一〇〇式日記   作:カール・ロビンソン

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23:みんな健気に生きています

 ある天気のいい日の事です。一〇〇式は箒とちり取り、それに如雨露と砂を持って、中庭にやって来ました。中庭には日が差し込んでおり、気持ちのいい雰囲気です。思わず日向ぼっことかしたくなりますが、それはお仕事が終わってからです。中庭等の整備は一〇〇式の他G41ちゃんやファルコンさん等の有志でやっていますが、その隊長がこの一〇〇式なのです。

 

 まず、花壇やプランターの花々に水をやっていきます。如雨露で丁寧に水をあげていくと、水を浴びた花の水滴が輝いて、まるで笑っているかのように見えました。

 花壇やプランターで植えているのは、ラベンダーやローズマリーなどのハーブ類。それにユウガオやヒマワリのような食べ物にもなる花です。…さもしい話ですが、この世界は慢性的な食糧難で、その供給は不安定です。こうして食べられる花とかを植えて食卓の足しにしていかないといけないのです。

 

 一通り花のお世話が終わったところで、今度は庭の片隅にある蜂の小さな巣箱を見に行きます。近づくと、ミツバチたちが今日も元気に飛び回っています。彼らは花の受粉を手伝い、蜜を集めてくれます。巣箱がごく小さいのは、この花壇と裏庭のプランター、それに訓練場の隅にある畑ぐらいしか周囲に花がないからそれ以上の規模だと養えないのです。

 もちろん、この辺りに蜂はいません。指揮官が一〇〇式のために蜂を巣箱ごと取り寄せてくれたのです。どうやって手に入れたのかは分かりませんが、指揮官はおおよその物なら何でも手に入れられる人脈を持っているそうです。…その後、しばらくご飯が水だけになってしまったみたいですが…

 

 蜂たちが元気であることを確認して、一〇〇式は反対の隅にある鶏小屋に行きます。木のフレームとトタンの屋根、それに金網の壁でできた鶏小屋は指揮官やG41ちゃんと一緒に作った思い入れ深いものです。

 中には二羽の鶏がいます。コッコとコケコと名付けられた鶏達は一〇〇式がヒヨコの頃から世話してる子達で、これまた指揮官がどこかから貰ってきてくれました。この基地に来て、はや一年と少しになりますがもう立派な鶏です。

 ちなみに、両方雌で毎日卵を生んでくれるので、とても助かってます。とても可愛いですし、立派に育ってよかったと思いました。

 

 まず、小屋の入り口を開けて二羽を外に放してやります。コッコとコケコは嬉しそうに外に出て、その辺を駆け回ったり、時々地面をがりがりしたりして遊んでいます。

 

 その間に一〇〇式は小屋の中の掃除をします。小屋の中は糞で汚れるので、週に数回は掃除してやらないといけません。なお、収集した鶏糞は肥料として使います。自然の恵みは最大限利用しないといけません。もったいないの精神です。

 後は砂箱の砂を変え、水飲み場水も変えてやります。そうして、一通り掃除ができたところで、産卵場所を覗いてみます。案の定卵がたくさんありましたので、それを貰っていくことにします。コッコにコケコ、ありがとう。

 

 気が付くともうそろそろお昼です。指揮官のご飯を作ってあげないといけません。今日の副官はFALさんです。仕事のできるFALさんですが、家事方面はさっぱりなので一〇〇式が作ってあげる方がいいでしょう。

 

 ふと、鶏小屋の衝立に巻き付けて育てているゴーヤがいい感じに育っていました。そろそろ熱くなる時期なので、コッコとコケコを涼しくしてあげるためにグリーンカーテンとして育てていたのです。せっかくなので、それもとっていきます。今日のお昼はゴーヤチャンプルーです。

 

 材料を得た一〇〇式は台所に行きます。そして、まず卵を丁寧に洗って、料理に遣う二個以外を冷蔵庫に保管します。そして、豆腐とニジマスの油漬けの缶詰を用意します。…本当はスパム缶やシーチキン缶を使いたいのですが、スパムは高いですし、シーチキンは現在生産はされておらず、廃墟から見つかるものは大概期限切れの代物なので人間が食べるのには適していません。その点ニジマスは貴重な蛋白源として養殖されているので、現在でもそこそこ安定供給されています。

 

 まず、豆腐をザルの上に取り出して、小さいお皿を二枚ぐらい乗せて水分を出します。ゴーヤチャンプルーに使う豆腐は型崩れを防ぐためにも、水分が少ない方がいいのです。水気が切れたら賽の目型に切って、ザルに上げて更に水分を切っていきます。

 その間にゴーヤの両端を切って、縦半分に切り、中のわたと種をスプーンで丁寧に取り除きます。これらの使わない部分も後で乾燥させて細かくし、コッコとコケコの餌にします。これももったいないの精神です。

 身の方は薄切りにして塩を少々まぶし、5分ほど置いておきます。こうすることでゴーヤの苦みが和らぐのです。その後、軽く水洗いして水気を切ります。

 そして、卵をボウルに割入れて卵を溶きほぐして、少量の塩を入れておきます。オムレツの時同様これをした後に放置することで、離水しづらくなり卵のふんわり感が増します。

 最後に、鱒の缶詰を開けて、中身をスプーンで突いて粉砕していきます。身がバラバラになったら、下ごしらえは完成です。

 

