一〇〇式日記   作:カール・ロビンソン

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14:私は指揮官を信じて生きていきます

 ある日の昼下がりです。文書を取って戻ると、指揮官は通信を開いて誰かと会話してました。話によると、どうも食品会社の重役の人らしいです。

 なんだか嫌な予感がします。指揮官はこの頃、豪華なクリスマスパーティにするためにもっと食料が欲しいなぁ、と言っていました。恐喝とかをして食料を脅し取るのではないか、とはらはらしながら経緯を見守ります。

 

『これは天野指揮官。今日はどういったご用向きですか?』

 

「いえいえ、先月の事件で何か困ったことは起こらなかったかな、と気になりましてね。皆様に声掛けを行っている次第ですよ」

 

 指揮官は先月の事件について触れます。地下の哀れな難民達を利用した卑劣な事件。そして、黒幕達の野望は指揮官の手によって潰えました。

 あれは大きな事件だったので、グリフィン統括地域の企業にも被害が及んでいるかもしれません。声掛けをすることは真っ当なことだ、と思います。

 

『はい。こちらは被害もなく。天野指揮官の流してくださった連中の行動予測のお陰です』

 

「そうですか。お役に立てたのなら幸いです」

 

 重役の人が顔を綻ばせながら言います。指揮官も笑顔で答えました。指揮官は周辺の企業に被害が及ばないよう、敵の行動予測を予め流布していたのです。グリフィンだけじゃなく、他のみんなにも気を配れるなんて、流石指揮官です。

 

「もうすぐクリスマスですが、準備の方はいかがですか?」

 

『お陰様で従業員一同無事クリスマスを楽しめそうです。私も娘達に手に入れにくい代物をねだられてましてね。困っておりますよ』

 

「大変ですね。その玩具が電子機器絡みなら相談に乗れますよ?」

 

『そうですか。もしかするとお願いするかもしれませんね。その時はよろしくお願いします』

 

「ええ。大船に乗ったつもりでいてください」

 

 指揮官と重役の人はにこやかに言葉を交わします。よかったです。本当にただの声掛けみたいです。一〇〇式は和やかな二人の会話を聞いてにこにこです。

 

「ところで、期限切れの食料品の件ですが」

 

 あう。いきなり会話がきな臭くなりました。FALさんの曰く、指揮官は全然関係のない会話を振っておいて、いきなり本題に切り込むという交渉術を18番にしている、とのことです。一〇〇式の予感が当たってしまいそうです。

 

「そろそろ年末決算ですが、期限切れの在庫と処分したそれの数が合わない、とか、帳簿に記載のない大口の収入がある、とかそういうことはないですよね?」

 

『…そのようなことは。必要であれば帳簿を提出いたしますが』

 

「結構ですよ。手間を取らせなくても、そんなものはいつでも見られるのですから」

 

 指揮官の言葉を聞いて、重役の人の顔色が明らかに変わりました。この寒い時期なのに、額に汗が浮かんでいます。

 指揮官は凄腕のハッカーで、そんじょそこらの企業のプロテクトなどは朝飯前に突破して見せます。この言葉から考えるに、すでに帳簿を押さえており、いつでも悪事の証拠として提出できるのだ、と思います。

 

「ところで、こんな話をご存じですか? 誰かが闇市に期限切れの缶詰なんかを大量に流しているそうで。いやはや、悪い奴がいるものだ」

 

『…それが私達だとでも?』

 

「まさか! グリフィンにいつも食料を寄付して下さる優良企業の方々を疑うはずがない!」

 

 指揮官が実に白々しい口調で言います。その様子を一〇〇式は開いた口が塞がらない風に見ています。完全に予想通りでした。今言っている言葉を翻訳すると、バラされたくなければ食料を寄付しろ、ということです。

 

『…なるほど。ところで天野指揮官、一つ相談が』

 

「なんでしょう? 私が解決できることなら、いくらでも尽力致しますよ?」

 

『実は食品を少々作り過ぎてしまいまして、余剰分をグリフィンに引き取っていただけるとありがたいのですが…』

 

