ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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本館やアメブロでも掲載していますが、こちらでも掲載する事にしました。
尚、風見ヴェールヌイの過去は本作でもある程度は書こうかと思ってますが、詳しい話は『ラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神』で描かれているのでそちらも宜しくお願いします。


第1章『鋼鉄の戦女神、異世界へ』
第1話『戦女神との出会い』


―side:Vernyi―

 

 

どうしてこうなってしまったんだろうと時々そう思うことがある。

 

そうだな…思い返せばあの日からかもしれない。

あの日の夜に奴が…ジーオスの変異種たるジーオスXが現れた。

 

200年前、この第46太陽系の地球に突如として現れた金属外殻を持つ怪獣―ジーオス。

そのジーオスは主な種別として全高2~3メートルのソルジャー級、ソルジャー級と同じ姿で全高は10メートル以上になることがあるジェネラル級、首長竜型のマリナー、陸戦特化のランダー、そしてそれらに区分されない変異種が存在し、その中でもジーオスXは強大な個体だった。

 

私達は奴らに立ち向かい、私の最愛の人は自らの命を犠牲にしてジーオスXを倒した。

 

それから狂い始めたかもしれない。

 

あれから…ジーオスXとの戦いから100年…嘗て私達を暖かく受け入れたあの人間達はもういない…全員寿命を迎えたからだ。一方の私は今もこうして戦場に出て戦っている。

この100年の間にこの第46太陽系の地球ではアデプトテレイター達の存在が公になってしまった。

テロリスト達がアデプトテレイターを使ったテロを敢行し、多くの人命を奪ったからだ。

この事態に一部関係者を除いてアデプトテレイターの存在を秘匿していたジーオスやそれに準ずる脅威、それらが引き起こす災害への対処を行う特殊災害対策機関"ネスト"はアデプトテレイターが存在することを公にするしかなくなり、東京湾でのジーオスXとの大規模戦闘に於いてもアデプトテレイター達が活躍したと発表した。

 

そして世間はアデプトテレイターを受け入れる派とアデプトテレイターを排除すべきだと主張する派に別れ、反アデプトテレイター派の中にはアデプトテレイターを殺害する者達まで現れた。

 

この事態にネストは嘗てのような影響力を失っていた。

更に反アデプトテレイター派の中には(アデプトテレイターの存在が公になる前から存在していたが)ジーオスを神の遣いとして崇拝し、ジーオスは人類に対し裁きを下す為に来たと説くジーオス教と呼ばれる者達もその勢力を伸ばしていた。

 

それらに加えてジーオスもいる。ジーオスの出現頻度も多くなっており、数日前にはジーオスXと同一種の個体がハワイに出現し、その対処に追われた。

この時、反アデプトテレイター派(ジーオス教ではなく反ジーオス派)の者達が私ごとジーオスXを葬る為に核ミサイルを発射し、私は核ミサイルが到達する前にジーオスXを倒してハワイから退避した。もしあと数分遅かったら私はジーオスXごと葬られていただろう。

 

 

100年前のジーオスXとの戦いを経験したアデプトテレイターも今や私だけ…他のアデプトテレイター達はこの100年の間に生まれたが"改造"された者達だ。

「ヴェルさん!此処に居たんですね!」

そう声をかけてくるのは私と同じアデプトテレイターの娘だ。

彼女とは50年前にある施設で出会い、今では私の副官となっている。

「何かあったか?」

「はい、それが…私達の拠点にジーオス教の武装部隊が近付いています」

「此処も放棄するしかないか…」

私がそう呟いた時

「見つけたぞ!風見ヴェールヌイだ!」

「奴を殺せばアデプトテレイター共の戦力もがた落ちになる!」

ジーオス教の連中か…奴らは裏ルートで入手したと思われる兵器で武装している…ましてやこっちはこれまでの戦闘に加え反アデプトテレイター派の行動によって装備の整備・補充も消耗も難しいという状況だった。