 いよいよ調理開始です。フライパンに油を引いて、まずは豆腐を入れます。菜箸で丁寧に転がして、豆腐の側面を焼き固めていきます。側面が焼き固まったら、一度フライパンから取り出します。

 

 続いて、マーガリンを少しフライパンに追加してゴーヤと缶詰を入れて炒めていきます。そして、ある程度炒めたら蓋をして、弱火にし3分ほど蒸し焼きにします。この蒸し焼きをすることによって、ゴーヤに缶詰の味が馴染み、また苦みが抜けるのです。そして、その苦みが汁として出て全体に分散されることで、チャンプルー全体に力強い味を与えます。

 3分経ったら、豆腐を戻し入れて溶き卵を入れ、醤油を小さじ一杯回しかけ、最後に卵が半固まりする程度にひと炒めしたら、一〇〇式特製ゴーヤチャンプルーの完成です!

 

 一〇〇式はゴーヤチャンプルーと乾パンをお盆に乗せて指揮官室に行きました。二人は、相変わらずつまんないことで言い合いをしているみたいです。まあ、でも二人はそれでも仲良しです。これも二人なりの愛情表現なのかもしれません。

 

「おっ、一〇〇式(モモ)。飯を作ってきてくれたのか」

 

「ご苦労様ね。指揮官、一〇〇式(モモ)に感謝しなさいよ」

 

 一〇〇式が入って来たのに反応して指揮官とFALさんが言い合いをやめて、声をかけてくれます。

 

「ああ。ありがとう、一〇〇式(モモ)。…本当ならお前が作る日なんだが…まあ無理か」

 

「失礼ね! できるわよ!!」

 

「そう言う嘘松はいらんと、何度言ったら…」

 

 …と思ったら、また新しい言い合いが始まりました。キリがないので、一〇〇式は構わずに近づいて、指揮官の机の上に料理を置くことにしました。

 

「へぇ、どれどれ?」

 

「お前のじゃねぇぞ、おい」

 

「ケチねぇ、減るもんじゃないでしょ?」

 

「お前が食ったら減るだろ!?」

 

「あの…FALさんの分もありますから…」

 

 またまた言い合いを始めた二人に一〇〇式は控えめに言います。ゴーヤチャンプルーは大皿に山盛りになっています。ゴーヤ一個からとかでも結構な量出来るのです。FALさんが食べても大丈夫な量があります。

 

「でも…これ…ゴーヤよね…」

 

 FALさんが少しだけ顔を引きつらせて言います。FALさんは甘いものは好きですが、実は苦い物なんかは苦手なのです。それ故の反応なのでしょう。

 

「なんだ、また好き嫌いか? 子供舌だなぁ」

 

「…悪かったわね。指揮官だって、甘いもの苦手なくせに」

 

「別に食えないわけでも、味が分からんわけでもねぇよ」

 

「あの、あんまり苦くないので大丈夫ですから…」

 

 またまたまた言い合いを始めた指揮官とFALさんに、一〇〇式が内心で少し呆れながら言います。普段大人な二人ですが、こうしているとなんだか子供みたいです。

 

「…まあ、一〇〇式(モモ)が言うなら食べてみましょうか」

 

「おう。一〇〇式(モモ)の料理は天下一だからな。いただくよ?」

 

「はい、指揮官」

 

 二人はお箸を使って、チャンプルーを食します。FALさんは少し恐る恐る、指揮官は嬉々として一口目を食べました。

 

「おお、美味い! ゴーヤの味と缶詰の味が全体に行き渡ってて、力強い味わいがあるな!」

 

「本当、美味しい! ゴーヤも苦くないし、卵もふんわりしてるし!」

 

 指揮官もFALさんもとっても喜んでくれました。一〇〇式はにこにこです。今日も上手にできました。

 

「うん。これなら全然食べられるわ。流石一〇〇式(モモ)ね」

 

「ああ。これ、中庭で採れた材料だろ? いやぁ、一〇〇式(モモ)には感謝感謝だな」

 

「そうね。一〇〇式(モモ)が一生懸命育ててくれたんだものね」

 

 指揮官とFALさんが一〇〇式と中庭のことを褒めてくれます。嬉しいです。日頃の努力の成果が実った気がします。でも、もちろんこれは一〇〇式だけの功績ではありません。様々な物資を調達して、基礎を作ってくれた指揮官、みんなを説得して中庭を使わせてくれるように尽力してくれたFALさん。それに、G41ちゃん達手伝ってくれるみんな。そして、この厳しい世界でも健気に生きているコッコやコケコ、それに蜂たちに花たち。みんながいてくれるお陰なのです。

 誰でも一人では生きていけません。みんながそれぞれ仕事をして、支え合って生きているのです。そんな優しい世界がこの基地の中にはあります。それはとてもありがたいことだ、と一〇〇式は思うのです。

 

「せっかくだ、一〇〇式(モモ)も一緒に食べよう」

 

「そうね。まだ、これだけたくさんあるし」

 

「はい!」

 

 指揮官とFALさんの申し出に一〇〇式は喜んで応じました。実はそのつもりだったので、お箸も準備してきています。

 そして、三人は穏やかに談笑しながら一つの皿の料理をつついて食べました。とても、暖かくて楽しい時間でした。もう思い出せない、人間だった頃の自分の家族もこんなだったのかな。そんな思いが頭を過りました。

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