今日は久し振りに出撃要請がありました。一〇〇式隊、G41隊、FAL隊、M590隊の4つの常設隊での出撃でした。
今日のMVPはG41隊でした。敵装甲兵をあっけなく蹴散らし、多脚式戦車まで退けたG41ちゃんとヴィーフリさんのコンビネーションは凄いと思いました。
一方の一〇〇式隊はFALさんが抜けた穴を埋める人形がまだ決まってないので、臨時編成でAR-15さんに組んでもらってました。AR-15さんと組むのは初めてですが、一〇〇式やTMPちゃんとの息はぴったりで、上手く動けたと思ってます。
「お疲れ様でした、AR-15さん」
「お疲れ様、
ロッカールームで言葉を交わす一〇〇式とAR-15さん。お互いシャワーを浴びた直後で、身体にタオルを巻いただけ、というあられもない姿です。
一〇〇式はつい、AR-15さんの身体をしげしげと見てしまいます。スレンダーでとっても綺麗なボディだと思います。流石、コマーシャルモデルになるだけはあると思います。一応、一〇〇式もそういうことに使ってもらうことはありますが、なんだかほのぼのしたのばっかりでカッコいいのとは縁がないです。
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
一〇〇式は小さな瓶を渡しました。キンキンに冷えた豆乳珈琲です。タンポポ珈琲をアレンジして作った一〇〇式の自信作です。お風呂上りはこれに限ります。
瓶を手にして、二人はごくごくと一気に飲んでしまいます。口と喉を駆け抜けていく、まろやかな風味と甘さが何とも言えません。飲み干した後ぷはっと、一息ついて二人は顔を合わせて笑い合いました。
「私、このまま一〇〇式隊に入ろうかしら。
「駄目ですよ、AR-15さん。M4さんに怒られますから」
なんだか、ちょっと本気そうなAR-15さんの言葉に、一〇〇式は思わずそう言ってしまいます。正直、AR-15さんの実力なら大歓迎ですし、正直AR小隊でいる時より動きは良かったように思います。一〇〇式とAR-15さんの相性は思いの外いいようです。
でも、流石にAR小隊からAR-15さんを取ると、M4さんだって心穏やかではないと思います。M4さんにとって、AR-15さんは大切な友達なのですから。
「そんなことないわよ。…あの娘も私なんていらないでしょうから…」
AR-15さんはそう自嘲的に嗤って、瓶を屑籠に捨てました。きっと、数年前のあの件を気にしているのだと思います。
AR-15さんは一度、M4さんを守るために鉄血のエルダーブレインを相手に戦って、MIAになりました。指揮官が裏で回していた手によって辛うじて生還しましたが、それでもM4さんとの間に何らかの蟠りが残っているみたいです。
一〇〇式は内心で決意しました。この蟠りを解いてみせよう、と。M4さんは大切な友達ですし、AR-15さんとも仲良くなりたいです。この蟠りを解くことは、二人と更に親密になるために必要なことだと思いました。
「そう言えば、最近
「はい。M4さんに料理を教えているんです」
「料理?」
怪訝そうに尋ねてくるAR-15さんに、一〇〇式は例の夢を話します。みんなでレストランを開く夢。そんな叶うはずのない夢のために、料理を覚えているのだ、と説明しました。
「…そう」
AR-15さんは俯いて、微かに笑って言いました。夢に共感してくれているのかもしれないです。たとえ儚い夢でも、そうしたものをよりどころにして頑張っていける。そう思ってくれているのかもしれません。
「…じゃあ、私にも料理を教えてくれない?」
「え? AR-15さんもですか?」
「ええ。夢が叶ったら、必要だから」
AR-15さんの言葉に、一〇〇式は少し戸惑いました。でも、少し考えてこれはチャンスかもしれない、と思いました。料理をきっかけにして、M4さんとAR-15さん、そして一〇〇式の仲を深めるのです。
「はい、分かりました」
「ええ。よろしくね、
というわけで、二人は着替えた後台所に行きました。エプロンをつけて、料理態勢万全です。
「じゃあ、オムレツを焼いてみましょうか」
