一〇〇式日記   作:カール・ロビンソン

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30:未来の可能性

 ある日のことです。指揮官は相変わらずお腹を空かせていました。

 聞けばみんなの衣装を買ってお金が尽きたみたいです。具体的には一〇〇式とC-mosちゃんとDP-12さんとM99ちゃんなんですが。

 指揮官も困ったものです。みんなの衣装を買うために生活費まで使い込んでしまうなんて。

 でも、一〇〇式は少し嬉しいです。生活を犠牲にするぐらい一〇〇式達が可愛いのでしょうか。もしそうなら、指揮官にいっぱい可愛いと思って貰う方がいいです。一〇〇式達のためにお金をかけてくれたのですから、ご厚意には報いるべきです。

 

 とはいえ、一〇〇式は報いる方法を思いつきません。せいぜい、料理で指揮官の空腹を癒してあげることぐらいです。不器用な一〇〇式にはそれぐらいしかできないのです。うぬぅ。他のみんなはどうやって指揮官に好かれているのでしょうか。

 

 まあ、考えても仕方ないです。一〇〇式は自分なりのやり方で指揮官に尽くそう、と思います。というわけで、早速じゃがバターを作ろう、と思います。

 

 まず、じゃがいもを3こ程用意します。じゃがいもは安価なので箱にいっぱいあります。皮も緑じゃないですし、芽も伸びてません。

 それを水で洗います。泥を落として綺麗にします。

 そして、ナイフで凹んでいる部分である芽をくり抜いていきます。ジャガイモの芽にあ毒があるので人間が食べてはいけません。食味も悪いですし。なお、皮は敢えて剥きません。緑じゃないですし。

 

 そして、芋に切れ込みをいれます。十文字斬りです。こうすることで、熱が通りやすくなります。

 後はそれを水で濡らし、ラップでくるんで、電子レンジに入れます。そして、3分ほど設定します。

 しばらく待つと、チーンと音がしました。熱々の電子レンジを開けて、中から芋を取り出します。そして、ラップを剥いて箸を刺してみます。すんなりはいったので、ちゃんと火が通ってます。後はお皿に盛り付けて、塩を振ってバターを乗せて、お手製のマヨネーズを添えたら、一〇〇式特製じゃがバターの完成です!!

 

 では、早速指揮官のところに持っていきます。指揮官はきっとお腹を空かせていると思うので、物凄く喜んでくれるはずです。きっと、とても褒めて貰えるでしょう。一〇〇式はうきうきで指揮官室のドアを開けます。つい、ノックをしないで開けてしまいましたが、指揮官はFALさんや一〇〇式、それにG41ちゃんならノックをせずに入っても怒ったりすることはまずないです。

 

「何度も言うが、あれについては西の判断に任せている。欲しけりゃそっちで調整してくれ…ん?」

 

 ディスプレイに向かってそう言っている指揮官は、一〇〇式を見た途端物凄く苦い顔になりました。一瞬でポーカーフェイスに戻りましたが、一〇〇式はしゅんとしてしまいました。指揮官が一〇〇式を疎むような表情を見せたのは初めてだからです。

 

『つれないわね。昔の誼で都合してくれてもいいんじゃない?』

 

「こいつはもう情報部でも特秘に指定されてるんだ。感情云々でどうこうできる話じゃないんだ。分ってくれ」

 

『はいはい、分かりました。妙な所で真面目なのは相変わらずね、晶は』

 

「俺はいつでも糞真面目な男さ。話は終いだ。切るぞ?」

 

『あら? そこにいるの一〇〇式ちゃんでしょ? なら紹介…』

 

 ディスプレイの人物の言葉を遮るように、指揮官が強制的に通信を切りました。何だったのでしょう。

 

「すまなかった、一〇〇式(モモ)。あまり面白くない話だから、お前に聞かせたくなかったんだ」

 

 指揮官が詫びてくれます。恐らく、一〇〇式がしゅんとしたことを気遣ってくれているのでしょう。ノックを忘れて入った一〇〇式が悪いのに。指揮官は優しいです。

 でも、さっきの人は誰なのでしょう。ディスプレイに映っていたのは、白衣姿の女性でした。ペルシカさんとは違いますし、黒髪のセミロングの人でした。西博士の話も出てましたし。一体誰なんでしょう?

 

「あの…指揮官。今の人は?」

 

 一〇〇式は指揮官の前にじゃがバターのお皿を置いて、指揮官に尋ねます。先ほどの女性と指揮官は、何だか気さくな雰囲気でした。どういう関係なのか気になります。

 

「ああ。同期の奴さ。西と同じようなもんさ」

 

 話によると彼女の名前は神鳥天音と言うそうです。指揮官とは同期の技術士官であるらしく、西博士と同様に戦略研究所の所長の一人らしいです。なんでも、西博士とは異なる分野の長らしいですが…

 

「奴の曰く、遺跡でバラクーダが見つかったらしい。それで、そいつを制御したいから、新型ナノマシンを使いたい、と言ってきたんだがな」

 

「バラクーダ…!」

 

 指揮官の言葉に一〇〇式は戦慄します。バラクーダと言うのは、遺跡から見つかった古代兵器で、物凄い力を持ちます。中東で試験された際には、千人以上の精鋭部隊を一方的に蹂躙したという、凄まじい戦果を上げたそうです。遺跡の兵器の中では、単純なものであり今の技術でも量産が可能である、という点も恐るべきところです。

 

「…M4さんの力じゃなくて、新型ナノマシンなんですね…」

 

「ああ。M4の力でこの国の遺跡に影響が及ぼせるか分からんしな。新型ナノマシンで伝達フィールドを形成し、ハッキングした方が確実だ、と思ったんだろうよ」

 