「こうなったら…やるしかないか…アデプタイズ!ドレッドバイト、トランスフォーム!」

私はドレッドバイトと一体化するが…その傷はまだ完全に回復していなかった…無理もない。ジーオスXとの戦闘で大破寸前まで追い込まれたのだ。

対して向こうは無傷でしかも数が多い。圧倒的に不利な状況だった。

それでも私は戦ったが…

「おいおい弱くなったモノだなぁ!」

「くたばれ!」

ドレッドバイトは両腕を失い、片足を失い、遂には動力炉たるENドライバーも破壊されてしまった。

「この!ヴェルさんから離れろ!」

と彼女もジーオス教と交戦する。私はその隙にドレッドバイトから離れる。

「ヴェルさん!此処から逃げてください!」

「しかし…」

「ヴェルさんは私達にとって希望で救いなんです!貴女を死なせる訳にはいきません!」

一拍置いて彼女はこう続けた。

「私達…貴女に仕える私達皆で考えました。最早貴女をこの星の外へ逃がすしかありません」

其処へ彼女と同じ様に私を慕うアデプトテレイター達が合流し、私を拘束する。

「この拠点の地下にスペースブリッジがあります。もしもの時に備えて整備してました。1回か2回起動する分のエネルギーは蓄えてあります。それを使って逃げてください」

「お前らを置いて逃げる事が出来るか!?」

「私達は貴女に生きてほしいと願っているんです!アデプトテレイターになったり生まれたりして行き場のなかった私達にヴェルさんは温かく手を差し伸べてくださいました…

貴女がいたから私達は今こうして生き延びる事が出来ました…だから、私達は恩返しがしたかったんです…その時が今なんです!」

他のアデプトテレイター達によって連行されようとしている中…彼女は最後にこう口にした。

「如何なる時も、生きて…」

 

 

「これも貴女に託します」

アデプトテレイター達が渡してきたのは巨大なキャリーバックだった。

「必要になった時に使ってください」

「ヴェルさん、後武運を」

私は彼女達の手によって無理矢理スペースブリッジの中へ入れられたのだった。

 

 

―side out―

 

 

―side:Hajime―

 

 

今日は休日だけど、僕は中学の制服を着てある場所へ出掛けていた。

理由は僕が受験した高校の合格発表があるからだ。ネットからでも見れるけど、帰りにアニメショップに行く用があるのでそのついでという所だ。

「えっと、僕の番号は…」

と貼り出された合格者一覧から自分の番号を探し…

「「あ、あったぁ!」」

隣にいる人と声が合ってしまい、隣を振り向いた。

腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きく優しげな瞳…制服からして僕とは別の…隣町の中学校に通っていることがわかる。

「あっ、あの!もしかして道の真ん中でガラの悪そうな人に土下座してた…」

何故それを知っている!?

そう、ある日の事だった…ガラの悪そうな男に子供がぶつかって服を汚してしまいお婆さんが怯えながらクリーニング代を渡そうとしているのを見かけた。

偶然通りかかっただけの僕はスルーするつもりだったけど、ブチ切れた男が子供に手を上げようとするのを見て身体が勝手に動いた…と言っても相手がドン引きするくらい土下座しただけだけど。

「えっと、その人物なら多分僕だけど…」

と答えたら彼女はパァァと笑顔になって僕の手を握った。

「これから予定空いてる!?」

アニメショップ行く予定だったんだけど…まぁ、良いか…

「うん、空いてるけど…」

「じゃあ、付き合って貰っても良いかな?」

 

お昼時…所変わってファミレス。

僕の席の向こうには彼女が座っていく。

「自己紹介がまだだったよね。私は白崎香織と言います」

「ぼ、僕は南雲ハジメ。宜しく、白崎さん」

「うん!宜しくね南雲くん!」

目の前の美少女…白崎さんはニコッと笑みを浮かべる。

「それで、白崎さんはどうしてあの事を…」

「実はあの場に私も居たの…」

「白崎さんに見られてたんだ…いやぁ、とんだお見苦しい所を」

「見苦しくなんてないよ。あの時の南雲くん、すごくかっこよかった。

強い人が暴力で解決するのは簡単だよね…私の回りにもよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒している人がいるし…

