ある日のことです。一〇〇式はゲートのところで掃き掃除をしています。
最近はリベロールさん達新しい戦術人形が沢山入ってきたので、巡回なども訓練を兼ねて彼女らが主に受け持っています。時々、C-MSちゃんの訓練に付き合いますが、戦術人形としての仕事は最近それぐらいです。一〇〇式隊が出るような大きな事件の気配はないです。
一〇〇式は鼻歌交じりに掃き掃除を続けます。もうすぐ仕上がります。一〇〇式隊の出動がないため、Five-sevenさんや64式さんは不満そうですが、一〇〇式としては平和な日々が続いてくれる方がいいです。戦いよりも掃除や洗濯などの雑用をやっているほうが性に合いますし。
「
後ろからG41ちゃんの声が聞こえました。振り向くと、何時ものように突撃してくるのが見えました。一〇〇式は箒を立てかけて、G41ちゃんを待ち受けます。そして、遠慮なく飛びついてきたG41ちゃんを受け止めました。
「
G41ちゃんは遠慮なくほっぺをぺろぺろしてきます。くすぐったいです。今日もG41ちゃんが元気で嬉しいです。
「G41ちゃん、リベロールさんの訓練終わったの?」
「うん。人工血液がなくなったから、医務室に寝かせてきたの」
一〇〇式の問いにG41ちゃんはあっけらかんと答えます。G41ちゃんは今日リベロールさんの訓練を担当していたのです。
リベロールさんは身体機能に重度の欠陥があるらしく、人工血液を輸血しながら戦ったりしています。そんなので大丈夫なのかな、と思いますが実力自体は素晴らしいので、訓練が終わったらどこかの隊に編入されて戦闘に参加する予定です。
「
「うん、G41ちゃん」
G41ちゃんの申し出を一〇〇式は喜んで受け入れます。掃除も終わったところですし、丁度いいです。
「じゃあ、娯楽室行こー」
そう言って、G41ちゃんは一〇〇式を肩に担ぎます。G41ちゃんは小柄ですが、高級ドールなので力が強いです。人間と大差ない重さの一〇〇式は、簡単に持ち上げられて連行されていきます。
娯楽室に入ると、そこには誰もいませんでした。今日はみんな出動や訓練で忙しいのかもしれません。私達の貸し切りです。
「えーと… 何して遊ぶ?」
一〇〇式はG41ちゃんに尋ねます。いつもは一〇〇式の髪を使って遊ぶG41ちゃんですが、どうも今日はそういう気配ではないです。
「えーとね。喧嘩ごっこしよー!」
「喧嘩ごっこ?」
G41ちゃんの言葉に一〇〇式は首を傾げました。喧嘩ごっことはなんでしょうか?
「うん! この前9ちゃんとやって面白かったから、
喧嘩するほど仲がいい、っていうし。G41ちゃんはそう言いました。
そういえば、この前G41ちゃんは404小隊のUMP9さんと一緒にそんなことをしていた気がします。
そこでふと思いました。一〇〇式はこの基地の誰とも喧嘩とかしたことないです。せいぜい、指揮官のセクハラを咎めるぐらいです。特にG41ちゃんと喧嘩をするなんて思いつきもしなかったです。
ただ、表向きいがみ合ってる風の方が仲は深いかもしれない、と思ってます。特に指揮官とFALさんがまさにそういう仲だからです。なので、ごっこなら一度ぐらい喧嘩してもいいかもしれないです。
「じゃあ、G41からいくね~」
「うん」
そう言って、G41ちゃんは息を大きく吸い込んで大声で言いました。
「
G41ちゃんの言葉に、一〇〇式は不快な思いはしませんでした。G41ちゃんが全く本気でないのが分かるからです。本気で言われたら傷つくでしょうけど。
そして、G41ちゃんが期待に満ちた表情で一〇〇式を見ます。なので、一〇〇式も息を吸い込んで大声で…
「G41ちゃんの…! ば、ば、ば…」
一〇〇式は言葉を詰まらせました。だめでした。嘘でもG41ちゃんのことをバカとか言えません。
「ご、ごめんね、言えないよ…G41ちゃんは大切な友達だもん」
「…うーん、そうだねー。
「ごめんね、G41ちゃん」
「ううん、G41が我儘言っただけだから!」
謝る一〇〇式に、G41ちゃんはまた抱きついて言います。結局、嘘でも一〇〇式はG41ちゃんと喧嘩はできませんでした。でも、G41ちゃんは嬉しそうに抱きついてくれました。喧嘩なんかしなくても、G41ちゃんとは誰よりも仲良しだと思います。友情や愛情の形は、結局人それぞれなのだと思います。
「じゃあ、勝負ごっこしよー!」
「勝負ごっこ?」
G41ちゃんの次の提案に、一〇〇式は首を傾げます。勝負ごっことは何でしょうか?
