一〇〇式日記   作:カール・ロビンソン

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3:いつか戦いが終わったら

 茜色の太陽が沈んでいきます。ゆっくりゆっくりと沈んでいきます。

 世界が黄昏の色に染まっていく風景を一〇〇式は飽きずに眺めています。日が沈んで、夜が来て、それが終わってまた朝が来る。そんな当たり前の景色を眺めるのが好きなのです。

 

 ここはゲートのすぐそばにある歩哨台です。正直見張りはカメラがやっているので形だけのさほど意味のないものですが、一〇〇式はここから基地の外を眺めるのが好きです。

 

 基地の外に広がっているのは何もない荒野です。昔はもっといろいろな物があったのかもしれません。色々な人が住んでいたのかもしれません。うつろう世界を見つめて、そうしたことに思いを馳せるのも一〇〇式の好きなことです。

 

 ちょっとだけ寒くなってきました。一〇〇式は肩から提げていた水筒の蓋を外し、蓋をコップにしてレモンティーを飲みました。暖かくて、甘くて、ほんのりとレモンの香りがするお茶は今日も美味しいです。

 

「ここにいたのね、一〇〇式(モモ)

 

 ふと、背後から声が聞こえました。見ると、M4さんが梯子を上ってきていました。M4さんは一〇〇式と同じく、隊結成初期からいる古参の戦術人形です。そして、私と同じ境遇のたった一人だけの人形でもあります。だから、昔から友達でよく色んな話をします。

 

「はい、M4さん。夕日を見てました」

 

「ふふ。一〇〇式(モモ)らしい」

 

 一〇〇式の言葉を聞いて、M4さんは笑ってくれました。

 その昔、M4さんはあまり感情を表に出さない人形でした。指揮官の曰く、人形の振りをしている人間のようだ、とのことで、それはかつてのM4さんを言い表すのに適切な言葉だったと思います。

 出会ってから数年。あの一連の事件を乗り越えて、M4さんは大分色々な表情や感情を表に出すようになってきたと思います。よく笑ってくれるようになりました。そのことが一〇〇式は嬉しく思います。

 

「はい、M4さん」

 

「ありがとう」

 

 一〇〇式が淹れたお茶をM4さんが受け取って言いました。カップはひとつしかないので回し飲みになりますが、二人ともあまり気にしません。しばらくの間、二人はまったりとお茶を飲みながら、ただ夕日を眺めていました。

 

「ねえ、一〇〇式(モモ)。もしも、の話だけど…」

 

 日がほとんど沈み、空に夜の帳が下り始めたところでM4さんが切り出します。

 

「もしも、戦いが終わったら、私達はどうなるのかしら…?」

 

「戦いが終わったら…」

 

 M4さんの言葉を一〇〇式は反芻します。それはきっと、戦術人形なら誰でも考えたことのあることです。

 私達グリフィンドールは、そのほとんどが民生用の自律人形を改造したものです。戦いを終えた戦術人形は、コアを外されてまた民間に戻るのが普通です。

 そして、私達の戦いが終わる時。それは鉄血の連中が完全に壊滅して、それ以外の平和を脅かすモノ達がいなくなった時のことかもしれません。

 その時は、この基地は解散して私達は晴れて民間で第二の人生を歩むことになるのかもしれません。でも、それは指揮官やFALさん。G41ちゃんやM4さん達ともお別れをする、ということになるのかもしれません。それはとても寂しいことだと思います。みんなとはずっと一緒にいたい、というのは私の我侭なのでしょうか。

 でも、指揮官はそんな私が寂しくないような案を考えてくれました。実はずっと前に指揮官とはこういう話をしたことがあるのです。

 

「そうですね。指揮官と一緒にレストランをやろうか、と思ってます」

 

「レストラン?」

 

「はい」

 

 M4さんの問いに一〇〇式は笑ってそう答えました。

 もしも、基地が解散になったなら、指揮官もグリフィンを辞めてレストランを開こう、と言うのです。その頃には指揮官も借金を返していると思いますし、凍結されている軍人時代の貯蓄を使えば初期費用は十分だそうです。人脈を使えば、資材も食料も簡単に調達できるそうです。

 そうして、レストランを開いて一〇〇式とかG41ちゃんとかを雇って、みんなで慎ましく生きていく。そんな未来を指揮官は提示してくれました。こうすればずっと一緒にいられるって言ってくれました。

 

「そうなんだ。素敵ね」

 

「はい。そうしたら、M4さんも一緒に…」

 

「そうね。そうだったら、嬉しいな…」

 

 そう言って、二人は顔を見合わせて笑い合いました。そして、それが実現したときの他愛ない話を続けました。

 もちろん、それは叶わない夢だと思っています。世界に脅威は満ち溢れており、私達の戦いが終わる兆しは一向に見えません。加えて、私達は特別な人形です。きっと、死ぬまで銃を捨てることはできない。そう思っています。

 でも、せめて夢を見ることぐらい許されてもいいと思います。夢や希望は誰にも奪えない、心の翼なのですから。

 

「なら、私も料理とか覚えた方がいいかな?」

 

