夢を見ていた。遠いようで実は近い、あの日の夢。指揮官と出会った日の夢。
グリフィンから支給されていたステンちゃん達や、指揮官になる以前から知り合いだったFALさん以外の、自身の手配で初めて迎え入れた戦術人形。それが私でした。
すでに軍で戦術人形の指揮経験があったらしい彼は、それに似合わない妙に緊張した態度で、私を迎えてくれました。私にとっても初めての指揮官で、今から思えば相当緊張していた。お互い初めて同士。それが何だか嬉しかったです。
懐かしい、懐かしいあの日の夢を愛おしく噛みしめながら、私の意識は現実に浮上して行きました。嗚呼、もう朝なのでした。
0500iジャスト。目を覚ました私こと、正式名一〇〇式機関短銃、通称一〇〇式はなるべく物音を立てないように、なんだか子供っぽい装飾のついた二段ベッドの上から降りました。下の段では先輩であるFN-FALさんがまだ眠っていました。彼女を起こさないように、静かにパジャマを脱いで、いつものセーラー服に着替えました。
部屋を出た私が向かう先はキッチンです。今日もみんなが食べる朝ご飯を作るためです。
I.O.P社製の戦術人形には生体パーツが多く使われているため、人間のような食事を摂る必要があります。なので、グリフィンからは缶詰等が支給されるのです。
でも、そうした食事はあまりにも味気ないです。基地でいる時ぐらい、手のかかった食事をしたいものです。
というわけで、一〇〇式はみんなの朝餉を作っています。みんなから好評を貰っている水団汁です。一〇〇式は水団を作るのが得意です。
まず、具材である玉ねぎ数個をみじん切りにします。人間なら目が痛くなりますが、戦術人形である一〇〇式は大丈夫です。
次に卵をボウルに10個ほど割入れて、菜箸でかき混ぜます。そして、ほどほどに卵を溶きます。
そして、小麦粉を水で溶いて水団のもとを作ります。これで下準備は完成です。
続いて、寸胴鍋に水と玉ねぎを入れてコンロにかけます。そして、玉ねぎが柔らかくなるのを待ちます。
「
後ろから声が聞こえました。振り向くと、綺麗な金色の長い髪と大きなミミが特徴のGr G41ちゃんがいました。まだ眠そうに目をこすりこすりしている仕草が、とても可愛いです。
G41ちゃんはこの基地全体のエースで、みんなから愛される素敵な戦術人形で、そしてこの一〇〇式の一番の親友です。最近私が率いる一〇〇式隊から離れて、G41隊を率いるようになりましたが私達の友情に変わりはありません。G41ちゃんはいつまでも自慢の親友です。
ちなみに、この基地のみんなは私を
「
「うん、G41ちゃん」
一〇〇式が頷くのを見て、G41ちゃんはフライパンを火にかけて熱し始めます。そして、手にした乾燥したタンポポの根を入れてじっくりと炒り始めます。G41ちゃん得意のタンポポコーヒーを淹れるみたいです。
G41ちゃんには基本的なお茶の淹れ方を教えたことがあります。努力家のG41ちゃんはそこから自身でしっかりと勉強して、今はタンポポコーヒーの名人になりました。G41ちゃんは凄いと思います。
「
「うん」
「わーい!