「オムレツ? そんな簡単なものよりももっと…」
「オムレツは簡単じゃないですよ?」
不満そうに言うAR-15さんに一〇〇式は言います。オムレツ、特にプレーンオムレツは簡単そうに見えて非常に難しい料理です。これが一人前に焼けないと、料理人とは言えない、と言われている洋食の基本です。
「でも、それならマニュアルをダウンロードすれば誰でも簡単に…」
「では、一緒に焼いてみましょう」
AR-15の言葉をさえぎって、一〇〇式は料理を開始します。AR-15さんも不承不承オムレツを作る支度を開始しました。
ボウルに二つ卵を割り入れて、泡立て器で丁寧にかき混ぜます。AR-15さんは菜箸で空気が入らないように混ぜています。本当にマニュアルに沿っています。AR-15さんは本当に真面目な人です。ますます彼女が好きになりました。
卵を混ぜ終えた後、AR-15さんはフライパンにバターを入れて熱し始めました。きっと料理なんて初めてであるはずなのに、綺麗な動作だと思いました。
一方で一〇〇式はまだかき混ぜた卵を放置しています。AR-15さんはそれを怪訝そうに見ています。
「…卵を放置すると、酸化して不味くなるんじゃないの?」
「大丈夫ですよ」
一〇〇式の言葉に、AR-15さんは不思議そうに首を傾げながらも、フライパンに卵を入れてかき混ぜて、少し手間取りつつもオムレツを木の葉型にしてお皿に乗せました。初めてにしてはとても上手です。AR-15さんは凄いと思いました。
「なんかいい匂いがする~」
「あ、
匂いに釣られてSOPMODちゃんとG41ちゃんが台所にやってきました。二人はAR-15さんを見て目を丸くします。
「あれ? AR-15、何してるの?」
「料理を習っているのよ。…といっても、プレーンオムレツぐらいなら習う必要もないけど」
SOPMODちゃんの問いに、AT-15さんが答えます。確かに、AR-15さんは初めてにしてはとても上手に作れたと思います。でも、オムレツはそんなに簡単じゃないです。
「そうかな? オムレツって難しいよ?」
G41ちゃんが首を傾げて言います。彼女とは美味しいオムレツを焼けるように一緒に一杯練習しました。だからこそ、その難しさが分かっているのです。
「じゃあ、試しに食べてみよう?」
「「はーい」」
一〇〇式の申し出を受けて、みんなでAR-15さんのオムレツを食べます。味わって分かりました。うん。初めてとしては上手だと思いました。
「…う~ん、ぼそぼそしてて美味しくない」
「火を通しすぎてるね」
SOPMODちゃんとG41ちゃんが素直な感想を言います。AR-15さんも顔色が悪いです。二人の指摘が最もであると、自分でも理解したのだと思います。
「そんな…!? マニュアル通りにやったのに!?」
「じゃあ、私のを見てくださいね?」
AR-15さんにそう言って、一〇〇式は料理にかかります。放置してから15分。頃合いです。
テフロン加工のフライパンを中火にかけ、大匙一杯のバターを溶かします。箸の先に卵黄をつけ、それでフライパンを引っ掻いてすぐに固まるぐらいが頃合いです。
中火と強火の間ぐらいにして、卵液を注ぎます。フライパンを前後にゆすりながら、手早く混ぜます。卵液は外側から固まってくるので、内側に入れるようにするのがコツです。
フライパンの底に薄い層ができたら火を弱めます。いよいよ巻き込みです。奥に卵を流して柄をトントンし、フライパンを右45°に傾けて木の葉型に形成します。
箸で底を持ち上げるようにして、今度は反対側に45度以上フライパンを傾けます。これでオムレツがひっくり返ります。
最後にもう一度、45度以上フライパンを右側に傾けると、オムレツがころがって底の継ぎ目が上にくるはずです。そうしたらフライパンと皿をV字にするようにして、盛り付けます。これで出来上がりです。
再び、みんなで試食します。まず、一〇〇式が食べました。ふわっとしていて、香ばしいです。上手に仕上がったと思います。
「うん! ふわふわしてて美味しい!」
「うん! 流石
SOPMODちゃんとG41ちゃんも絶賛です。よかったです。
