一〇〇式日記   作:カール・ロビンソン

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6:私達は生死を共にする仲間だから

 医務室の消毒液の匂いが、一〇〇式は嫌いではないです。もう慣れてしまったということもあります。戦場に出れば、一〇〇式はほぼいつも多かれ少なかれ怪我をして、医務室のお世話になるのですから。

 でも、今日医務室を訪れたのは怪我をしたからではありません。寝ている娘のお見舞いに来たのです。ベッドで寝ているウェーブのかかった銀色の髪の娘。最近新しく入ったばかりのリベロールさんです。

 リベロールさんは非常に優れた戦術人形で、特に戦闘支援能力は群を抜いています。指揮官もその力に大いに期待しており、部隊編入のために訓練を課しています。

 

 しかし、彼女は身体に不具合があり、何もないときは医務室で寝ています。戦場でさえ人工血液のパックを身体につけたまま出撃しているぐらいです。指揮官が言うには、生理機能をつかさどるナノマシンに不具合があるのだそうです。

 

 一〇〇式は懐にしまっている小太刀を触ります。亡き友が残した人類の数少ない希望の欠片。その力を使えば、リベロールさんを救うことができるかもしれません。でも、失敗した場合のことを考えるとおいそれとは使えません。一〇〇式に彼女ぐらいの力があれば…ちょっと悲しくなります。

 

「一〇〇式さん…」

 

 リベロールさんが目を開けて言いました。今日は気分がいいみたいです。よかったです。

 

「よかった。今日は起きてて」

 

 一〇〇式はそう言って、岡持を置いてベッドの横の椅子に座ります。いつもはほとんど昏睡状態ですが、今日は起きています。今日こそ彼女の体の許す限りお話をしたいです。

 

「リベロールさん。ご飯作ってきたから、よかったら食べてください」

 

 一〇〇式は岡持から器を出しました。どんぶりみたいなそれには、餡のかかった刀削麺が入っていました。刀削麺は水と小麦粉だけでできているので、身体にも優しいです。

 

「…結構です、一〇〇式さん。ワタシに構わないでください…」

 

 リベロールさんはそう言って、布団を頭から被ってしまいました。一〇〇式は何も言わず、リベロールさんを見つめ続けます。そうして、しばらく時間が過ぎました。

 

「…もう諦めてください。どうせワタシの身体がよくなることなんてないですから…」

 

「…諦めません。私は諦めが悪いって、しぶといって、みんなから言われているんです」

 

 悲しみと諦観に満ちたリベロールさんの言葉に、一〇〇式は言いました。一〇〇式はどんな時でも諦めたりしません。FALさんのような作戦能力も、M4さんやG41ちゃんのような戦闘力も、一〇〇式にはありません。でも、意地と諦めの悪さは随一だってFALさんからも言われています。だから、リベロールさんのことも、諦めたくないです。

 

「いつか、きっといつか。私は力を使いこなして見せるから。そうすればきっと…大丈夫だから」

 

 一〇〇式は決意を秘めた口調で言います。友の残した力、新型ナノマシン。あれを彼女と同じぐらい使いこなせるようになれば、リベロールさんの身体の不具合を治すことも不可能ではありません。

 今の一〇〇式はその力の一割も使いこなせていません。でも、きっといつか使いこなせるようになって見せます。そして、守りたいもの全てを守って見せます。とりあえず、それが一〇〇式の目標です。

 

「…一〇〇式さんは、どうしてワタシを気にかけてくれるんですか?」

 

 リベロールさんは不思議そうに一〇〇式を見て言います。確かにリベロールさんと一〇〇式は接点もないすし、一〇〇式隊に彼女が配属される予定もありません。でも、一〇〇式は彼女を放っておけません。

 

「私もよく医務室で寝てたし、他人と思えないの。それに、お世話するのとか好きだから」

 

 ちょっとはにかみながら、一〇〇式は言いました。一〇〇式もよく医務室のベッドで寝ていたからです。最近は出撃そのものが少ないのでお世話になる頻度は減っていますが、それでも痛かったことも寂しかったことも忘れません。

 基地に来て、最初の頃は指揮官とFALさんぐらいしかお見舞いに来てくれず、一人で寝ていることが多くて寂しかったです。でも、その内、G41ちゃんやSOPMODちゃん、M4さんやトンプソンさん達みんなが来てくれるようになり、一〇〇式のベッドの周りはとても賑やかになりました。

 あの時のことを思い出して、一〇〇式はリベロールさんの側にいます。やはり、一人で寂しいよりも誰かがそばにいる方がいいと思うのです。

 

「…一〇〇式さん、ご飯ください」

 

 リベロールさんは身を起こして言いました。少しは心を開いてもらえたのでしょうか。よかったです。

 

「はい、どうぞ?」

 

 一〇〇式はリベロールさんに容器を渡します。餡のかかった刀削麺はまだホカホカです。麺の加水率も上げているので、伸びたりもしていません。

 

 フォークを手に取って、リベロールさんは麺を巻き取るようにして食べました。そして、スープを少し飲んで言いました。

 

「美味しい…こんなにおいしいもの初めて…」

 

「よかった。気に入って貰えて」

 

 一〇〇式は会心の笑みを浮かべました。少し冒険したのですが、見事成功でした。

 スープは鶏がらベースで、炒めた玉ねぎとトマトを加えて、醤油と胡椒、バジルとセージで味と香りを整えました。餡は片栗粉とそぼろ風にしたおからと卵でできていて、少量の味覇で味付けしています。全体的に、濃厚ですが優しい味わいになったと思います。

 

「リベロールさん! おはよー!」

 

「あれ? 一〇〇式(モモ)ちゃんもいるんだ?」

 

 病室の入り口から声がしました。G41ちゃんとSOPMODちゃんです。彼女らはリベロールさんの訓練によく付き合っています。心配になってお見舞いに来たのだと思います。

 

「G41さん…SOPMODさん…」

 

「あのね、リベロールさん。オルゴールとか本とか持って来たから!」

 

「うん! 早く元気になってね!」

 

 戸惑うリベロールさんにG41ちゃんとSOPちゃんが言います。その様子を見て、一〇〇式はほっとしました。リベロールさんは一人じゃありません。私達は、仲間です。

 

「はい…! 元気出して・・・みせます・・・」

 

 リベロールさんはそう言って微笑みました。ほんの少しだけ、彼女の悲しさが癒されたのかもしれません。そうであれば、一〇〇式は嬉しいです。

 

 この荒廃した世界で、私達は苦しみながら生きていきます。悲しさや切なさと戦いながら生きていきます。それが私達の宿命だと思うのです。

 でも、そんな中でも仲間たちとお互いを支えながら生きていこう。そう思います。苦しさも悲しさも切なさも、共に背負っていくなら、きっとそんなに辛くないはずです。私達はこの基地で生死を共にする仲間なのですから。だから、

 

「一〇〇式さん… また、美味しいご飯を作ってください。楽しみにしてますから…」

 

「はい! 一〇〇式に任せてください!」

 

 一〇〇式はリベロールさんの言葉に力強く頷きました。

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