「
RFBちゃんに抱えられて基地に帰ってきた一〇〇式を迎えたのは、血相を変えて走ってきたFALさんでした。いつもの冷静な彼女に似合わない取り乱した様子です。
「よかった…無事で、よかった…」
そう言って、FALさんは一〇〇式を抱き締めてくれます。心配をかけてごめんなさい、FALさん。
今回、一〇〇式隊は他の基地の部隊の救助任務に参加しました。ただ、敵があまりにも手強く一〇〇式隊の力では対抗しきれませんでした。なので、一〇〇式は千鳥ちゃんの力をフルパワーで使って勝ちました。その力は圧倒的で敵を瞬く間に蹴散らして、一〇〇式は見事に任務を達成しました。
ただ、反動で全てのダミードールを失い、自身の身体もボロボロになりました。メインフレームがガタガタになったので、もはやまともに立つことさえできません。恐らく、義体の総取り換えが必要になると思います。
『
通信モジュールを通じて指揮官が褒めてくれます。身体中痛いですが、それでも一〇〇式は嬉しいです。この場合のみんなとは、要救の別の基地の人形もそうですが、一〇〇式隊のメンバーも含まれてます。RFBちゃんとZasさんこそ無傷ですが、TMPちゃんやFive-sevenさんは少なからぬ手傷を負っています。千鳥ちゃんの力を使わなければ、全員の生還さえ厳しい状況でした。
最も、後で聞いた話ですがすぐそこにまでG41隊とM590隊が救援に迫っていたそうです。なので、そこまで無理をする必要はなかったらしいです。指揮官からもそう示唆されたような気がします。でも、あの時の一〇〇式は必死で、そこまで気が回りませんでした。
「でも、
案の定落ち着きを取り戻したFALさんから怒られました。ごめんなさい、FALさん。でも、一〇〇式は申し訳ないと思うものの、嫌な気はしないです。FALさんはあくまでも一〇〇式のために怒ってくれているのですから。
「ちょっと、FALさん! そんな言い方ないでしょ!? 隊長、頑張ったのに!!」
「FAL、それに指揮官も、私達は援軍の存在を知らされてませんわ。隊長は与えられた情報の中で最善を尽くした、と考えます」
一〇〇式を抱えるRFBちゃんとZasさんがFALさんに反論します。それに関して、一〇〇式は何も言えません。Five-sevenさんも黙ったままです。確かに情報は与えられていませんでしたが、指揮官が危機に陥っている一〇〇式達を放置しておくはずがありません。必ず手を打ってくれるはずです。もう少しそこに考えが至っていれば、こんな無茶はせずに済んだでしょう。そういう意味では、FALさんの叱責は正しいです。もう少し冷静に考えるべきでした。
『すまないな、
そう言って指揮官が謝ってくれたので場が収まりました。でも、指揮官の判断は間違っていません。敵の戦力は強大で、特にジャッジさんが混ざっていたので、奇襲でなくてはG41隊でも危険でした。下手に一〇〇式達に通達して奇襲がバレてはG41ちゃん達が危険に晒されます。でも、指揮官は謝ることで場を収めてくれたのです。指揮官は大人だ、と思いました。みんなもそれが分かっているので、それ以上揉めることはありませんでした。
というわけで、一〇〇式は整備班に送られて義体の取り換えを受けることになりました。幸い、一〇〇式は最近桜花として量産され始めたので義体の替えは容易に入手できたそうです。電脳の入れ替えはすぐ終わりますし、転換訓練等も必要ないのですぐに治ります。
とはいえ、重傷患者扱いなので換装後は医務室です。隣のベッドを見ますが、リベロールさんはいません。訓練に出かけているみたいです。リベロールさんが元気そうで、一〇〇式は少し嬉しいです。でも、一人で寝ているのは少し寂しいです。
「
そう思っていたら、FALさんがお見舞いに来てくれました。嬉しいです。
「FALさん…」
「
「いえ、FALさんの言うことの方が正しいですから」
謝るFALさんに一〇〇式は言いました。FALさんの言うようにもっと冷静で広い視野を持つようにしないといけません。G41ちゃんはそれができつつあるのに、一〇〇式はまだまだ未熟です。
「…
「はい、FALさん」
FALさんの言葉に一〇〇式は頷きます。義体の交換も終わってますし、今からでも復帰できるぐらいです。
「なら、少し付き合ってくれる?
