昼下がりの演習場。一〇〇式はその真ん中で控え銃の姿勢で佇んでいます。周りには指揮官が一〇〇式の観測するためのドローンが多数。それに、一〇〇式のことを見ている、G41ちゃんやM4さん達です。
『
『はい、指揮官』
指揮官から合図を受けた一〇〇式は、指揮官に了解の意を示して、呼吸を静かに一息吸って、吐きます。そして、動作を始めました。
まず、一〇〇式は素早く銃を右手で持ち上げ、身体の中央に保持し、左手で銃の中部を持ち、右手を下部に添えます。所謂、捧げ銃の動作です。一部の隙も無く、ビシッと決まりました。
その姿勢のまま数秒の後、一〇〇式は頭上高くに銃を掲げ、一瞬だけ身を屈め、立ち上がる勢いを利用して突きの一閃を放ちます。空気が裂ける音が周囲に響きました。
その後、身をひねり銃を振り回すようにして横に回転。姿勢を低くし、銃を横に保持して立ち上がる時に、再び月の一閃を背中の方に振り向きながら繰り出します。
その後、突き出した銃で空気を混ぜるように回転させながら、後ろに3歩後退、身をひねって一回転、銃で薙ぎ払った後に、小さく飛び上がり空間を断つように大上段からの斬撃を繰り出します。
これは指揮官が考案した銃剣術の演武だそうです。銃剣道というよりは少林寺拳法のそれをモチーフにしている動きで、それはまさに銃と共に舞うというのがふさわしい動きでした。
突き、薙ぎ払い、大上段。それらの動きを組み合わせ、一〇〇式は舞い続けます。最後に、一度大きく振り回して大きく銃を掲げ、捧げ銃を逆にしたような動作で控え銃に戻った時、周りのみんなから大きな拍手が貰えました。
「かっこいい、
「すごいすごいよ、
「見事だったわ、
G41ちゃんとSOPMODちゃん、それにM4さんが褒めてくれます。他のみんなもめいめいに称賛の言葉をくれました。何だか、照れくさいですが嬉しいです。えへへ。
『ご苦労だった、
『はい、指揮官』
指揮官から労いの言葉を貰って、一〇〇式は銃を追い紐で吊って台所に戻りました。指揮官に美味しいお茶を淹れてあげないといけません。せっかくなので、休憩がてらほうじ茶を淹れてみようと思います。
お手製の柿茶を戸棚から取り出します。柿の葉を刻んで乾燥させたものです。缶を開けて、大匙4杯分をパッドに取ります。後、フライパンと濡れ布巾を用意します。
まず、フライパンを強火で30秒加熱します。そして、それを濡れ布巾の上に置いて適当に温度を下げていきます。
再び五徳の上に乗せて、パッドの茶葉をフライパンの上に均等に撒いていきます。そして、それに蓋をして2分30秒ほど待つのです。
そして、それを再び強火にかけて炒っていきます。約一分ほどかき混ぜながら炒っていくと、茶葉から煙が立ち上ってきます。
そこで火を止めて、更に余熱で1分ほど熱します。煙が出なくなれば、一〇〇式特製ほうじ柿の葉茶の完成です!
それを急須に多めに入れて、100℃に沸騰したお湯を注ぎます。抽出時間は30秒ほどです。
それをカップに注いでいきます。2つのカップに回し注ぎで、濃度が均等になるように最後の一滴まで注いでいきます。
カップに蓋をして指揮官室に行きます。ノックして部屋に入ると、指揮官がソファのところで待っていました。指揮官も小休止、というところでしょう。
「指揮官、どうぞ」
「ああ。ありがとう」
指揮官の手前にカップを置いて、一〇〇式も隣に腰かけます。そして、指揮官がカップを手にしたのを見守ります。
「嗚呼…とても香ばしい香りだ。相変わらず、
指揮官がお茶の香りを楽しみながら、一口啜って感想を言います。指揮官に褒めて貰えたことを嬉しく思いながら、一〇〇式もお茶を一口啜りました。うん。香ばしい香りと、柿の葉茶の癖のない味わいが相まってとても美味しくできました。
「あの…指揮官」
「どうしたんだい、
しばらくしてから、一〇〇式は指揮官に質問をします。指揮官も笑顔で促してきました。
「さっきのあれなんですけど…何に使うんですか?」
一〇〇式は先ほどの演武を思い出して尋ねます。指揮官はあの様子を多数のドローンで撮影していました。一体あの映像を何に使うのでしょう。
「ああ。
指揮官の言葉に、一〇〇式は視線を落として小さくため息をつきました。例の計画用のOSの作成のためだったのです。
雷切計画と名付けられた究極の戦術人形の開発計画。千鳥ちゃんの量産計画は大詰めを迎えているそうです。西博士の話では試作品は既に完成していて、後はOSの完成待ちとのことです。西博士と指揮官が分担作業を行い、最終的にそれを融合させることで完成に至るのだそうですが…
「…指揮官、本当にあの計画は必要なんでしょうか?」
