一〇〇式日記   作:カール・ロビンソン

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32:いつか世界が平和になったら

 一〇〇式は倉庫に運び込まれた大量の袋を見て、目を輝かせます。指揮官が仕入れてくれたお米が、遂に届いたのです。

 隣にいる指揮官の許可を得て、袋1つの口を開いてみます。そこには輝く真っ白なお米が湛えられていました。手で掬ってみます。さらさらとした感触の眩いお米。お米を見たのは初めてではないですが、こんなに大量のお米が倉庫に積まれているのを見るのは初めてです。なんだか嬉しくなってきました。

 

 

「さて、一〇〇式(モモ)。早速ですまないが、89式と64式に米を炊いて食わせてやってくれ。朝から催促されているからな」

 

 指揮官が苦笑しながら言います。このお米は、以前G41ちゃんと89式さんが関わった事件で得られたもののようです。どのような事件だったか、一〇〇式は詳しいことは知りませんが、念願のお米が手に入ったのです。89式さんが喜ばないわけがありません。

 一〇〇式の腕が鳴ります。お米を美味しく炊いて、美味しいおかずと共に提供し、89式さんと64式さんを満足させてあげようと思います。

 

「後、FALとG41が自分の取り分を放棄して、一〇〇式(モモ)達の分に回してくれたから、多めに食べてもいいぞ?」

 

「え!?」

 

 指揮官の言葉に、一〇〇式はびっくりしました。FALさんが配給を一〇〇式に回してくれることはよくあるのですが、今回G41ちゃんは以前の事件のMVPであったはずです。いっぱい美味しいご飯が食べられるのに、それを89式さん達に回してあげたのです。G41ちゃんは本当に立派な隊長さんになったな、って思います。

 

 一〇〇式はますますやる気になりました! FALさんとG41ちゃんの想いを無駄にしないよう、最高のご飯に仕上げて見せます!!

 

 とはいっても、やることはシンプルです。お米を上手に炊いて、それを引き立てる簡単なおかずを準備するだけです。今回の主役はお米なのですから、凝ったことをする必要はありません。

 

 お米は当然ですが、飯盒で炊きます。飯盒で炊いたご飯は、それはもう美味しいものです。特に少しだけできるおこげの味わいが、たまりません。

 そして飯盒炊飯は結構簡単にできるものです。一〇〇式はポケットストーブを取り出してきます。特に一〇〇式が愛用しているものは、指揮官からプレゼントされたもので、かなり年季が入って色合いがいい感じに変わってきています。指揮官は大分適当に扱ってたみたいで、くれたばかりの時はかなり煤で汚れていましたが、一〇〇式は丁寧に手入れをしているのでとっても綺麗です。私の宝物の一つです。

 でも、一つじゃ足りないので、G41ちゃんに一個借りてきました。こちらもとても綺麗で、かついい具合に使い込まれています。64式さんは自前のものを持っているので、それを貸してもらいました。

 そして、ラージメスティンを3こ用意します。アルミ製の飯盒であるメスティンは使い勝手がよく、料理をする戦術人形の必需品でもあります。

 

 まずお米を6合ほど丁寧に洗います。お米が傷つかないように、荒っぽくしないように丁寧に研いでいくのです。水の入れ替えは三回ほど。研ぎすぎても旨味が殺されてしまうので、頃合いを見極める必要があります。

 そして、研いだお米を容器に入れて30分ほど水に漬けます。その間におかずの準備をします。

 

 まずは、大根と人参ときゅうりの漬物を切っていきます。今回はシンプルな塩漬けですが、トウガラシや豆からとった出汁なんかも加えて、まろやかな味わいに仕上がってると自負しています。ご飯のお供に最適でしょう。

 後、倉庫から鯖の味噌煮缶を持ってきます。鯖の味噌煮は、ご飯のお供にうってつけです。鯖缶はツナ缶やイワシ缶に次いで見つかる缶詰なので、在庫にも余裕がありますし。

 

 そうこうしているうちに30分が経過したので、米を自ら取り出して3つのラージメスティンに2号ずつ移して、水を400cc、シェラカップで入れます。このシェラカップは、後でお茶碗の代わりとしても使います。

 

 そして、下にトレーを敷いたポケットストーブに、アルコール固形燃料を2つ入れて、火を点けます。後は、メスティンに蓋をして、ストーブの上に乗せて、上に鯖缶を重石として乗せたら完成です。

 8分ぐらいで蒸気が出始め、蓋から水が滴ってきますが放置です。トレーを敷いているので、机が汚れることもないですし。

 お米を炊いている間に、シンプルなキノコと豆腐のお味噌汁を作っていきます。ご飯といえば、やはりお味噌汁です。ご飯の最後の一杯は、お味噌汁をかけた猫まんまにしたいものです。お行儀は悪いですが、美味しいものは美味しいのです。

 

 固形燃料が燃え尽きたら、いよいよ仕上げです。蒸らしのために、タオルにくるんでひっくり返し、10分ほど放置します。

 その間にお盆を準備して、鯖缶を漬物、それに味噌汁のお椀とメスティンを載せて娯楽室に持っていきます。

 

 娯楽室では、ちゃぶ台のところで89式さんと64式さんが待ってました。指揮官が連絡したのでしょう。

 もう89式さんは目をらんらんと輝かせて、ご飯を今か今かと待ち望んでいます。そんな彼女を見て64式さんは少し呆れた様子でしたが、彼女も一〇〇式の持ってきたご飯の匂いに嬉しそうな顔になりました。なんだかんだで、彼女もお米のご飯を楽しみにしていたのです。少し嬉しくなって、くすりと笑ってしまいました。

