元復讐者同士が傷を舐め合うのは間違っているだろうか?   作:ポンコツ丸ノ助

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今回はリュー視点からです。

視点がコロコロ変わります。


2話

奴らを殺す。

 

一人残さず殺す。

 

慈悲も容赦もなく殺す。

 

ただ.............殺す。

 

 

私の思考は黒い炎に包まれた。復讐を果たす。それ以外今はどうでもいい。

 

最初の標的を定めた。奴らと組んで悪事を働いていた者。そいつを初めとし奴らに与する商人、冒険者.......奴らと関わる全てを殺さねば、私の心を燃やすこの黒炎は消えてくれない。

 

私がその者の屋敷に着くと、雇われの冒険者らしき人物が立ち塞がった。死人の様な目をした男だった。

 

 

邪魔だ!!

 

ただの雇われ冒険者に用はない。とっとと消え去るがいい!

 

 

早く標的を抹殺したいがため、追い払うように突っ込んだ。.......が、止められた。その一回で理解する。実力は互角。そしてその特徴的な黒き刀を見て人物を特定した。そしてどうやらそれは相手も同じようで.......

 

「『疾風』か.......」

 

そう私の正体を見抜いた相手は『無月』。私と同じレベルで、そして私たちアストレア・ファミリアが注視していた人物であり、少し前までは追っていた人物である。

 

注視していた理由としては彼が復讐者であり、追っていた理由としてはその復讐を果たしたからだ。追っていた時はただのお尋ね者としか感じなかったが、今となってはその心中がよくわかる。

 

 

これは止められないとも!この激情はもう自分ではどうしようもない!奴らを血祭りにするまでこの身は!この心は!

 

 

その心の内をぶちまけるように『無月』に攻撃を仕掛ける。正直、拍子抜けだ。まるで抜け殻を相手にしているように、自分が優勢なのはわかる。これが本当にあの第二級冒険者なのかと思わせるほど。

 

「ぐっ.......」

 

私の勢いに耐えきれなくなった『無月』の身に一撃を与える。だが.......浅い。これ以上時間を掛ける訳にもいかない。さらに踏み込み深手を加えようとして、それが私の僅かな隙となった。顔へ向けての一突きを、辛うじて避ける。傷は無いがフードを捲られた。

 

さすがに勇み足過ぎたか。抜け殻の様でも第二級冒険者なだけある。私は一度距離を取った。そして『無月』を見て、私は困惑した。何故か戦闘中に私を見つめながら惚けているのだ。

 

 

なんだ?罠なのか?.......いや明らかに別の思考をしている。

 

 

ならばと再び攻撃を仕掛け、私は驚愕する。先程までと手応えがまるで違うのだ。まるで別人。先程まで死人の様な目をしていたはずの男が、今となっては卓越した実力者のような瞳をしている。

 

そして私の心はさらに動揺させられる。その男から溢れた言葉に。

 

「止めるんだ。その復讐の果てには何も無い.......ただ虚無が待っているだけだ」

 

 

 

止めろ.......だと?

 

 

 

私は叫びそうになるのを睨みつけながら堪えた。

 

 

貴方が!貴方がそれを言うのか!復讐を果たした貴方が!!

貴方にはわかるはずだ!このどす黒い感情の奔流が!殺せ殺せと湧き出てくるこの怒りが!

 

 

『無月』が攻撃を仕掛けてくる。リーチの差を生かし、私の間合いの外から連続で切りかかってくる。その一つ一つが鋭い斬撃.......しかし、これらが本命では無いただの牽制なのはわかる。それらを捌きながら、私は焦れる思いを抑えていた。

 

私が防御から攻撃に転じる隙を待つだけの剣。だが、今の私には非常に効果的だ。これ以上この男一人に時間を割く訳にはいかない。けれど、迂闊に隙を晒せばその黒刀は私の首を刈り取るだろう。今の『無月』にはそれだけの凄みが感じられた。

 

 

ずっと抜け殻の様だったらよかったものを。

 

 

心で悪態をつきながら、丁寧に斬撃を受け流す。数十秒にもみたない撃ち合いが、とても長く感じられる。.......もう、手段を選んでいる場合では無い。この一撃で決着をつける!

