一〇〇式日記   作:カール・ロビンソン

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21:指揮官がキレました!

 ある日のことです。指揮官はグリフィンを支援する企業との話し合いに出かけました。足は指揮官の私有車です。公用車のバンが今整備中で動かせないですし、流石に軽トラで行くのは憚られたからです。

 交渉は順調に進み、一〇〇式達は支援物資を得て帰路に着きました。この車では大した物資は運べませんが、後日企業側が持ってきてくれるそうです。指揮官はほくほく顔でした。一〇〇式も平和裏に交渉が終わってよかった、と思います。

 

 でも、その帰り道に運悪く鉄血の部隊に接触してしまいました。奴らは指揮官の車に銃撃を加え、帰還を阻止する構えです。

 

「あのボケども…人の車に大穴こさえやがって…」

 

 破棄されたビルの陰に車を停めた指揮官が怒りに震える声で言います。車には多数の銃痕が刻まれていて、ライトとかも壊されてます。修理が大変そうです。

 

「で、どうするの、指揮官? 奴らを蹴散らさないと帰るに帰れないわよ?」

 

 銃を構えたFive-sevenさんが緊張の面持ちで言います。鉄血の機械人形が迫っています。結構な大群です。

 でも、一〇〇式達はたった3人です。ダミーさえ連れていません。しかも鉄血側には恐らくBOSS級がいます。非常に危険な状況です。

 

「おうよ。蹴散らしてやるさ。俺の車の恨みを倍返ししてやる」

 

 指揮官は炭火のような怒りを込めた言葉を吐いて、車のドアを蹴り開けて言います。

 

一〇〇式(モモ)、千鳥を貸せ。あのボケナス共に身の程を分からせてやる!」

 

 そう言って指揮官は手を差し出しました。でも、指揮官には超加速とか使えないはずなので単なる小太刀としてしか使えません。ということは、鉄血の機械人形相手に接近戦をやろうということです。指揮官が強いのは知ってますが、いくらなんでもそれは、と思います。

 

「大丈夫よ、一〇〇式(モモ)ちゃん。…指揮官が本気出したら、あんな連中居ないも同然だし」

 

 Five-sevenさんが苦笑しながら言います。それを聞いた一〇〇式は改めて指揮官の顔を見ます。怒りに満ちた有無を言わせぬ表情でした。なので、一〇〇式は黙って千鳥ちゃんを渡しました。千鳥ちゃん、指揮官を守って。そう願いながら。

 

「ありがとう、一〇〇式(モモ)。二人はそこに隠れているんだ。久し振りに体育してくる」

 

 指揮官は軽く体操をした後、ビルの陰から飛び出しました。拳銃一丁と、千鳥ちゃんを握って。

 一〇〇式もまたドアを開けて指揮官の後を追います。援護射撃をして、指揮官を支援するのです。

 でも、そんなのは全然必要なかった、とすぐに思い知らされました。

 

 指揮官は物凄い速度で鉄血の機械人形の群れに突っ込んでいきます。足からはローラーが出ています。まるでスケート選手のような動作の指揮官の速度は推定120km程です。明らかにレーヴァティンちゃんより速いです。

 

 鉄血の機械人形はすぐに指揮官に向けて銃を向けます。吐き出された銃弾は瓦礫や地面を穿ちます。指揮官は5mも飛び上がって銃弾を回避したのです。次の瞬間、指揮官の姿が消えました。

 

「おせぇよ、雑魚ども」

 

 その声と共に指揮官の手が閃き、10体の機械人形の首が飛びました。何と指揮官は敵の背後に回り込んでいたのです。後で聞いたら、足に内蔵されているエアロモーターで回り込んだ、とのことですがそんな性能のエアロモーターなんて聞いたこともないです。

 

「ちっ! 何なんだ、あれは!?」

 

 指揮官の後方から新手が現れました。先頭には鉄血のBOSS級人形であるハンターさんがいました。あっという間に全滅した、前衛に驚いているみたいです。

 

 指揮官は左腕で首のない機械人形を持ち上げ、ハンターさん達に投げつけます。時速100kmで殺到した遺骸を避けるべく散開したハンターさん達に、指揮官が突撃します。右手の大型マシンピストルをフルオートでまき散らしながら。

 

 ハンターさんは銃弾を避けるように、伏せながら両手の拳銃を指揮官に向けますがその時にはもう指揮官の姿はありませんでした。

 

「千鳥はいい子だ。俺の願いについて来てくれる」

 

 ハンターさんの後ろに回り込んだ指揮官がそう言った次の瞬間、周囲の鉄血の機械人形が五体バラバラになって地に落ちました。推定100体ぐらいの機械人形が、です。

 間違いないです。指揮官は超加速を使いました。でも、どうして千鳥ちゃんの力を指揮官が使えるのでしょう。それに、どうして超加速の反動を受けないのでしょう。戦術人形の一〇〇式さえ、超加速を使うと反動で義体がガタガタになるのに…

 

「お前…化け物か!?」

 

「おうよ、糞ボケが。後でエージェント辺りにこってり怒られやがれ!」

 