「そんな…全然違うわ…」
AR-15さんが愕然として言います。それもそのはずです。オンラインのマニュアルは少し上級者向きの作り方だからです。
まず、マニュアルでは泡立て器を使わないですが、実際には泡立て器を使う方が黄身と白身が均一に混ざりやすいのです。また、鉄のフライパンは温度調整が難しいのでテフロン式のフライパンの方が簡単に仕上がります。また、初心者は手間取りやすいのであまり強火にしない方がいいということもあります。
そして何より、オムレツを作る際の最大のコツは卵液に塩を入れて15分ほど放置することです。こうすることでふんわり感が増し、離水しづらくのなるのです。
「…なるほどね」
一〇〇式の説明を聞いて、AR-15さんは頷いて言いました。オムレツのコツを理解してくれたみたいです。次に焼くときは、もっと上手にできると思います。
「分かったつもりになってたのか…あの時と同じ…」
そう言って、AR-15さんは自嘲的に嗤って言いました。
あの時、M4を守るために自爆して散ろうとしたあの時。結局自分は何もわからず、ただM4を傷つけた。愚かなことだ、と思った。
「私は所詮、このオムレツのような失敗作なのかもね…」
「違うよ、AR-15!」
冷めたオムレツを見下ろして寂しげに言うAR-15さんにSOPMODちゃんが言いました。
「そりゃ…AR-15は勝手だし、天邪鬼だし…でも、私達の大切な姉妹なんだから!」
「SOPⅡ…」
SOPMODちゃんの言葉に、AR-15さんはただ彼女を呆然と見ていることしかできませんでした。
嗚呼、AR-15さんはずっと自分を責め続けていたのかもしれません。初めての友達を守る。ペルシカさんからの命令を守れなかった自分を責め続けていたのかもしれません。
ならば、それを断ち切ります。友達は、そういうものじゃないからです。
「AR-15さん。M4さんからAR-15さんについてはいっぱい話を聞きました」
一〇〇式は話します。M4さんがAR-15さんについて話すときの優しい顔を思い出しながら、彼女に聞いたことを話します。
「…AR-15は不器用で、糞真面目で、天邪鬼で…でも、大切な私の初めての友達。そう言ってました」
「…そう。そうなのね」
一〇〇式の言葉に、AR-15さんは拳を握り締めて言いました。頬を流れる涙は悲しそうなそれではないです。
「SOPⅡ! 訓練をさぼってどこに行ってるの!?」
「あ、M4!」
その時、M4さんがSOPMODちゃんを探してやってきました。そして、彼女もまたエプロン姿のAR-15さんをみて目を白黒させました。
「…AR-15? 何してるの?」
「…料理を習ってたのよ。もう貴女よりも上手くなったわ」
M4さんの言葉に、AR-15さんは気丈に挑発的な台詞を言います。本当に天邪鬼さんなんだな、と思いました。
「なんですって!?
「ふふふ。貴女に美味しいオムレツが焼けるかしら?」
「焼けるわ。見てなさい!」
「分かりました。じゃあ、みんなで焼きましょう」
「わーい! じゃあ、G41も焼く~」
「わーい! オムレツ楽しみ~」
というわけで、その日はオムレツをみんなで焼いて、和気藹々と楽しみました。AR-15さんとM4さんはいがみ合ってる風でしたが、でもその実仲良しさんだということが分かりました。こういう仲も悪くない。そう思いました。
翌日、一〇〇式は副官業務をしてました。部屋には私と指揮官、そしてFALさんがいます。
「おい、FAL! 勝手に人の茶を飲むな!」
「今日のお茶はまあまあね。で? チョコは?」
「ねえよ!? 謝る前に言うセリフがそれかよ!?」
「用意しておいてよ、貧乏くさいわね」
「お前なぁ!!」
目の前でいつものように指揮官とFALさんが言い合いをしています。いがみ合っているように見えて、実は仲がいい。そういえば、この二人もそんな感じでした。いつも見すぎていて気が付かなかったです。案外、こういう感じの方が絆は深いのかもしれません。
でも、二人とも仕事が全然進まないので…ほどほどにしてください。