一〇〇式は以前から思っていた根本的な疑問を指揮官に投げかけます。
一〇〇式としては雷切計画には正直賛同できません。千鳥ちゃんの心情、という問題もあるのですが、そこまでの力が必要なのか、と思うのです。
千鳥ちゃんは破格の力を有していて、あの強いレーヴァティンちゃんさえも寄せ付けませんでした。しかし、レーヴァティンちゃんの力があれば、D型感染者にも十分対抗できますし、大陸で見た軍の兵器も全く寄せ付けないでしょう。それだけの力があれば、何も千鳥ちゃんの量産化なんて真似は必要ない、と思うのです。
「必要かどうか、と言われたら必要だ、と即答できる」
指揮官はそんな一〇〇式にはっきりとそう告げました。
「
「はい、指揮官」
指揮官の言葉に、一〇〇式は頷きます。ライブラリィで当時の記録も調べてみましたが、公開されている分だけでもとても悲惨な戦いだったということがうかがえました。万余のE.L.I.Derに立ち向かった軍は、壊滅状態になりながらも辛くも勝利を勝ち取ったのです。
「あれは本当に奇跡の勝利だった。二度目はない。奇跡に縋らなくても勝てるように、力を得る必要があるんだ」
指揮官は遠い目をしながらお茶を啜ります。あの時の事を思い出しているのかもしれません。あの時の戦いで、戦友のほとんどは戦死し、指揮していた人形もレヴァちゃんと10数体の乙型しか残らなかったそうです。指揮官が二度とそんな悲惨な戦いをしたくない、という気持ちは痛いほどわかります。
「それにな…救いようのない屑がまた蠢いているらしい。…下手をしたらあの国の軍が本格的に介入してくる可能性もある。そうなったら、今の戦力じゃ厳しい」
「…生きていたんですか、あの人」
「さあな。本人だか残党だかは知らんが、動きがあることだけは確かだ」
一〇〇式の言葉に、指揮官は肩を竦めて言います。そういえば、近年あのパラデウスという敵がこの国にも現れたのです。一年前の事件の元凶というべき、あの人が生きていても不思議はないのです。
陸戦だけならレーヴァティンちゃん達甲型戦術人形さえいれば、恐れるに足りないかもしれません。でも、空や海まで含めるとこの国の力では、あの国には対抗できないでしょう。正面衝突の可能性を考えれば、千鳥ちゃんの力は必要と言えるかもしれません。
「それに…もしかすると、そんなもんよりもよほど強力な存在が、世界の敵に回るかもしれん。そいつらに対抗するには千鳥の力が必要なんだ」
指揮官の言葉に、一〇〇式は息を呑みます。あの国の軍よりもよほど強力な敵…そんなものがいるのでしょうか。指揮官の様子から見て、詳しいことは話せないのかもしれませんが、それが嘘であるとは思えません。恐ろしい戦争が始まってしまうのでしょうか。一〇〇式は自身を抱き締めます。
「
指揮官が一〇〇式の顔を覗き込んで言います。その慈愛に満ちた目を見て、一〇〇式が思うことは一つです。
「私は…一〇〇式はみんなを…守りたいです…」
「なら、千鳥はお前の願いを叶えるさ。俺は彼女の手助けをしているに過ぎない」
そう言って、指揮官は一〇〇式の頭を撫でてくれます。
千鳥ちゃんはこの一〇〇式の友達です。彼女はきっと、一〇〇式を守りたい、と思ってくれるでしょうし、そして一〇〇式が守りたい全てを守ってくれるでしょう。そう考えれば、あの計画も千鳥ちゃんの遺志を継いだもの、と言えるかもしれません。
「最終的にな、この世界はお前の双肩にかかってるって、俺は思うんだ」
「私の…ですか?」
「ああ。重ねて言うが、千鳥の力はお前の願いを叶えるための力だと思うからな」
指揮官の言葉を聞いて、一〇〇式は困惑して自身の両手を開いて見てしまいます。自分の手に世界が委ねられている。そんなことを言われても今一つ実感はないです。でも、もしそうだとしたら…一〇〇式はどうしたらいいんでしょう?
「まあ、そう気に負うな。まずは目の前のことをちまちま片付けて行こう。大きな道は次第に見えてくるさ」
「…はい、指揮官」
そう言って、撫でてくれる指揮官の手を頼もしく思いながら、一〇〇式は頷きました。
いつかFALさんの言っていた将の見る風景。一〇〇式にとってのそれは、千鳥ちゃんの力の描く波紋と、それに何を願うかを見定めることなのかもしれない、と思いました。
そこに辿り着くには、幾多もの苦難が待ち受けている、と思います。でも、恐れることも後悔することもありません。一〇〇式には世界で一番頼りになる指揮官がいるのです。
「いつか、綺麗な世界を見に行こう、
「はい、指揮官!」
指揮官の言葉に一〇〇式は力強く応えました。懐で熱を持っている小太刀にも心の中で言います。二人でみんなを守って、世界を取り戻そうって。