でも、南雲くんみたいにあんな感じに立ち向かえる人はそんなに居ないと思う。

私ね、あの時も怖くて動けなかった…自分は強くないから誰か助けてあげてって思うだけで…周りの大人も見て見ぬフリだった。

だからね、あの日からね、南雲くんは私の中で一番強い人なんだ。

また会えないかなって思ってたけど…こうしてまた会えて嬉しいよ」

「ありがとう、白崎さん。でも…僕は白崎さんが思うほど強い人間じゃないよ。

僕はただ、面倒事をさけているだけさ…自分が弱いのを嫌というほど知っているから」

白崎さんは驚きの表情を浮かべた後、笑みを浮かべてこう言った。

「もしそうだとしても私の中で南雲くんが一番強いのはやっぱり変わらないよ。

自分が弱いのをわかっていてそれでもいざという時に動き出す勇気!私が憧れたのはそういうところなの。

力がないならつければいいけど心の強さは簡単じゃないと思うから」

そんな風に思われたのは始めてだった…

暫くして…

「ねぇ、南雲くん。連絡先を交換しない?」

「うん、良いよ」

と互いに連絡先を交換した。

 

その後は世間話をしたりした。

「つまり南雲くんのお父さんはゲームクリエイターでお母さんは少女漫画家なんだね」

「そうそう。それで将来に備えて父親の会社や母親の作業現場でバイトしてるんだ」

「そうなんだ!今から将来の事を考えて動いているなんて凄いよ!」

白崎さんは僕の趣味に関して偏見がない事も分かった。

「ありがとう、白崎さん」

「そうだ、南雲くん。私に南雲くんの趣味の事、もっと教えてくれないかな?」

「う、うん。良いよ。それじゃぁ、アニメショップに行こうか」

この時、僕達は知る余地もなかった…僕達の運命を変える出会いがあることに。

 

 

―side out―

 

 

―side:Kaori―

 

 

高校の合格者発表の日、私はあの人に出会えた。

数ヵ月前に目撃した男の子―南雲ハジメくん。

彼は見ず知らずのお婆さんと子供の為に勇気を出して行動し、ガラの悪そうな男に土下座した…あの日以来、私の中で一番強い人であった。

偶然出会えた…このチャンスを逃したくなかった。だから彼に声をかけた。

彼と話をしていく中で彼の事をもっと知りたくなった。

彼のお父さんはゲームクリエイターでお母さんは少女漫画家らしく、彼自身も所謂オタクらしい。

それ故に周囲から色々言われたりしているらしいけど、自分を貫いていて、今の内から将来の事を考えて行動している…私なんて将来はどうするかなんてまだ曖昧…というか考えていないのに彼はやはり凄い人だ。

 

彼の趣味の事をもっと知りたくて、彼がよく行くアニメショップへ一緒に行った。これってまるでデートみたい…

彼は初心者の私にもオススメなアニメや漫画、ラノベを紹介してくれて、オススメの漫画、ラノベ、アニメのBDを買ってくれたりしてくれた。

アニメや漫画、ラノベの事を語る彼はとても生き生きしていて、私も楽しくなってきた。

「南雲くん、今日はありがとう。それと、こんなに買って貰っちゃって良かったの?」

「良いよ良いよ!これは僕がしたくてやった事だから」

と照れながら彼はそう返す。

「今日は楽しかったよ。また一緒に行こうね」

「う、うん良いよ!」

「そして何時かは南雲くんの家に行ってみたいなって」

「し、白崎さんそれは!?」

慌てふためく彼は可愛かった。

 

この時、私は知らなかった…この先に待ち受ける出会いが私と南雲くんの運命を大きく変える事になるなんて…

 

