれなので、入ってくる連中にはあらかじめ伝えてそれでも残った強者ばかりだ。

 少なくとも食いっぱぐれることも職を失うこともないので安定していると言えば安定している職場だろう。

 もはや海賊と呼べるのかどうかも怪しいが。

 

「美人の姉ちゃんが酌してくれる店が欲しいぜ」

「適当な島でスカウトしてくることだな。海賊相手に商売したいという連中もいるにはいる。金払いさえ良ければ嫌とは言わんだろう」

「金か。金ならまァあるしな」

 

 少なくとも財政状況はいい。海賊狩りと〝新世界〟における海運はそれなりに需要があるのだ。

 ともあれ、その辺りは一度ロムニス帝国に行ってから探さねばならないだろう。

 ここ最近は荒れた話題もない。シキやリンリンも表立って大規模な動きは見せていないので、もうしばらく大人しくしていてくれればいいのだが。

 勢力としての基盤が違うので、カナタは彼らにまだ及ばない。今のところはまだ大人しくしていて欲しいものだ。

 




例によってガルツバーグに宝樹アダムの辺りは捏造です。
二次創作。それは便利な言葉。

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