「うん!
G41ちゃんが言うのは普通に何かで試合をしようということでした。それなら問題ない、と思います。真の友達同士は時に競い合って切磋琢磨するものだと思うからです。
「でも、G41ちゃん…もしかして、模擬戦?」
一〇〇式はG41ちゃんに恐る恐る言いました。もしも模擬戦をすると、一〇〇式ではG41ちゃんにはとても太刀打ちできません。一〇〇式はごく平凡な戦果しか上げられない人形ですが、G41ちゃんは押しも押されもせぬこの基地のエースです。模擬戦で切磋琢磨するにしても、勝負は最初からほとんど見えています。
「ううん。それだと流石に
G41ちゃんは首を横に振って言いました。流石、G41ちゃんもその点に関しては分かっていたみたいです。でも、それなら何で勝負するのでしょうか?
「料理で勝負しよー!」
G41も大分上手になったし、とG41ちゃんが言いました。
なるほど、と思います。G41ちゃんに料理を教えたのは一〇〇式ですが、彼女も独自に腕を上げています。ある意味で師弟対決ですが、いい勝負ができると思います。
「うん、G41ちゃん。 いい勝負をしようね!」
「うん、
そう言って、一〇〇式とG41ちゃんは視線と言葉を交わします。何だか燃えてきました。たまにはこういう形で競い合うのもいいかもしれません。
というわけで、一〇〇式はG41ちゃんと台所に向かいました。制限時間は一時間。お題はジャガイモと卵です。勝敗は指揮官に食べてもらって決することにします。
というわけで、一〇〇式はさっそくジャガイモの芽を取って皮を剥いて、適当にスライスします。そして、鍋で湯を沸かして、一つまみの塩を入れて茹で始めます。
G41ちゃんの方を見ると、皮を剥かずに芽だけを取っています。皮ごと使うのでしょうか? ジャガイモ料理に関しては、G41ちゃんに教えていないので何が出てくるのか全く分かりません。何だかワクワクします。
ふと、G41ちゃんと視線が合いました。ニコッと笑ってくれます。そして、一〇〇式の手元を見て、更に笑みを深くします。きっと、G41ちゃんも一〇〇式の料理を楽しみにしてくれているのだと思います。ますますやる気が出ました。
茹で上がったジャガイモを取り出して、軽く潰してパイ皿に敷き詰めていきます。なるべく平らにしていきます。
そして、鍋に残った水に、今度は適当に切ったほうれん草を入れます。本当は水を取り替えるべきですが、もったいないのでこのまま行きます。この世界では水資源だって有限なのです。
そして、次にボウルに卵を4つと豆乳500ccと塩を少々とを入れてかき混ぜ、卵液を作ります。見ると、G41ちゃんも同じようにして卵液を作っていました。ジャガイモは3m程度の厚さでかつ小さくスライスしています。一体何を作るつもりなのでしょうか。
さっと茹でたほうれん草を取り上げて、小さく切ったスパムと一緒に卵液に混ぜ、パイ皿に流し入れます。後はオーブンで30分手前ぐらいに焼き上げれば、ジャガイモ生地のキッシュの完成です!