 ハンターさんとの問答の次の瞬間、指揮官はハンターさんの真後ろにいました。ハンターさんの両腕は地に落ちています。赤い人工血液が噴き出して、地面を濡らしていきました。

 

「失せろ。今日のところはこのぐらいで済ませてやるが、次になめたことしたら、てめぇらの本拠地にレーヴァティン型1ダース送ってやるからな?」

 

「チッ…、こんな奴に…」

 

 指揮官の言葉にハンターさんは、呪詛のような言葉を吐いて撤退していきました。指揮官は千鳥ちゃんを鞘に納めて悠々と歩いて帰ってきました。そして、ありがとう、って言って一〇〇式の手に千鳥ちゃんを押し付けて、運転席に座ります。一〇〇式も急いで助手席に座りました。

 

「あーあー、穴ぼこだらけだ。くそっ、TMPと89式に修理付き合ってもらうか」

 

「ご愁傷様、指揮官。まあ、タイヤがパンクしてないだけマシね」

 

「そこまでやってたら、首を撥ねてたぜ、こんちくしょう」

 

 指揮官の悪態に、Five-sevenさんが苦笑しながら言います。でも、一〇〇式の頭の中は疑問でいっぱいです。

 指揮官が強いのは前々から知っています。指揮官の左腕と両足の脛から先は義体です。しかも、レーヴァティンちゃんよりも上質な軍用規格でも最上級のそれです。戦闘能力はレーヴァティンちゃんに準ずるほどであり、武器さえあるならD型感染者でも倒せるそうです。

 でも、まさか千鳥ちゃんの力まで使えるとは思いませんでした。千鳥ちゃんの力を使うにはある種の才能が必要であるらしく、彼女亡き後使えるのは一〇〇式だけ、という話でした。それなのに、指揮官は一〇〇式よりも上手に千鳥ちゃんの力を使ったのです。

 

「新型OSの試験をしてみたが、まあまあ上手くいったな」

 

 運転しながら指揮官がつぶやきます。そう言えば、指揮官は千鳥ちゃんや一〇〇式のメンタルモデルを元に、千鳥ちゃんのナノマシンを使うためのOSを組んでいた、と言いました。それを今回自身で試してみたのかもしれません。

 

「指揮官、もしかして…」

 

「ああ。千鳥の力を使うためのOSが概ね完成したのさ。これなら、実用もできるだろう」

 

 細かい調整は必要だろうけどな、と指揮官は言いました。

 

 指揮官の目標の一つである千鳥ちゃんの力を使える戦術人形の量産。それが現実のものになったのです。一〇〇式が指揮官に聞いた話では、そのOSをレーヴァティンちゃんに搭載して、義体に改修を施した後に新型のミッションパックを搭載して完成するそうです。コードネームは『ライキリ』だそうです。

 一〇〇式の心境は複雑です。指揮官の念願が実現しつつあります。そして、それは世界を平和にする一歩なのかもしれません。

 でも、千鳥ちゃんの力が彼女の憎む政府に使われてしまいます。そして、どんな理由であれ戦いのための道具になるのです。それは本当にいいことなのか。一〇〇式の心の中に葛藤が生まれました。

 

一〇〇式(モモ)、千鳥は曲がりなりにもこの世界の平和を願っていた。俺はこれが彼女の遺志に適う道だ、と信じている」

 

 そんな一〇〇式の心を察したのか、指揮官が肩を抱いて言ってくれます。そうかもしれません。この世界は脅威に満ち溢れています。それを打ち払う力になれるのなら、千鳥ちゃんは喜んでくれるかもしれません。でも、何か引っかかるものがあります。喉の奥に引っかかった魚の小骨のような。そんな感覚です。

 

「大丈夫だ。俺は…いや、俺達はその力を制御して見せるさ。…道を間違えてると思ったら、一〇〇式(モモ)が指摘してくれ。俺はお前のことを信じてるから」

 

 指揮官が一〇〇式の頭を撫でて言います。そこには無条件の信頼を感じました。一〇〇式は指揮官を見ます。その笑顔は穏やかでしたが、どこか悲しそうにも見えました。

 

 無敵に見える指揮官。迷うことなんてない指揮官。一〇〇式はそう思ってました。でも、本当は指揮官も迷っていて、自分の道が本当に正しいのか分からないのかもしれません。

 そして、指揮官は一〇〇式にストッパーの役割を願っているのでしょう。もしも自分が間違えているのなら、止めて欲しい。そう願って。千鳥ちゃんがそうであったように。

 

「はい、指揮官。…一〇〇式は頑張ります」

 

 一〇〇式は指揮官にそう答えました。心に強い決意を秘めて。

 何が正しくて何が間違っているか、今の一〇〇式には分かりません。でも、今のところ指揮官の判断が間違っているとは思えません。一〇〇式は指揮官について行きます。

 でも、もっと勉強をしていこう、と思います。万が一、指揮官が道を間違えたらそれを正せるように。それこそが、千鳥ちゃんの力を受け継いだ一〇〇式の使命だ、と思うから。

 一〇〇式は指揮官と視線を交わしました。そこには揺るぎない信頼の心がありました。指揮官、大丈夫です。一〇〇式は貴方の信頼に応えて見せます。懐の小太刀が少し熱くなっているように感じました。

 

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