一〇〇式の言葉を聞いて、G41ちゃんが目を輝かせて、諸手を挙げて喜びます。どんなときでも素直なG41ちゃんは本当に可愛いと思います。
でも、一〇〇式は表情を曇らせます。本当はもっとおいしいものを作れるからです。もっと美味しいものをみんなに食べてほしいからです。
水団の具は玉ねぎと溶いた卵だけ、味付けも味噌だけです。本当なら、出汁をとったりしてもっと美味しいものを作れます。でも、できません。何故なら、出汁をとるための昆布や鶏ガラなどは高いので、毎日作る食事にはとても使えません。合成されたグルタミン酸ナトリウムで味を調えるのが関の山です。
北蘭島遺跡事件と第三次世界大戦。それらの事件のせいで世界中の食料自給率は50%を切っているそうです。私達の隊は指揮官のおかげで比較的潤沢な食料を得られていますが、それでも日々美味しいものを作るのは難しいのです。
「ごめんね、G41ちゃん…」
「ふぇ?」
突然謝った一〇〇式に、G41ちゃんは戸惑ったようです。突然ごめんね、G41ちゃん。
「本当ならもっと美味しいものが作れるのに、これだけしかできなくて…」
一〇〇式は鍋をかき混ぜながら言いました。せめて、昆布だけでも手に入れられれば随分違うのに。一〇〇式は貧しい鍋の中を見ながら悲しそうに言いました。
「ううん。
G41ちゃんはそう言って、私に抱き着きました。その一言で一〇〇式は救われた気がしました。私もG41ちゃんを抱きしめて頭をなでなでします。
G41ちゃんはいつも何気ない一言で一〇〇式に大切なことを気づかせてくれます。一〇〇式はG41ちゃんが大好きです。G41ちゃんもきっと一〇〇式を好きでいてくれていると思います。二人はきっと相思相愛です。
見ればすでに玉ねぎはすっかり柔らかくなっていました。私は鍋に溶き卵と味噌と溶き粉を入れます。
溶き粉は匙で横にたなびくように入れていきます。細長い水団ができますが、この方が味噌汁をよく吸うのです。
ちなみに、味噌は赤味噌です。水団は煮立たせる必要があるので、熱に強い赤味噌が適しています。
隣を見ると、G41ちゃんが炒ったタンポポの根を皿に取り上げて冷ましていました。G41ちゃんは話しながらでも手順を忘れることはないです。G41ちゃんはやっぱり凄いと思います。
「G41ちゃん。私ね、G41ちゃんのこと大好きだよ」
「うん! G41も
そう言って二人は笑顔を交わしました。それ以上言葉はいりません。例え、隊が離れたとしても、二人の心はずっと繋がっています。それはきっと未来永劫変わらないと思います。
「よう。二人とも、ご苦労さん」
そう言って入り口から現れたのは、30代中盤ぐらいのヨレヨレのスーツ姿の男性でした。彼こそが私達の基地の指揮官です。
「あれ? ご主人様、随分早いね?」
「腹が減って寝るどころじゃなくなっちまった。すまんが、何か食わせてくれ」
G41ちゃんに答える指揮官の言葉に、一〇〇式はくすっと笑ってしまいます。指揮官はグリフィンに多額の借金を課せられており、給料日前になると常にお腹を空かせています。
本来、戦術人形に支給される食糧は戦術人形以外が食べるといけないものなのですが、この味噌や小麦粉などは指揮官が勝手に仕入れてきたり、私が勝手に仕込んだりしたものなので指揮官が食べても問題はありません。
「分かりました。…どうぞ、指揮官」
そう言って、一〇〇式は出来立ての水団汁を茶碗によそって、指揮官に差し出しました。
「サンキュー、
そう言って指揮官はいそいそと水団を食べます。一生懸命食べている姿が何だか可愛い。そう思えてしまいました。
「いやぁ、
「ありがとうございます、指揮官」
褒めてくれる指揮官に一〇〇式はお礼を言います。そして貧しい鍋を見て思いました。自分の努力が指揮官やG41ちゃん達に喜んでもらえるなら、捨てたものではないと。今後ももっと頑張ろう、と思えました。
「
「もう、指揮官…みんなの分がなくなってしまいますから…」
「
「うん。じゃあ、G41ちゃんは水団粉を溶いてくれる?」
「うん!」
こうして、和気藹々とした雰囲気の中、朝の時間は過ぎていきました。起きてきたみんなは私の水団を今日も喜んで食べてくれました。今日もいい一日になります。そんな気がしました。