G41ちゃんはフライヤーで揚げたジャガイモを、キッチンペーパーの上にとって、油を切りつつ冷ましているみたいです。団扇でパタパタしているG41ちゃんが可愛いです。でも、フライドポテトを冷ましてどうするのでしょう?
「ごめんね、
「ううん。私の方も焼き上がるのに時間かかるから」
謝るG41ちゃんにそう言うと、彼女はとってもいい笑顔になってくれました。一〇〇式も微笑みました。勝負といってもお互いが高めあうためのものです。そこには思いやりがあります。やっぱり、私達は仲良しです。
しばらくして、キッシュが焼き上がりました。それを敷き皿にとって完成です。
G41ちゃんは冷めたフライドポテトをもう一度高温の油で揚げました。次第にポテトが丸く膨らんできます。あれはポム・スフレです。
それを熱したフライパンに移して、卵を入れてポム・スフレが潰れないように軽く炒めます。それにハーブソルトで味付けして完成のようです。
お互いの料理が完成したので、二人は指揮官室に行きました。そこでは指揮官とFALさんが何か言い合いながら仕事をしていました。いつもの指揮官室の光景です。
「おや、
「はい、指揮官」
尋ねてくる指揮官に、一〇〇式は勝負のことを伝えます。それを聞いた指揮官とFALさんは一瞬お互いの顔を合わせ、にっこりと笑いました。
「そいつは嬉しいな。じゃあ、まず俺が
「じゃあ、私はG41の方ね」
二人はそう言って私達の料理を食します。指揮官がナイフで切ったキャッシュは熱々でふんわりです。上手にできました。
「うん、マジうめえ。ふんわりしてるし、生地の風味とスパムの味わいが何とも言えないな」
「こっちもイケるわよ。フライドポテトの卵炒めなんて意外だし、プシュッてするし」
二人とも美味しそうに食べてくれます。一〇〇式とG41ちゃんは顔を合わせてにっこりです。勝負も大事ですが、何より食べてくれる人が喜んでくれるのが重要です。
半分ほど食べたところで、指揮官とFALさんが料理をシェアします。
「うんうん。こっちも美味いな。ポム・スフレの食感も損なわれてないし、組み合わせ的に意外性があるな」
「美味しい! 流石、
やっぱり二人とも喜んでくれました。料理は大成功です。
後は判定です。料理を食べ終えた二人を、一〇〇式とG41ちゃんは期待に満ちた目で見ます。
正直、一〇〇式の料理もよくできたと思いますが、G41ちゃんの料理は粗削りですが意外性があります。それにポム・スフレを上手く膨らせたり、潰さないように卵と炒めるなどはかなりの技術です。G41ちゃんは物凄く腕を上げています。G41ちゃんはやっぱり凄いです。
「引き分けだな、FAL?」
「ええ。両方とも甲乙つけ難いほど美味しいわ。私も指揮官も同じ判定よ」
指揮官とFALさんはお互い頷き合って言いました。一〇〇式とG41ちゃんも顔を合わせて、笑い合いました。
「わーい!
「うん! やるねぇ、G41ちゃん!」
「ううん!
二人は抱き合って、お互いの健闘を称え合います。お互い料理の腕を比べることで切磋琢磨できたと思います。目標は達成しましたし、二人の仲は更に深まったと思います。勝負して本当に良かったと思います。
「ふふふ。二人は本当に仲良しね」
「ああ。二人の仲を見ていると本当に癒される。俺達はお前達に生かされてるって思うよ」
FALさんと指揮官がしみじみとそう言います。指揮官室にほんわかした空気が満ちました。一〇〇式はもう家族のことを思い出せません。でも、きっとこういう雰囲気が家族と家庭というものなのだと思います。
お父さんのような指揮官。お母さんのようなFALさん。そして、妹のようなG41ちゃん。そんなみんなに包まれて一〇〇式は幸せです。ずっと、この絆を大切にしていきたい。心からそう思いました。