彼女との出会いは南雲くんとの出会いの数ヶ月後の事だった。

私はその日、南雲くんと一緒にお出掛けする予定で、待ち合わせ場所に到着すると南雲くんの姿があった。

「南雲くん、待った?」

「ううん、僕も今来た所だよ。それじゃ、行こうか」

「うん!」

私と南雲くんはある場所へ向かった。

 

私達が向かった場所は映画館だ。あの日、南雲くんが勧めてくれたアニメの劇場版が公開され、南雲くんはそのチケットを二枚分貰ったという事で二人で観に行った。

「良い作品だったよね」

「うん、そうだね」

「私、泣いちゃったよ」

「僕もだよ」

と二人で感想を言い合いつつアニメショップへ向かう途中での事だった。

ふと橋の下に何かがあった。

「南雲くん、あれ何かな…?」

「何だろう…?」

私達が近寄ってみると…

「南雲くん…これってどう見ても…」

「あぁ、人だ…」

私達が発見したのはとても大きなキャリーバックにもたれかかっている人だった。

年は私と同い年位で髪は綺麗な銀色、顔付きから日本人だと推測出来るだろう。

その服装はボロボロで汚れていた。

私が彼女の脈を確める為に触れようとした時、彼女は急に起き上がって私達を睨み付ける…その瞳はまるで警戒しているかのようだった。

「お前達は何者だ…!?何処の所属だ…!?ジーオス教か…!?」

ジーオス教?何だろう…?

「えっと、僕は南雲ハジメ。中学の3年生」

「同じく中学3年生の白崎香織です」

その言葉に彼女は睨み付けるのを止めるが、まだ警戒しているようだった。

「民間人か…此処は何処か分かるか?」

彼女の言葉に私達は此処が日本のある都市だという事を話した。

その言葉に彼女は驚いていた。

「ジーオスの大群の襲撃で滅ぼされた筈だが…いや、そうか…此処は第46太陽系の地球ではないか…」

第46太陽系の地球…?

「もしかして君は平行世界か何かから来たの?」

「平行世界とはちょっと違うな」

彼女はそう言うと立ち上がり何処かへ行こうとする。

「ちょっと何処に行くつもりなのさ!?」

「何処か人目がつかない場所に行って休息を取る。そうすればエネルギーも回復するからな」

私は彼女を放っておけなかった放っておいたらそのまま壊れてしまいそうで…私達と同い年位の子なのに…

そう考えていたのは南雲くんも同じだったみたいで…

「だったら僕の家に来れば良いよ」

と南雲くんは彼女に言う。

「両親なら僕達で説得するから!」

「何故其処までする…!?私はお前達にとって見ず知らずの他人で得体の知れぬ"怪物"なんだぞ!」

「放っておけないからだよ!だって…貴女を放っておいたらそのまま壊れてしまいそうだから…」

私達の言葉に彼女は納得したのか大人しく私達に着いてきた。

 

 

南雲くんの家はあの橋から比較的近い場所にあって、私も何度か行った事がある。お陰で南雲くんのご両親とも顔見知りになれたけど。

「此処が僕の家だよ」

「中々良い物件だな」

と彼女は言う。

「ありがとう。さぁ、二人とも上がって」

「えっと、お邪魔します」

「お邪魔します」

と私達は南雲くんの家に上がった。

「母さん、ただいま」

「おかえりなさい、ハジメ。あら、香織ちゃん!いらっしゃい」

「お邪魔します、菫さん」

南雲菫さん。南雲くんのお母さんで少女漫画家。今日は家にいるって事前に南雲くんから聞いていた。

「えっと、そちらの銀髪っ娘は?」

「説明は後!ちょっとキッチン使うね!」

と言って南雲くんはキッチンへ向かった。

「菫さん、浴室を使っても良いですか?」

「えぇ、良いわよ。タオルとその娘の着替えも用意しておくわ」

 

