一〇〇式日記   作:カール・ロビンソン

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7:私達には明日がある

 一〇〇式はホクホク顔です。昨日見つけた破棄された倉庫の中に、乾パンの缶詰とかそれに付けるためのオレンジペーストが大量に見つかったからです。旧軍の物資集積場所だったのでしょう。

 

 とはいえ、他のみんなは渋い顔をしていました。正直、乾パンはあんまり美味しい物ではない、とみんな思っているからです。FALさんやFive-sevenさんなどは、別の基地かどこかの慈善団体に寄付でもすればいい、とまで言っています。

 二人の気持ちは分かります。普通に食べる乾パンはあんまり美味しいものではないからです。それにこの基地では指揮官が頑張ってくれるおかげで、美味しいご飯がたくさん食べられるので、手に入りやすいですがあまり美味しくない乾パンに魅力を感じない、ということもあると思います。

 

 でも、これから作る料理を食べれば、二人とも手の平を返すことになると思います。普通なら美味しくないものをいかにして唸らせるような美味しいものに変えるか。料理の醍醐味はそこにあります。

 

 というわけで、一〇〇式は材料を用意します。基本の材料である乾パンは一〇〇式の好きなようにしていい、と指揮官及びFALさんから許可を得ています。後は、シナモンパウダーと豆乳を用意します。本当はパルメザンチーズでも用意できればいいのですが、いまやチーズは高級品なのでおいそれとは使えません。なので、入手が簡単な豆乳を使ってチーズを作るのです。

 

「やっぱり、一〇〇式(モモ)が料理しているのね」

 

 ふと、背後から声が聞こえました。M4A1さんです。

 

「はい。この前いっぱい見つけた乾パン、みんな渋い顔するから美味しい料理にしたいな、って思って」

 

「そう。一〇〇式(モモ)のことなら安心ね」

 

 一〇〇式の言葉にM4さんはにこりと笑って言いました。M4さんは無条件で一〇〇式を信頼してくれているみたいです。嬉しいです。

 

「じゃあ、私にもその料理も教えて? 手伝えることがあるならやるから」

 

「はい、M4さん」

 

 M4さんの言葉に一〇〇式は頷きます。今から作る料理は簡単なので初心者のM4さんも楽に作れると思います。

 

「じゃあ、まず豆乳でチーズを作りましょう」

 

「え…? 豆乳でチーズって作れるものなの?」

 

 一〇〇式の言葉に、M4さんが不思議そうに言います。一〇〇式は少し笑ってしまいました。そういえば、G41ちゃんに教えた時も同じように驚いていたからです。

 不思議かもしれませんが、豆乳と牛乳の成分はかなり似ています。チーズが作れてもおかしくはないです。

 

「はい。では、まず豆乳を煮てみてください」

 

「うん…」

 

 一〇〇式の言葉に、M4さんは半信半疑で豆乳を入れた雪平鍋を焦げ付いたりしないように、中火から弱火で火にかけます。そして、沸騰寸前までしばらく待ちます。

 

「沸騰してきたわよ、一〇〇式(モモ)

 

「はい。そこで塩とレモン汁を入れてください」

 

 一〇〇式の指示に従って、M4さんは塩と濃縮還元レモンエキスを入れ、そしてよく混ぜます。後は火を止めて、鍋を布巾の上に移してしばらく待ちます。すると、豆乳が固まり始めているのに気がつきます。

 

「それで、ざるにキッチンペーパーをしいて、そこにそれを注いでください」

 

「わかったわ」

 

 一〇〇式の言葉に、M4さんは素直に従ってくれます。後は、それを冷蔵庫に入れてしばらく待ちます。その間、M4さんと雑談をしていました。

 

「シナモンか… 懐かしいな…」

 

 M4さんが机の上のシナモンパウダーを見て言いました。どういう意味なのでしょうか?

