妖精のくせになまいきだっ   作:プラトン

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1-1 魔王だよ!破壊神さまだよ!

 

 

 突然ですが皆さん、『勇者』という存在をご存知かな?そう、文字通り勇敢な者を示しています。

 人々が“格好いい!”とか“憧れる!”とか“正義の味方!”とか祭り上げる奴ですよ。

 

 でも正義が存在するためには、その対象となる悪が必要な訳で。その悪は正義のため、勇者のために犠牲にならねばならない。

 …分かってるさ。皆は『悪なんだから滅んで当然』って思うでしょ?そう、それは正解。常識であり、人間として妥当な考えだ。

 

 でもそれはあくまで、人間の考え方だよね?

 

 魔物側からすれば、自分らを狩ろうとする人間こそ悪で、そんな奴らを倒してくれる存在こそが勇者!つまり正義なんだ!

 

「だから俺が勇者を倒すことは正義なのだぁ!やれぇ

トカゲおとこ!滅多刺し、よし勝ったぁ!」

 

 サクサクと小気味良い音が数回鳴ると、勇者は最後に片手を天に伸ばし、力尽きて物言わぬスケルトンと化す。いやまぁここ地下なんで、天なんか無いんですけど!

 まあでも、今回の勇者も余裕だったな。勇者の概念を頭の中で述べる位に余裕があった。

 

 そして何より、我等が魔王に手出しをさせていない!

 

 「流石ですね破壊神さま!もう私、勇者が来たという危機感すら無くなりそうですよ」

 

 「それは持てよ…てか今まで持ってたの?」

 

 勇者と世界から人気絶賛(お尋ね者として)!

 この俺、破壊神を召喚し、魔物たちを束ねる王。略して魔王は今日も上機嫌だ。

 

「いやはや、いつ聞いても憎き勇者の悲鳴は心地良いですな。目覚まし時計として売れば一儲け出来そうですぞ」

 

「商売は勝手だけど、また俺に飛び火させないでね?

いつかのすなっくレディ事件はもうごめんだよ」

 

 この魔王、影で色んなことに手を出し過ぎなんだよなぁ。もはや世界征服が副業と思えるレベル。俺もそれに結構な頻度で巻き込まれるし…。

 何だかんだ、楽しいからいいけどさ。

 

 

 

 

 …そう、俺は破壊神。見た目はピュアなツルハシだよっ!⭐

 厳密には人間だけど、ひょんなこと(ゲームを買った)から破壊神に成り代わり、この魔王と共に世界を滅ぼしているのだ。

 俺が魔物を生み出し、俺が地下ダンジョンを作り上げ、俺が生み出した魔物で勇者を倒し、俺が魔王を勇者の魔の手…じゃない。正義の手から守る。そして魔王が世界を征服する!

 

 …うん。最初は思ったね。魔王役に立たねぇ!

 

 何でも俺の召喚で力を使い果たしたらしく、今は立ってるだけでもやっとなんだとか。じゃあダンジョン奥で両手ブンブンさせて、たまにガハハと笑うのは何なんですかね。めちゃ元気じゃないですか魔王ちゃんよ。

 

 でもまぁ、そんな魔王でもいないと困る。

 俺たち魔物のボスとしてはもちろん。そして俺をいっぱしの破壊神にするためあれこれしてくれたのだ。トレーニングに助言、俺がゲームをリアルで投げ出さないためのあれこれ…。

 

 一言で言うと、俺たちは互いに無くてはならない存在ということだ。

 世界なんてもう四度、平和ぶち壊して征服しちゃってるしね。

 

 何より魔王とムスメちゃん、そして魔物たちとの世界征服は本当に楽しい!何度でもこっちの世界による来て征服したくなるもの!

 

「ややっ!破壊神さま、また性懲りもなく勇者どもが来たようですぞ!返り討ちにしてやりましょう!」

 

「また来たか…よし!景気良くツルハシ振るってやるぜー!」

 

 

 これはそんな、バカで楽しいやつらの征服物語である!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「とかそれっぽく言ってみたけどさ。もう世界征服してるんだよねー」

 

「こら破壊神さま!いくら平和じゃないからって、だらけすぎですぞ!」

 

「ニジリゴケに身を投げ出してる人に言われたくないよ」

 

 それも顔を下にしたうつ伏せ寝で。てか大丈夫?息できてる?ニジリゴケで窒息死して世界に平和が訪れましたーなんてならないよね?

 あと尻をこっちに向けるでないわ。俺破壊神だよ?