 一〇〇式の言葉に、指揮官は肩を竦めて言います。あの事件を経たM4さんは遺跡に関与する力を持っています。しかし、彼女はそれを現在封印していますし、もう二度と使うつもりはないと思います。指揮官も忌まわしい過去を掘り起こすことを許しはしないでしょう。

 だからこそ、天音さんと言う人は新型ナノマシンの提供を求めたのかもしれません。でも、バラクーダの制御なんかに千鳥ちゃんの力が使われることは、一〇〇式だって嫌です。千鳥ちゃんの力は人類の希望の欠片であって、戦争をするための道具ではない、と信じているからです。

 

「まあ、バラクーダの回収には西も同行するみたいだし、必要だと判断したらあいつの方から話があるだろう。今俺が関わる話じゃない」

 

「…西博士が危険じゃないんですか?」

 

 そう言って椅子にもたれかかる指揮官に、一〇〇式は疑問を呈します。西博士は指揮官の親友で、雷切計画の実質的な主導者です。そして、遺跡の兵器には暴走の危険もあると聞きます。万一、バラクーダの回収に赴いて、事故が起きて西博士が失われると、指揮官にとっても相当な痛手になると思います。それなのに、のんきにしていてもいいのでしょうか? それに西博士は少々変わっているとはいえ、一〇〇式に良くしてくれる人です。彼に何かあったら、一〇〇式だって悲しいです。

 

「試作型のライキリパックを取り付けたレヴァが護衛するから問題ないだろうよ。あんなもんがいくら束になろうが、ライキリの敵になろうはずがない」

 

 心配する一〇〇式に指揮官は平然とそう言います。確かに、と一〇〇式も思います。史上最強の機械人形である千鳥ちゃんは、いかなる存在も寄せ付けない別次元の戦闘力を持っていました。ライキリはそんな千鳥ちゃんさえも、単純な戦闘能力では上回る、と指揮官から聞いています。それなら、バラクーダはおろか、どんな兵器でも恐れるに足りないでしょう。

 でも、一〇〇式は複雑です。確かにライキリは人類を保全するために必要な力かもしれません。でも、これでは千鳥ちゃんの力は完全に戦いの道具です。本当にそれでいいのか。一〇〇式の胸に言葉にならない疑問が渦巻きます。

 

一〇〇式(モモ)、お前の疑問は分かる。だが、ライキリの力は人類が前に進むために、過去を清算するために必要な力なんだ…」

 

 指揮官が立ち上がって、一〇〇式に近づいて、そして抱き締めてくれました。一〇〇式の疑問でいっぱいの心を察してくれたのでしょう。

 一〇〇式は抱き締められたまま、指揮官を見上げます。指揮官の言葉を促すつもりで。

 

「考えてごらん、一〇〇式(モモ)。大陸で起きた事件は、遺跡の力を欲しがる屑共がM4達を振り回した結果起きたんだ。それが、どれだけの人を傷つけて、どれだけの人を亡き者にしたのか。考えるだけで虫唾が走る。そう思わないか?」

 

 指揮官の言葉に、一〇〇式は思い出します。大陸で起きたあの事件を。力を求める愚かな人々に巻き込まれて、M4さん達が悲惨な目に遭ったあの事件を。もうあのような悲劇を繰り返してはいけない。M4さん達はそう思うからこそ、その力を封印して今に至るのです。

 でも、大陸では未だに遺跡の力を得ようとする人々が暗躍しているそうです。恐らく、パラデウスの連中が再び一〇〇式達の前に現れたのも、それが絡んでいるのでしょう。

 

一〇〇式(モモ)、人類は遺跡の力を当てにせずに歩いて行く。そして、奴らが齎した崩壊液等を駆逐することで、ようやく過去の遺物からの脱却ができるのさ。それを実現するための一歩がライキリの完成なんだよ」

 

 指揮官は一〇〇式の頭をなでなでしながら言います。その言葉に、一〇〇式は納得しました。

 遺跡の兵器の力を大きく凌駕するライキリ。それが世に出れば、誰も遺跡よりもそちらに目を向けるはずです。そして、今の人類が過去遺跡を作った存在を凌駕したことを思い知ることでしょう。そうすれば、遺跡と、それを制御する存在を血眼になって探すことからは脱却できるかもしれません。…ほかに問題が起きそうな気もしますが、そこは指揮官の事なので何か考えていると思います。

 でも、一つ言えることは、過去遺跡を作った何者かの影響を排除しない限り、人類は前に進めない、ということです。世界を汚染する崩壊液を除去し、それが生み出したE.L.I.Derを駆逐し、人々が遺跡やそれが生み出したものを求めることを辞める。そうしなければ、人類は自分の足で前に進みだせないと思うのです。

 

「だが、それらは俺がどうこうすることじゃない。全ては千鳥の遺志を継ぐ、お前が決めることなんだよ」

 

「…はい、指揮官」

 

 指揮官の言葉に、一〇〇式は頷きます。ようやく、指揮官がライキリの開発に携わったか、分かりました。全ては人類を自分の足で前に進めるため。そういうことだったのです。

 一〇〇式には未だ分からないことも沢山あります。納得できないこともあります。でも、それでも、一〇〇式は指揮官について行こう、と思います。指揮官と共に綺麗な世界を見に行こう。そう思います。

 

「嗚呼、美味い。…俺、借金返したら絶対一〇〇式(モモ)と誓約する」

 

 じゃがバターを頬張る指揮官の言葉に、微笑みながらも胸の中を熱くします。はい。一〇〇式は、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、冨める時も、貧しい時も、指揮官の傍らにあり続けます。一〇〇式は、指揮官がこの世界の何よりも大切で、大好きですから。


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