「おお! それはこちらにとっても渡りに船です! で、いかほどですか?」

 

『…そうですね。1000というところですか』

 

「おや、思ったよりも少ない。てっきり1500ぐらいか、と思っていたのですけどね」

 

『…申し訳ありません。1200でした』

 

「1250ですか。了解しました。明後日にでもうちからトラックを向かわせますので、よろしくお願います。後、貴社のケーキはうちの娘達になかなか評判がいいので、そちらも付けていただけるとありがたいですね。では」

 

 最後に畳みかけるように言って指揮官は通信を切ります。この人、鬼です。

 

「よし。後、3件ぐらい回れば、クリスマスと年末は豪華に過ごせるな」

 

 指揮官はにやり、と笑いながら言います。まだ3件も恐喝するのでしょうか。この人、本当に鬼です。悪魔です。

 

「あの…指揮官…」

 

 一〇〇式はたまりかねて口を出しました。聖なる夜が控えているのに、悪いことばっかりしてていいのでしょうか、と思うのです。

 

「どうした、一〇〇式(モモ)?」

 

「あの…そんなに食料をせびったら可哀想だと思います…」

 

一〇〇式(モモ)は真面目で優しくていい娘だな」

 

 指揮官は立ち上がって一〇〇式の頭をなでなでしてくれた後、座りなおします。なでなでして貰えるのは嬉しいですが、別に一〇〇式は特別優しいとか真面目だ、ということではないと思うのですが…

 

「だが、よく考えてみるんだ。俺のお陰であいつらは僅かな出費で大儲けの口を見逃してもらえる。しかも、グリフィンに寄付した、という実績まで付いてくるんだ。こんな幸せなことはない。それに、俺達も食料が貰えれば幸せで、貧しい連中も闇市に流れた食料で少しだけ幸せなクリスマスを迎えられる。みんなハッピーな結末だと思わないか?」

 

 一〇〇式は呆れて物も言えません。確かに指揮官の言うことは正しいのかもしれないですが、関係者全員犯罪者です。それは本当にやっていいことなのか、と思うのです。

 

「バレたらどうするんですか?」

 

「その時はそうだな…この前ゲットしたコネでもみ消すかな」

 

 指揮官の言葉に一〇〇式はただただ茫然とするばかりです。鬼悪魔です、この人。

 

「そうだな。一〇〇式(モモ)に二つお伽噺をしようか」

 

 唐突に指揮官が話題を変えました。お伽噺とはなんでしょう。指揮官のことなので、今この状況と関係のある話だと思うのですが。

 

「むかしむかし、お隣の国でな孔子様ってお偉い人がいてな。その人が大臣をしていた国のお話だ」

 

 指揮官のお話に一〇〇式は興味津々で耳を傾けます。孔子という人のことは聞いたことがあります。ジュキョウという立派な学問を考えた人らしいです。残念ながら、一〇〇式はジュキョウについて何も知らないですが。

 

「その国の兵士の一人がある戦いで敵前逃亡をした。その兵はとっ捕まえられて首を切られることになった」

 

 指揮官の言葉に、一〇〇式は頷きました。敵前逃亡をしたのだから当然です。私達も命令もなしに撤退したら、解体処分の憂き目にあいます。

 

「そこで孔子は兵士に聞いた。なぜ逃げたのか、と。兵士は答えた。私には年老いた母がおり、一人にできません。だから、命が惜しくて逃げました、と。孔子は感心して兵の罪を許し、逆に褒美を与えたそうだ」

 

 指揮官の話を聞いて、一〇〇式は首を傾げました。そんな話があっていいのでしょうか? 確かに年老いた母を思えば死にたくないのは確かです。でも、それとこれと話が違います。

 

「以後、その国では兵の敵前逃亡が頻発し、他所の国に侵略されて亡びたとさ。めでたしめでたし」

 

 指揮官はそう話を締めくくります。別にめでたくはないですが、妥当な話ではあります。敵前逃亡を認めて、更に褒美まで与えては誰も真面目に戦わなくなります。国が亡びるのは当然のことです。