私は浴室に移動し、彼女の身体を洗っていた。

「この背中にある痣は?」

「私達の種族の特徴の一つだ。外部ユニット…専用の武器やビークルと接続する為にある端子だ」

「えっと、もしかして…人間じゃないのかな?」

「元人間、と言っておこう」

 

 

―side out―

 

 

―side:Hajime―

 

 

簡単な料理を作った僕は浴室から出てきた白崎さんと彼女をリビングへと招き入れる。

因みに母さんも一緒にいる。

「まず、君は何者なんだい…?」

「私は人間ではない。元々は人間だったが今は違う存在だ」

「つまり宇宙人か何かという事かしら?」

「ある意味ではそうだ…まずは太陽系と地球が複数存在するということから始めよう」

 

彼女が言うには地球を含む太陽系は複数存在している…つまり宇宙の彼方には他の太陽系があってその中にそれぞれの地球があるらしい。

そして彼女が言ってた通り、これらは平行世界などではなく実質的には別々の惑星という扱いになり、スペースブリッジと呼ばれる物や次元航行船という所謂宇宙船を使えば行き来が可能らしい。

また、それぞれの太陽系の他にも様々な宇宙が存在しているらしく、太陽系を含めてこの無数に存在している世界を次元世界と呼んでいるらしい。

そしてその次元世界にも時空管理局と呼ばれる組織が管理している管理世界とそれ以外…それぞれの世界を行き来する能力がなかったりこれらの世界を認識していなかったり、管理局の管理を受けていない世界は管理外世界として区分されている。

殆どの太陽系は管理外世界として区分されているが、太陽系以外にも様々な世界が存在している(ただ太陽系は複数存在している事もあって今では第○○管理外世界というよりも第○○太陽系と別区分になっているらしい)。

 

そして彼女は第46太陽系の地球からこの地球へスペースブリッジを使って飛ばされできたとの事だ。

彼女が住んでいた第46太陽系の地球では人類とジーオスと呼ばれる怪獣との戦いが200年以上も続いていた。

そしてその中で人類はジーオスを始めとする怪獣やそれが引き起こす災害へ対処する組織として特殊災害対策機関<ネスト>を設立し、ネストを中心としてジーオスと戦っていた。

 

そしてネストはトランスフォーマーと呼ばれる金属生命体からもたらされた技術を元に(トランスフォーマー達の身体を構成する)金属細胞に適合して寿命や病気などを無効化したアデプトテレイターと彼らが使用する可変式パワードスーツと言うべきトランステクターを生み出した。

 

彼らは対ジーオスの大きな戦力である一方、人間でなくなった怪物でもある…だからこそネストはアデプトテレイターの存在を一部例外を除いて民間人には秘匿していた。

そして彼女もまたそのアデプトテレイターの中でもトランステクターを扱えるアデプトマスターと呼ばれる存在で、長年戦い続けていた。

そんな中、ジーオスの中でも強大な個体―ジーオスXとの戦いで彼女の同胞のアデプトマスターが戦死、それから100年の間にアデプトテレイターの存在が公となってしまい、彼女達は多くの人達から怪物として迫害されるようになった。

 

それでも彼女達はジーオスなどと戦い続けたが、2体目のジーオスXが出現して彼女は応戦したが、反アデプトテレイター・ジーオス派はジーオスXごと彼女を葬る為に核ミサイルを放ち、彼女はミサイルが到達する前にジーオスXを倒し、その場から退避した。

その戦いで消耗しているのにも関わらず、彼女達は反アデプトテレイター派の者達の妨害でまともに整備・補給が出来ない中でジーオス教と呼ばれる反アデプトテレイター派の中でもジーオスを神の遣いとして崇拝している者達が彼女達の拠点を襲撃し、彼女は仲間達の手によってこの地球へ飛ばされてきて、今に至るというものだった。

 

此処まで聞くとSF映画とかラノベ、アニメ、漫画、ゲームの話に思えてくるだろう。しかし、彼女が見せた映像に…何より彼女自身がその力の一つ―アデプトテレイター用の武器の展開を実際にやってみせた事で事実だと認識させられた。