 

「一〇〇式さん、ありがとうございます! さあ、早速蓋を開けてください!!」

 

「がっつきすぎよ、もう…すみません、一〇〇式さん」

 

「ううん、いいの。じゃあ、早速食べようか?」

 

 涎を垂らして飛びつかんばかりの89式さんを、64式さんが苦笑して制します。そんな姉妹のような姿をほほえましく思いながら、一〇〇式はテーブルの上に置いたメスティンの蓋を、耐熱手袋を履いて開けました。

 ふわっ、とした蒸気と共に立ち上がる甘いお米の香り。そして、現れる眩い銀シャリ。89式さんだけでなく、64式さんも一〇〇式も思わず笑顔がこぼれます。日本人であるなら、これに喜ばない者はいないでしょう。

 

 一〇〇式は早速シェラカップにお米をよそっていきます。最初は少なめに、何もかけないでお米の味を純粋に味わうのです。

 89式さんが震える手でお箸を操り、ご飯を一口摘まみます。憧れのお米が目の前にあるのです。嬉しくないわけがありません。でも、なんだか口に入れるのを、少しためらっているようにも見えます。もしかすると、もしお米が美味しくなかったら、と怯えているのかもしれません。

 そんな89式さんに一〇〇式は勇気づけるように微笑みます。大丈夫です。みんなが頑張って手に入れたお米です。美味しくないわけがないです。一〇〇式も上手にお米を炊けた、と思います。これで美味しくなかったら、腹を切る所存です。

 

 そんな一〇〇式の顔を見て、89式さんは意を決したようにご飯を口に入れます。そして、咀嚼して目を見開きます。目の端からつうっと、涙が一筋こぼれました。

 

「お、美味しい…」

 

 そして、涙の混じる声で言いました。良かった。一〇〇式は心から安堵しました。自信はありましたが、やはりそう言ってもらえると安心します。

 

「本当においしいです。香ばしくて、甘くて…α米とはやはり違いますね」

 

 64式さんもお米を食べながら、しみじみと言います。それはそうです。α米も決して不味いわけではないですが、やはり飯盒で炊いたお米とは格段の差があります。お米の甘さと香ばしさが全然違うのです。

 

 一〇〇式もお米を一口頬張ります。口に広がっていくお米のさわやかな甘さ、芳醇な香りが何とも言えません。嗚呼、美味しい。この国の生まれで本当によかったって思えます。

 

 一杯目があっという間になくなったので、二杯目をよそいます。そして、鯖缶を開けます。おかずと一緒に食べるお米もまた格別です。

 お漬物のしゃきしゃきとした食感と、ほんのりとした塩味。温かい鯖缶の甘さと旨味をご飯が受け止め、それらを高めるとともに、ご飯自身の味も引き立てられる。そして、合間に加わる味噌汁の優しい味わいで舌をリセットして、更にご飯とおかずのハーモニーを楽しむ。それがこの国の古くからの食卓の形、幸せの形なのです。

 

 でも、幸せの時間は長くは続きません。あまりの美味しさにお米を食べる手は加速し、各2合あったお米はあれよあれよと言う内になくなってしまいました。それに、お腹ももういっぱいです。ごちそうさまでした。

 

「ああああああ……お腹いっぱい…でも、もっと食べたい…」

 

「はいはい。また、明日食べればいいでしょ?」

 

 未練がましく空のメスティンを見て言う89式さんに、64式さんが言います。その通りです。まだお米はたくさんありますし、今後定期的に仕入れられるそうなので焦ることはありません。

 食後のお茶を準備しながら、一〇〇式は思います。指揮官の言葉について。

 

 在りし日のこの国では、至る所でお米が栽培されていたそうです。揺れる金色野の風景は、この国の民の誉であったと指揮官は言います。そんな風景、指揮官は見たことないそうです。物心ついたときには、蝶事件が起きて世界はめちゃくちゃになったのだから、と言ってました。

 

 いつかそんな風景が当たりまえに見られる世界を取り戻したい、と指揮官は言いました。そのために千鳥ちゃんの力が必要なんだ、とも言いました。

 ライキリ計画はほぼ完成し、今はテストを重ねている状況だそうです。それも順調で、もうじき量産が始まるだろうとも。

 

 …正直、千鳥ちゃんの力が戦いのために使われるのは、今でも納得はしていません。でも、現実問題として人の領域を確保し、この世界を人の世に戻すためにも戦力は必要なのです。

 いつか世界が平和になったなら、指揮官と共に、そしてFALさんやG41ちゃん達と共に、金色野の広がる風景を見に行きたいです。これから一〇〇式にできることがどれだけあるかは分かりませんが、そんな平和な世界がやってくるように、指揮官と一緒に頑張っていきたいです。

 

「いつか見に行こうね、金色野」

 

「え?…あ、はい」

 

 お茶を出しながら言う一〇〇式に、89式さんが曖昧に言います。64式さんはただ静かにうなずいています。FALさんのバディである64式さんは、指揮官の思惑をもう少し理解しているので、一〇〇式の言葉を理解してくれたのかもしれません。

 

 遠い未来の果てに、本当に平和が待っているかどうかは誰にも分かりません。でも、指揮官ならきっとできるんじゃないかな、って一〇〇式は思います。こんなに大量のお米を手入れられた指揮官なのですから、89式さんの夢をかなえてあげた指揮官なのですから、きっとみんなの夢だってかなえられる。そんな指揮官を信じてついていこうって、一〇〇式は改めて思うのでした。

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