 

『今は遠き森の空 無窮の夜天に鏤む無限の星々.......』

 

敵の表情が驚愕に染まる。同時に私の並行詠唱を止めるようにさらに苛烈に刃を振るう。立場が一転して変わる、今度時間が無いのは相手で私は詠唱を終えるまで耐えるだけだ。

 

 

 

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彼女の発する澄んだ詠唱に耳を傾けていたいが、それどころではない。なんと強い魔力の圧だ。この魔法を撃たせてはならない。正体不明の魔法だが、この戦闘を終わらせる事は出来るのだろう。でなければ今使う理由が無い。

 

『愚かな我が声に応じ 今一度星火の加護を 汝を見捨てし者に光の慈悲を.......』

 

それにしても『並行詠唱』とは恐れ入る。大抵はブラフか、苦し紛れの発動で魔力暴発(イグニス・ファトゥス)による自爆という結果だが.......彼女は違うだろう。『疾風』という経歴と名を信頼しているのもあるが、目が殺る気で満ち溢れているというのが一番かもしれない。.......惚れた女の最初に聞く声が、自分を倒す為の魔法詠唱とは笑えない冗談だ。

 

『来れ さすらう風 流浪の旅人(ともがら).......』

 

幾ら刀を振るえど、彼女の詠唱を潰せない。それどころか彼女は並行詠唱をしているのに、こちらの太刀筋を徐々に読み取り、的確な防御を行う。こうなれば多少の隙を晒すのは仕方なし。多少攻撃を受けるのを許容し、その必殺を止める。

 

『空を渡り 荒野を駆け 物事よりも疾く走れ。』

 

敢えて隙を晒す。その隙に吸い込まれるように、彼女の小太刀は自分の身を切り裂きに掛かる。防御の薄くなった彼女の首に向けて、一撃を届かせるため薙ぎ払う。当たらなくても無理な防御や回避で詠唱を中断させられれば.......

 

手応えは無かった。自分の刀は空を裂く。そして自分の身にも何も無い。視線だけを下に向ければ、攻撃を中断し自分の懐に入り込む彼女がスローモーションで見えた。

 

 

まさか.......読み切られるとはっ!

 

 

思考は復讐に染まり、さらに自分と剣戟を繰り広げ、詠唱までしている。その上でこちらの思考を読み切るとは。自分がその事に驚愕すると同時に、左目が視力を失った。左目を切り裂かれた痛みを感じるより先に、身体は悪あがきの様に彼女から距離を取る。

 

『星屑の光を 宿し敵を討て!』

 

そして詠唱は完成した。『疾風』の周りに風を纏う光球が複数発生する。その魔法の規模に距離を取ろうとしていた足は、その動きを止めてしまう。躱せないことを理解してしまったのだ。

 

だからこそ息を整え、覚悟を決め、刀を構え直す。

 

「【ルミノス・ウィンド】!」

 

彼女の号令と共に光球は迫る。視界が光で埋め尽くされる。自分も彼女の声でその光に駆け出した。

 

 

 

 

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一際眩しい輝きと衝撃に『無月』は包まれた。私の魔法は直撃した。死んでいるか、生きていたとしても満身創痍には違いない。トドメをさす必要は無い。彼はただの雇われ。本当の標的はこの先にいる。

 

その標的に向けて歩み出そうとした時、光の余韻から彼が飛び出してきた。

 

彼が動く事に動揺した私は咄嗟にまともに動く事ができず、彼の刃の突きを受けてしまう。首だけをなんとか逸らし額への直撃は避けたが、その一撃はエルフ特有の長い右耳に切れ込みを入れた。

 

「ぐっ.......」

 

痛みに顔を顰めながらも、彼を蹴り飛ばした。こちらの攻撃に全く対応できない事から、恐らく彼も身体は限界を迎えている筈だ。

 

だが、理解できないのは、あの魔法の中を突っ切って来たことだ。改めて倒れた彼を見ると、身体中に先程の魔法の痕が見られる。特に酷いのが左腕だ。ありえない方向に捻れた腕。直撃弾を左腕で受けてまで突っ込んできのだろう。

 

そして『無月』はまだ立ち上がった。左目からは血を流し、左腕は垂れ下がり、満身創痍状態だ。しかし右目で真っ直ぐと私を見つめ、右腕には黒き刀を握りしめている。まるで、まだ戦えるとでも言わんばかりに。