 でも、なぜ今こんな話をするのでしょう? 別に先ほどの恐喝の件と繋がらない気がするのですが。

 

「んで、もう一つの話だ。ここから遠く離れた国にな、王様の命令をよく守る真面目な将軍がいたらしい。そいつは受け持った戦いで王様の命令を忠実に守り、そして負けた。王様はそいつを縛り首にしたとさ」

 

 指揮官の言葉にまた一〇〇式は首を傾げました。王様の命令を守って負けたのなら仕方ないと思うのですが…責任があるのは、従った負けるような命令を下した王様だと思うのは一〇〇式だけなのでしょうか。

 

「処罰の理由を尋ねる将軍に王様は言った。私はお前を命令を守るために将軍にしたのではない。敵を倒すために将軍にしたのだ、と」

 

 そこまで言って指揮官は卓上のお茶を飲んで、一息ついて続けました。

 

「これらのことは古今の指揮官の在り方について表しているエピソードだ。要約するとな、守るべきセオリーは堅守し、そうでない命令はテキトーに捻じ曲げてもいい。それが勝つためならな」

 

「な、なるほど…」

 

 指揮官の言葉に、一〇〇式は感心します。確かに、ルールを堅守して負けたら話になりません。もちろん、恣意的にルールを破って負けるのは論外です。それらは全て指揮官の隊の運営方針に適っている、と思います。

 指揮官は時に法律を侵しても物資の確保や作戦を遂行し、そして見事に勝利を得てきました。ルールを守って負けていては、私達もとっくに全滅しているでしょうし、グリフィンや世界はもっと悲惨な状況に陥っていたでしょう。

 そして、守るべきルールは徹底して守るように、と私達にも求めています。普段はとてもやさしい指揮官でも、嘘や悪質な命令違反は許してくれません。私達もその点に関しては徹底して注意しているのです。そして、それが私達の隊に数々の勝利をもたらしてきたのです。

 

「指揮官、御教授ありがとうございます。そして、申し訳ありません…」

 

 一〇〇式は指揮官にお礼を言って、そして謝ります。信じるべき指揮官を疑ってしまったことをお詫びしたのです。

 考えてみれば、指揮官が悪いことをするのは全部私達のためか、事件を平和裏に解決するためです。私利私欲に走ったことは一度もありません。そんな指揮官の姿を今まで見てきたのに…一瞬でも疑った自分が情けない、と思います。

 

「いいんだよ、一〇〇式(モモ)。この世界のことをよく知るために、一〇〇式(モモ)はいっぱい疑問を持っていいんだ。俺はそれに答えられることなら、何でも答えるさ」

 

 指揮官は笑ってそう言い、一〇〇式の頭をなでなでしてくれました。指揮官はとっても器の大きな人です。こんな素敵な指揮官と一緒に居られて一〇〇式は嬉しいです。

 

一〇〇式(モモ)、君は君の信じるものを信じて生きていくんだ。君が千鳥から受け継いだ力は、世間の常識とかを大きく凌駕するものだからな。だから、もっと色んなものを見て、大きな視野を養って、そして自分の正義を見出すんだ」

 

「はい!」

 

 指揮官の言葉に、一〇〇式は元気よく答え、頷きます。千鳥ちゃんの遺志。それはこの悲しい世界を、みんなが幸せに暮らせるように変えること。千鳥ちゃんはやり方を間違えてしまったけれど、一〇〇式はきっと正しいやり方でやってみせる、とそう誓いました。

 

 だから、一〇〇式は指揮官を信じて戦います。指揮官はたまに悪いこともしますが、実際には世界をより良くするために一生懸命頑張っている素晴らしい人です。胸を張って言えます。指揮官は私の誇りです。彼と共に戦えることを幸せに思います、と。

 

 でも…流石にちょっと最後のアレは酷いなぁ、と思いました。完全にヤクザです。相手の人泣いてました。

 指揮官…一〇〇式は指揮官を信じます。でも…彼らにも生活があるので…ほどほどにしてあげてください。

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