一〇〇式日記   作:カール・ロビンソン

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18:たとえ英雄ではなくとも

「一〇〇式ちゃん、笑って~」

 

「あ、はい。…にこっ」

 

 軍の仮設陣地にて、兵隊の人のリクエストに応え、一〇〇式ははにかみながらぎごちない笑顔を作ります。それでも、周りにいる人達はおおっ!と歓声を上げてくれて、携帯端末で一〇〇式の写真を撮影します。もう日が傾いているというのに、フラッシュが眩しいです。

 

「一〇〇式ちゃん、握手してくれないかい?」

 

「あ、てめぇ! 抜け駆けすんな!」

 

「お前が一〇〇式ちゃんの手を握ろうだなんて、百年早い!!」

 

 大柄な兵隊の人の申し出に周囲からヤジが飛びます。みんな落ち着いて欲しいです。

 

「あの…握手ぐらい、いくらでもしますから…」

 

「マジか!? ありがとう、一〇〇式ちゃん!」

 

「なんだって!? じゃあ、次、俺もお願い!」

 

「俺も!」

 

 一〇〇式が言うと、みんな大興奮で言ってにじり寄ってきます。ちょっと怖いです。彼らに敵意がないのは分かっているのですが…

 

「散れ、馬鹿ども! 一〇〇式(モモ)を脅かすんじゃない!!」

 

 後ろから声が聞こえました。指揮官です。彼は大股でずかずか歩いて来て、30人ぐらいいる兵士のみんなに指を突き付けて、説教をするように言います。

 

「いいか! 一〇〇式(モモ)にセクハラをする権利は俺のものだ! 分かってるな!?」

 

「「「「「「「サー! イエッサー」」」」」」」

 

 指揮官の言葉に、兵士のみんなは直立不動の姿勢で敬礼をして言います。あの、指揮官。そんな権利、少なくとも一〇〇式は認めてないんですけど…

 

「よし! ならば、節度を持って接しろ! 後、こいつは差し入れだ。清鷹には許可は貰っている」

 

「やった~! 流石、少佐! 話が分かるぅ~!!」

 

 兵隊の人達は指揮官が差し出した一升瓶を受け取って喜びました。どうも、指揮官を少佐と呼ぶのはレーヴァティンちゃんだけではないみたいです。指揮官は軍を辞めて久しいのに…

 

一〇〇式(モモ)、すまんが、しばらくこいつらの相手をしてやってくれ。セクハラを働いたら俺に通達しろ」

 

 指揮官が一〇〇式の両肩を掴んで言います。一番セクハラを働いている人が何を言っているのか、と思いましたが、とりあえず頷いておきました。確かに指揮官ならともかく、他の人にセクハラをされたら流石に物凄く嫌ですし。

 

「しませんよ、少佐じゃないんだから」

 

「少佐こそ、あんまり一〇〇式ちゃんに変なことしたら袋叩きですよ?」

 

「あん!? ナマほざくな、ボケナスども!」

 

 軽口を叩くみんなに握った拳の中指を立てて見せて、指揮官は去って行きます。この後、どうもM14さんと用があるらしいです。西博士に色々パーツを貰ったり、ペルシカさんと設計図を詰めたりしていたので、きっと義体の改造の件かもしれないです。

 いいなぁ、って、一〇〇式は思います。義体の改造さえできれば、一〇〇式ももっと活躍できるかもしれないのに。しかも、指揮官が自ら改造プランを立てたのだとか。…ちょっとだけジェラシーです。

 

「というわけで、一〇〇式ちゃん。一緒に写真撮ってくれないかな? 一生の宝物にするから」

 

「あ、はい。いいですよ?」

 

 というわけで、一〇〇式は陽が落ちるまで兵隊のみなさんにお付き合いしました。結局みんなと握手して写真を撮ることになりました。

 みんな紳士的でしたし、セクハラをされることもありませんでした。でも、さすがにちょっとだけ疲れました。みんな、どうして一〇〇式とお話ししたり、握手をしたり、写真を撮ったりするのでしょう。ちょっと理解に苦しみました。

 

「すみません、一〇〇式さん。みんなの相手をして貰って」

 

 基地の隅の方で休んでいると、レーヴァティンちゃんがやって来ました。手には温かい飲み物を持っています。一つがお茶でもう一つは水のようでした。

 

「うん、大丈夫。みんなに喜んで貰えてよかったから」

 

「はい、みんな喜んでいました。一〇〇式さんは軍内でも人気ですから」

 

 そう言って、レーヴァティンちゃんは飲み物を手渡してきます。コーヒーのようでした。啜ってみると、塩が利いていることが分かります。指揮官が好きなコーヒーです。

 

「でも、どうしてみんな一〇〇式と握手したり、写真を撮ったりして喜ぶのかな?」

 

「不安であるからだ、と少佐はおっしゃっておりました」

 

 一〇〇式の問いにレーヴァティンちゃんが答えます。彼女もまた同じような経験があり、その疑問を指揮官に尋ねていたとのことでした。

 

「この明日をも知れない過酷な戦場で、兵士達は心の拠り所を求めています。配偶者や恋人がいる人はそれを拠り所にするのですが、それがない者は一〇〇式さんのようなアイドルを拠り所にするのです」

 

 レーヴァティンちゃんの言葉に、一〇〇式は衝撃を受けました。彼らが自分との接触を求める理由が意外にも重かったからです。

 人は強い生き物ではない。何か心の拠り所がないと、とても命を懸けて戦えるもんじゃない。指揮官は以前一〇〇式にそういったことがありました。

 兵士の皆さんは人々を守るために、人類の領域に迫るE.L.I.Derとの戦いを日々繰り広げています。時には、自身がE.L.I.Derになる危険を冒して、崩壊液汚染区域に足を踏み入れることさえあるのです。

 そんな地獄のような戦場で、死と隣り合わせの生活を強いられて、ストレスで気がおかしくなってしまいそうになることもあるそうです。そんな時、一〇〇式の写真を見たり、握手した思い出なんかがあれば少しは心の慰めになる、とのことです。兵士の皆さんも少しだけ救われる、とのことです。

 

「…前線で戦えなくても、お役に立てることはあるんだ…」

 

「はい。一〇〇式さんのお陰でみんな笑顔を取り戻せたのですから」

 

 レーヴァティンちゃんの言葉に、一〇〇式は兵士の皆さんの笑顔を思い出します。過酷な戦場で、死と狂気の狭間に生きる彼らにとって、笑える時間は貴重なものだったのでしょう。それを作り出せた自分が少しだけ誇らしい、そう思いました。

 一〇〇式はレーヴァティンちゃんのように、前線で幾多の敵を撃滅し、人類を守るために戦うことはできません。でも、みんなのために出来ることはあるのです。英雄にはなれなくても、それでも一生懸命お役に立とう。そう願って頑張ることが大切なのだ、と思うのです。

 

「…ねえ、レヴァちゃん。いつか教えた料理、一緒に作らない?」

 

「はい。実はそれをお願いしに来たのです」

 

 一〇〇式の申し出にレーヴァティンちゃんが頷いて言います。彼女もまた、兵士の皆さんのために出来ることをやろうとしていたのです。

 

「行きましょう、一〇〇式さん。小隊長からの許可は得ていますので」

 

「うん!」

 

 レーヴァティンちゃんと一緒に一〇〇式は立ち上がりました。きっと、美味しく作ってみせる。そう心に誓いました。些細なことでも、一生懸命やっていくことで明るい未来が作れる。そうであることを信じて、一〇〇式は頑張って行きます。

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