 

「何故だ.......」

 

私の口から自然と声が溢れた。私らしくもない、少し震えた声だった。

 

「何故.......何故貴方がそこまでする。誰より理不尽を受け、それを憎んだ貴方が.......」

 

アストレア・ファミリアは『無月』について注視していた。だからこそ彼の経歴も軽くは調べていた。理不尽によって平穏を壊され、復讐に燃えた男。彼が用心棒をしているであろう者も、奴らと組み人々に理不尽を与えていた。

 

「貴方の雇い主はそこまでして守られる奴ではない!」

 

「関係無い.......あんな雇い主などどうだっていいさ。.......君を止める。愚かな俺と同じ道を歩もうとする君をここで止める。君はこちら側へ来てはいけない」

 

痛みに歪んだ顔で、僅かに笑いながら彼はそう答えた。

 

その言葉は私の心のどこかにあった、最後の正義感に響いた。彼の言葉が響くのは彼が復讐者だったからなのだろう。

 

 

今から自分が行う事は決して正義ではない。正義のファミリア、アストレア・ファミリアの一員が行っていいものではない。こんな事をしても逝ってしまった仲間達は誰も喜ばないだろう。特に誰よりも正義を掲げた自分の友は。

 

 

だが.......その僅かな思いも、怒りに呑まれた。どうしても奴らへの憎悪が心を埋めつくす。奴らの顔が脳裏にチラつき、その度に思考が真っ赤に染まるのだ。

 

「邪魔するならば.......切る」

 

私はもはや満足に動く事もできない彼に駆け寄り、両手の小太刀を振り下ろした。右手の得物で右肩から斜めに。左手の得物で左肩から斜めに。彼の胴の中心で重なる深い傷を与えると、彼はすれ違うように私の右側に倒れ込む。

 

 

その際に彼から発せられた「すまない.......」の言葉だけが、切れ込みの入った耳に長く残った。

 

 

 

 

 

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沈みゆく意識の中、彼女の足音が離れていく。彼女の実力ならば復讐は成功するだろう。

 

止めることが出来なかった。復讐を終え腑抜けになってしまった自分には。全盛期の自分ならば止めることが出来たのかもしれない。

 

惚れた女に殺され、彼女はそのまま虚無へと進む。

これは愚かな男にはお似合いの最期なのかもしれない。

 

 

 

 

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返り血で赤く染まりながら、人気のない路地裏を歩く。

 

 

.......やった。やり遂げた。

 

仲間を奪ったファミリアを、それに与する者達を滅して仇をとった。

 

復讐を果たした.......なのに、達成感などない。あるのはただひたすらの虚無感.......

 

「ここは.......どこだ.......」

 

世界が先程とは違う。憎しみで赤く染っていた世界が色褪せていく。そして目の前には広がるのは、見たこともない灰色の世界。徐々に、徐々に世界が色を失っていく。

 

そして遂に力尽き、糸の切れた人形の様にその場に倒れ込んだ。身を打つ雨は身も心も冷やしていく。

 

 

.......少しはあると思った。達成感でも喜びでもいい。そんな心を埋めてくれる何かしらの感情が。しかし、復讐心が消えた心は、ぽっかりとした穴が残っただけだ。

 

そしてこうなった今だからこそ思い出す。復讐の最大の障害となった男‪。復讐の初めに手をかけた者の言葉を。

 

「その復讐の果てには何も無い.......ただ虚無が待っているだけだ」

 

あぁ.......その通りだった。私の世界にはもう何も無い。彼はこの世界に私が辿り着かない様に、命懸けで立ち塞がってくれたのだ。

 

それを私は.......なんと愚かなのだろう。

 

 

「すまない.......」

 

彼の最期の言葉をが右耳に蘇る。

 

彼が謝らねばならない事は何も無い。悪いのはこの私。正しき道を最後まで示し続けてくれた彼を切り伏せ、道を違えたこの私だ。

 

そしてそんな愚かな私の最期は、誰も看取る者のいない暗く汚い路地裏がお似合いだ。

 

「.......大丈夫?」

 

しかし私には奇跡が起きた。暖かな優しい手が差し伸べられたのだ。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回は出来次第投稿致しますので、しばしお待ちください。
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