「はい」
FALさんの言葉に一〇〇式は頷きます。FALさんが見せたいものとは何なのでしょうか。とても気になりますが、今は聞きません。百聞は一見に如かずというからです。明日になればわかる。そう思いながら、一〇〇式は部屋を後にするFALさんを見送りました。
そして、次の日です。一〇〇式は150km/hの速度でぶっ飛ばすバイクのタンデムシートの上です。物凄い風と衝撃です。運転しているのはもちろんFALさんです。
今日、一〇〇式達は別の部隊への救援任務に就いています。前の任務と同じような感じです。違うのは、一〇〇式もFALさんも自分の部隊はおろかダミードールすら引き連れてきていない、というところです。本当に身一つなのです。
FALさんがバイクのハンドルについているスイッチを押しました。バイクの前輪の両脇に装備されている磁気グレネードランチャーから榴弾が吐き出されます。それは前方で派手に爆発しました。
一〇〇式は気が気ではありません。たしか、前方には敵がいたはずです。そして、敵を捕捉していていない状況で榴弾を撃つなんて、敵に居場所を教えているだけにすぎません、自殺行為に思えました。
一〇〇式は丘の下を見ます。案の定、敵は大群でこちらの押し寄せてきています。今ここにいるのはFALさんと一〇〇式だけです。万事休すです。千鳥ちゃんの力を使わなければ生きて帰ることはできません。一〇〇式は懐から小太刀を取り出して銃に取り付けようとします。でも、それはFALさんにやんわりと止められました。
「大丈夫よ、
そう言って、FALさんはバイクで丘を駆け下りていきます。敵に突っ込むつもりです。一〇〇式は息を呑みました。
すると、次の瞬間敵が真っ二つに割れました。そして、正面から突っ込んでくる一〇〇式達を無視して、左右に分かれていきます。
『敵発見! 殲滅します!!』
『皆、ついて来てください』
G41ちゃんとM590さんの声が聞こえました。両隊が奇襲を成功させたのです。そう、一〇〇式とFALさんは囮だったのです。
『というわけで、引き付けには成功したから。さっさと撤退しなさい』
『…ふん。礼は言わないんだから!』
FALさんの通信にWA2000さんが答えます。彼女は今回の任務の要救です。この様子なら無事逃げ切れるでしょう。作戦は成功です。
流石、FALさん。一〇〇式は鮮やかな手並みに感心します。しかも、後から聞いた話ではトンプソンさんやAUGさん達も後詰めに用意していたそうです。隙の無い完璧な作戦です。
「
そう言ってFALさんはバイクで敵陣の中を突っ切っていきます。一〇〇式は見ました。それは本当に凄い風景でした。
敵が押し寄せてきます。でも、それらは全部一〇〇式達を相手している余裕はなくて、両脇から寄せてくるG41隊とM590隊、更にその後方から現れたトンプソンさん達やAUGさん達に押し込まれていきます。まるで戦場の全てが手に取るかのよう。敵が敵にして敵にあらず。そんな風景でした。これが戦場を支配する将の見る風景。一〇〇式はきっと、生涯この風景を忘れることはないでしょう。
敵を突っ切って、しばらくして任務は終わりました。G41隊とM590隊はほとんど損傷なしに敵の殲滅を終えました。任務は無事成功したのです。そうするとお腹が空いてきました。何か食べよう、ということになって一〇〇式はバイクの横に取り付けられたバッグからチキンラーメンとシェラカップを二つずつ。そして、その他の食材とポケットストーブ、そして固形燃料を取り出しました。
シェラカップに水を注ぎ、それが沸騰するのを待ちます。しばらくして、チキンラーメンを入れて麺をほぐしたのち、トマトジュースを入れてパルメザンチーズをたっぷり振ります。そして、再びお湯が沸いたところでベーコンを乗せて、チキントマトラーメンが完成します。
「はい、FALさん」
「ありがと、
一〇〇式からシェラカップを受け取ったFALさんが、折り畳みフォークを使ってラーメンを食べます。そして、一口目を飲み込んでから言いました。
「とっても美味しいわ。流石、
「お粗末様です、FALさん」
感心するFALさんに一〇〇式は自分の分を作りながら言います。よかった、気に入って貰えて。
ラーメンを食べてから二人の間に沈黙の時間が流れます。でも、それは少しも気まずい時間などではありません。一〇〇式はFALさんの言葉を待ちます。FALさんは一〇〇式に伝えたいことがあるのです。だから、一〇〇式もFALさんを待ちます。この基地開設以来、私達は二人で幾多の困難を乗り越えてきました。二人の間には言葉など必要でない信頼関係があるのです。
「
「はい。…私もFALさんみたいに上手くできるように努力します」
「…違うわ、
そう言ってFALさんは静かに語ります。
「私はね、昔戦果が欲しくて、色々無茶をやらかしたわ。貴女も聞いているでしょ?」
FALさんの言葉に、一〇〇式は何も言えませんでした。FALさんはその昔、味方を犠牲にして戦果を挙げるようなことを繰り返していたそうです。今のFALさんからは想像もできない話です。でも、それは本当のことだ、とFive-sevenさんからも聞いています。
「そんな私にね、指揮官は教えてくれたのよ。将の見る風景をね」
それまでに私のやっていたのは小悪党の所業。FALさんは自嘲的にそう言いました。
「あの日から私はあの人の後ろをついて歩いているの。彼と同じ風景を唯一見られる戦術人形としてね」
そう言うFALさんの目は、遠い蒼穹の彼方を見ているように思えました。FALさんは過去でもない今でもないもっと大切なものを見て生きている。そう思いました。それこそが一〇〇式の目指すところだ、と思えました。
「
「はい、FALさん!」
FALさんの言葉に一〇〇式は力強く頷きます。千鳥ちゃんから貰った希望の欠片。それを手にする一〇〇式はもっと精進せねばなりません。この力を正しく使えるように、もっと大局を見て判断できる。そんな人にならないといけない、と思いました。
ただし、一〇〇式はこの時漠然とした憧れみたいな形でしか、FALさんの言うことを聞いていませんでした。
それがどれほど過酷なことなのか。今の一〇〇式には理解できていませんでした…