「それで、貴女はこれからどうするの?」

と母さんは彼女に問う。

「装備を整え次第、第46太陽系の地球に戻る…と言いたい所だが、戻る事は不可能だ。其処まで行ける移動手段がないからな。

スペースブリッジや次元航行船がない以上、一方通行だからな。

食事は取らなくても生きていけるから時間がかかってもこの世界でどうにか移動手段を確保するか…せめてあっちの状況が把握できれば、という所だな。それに仮に帰れたとしてもまたあっちの反アデプトテレイター派から命を狙われるだけだな」

つまり、彼女は元の世界に帰る事も出来ない…そして帰ったとしても迫害される事に変わりはない。

「だったらウチに居候するのはどうかしら?」

「母さん、良いの?頼もうとはしてたけど…」

「良いわよ。こんなに頑張っている彼女を放って置けないわ。愁には私から言っておくわ」

「そうだよ!こうして知っちゃった以上、放って置けないよ!」

「あとは君がどうしたいか、だよ」

僕達の言葉に彼女はその瞳から涙を流しながらこう言った。

「これほどまでに心優しい人間に出会ったのは久々だ…私達の存在が公になってからは私達に味方していた人間も反アデプトテレイター派に襲われていたからな…こうして会うことは中々出来なかった」

そして彼女は一拍置いてこう口にした。

「お世話になります」

丁寧で綺麗なお辞儀だった。

「自己紹介がまだだったね。僕は南雲ハジメ。今は中学3年生でもうすぐ高校生」

「白崎香織です。南雲くんとは別の中学に通っている3年生です」

「ハジメの母親、南雲菫よ」

僕達が自己紹介をし終えた後、彼女も名乗った。

「風見ヴェールヌイ、ヴェルと呼んでほしい。元は日本人とロシア人のハーフのアデプトマスター。年は…現在115歳だな」

「宜しく、ヴェル…って115歳…!?」

「あぁ、そうだ。私は100年前のジーオスXとそれが率いる群れとの戦いにも参加した」

「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」

いや、確かに長年とは聞いてたけどさ!

「えぇと、じゃあ改めて…宜しく、ヴェルさん」

「さんはなくても良い」

「じゃあ、ヴェル。宜しく」

「あぁ、こちらこそ」

 

こうして我が家に新しい家族…同居人が出来た。

母さんは父さんを説得…というか父さんもノリノリでOKしてた。

ヴェルは既に高校を卒業した事から僕達が通う高校には通わず、母さんや父さんの仕事の手伝いや家事を行い、後はトランステクター等の装備をもしもの時に使えるように整備・改造して暮らしている。

そう言えば、ファクトリーアドバンス社から発売されている人型…というか美少女型の小型ロボットであるフレームアームズ・ガールを解析・自分用に改造してたりとかしてたなぁ…本人曰く亡くなった上司が技術者でもあったからそこから学んだらしい。

 

白崎さんもヴェルに会いに今まで以上にウチに来るようになった。

「そう言えば、ハジメと香織は付き合っているんだよな」

いきなりそう言うからお茶を吹き出しちゃったよ!

「た、確かにそうだけどさ…」

「だったら何故いつまで経っても名字で呼ばず名前で呼んだらどうだ?」

「な、なにを言うのヴ、ヴェル!」

白崎さんもおどおどしながらそう言う。

「さっさと名前で呼び合えこのバカップルが」

そう言うヴェルは何処か楽しそうだった。

「じ、じゃあ…"香織さん"…」

「う、うん…"ハジメくん"…」

「ほら、言えたじゃないか」

今ので台無しになった気がしなくもないよ…

「で、次はいつ結婚宣言をするんだ?」

「ちょっ、何を言ってるのヴェル!いきなり話が飛躍し過ぎだよ!」

僕の言葉にヴェルはそうか?と言わんばかりの顔をしていた。

「お前達はお似合いのカップルだと思うけどな。それにさっさと結婚しますって宣言して規定年齢に達し次第、婚姻届けを出さないと私みたいに悲しみを背負って生き続ける事になるぞ」