 

「シナモンがどうしたんですか?」

 

「うん。…あの時の私は、毎日m45の焼いたシナモンロールばかり食べていたから…」

 

 一〇〇式の言葉に、M4さんはなんだか自嘲気味に言います。

 

「あの頃の私はAR-15を失ったと思ったばかりで…心に余裕がなくて、酷い暴言ばかり吐いてたわね…」

 

 m45は一生懸命作ってくれていたのに、とM4さんは吐き捨てるように言いました。自分を責めている。そんな様子です。

 

「…m45さんの焼くパンは美味しいと思います」

 

「そうだと思う。でも、あの頃の私には砂を噛んだようにしか感じられなかった…」

 

 一〇〇式の言葉に、M4さんは言います。その言葉に、一〇〇式は頷きました。どんなご馳走でも、心が悲しみに沈んでいては何の味も感じられないと思います。その時のM4さんはまさにそんな心境だったのでしょう。

 

「もうあのm45に詫びる事もできない。…そう考えると、悲しいかな…」

 

 俯いて言うM4さんの言葉に、一〇〇式は目を伏せました。m45さんはコモンモデルの戦術人形で、グリフィンにもかなりの数のが配備されています。数が膨大であるため、同じ固体に再会することはかなり困難です。下手をすれば、戦場で亡くなっている可能性もあるのですから。

 

「…ならば、M4さん。これをお侘びと考えましょう」

 

「これを?」

 

「はい。食べても飽きないシナモン乾パン。これを作ることで、彼女へのお詫びと考えましょう」

 

 一〇〇式は首を傾げるM4さんにはっきり言います。あの時、砂のような味だったシナモンロール。それを今は美味しく、しかも飽きのこない味にして作る。これで、あのシナモンロールだった日々のけじめとして、同時にあの時m45さんへの贖罪と思うことにしようというのです。

 もちろん、それは別に贖罪でもなんでもない自己満足かもしれません。でも、そうした悲しみにはどこかで踏ん切りをつけなければいけません。かなり無理やりですが、このシナモン乾パンをそのきっかけにしたい、そう思います。

 

「…うん。そうね…」

 

 一〇〇式の言葉に、M4さんは笑ってくれました。彼女も悲しみを振り切ることを決意したのだと思います。それには考案したこの料理が上手く行かないといけません。絶対成功させる。一〇〇式は心に誓い、頭を回転させます。

 

 しばらくして、冷蔵庫の豆乳を見ると、クリームチーズのような状態になっていました。少し味見してみると、塩が利いていて美味しいです。

 

 後の手順は簡単です。大型の乾パンを卵液につけ、少しふやけさせた後、オレンジペーストを塗り、シナモンパウダーを振り、そこに豆乳チーズを乗せ、1~2分程度オーブントースターで焼けば完成です。

 

 オーブンから取り出したそれは、チーズが溶けてシナモントーストのようになっています。卵液で少しふやけさせているので、フレンチトーストみたいでもあります。

 一〇〇式とM4さんは早速それを試食してみます。もぐもぐと口に含むと、シナモンの風味とオレンジペーストの甘さ。それをチーズの塩味が引き立て、とても後を引く味に仕上がりました。これならば、FALさんやFive-sevenさんも文句は言わないでしょう。

 

「凄く美味しいわ…本当に…」

 

 M4さんは食べながら暖かな口調で言います。きっと、あの悲しかった頃のことを思い出しているのかもしれません。でも、今は指揮官の尽力でAR-15さんは無事です。きっとあの時とは違い、美味しい料理を堪能できていると思います。

 私達には明日があります。例え今日が絶望に沈んでいても、生きていれば明日はやってきて、そしてそれが希望に満ちている可能性はあるのです。

 もちろん、この破滅寸前の世界では明日もまた絶望に満ちた真っ黒なものである可能性もあります。でも、それでも、一〇〇式は明日に希望があると信じて生きていきます。指揮官と私達の努力は不可能を可能にし、絶望を希望にします。そう信じて、悲しみを断ち切って、一歩一歩歩んでいきます。それが私達の生きる道なのです。

 

「…また会えたら、これを作って食べてもらいたいな…」

 

「はい…! もっと美味しくして、食べて貰いましょう!」

 

 M4さんの言葉に、一〇〇式は同意します。そして、二人はこの料理をもっと美味しくするために案を出し合いました。フレンチトースト風にするとか、イタリアンピザ風にするとか、色々な案を出し合って試します。きっとそれをm45さんに食べて貰える、という未来を信じて。

 

 後日のことですが、その事を指揮官に話したところ、彼は情報網を駆使して、本当にあの時のm45さんの居場所を突き止め、そしてまた会えるように計らってくれたのです。彼女は奇跡的に戦火を生き延び、今はこの国の民間で働いていたのです。

 奇跡は起きます。そして、私達の指揮官は奇跡を起こせる人です。一〇〇式の胸は感激で一杯です。彼女に会える日が本当に楽しみです。心からそう思いました。

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