 

 それに俺がだらけてるって何で分かるん?物言わぬツルハシのはずなんですが。

 

「だってさー。世界征服しちゃってやることないじゃん。たまに生き残り勇者が『世界の仇!』って襲撃して来るけど、それだけだし…」

 

 繰り返しになるが、俺たちはもう四度も世界を征服しているのだ。今までは魔王の部屋で魔物を研究したり、新種を生み出したり、面白い勇者の相手をしたりと、征服以外にも色々あった。

 

 でも破壊神だって生きてるんだよ。生きてれば同じことには飽きる。新しい刺激が欲しくなる!これはしょうがないことだ。

 

 魔王の娘ことムスメちゃんは世界征服旅行で今はいないし…本格的に暇になってきたぞ。

 

「ねー魔王えもん。何か面白いことないの?これじゃツルハシの輝きが無くなっちゃうよー」

 

「面白いこと…そうですねー」

 

 魔王は思案するように、ニジリゴケを人差し指でぷにぷにと押した。

 この魔王、物持ちはいいのだ。これまでも怪しい雑誌の魔物応募イベントやら、お店の経営やら面白そうな話題を提供してくれた。

 

「あ」

 

 魔王が一言だけ呟いた。え、なに。今のが面白いこと?もしそうだったら、俺は君を簀巻きにしてダンジョン内を歩き回る遊びをしなくちゃならないけど。

 やだそれどこの勇者?

 

「このスイッチとかどうですー?なんか地面から生えてますけど、面白いこと起きるかもですよー」

 

 地面からスイッチ?

 そんなバカなと思い見てみると、本当に生えている!赤色のいかにもなスイッチが…。

 

「あ、よく見たら文字が彫られてますね。えーと…『絶対に押すな!押したらホントに大変なことになるよ!前代魔王より』…ですって」

 

「何その怪しいスイッチ!?と言うか、押してはいけないスイッチをなぜ作ったの!?」

 

 さすがは前代魔王…魔王の先祖だけあるぜ。その注意書きをどんな気持ちで彫っていたのか、非常に気になるところだ。

 

「言われなくとも、こんないかにもなスイッチを押す魔王がどこにいるんでしょうね。何かとてもデジャヴを感じますが、まあ気のせいでしょう」

 

 言いたいことは分かるから。俺にドヤ顔向けるの止めてね。

 

「当然、破壊神さまも押しませんよね。こんなスイッチ」

 

「おう、それは当然」

 

「ですよねぇ」

 

「「アーハッハッハッハッ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 押すよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいポチッとな」

 

「破壊神さまぁ!?」

 

 我ながら器用に押せたもんだ。ツルハシの先端を使って…今までのツルハシさばきは伊達じゃないね。

 魔王がニジリゴケから飛び起きて俺のツルハシぼでぃを掴んでくるが気にしない。あ、ちょっとそこ触んないで!指紋付いちゃうでしょうが!

 

「なぜ押してはならないスイッチを押したのですか!?」

 

「いや、なんか押さないと物語が終わる気がして…」

 

「何言ってるんです!?」

 

 魔王が俺のツルハシぼでぃをブンブン振り回す。

 ええい止めんか!ツルハシぼでぃを振っていいのはツルハシである俺だけだぞ!

 

「待て待て落ち着けて!押したけど、何も変わらないじゃないか!」

 

「む。そう言えばそうですね」

 

 やっとこさ魔王の動きが止まる。

 そうだ。特にこれと言った変化はないのだ。むしろ本当にスイッチを押したのか疑いたくなるレベルで。

 ニジリゴケは養分をせっせと運んでいるし、トカゲおとこは自らの巣で出産中。

 

 いつも通り過ぎる光景だ。

 

「…破壊神さま」

 

「なんぞ?」

 

「一度地上に上がりましょう」

 

「なんで?」

 

「何でもです。私の平和センサーがビンビン反応しております。ついでに遠い過去の記憶も」

 

 魔王の言っていることがチョットヨクワカラナイ。

 しかし断る理由もないので、俺自ら掘り進めた地下道を戻って魔王の部屋の入り口へ。

 

 

 

 そしてベランダに出てみました。

 

 

 

 

「…え」

 

「…ええ?」

 

「え?」

 

 

「エエェエェーーーー!!!?」

 

 

 何ということでしょう。

 本来魔王城は海のど真ん中にあったはずです。どの世界でも海に囲まれていたはずです。

 

 それが何で、緑豊かな森の真っ只中にお引っ越ししているのでしょうか!?

 

「うわぁめっちゃ平和そう…でも無いけど、比較的平和そう…」

 

 隣の魔王がいまだチョットヨクワカラナイことを言っているが…これはまた違う世界が生まれてしまったのではないのかしらん!?

 

 …と言うことはだよ?

 

「また新しい世界征服と勇者どもの戦いじゃー!うおぉ、燃えてきたー!!」

 

 俺のツルハシぼでぃが、太陽光でキラリと輝いたぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、この世界は勇者ではなく魔導士が蔓延っていること。ここはフィオーレ王国という大陸であること。

 そして俺よりも燃えている竜の子がいること。

 

 これらの事実を知るときは、もう少し未来の話である。

 

 

 

 

 

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