急に重たい過去を持ち出してきたよこの人…

…ヴェルと出会った時に話していた1体目のジーオスXと直接戦ったアデプトマスター(女性)はヴェルの同僚で、同性結婚する予定が死亡フラグを折ることは出来ずにそのまま相討ちになって死んだ、らしい。

「とにかく、今は僕としては"結婚を前提"としてお付き合いしているつもりだから!…あっ」

「ハジメくん、今は結婚を前提って…」

「いや、これはそ、その、一緒にいる間にその、この人と、香織さんと一緒にいたい、将来を共にしたいなって…あっ」

「う、うん。私もハジメくんと将来は幸せな家庭を築きたいなって…あっ」

「さっきから自爆しまくりだな二人とも…ブラックコーヒーが飲みたくなる」

そう言いながらコーヒー飲んでるヴェル。

「それに二人は気が合うオタクだ…いや、香織はハジメの影響でそうなったんだったな。だったらハジメが責任取って香織を嫁として迎え入れないとな」

ちょっ、何を言ってるんですかヴェルさん!?

「えっと、ヴェルはこう言ってるんだけど…えと、その、香織さん…将来、僕と結婚してくれませんか!?」

「…はい、喜んで」

 

 

―side out―

 

 

―side:Vernyi―

 

 

気が付いた時、私はこの地球にいて目の前には二人の人間の男女がいた。

私はこの二人も私の敵になるかもしれない…その考えが浮かんで警戒していたが…彼ら…南雲ハジメと白崎香織は私が何者かを知った上で受け入れてくれた。

ハジメの母親である南雲菫は一緒に住まないかと提案してくれ、ハジメの父親である南雲愁も受け入れてくれた…彼らの様にアデプトテレイターを受け入れてくれる人間と出会ったのは久々だった。

第46太陽系の地球でアデプトテレイターの存在が公になってから友好的な人間は中々出会えなかったからな…

 

そして、以前から付き合っていたハジメと香織は遂に将来を誓い合う仲となった。

我ながらお節介だったかもしれない。

しかし、私を受け入れてくれた彼らには幸せになってほしかった。

私はそれが出来なかったから…

 

こうして顔を赤くしながら悶絶している二人を見ながら私は中断していた作業を再開させる。

私はその心に誓う…彼らを守る為に私が持つこの力を使うという事を。

もしかしたら今後"敵"が現れるかもしれない。

もしそうなった時、彼らを守る事が出来なくて後悔しないためにも…

 

私をこの地球へと送った彼女達が託したキャリーバッグの中には幾つもの武器に素粒子コントロール装置を含む各種機材、そして素粒子コントロール装置によってミニカーサイズに縮小された未完成のトランステクターが入っていた。

私はその内の一つを手に取る。

ネストの技術部門に所属していた立木つばめ…つばめさんが生前に開発を進めていた機体。100年前のジーオスとの戦いで命を落とした私が愛した人が使用していたトランステクター―バルバトスマグナスの系列に該当する機体。つばめさんはこのトランステクターの完成を見ることなく戦死した。

まずはこのトランステクターを私の手で…つばめさんから学んだこの知識と技術を惜しみ無く使って完成させる。

 

 

最高の守護者(オプティマスコンボイ)というコードネームを与えられたこのトランステクターを。

 

 

私の名は風見ヴェールヌイ。宇宙の何処かにいる同胞達よ、私は此処から新たな戦いを始める。

 

 

"彼ら"を守る戦いを…!