 M16姉さんにも何か作ってあげたいし、とM4さんは言います。

 M16さんやトンプソンさんはお酒が大好きで、時々一〇〇式にお摘みを頼んできます。もちろん、料理の練習にもなりますし快く引き受けていますが、M16さんはM4さんが大好きなので、M4さんが作った料理の方が喜ぶと思います。

 

「はい。なら、簡単なものから教えますね?」

 

「うん。よろしくね、一〇〇式(モモ)

 

 というわけで、私達は歩哨台から降りて台所に向かいました。もうすっかり夜です。M16さん達もお酒を飲む頃かもしれません。丁度いいと思います。

 ちゃんと手を洗って、エプロンを着けて、三角巾を頭に巻いたら料理開始です。

 

 まず、用意するものはオイルサーディンの缶詰と玉ねぎを一個です。ちなみに、サーディン缶は私とM4さんでそれぞれ二つずつ担当です。自分の分とトンプソンさん、M16さん用です。

 

「まず、缶詰の蓋を開けてください」

 

「ええ」

 

 まず平たい缶詰のプルトップの蓋を開けます。サーディン缶は昔の倉庫からツナ缶についで見つかる缶詰で、入手は比較的容易です。しかも、近年一部の海が浄化されたこともあって、鰯の養殖が開始されたことから再生産も現実的になってきました。これからもずっと使えるメニューです。

 

 蓋を開けるとオイルに漬かった頭のない小さな鰯たちが並んでいます。一つ摘んでみるとすでに味がついているのがわかります。なので、調味料などはほとんど必要ないです。

 

 次に玉ねぎの皮を剥いて、四等分に切ります。そして、その内の二つをM4さんに渡します。一つの缶詰につき四分の一の玉ねぎが丁度いいと思うのです。

 次に玉ねぎを千切りにしていきます。人間だと目が痛くなるらしいですが、戦術人形である私達は平気です。

 

 そして、きった玉ねぎをそれぞれ缶詰の上に盛ります。そして、その上から少量の醤油をかけ回します。あくまで香り付けであるため少しでいいですが。M16さんやトンプソンさんは味が濃いほうが好みなので少し多めにしました。

 

「最後に、ローリエの葉を乗せて、オーブントースターで7分。それで完成です」

 

「ええ。こんなに簡単なのね…」

 

 一〇〇式とM4さんは言葉を交わしながら、オーブンに缶詰を入れタイマーをひねります。後は待つだけです。M4さんは半信半疑な様子ですが、これがなかなか美味しいのです。

 

「お嬢、悪い。何か作ってくれないか?」

 

「ああ。せっかくジャックダニエルのプレミアボトルが手に入ったからな。旨い摘みが欲しいんだ」

 

 トンプソンさんとM16さんが顔を覗かせました。丁度いいです。

 

「二人とも、いいところに!」

 

 一〇〇式は二人を招き入れて、M4さんと一緒に料理を作ったことをお話します。

 

「なに!? M4の手料理だと!?」

 

「はい、M16姉さん」

 

「うっしゃぁ~、こりゃ楽しみだ!」

 

 M16さんは案の定物凄く喜んでくれました。よかったです。

 

「おっ。旨そうな匂いがしてきたな」

 

 トンプソンさんがオーブンを見て言います。そろそろ焼けてきたみたいです。一〇〇式とM4さんは布を敷いた平皿を4つ用意しました。

 

 ちーん、と音がしました。オーブンを開けると香ばしい匂いとともに、玉ねぎがいい感じにしんなりとした缶詰が出てきました。手袋を履いて、それをお皿の上に乗っけて行きます。これで完成です!

 

 というわけで、早速4人でいただく事にしました。まず、M16さんがフォークで玉ねぎといわしを食します。

 

「美味い! これは酒に合う!」

 

 M16さんが感動して言いました。喜んで貰えてよかったです。

 

「凄く香ばしいな。ただの缶詰がこんなに美味くなるとは、さすがお嬢だぜ!」

 

 トンプソンさんもとっても美味しそうに食べてくれました。缶詰グルメは大成功です。

 

 というわけで、一〇〇式とM4さんもそれぞれ箸とフォークで食しました。

 焼いたサーディン缶は油で煮込まれて、自然とアヒージョのようになっています。それを玉ねぎと食することで、いわしの旨みと油、それと玉ねぎの甘さとが合わさって、えもいわれぬ味わいになります。更に、焼けた玉ねぎと醤油の香りが食欲をそそってくれます。とっても上出来です。

 

「美味しい」

 

 M4さんも喜んでくれました。M4さんは初めて料理をしたらしいです。自分で作った料理はやはり美味しいですし、好きな人が料理で喜んでくれるのも嬉しいです。これでM4さんにも料理を作る楽しさがわかって貰えたと思います。

 

「よかったじゃないか、M16。これからは頼む相手が一人増えそうだ」

 

「ああ、M4。これからもよろしく頼む」

 

「はい、姉さん。…一〇〇式(モモ)、もっとたくさん料理教えてね?」

 

「はい、M4さん!」

 

 こうして私達は和気藹々と楽しい夜のひと時を過ごしました。

 私達の戦いは終わることがないかもしれないです。でも、こうして一つ一つ夜を乗り越えて、平和な朝が迎えられるように頑張って行こうと思います。ささやかな夢を信じて。

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