 

 

 

 

To be continue…




用語解説
・テレイター
寿命がない若しくはそれに等しいほど長大な存在の総称。
本作(そして本館で掲載している作品も含まれる)ではトランスフォーマーもこれに該当する。

・アデプトテレイター
人間などの有機生命体がトランスフォーマーやジーオスの金属細胞と適合した事によりテレイター化した存在であり、その背中には武器やトランステクターと接続する為の端子(見た目が痣に見えるのでそのままアザと呼ばれる事も)があるのが特徴。
当初は金属細胞と有機物による義体によってアデプトテレイター化したタイプ(所謂サイボーグタイプ)が主流だったが、今では技術の進歩により細胞自体が有機生命体の細胞と金属細胞が完全に融合したタイプ(テクノオーガニクスタイプとも呼ばれる)が殆どを占めており、ヴェルも元々前者のタイプだったが、100年の間に後者のタイプとなった。
第46太陽系の地球でのアデプトテレイターはその殆ど特殊災害対策機関"ネスト"の保護下にあり、ネストやその関連組織に所属し、その存在は(彼女達と親しい人物などの例外を除いて)秘匿されていた。
しかし、裏社会においてはその存在が知られており、捕獲されたジーオスの金属細胞を使ってアデプトテレイターを作ろうとした者達もおり、そうやって生み出されたアデプトテレイター達は兵器として利用され、彼女達を使った大規模テロによりその存在は公になってしまった。
尚、第46太陽系の地球の"外"で生み出されたアデプトテレイターも存在している。

・アデプトテレイター用トランステクター
アデプトテレイター用の武装としては代表的な可変式パワードスーツ。
ヘッドマスターJr.やゴッドマスター用のトランステクターよりもヘッドマスター用のトランステクターに近い。
動かす時(特にロボットモード)は脳からの信号を背中のアザを通して各部に伝達し、あたたかも自分の身体の動かす事が可能。
使用するアデプトマスターに合わせて調整する必要がある(調整なしでも動かせるがアデプトマスターへの負担が大きく活動限界時間ができてしまう)
このトランステクターを使いこなすアデプトテレイターはアデプトマスターとも呼ばれている。
インテリジェントデバイスの様に高度なAIを搭載した事によりビークル/ビースト時は自立行動が可能(但しロボットモードへの変形・稼働はアデプトマスターとの一体化が必須)
主にトランスフォーマーの金属細胞をクローン培養した物が主な素材になっており、内蔵された素粒子コントロール装置によってサイズを(アデプトマスターが一体化している時以外で)変更できる。

・特殊災害対策機関"ネスト"
第46太陽系の地球に於いてジーオスやそれに準ずる脅威、それらが引き起こす災害への対処を行う各国の政府による特務機関。
200年前のジーオスの出現とそれによる大惨事を受けて発足し、その影響力も強かったが、現在ではその影響力もなくなり、今や実質的に解体された状態にある。

・ジーオス
第46太陽系の地球に於いて猛威を降るっている怪獣。
金属細胞による外殻を持ち、自分達以外の存在を敵として認識し、排除しようとする。
基本的なタイプであるソルジャー級とジェネラル級はワイバーンを彷彿とする姿をしている。
第46太陽系の地球では基本的には倒すべき害獣扱いだが、中にはジーオスを神からの遣いであり、人類に対し裁きを下しに来たと説くジーオス教という者達もいる。
尚、第46太陽系の地球の"外"でもその存在が確認された事もある。


・風見 ヴェールヌイ(かざみ―)
種族:アデプトテレイター/アデプトマスター
誕生日:10月3日
血液型:O型
年齢:115歳(ハジメと香織に出会った時点)
好きな食べ物:ビーフストロガノフ、うどん
嫌いな食べ物:栗以外の果物(特に柑橘系)全般
好きな恐竜:アロサウルス
元々はロシア人の父親と日本に帰化したアメリカ人と日本人のハーフである母親との間に生まれたハーフであり、日本語・英語・ロシア語の読み書きができる。
ジーオスの襲撃により家族を失い、自身も重傷を負った後、アデプトテレイターになって家族の仇たるジーオスと戦う道を選んだ。
現在では第46太陽系にいたアデプトテレイター達の中でも最年長である。
外見と声は艦これの響/ヴェールヌイに似ている。

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