ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第11話『フェアベルゲンへの道』

―side:Vernyi―

 

 

結論を言おう。帝国兵達は瞬殺した。まぁ、彼方からしてみれば私達は強力な武器と力を持っているからこうなるのも仕方ない。

「ひぃ、く、来るなぁ!い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か!助けてくれ!」

と後退りながら命乞いする兵士の一人。その後ろから兵士の一人が私達を攻撃しようとしていたが、私はハンドガンで兵士を撃ち抜く。

「た、頼む!殺さないでくれ!な、何でもするから!頼む!」

命乞いする生き残った兵士。

「なら、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだ…全部、帝国に移送済みか?」

「…は、話せば殺さないか?」

「自分が条件を付けられる立場にあると思っているんですか?今すぐ逝きたいんですか?」

ユーリアは刀の刃先を兵士の首元に向ける。

「ま、待ってくれ!話す!話すから!多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから…」

「人数を絞った、か…つまり老人など売れそうにない兎人族は殺したということかな」

ハジメの言葉に兵士は頷く。ハウリア族の面々に視線を向けると彼らは悲痛な表情を浮かべていた。そして、私は再び殺気を兵士に向ける。

「待て!待ってくれ!他にも何でも話すから! 帝国のでも何でも!だから―」

兵士が言い切る前に私はハンドガンを発砲した。

私達の行動にハウリア族の面々は完全に引いて恐怖しているみたいだった。まぁ、無理はないか…。

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは…」

と発言するシア。

「自分達の同胞を殺し、奴隷にしようとした相手にも慈悲を持つなんて平和主義者だね」

「一度は剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎよ」

とシエラとレムリアは発言する。

「そ、それは…」

「…そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目をハジメに向けるのはお門違い」

ユエは庇護されている側なのにそう言う負の感情を向けている彼らに対し静かに怒っているようだった。

「皆様方、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな…少々、驚いただけなのだ」

「皆さん、すみません」

とカムとシアは謝罪する。

その後、私達は帝国兵の死体を処分し、馬車に乗せられていた兎人族も加えて樹海の奥地へ向かった。

 

私達は再びカムと情報交換を行っていた。

そんな中である情報が興味深かった。この樹海の奥地には大樹という物が存在しており、亜人族にとってちょっとした観光スポットになっているらしい。

「大樹の周囲は特に霧が濃く、亜人族でも方角を見失ってしまいます。一定周期で霧が弱まりますから、大樹の下へ行くにはその時でなければなりません。次に行けるようになるのは十日後になりますな」

「なるほど、ね…」

「もしかしたら其処に迷宮への入口があるかも」

「そう言えば、レムリア殿は犬人族、シエラ殿は森人族のようですが、彼女達から聞かなかったのですか?」

カムの言葉にレムリアとシエラはこう口を開いた。

「私達はフェアベルゲンの外で生まれたわ」

「だからフェアベルゲンの事もわからないんだよ」

「そうでしたか…ごめんなさい」

「シアが気にする事はないわ」

「もはや変える事は出来ないし…そもそもアデプトテレイターになったおかげで皆に会えたし」

勿論これらは嘘であり、本当は二人とも元は純粋な亜人族だ。

 

情報交換も終わった後、シアが私とハジメにこう言い出してきた。

「ヴェルさん、私、決めました。皆さんの旅に着いていきます!」

これに対するゼルフィの言葉がこれだ。

「現在進行形で守られている脆弱ウサギが何言ってるの?」

更に話を聞いていたユエの言葉もこうだ。

「…さり気なく『仲間みたい』から『仲間』に格上げしている……厚皮ウサギ」

君達二人ともねぇ…

「もしかして…一族の安全が一先ず確保できたら、皆さんから離れる気だったとかですか?そこにうまい具合に"同類"の私達が現れたから、これ幸いに一緒に行くって事ですか?そんな珍しい髪色の兎人族なんて、一人旅出来るとは思えませんし」

「あの、それは、それだけでは…私は本当に皆さんを…」

シアはユーリアに図星をつかれたからか、しどろもどろになる。

「別に、責めているわけじゃないよ。だけどね、変な期待はしない方が言いかな。私達の旅の目的は七大迷宮の攻略なんだよ。奈落と同じで本当の迷宮の奥は化物揃いだから瞬殺されて終わりだよ。

それにだ、旅に同行させるか最終的な判断はリーダーであるヴェルが判断することなんだよ」

香織、私に話をふりやがって…

私としては雑用係としてなら同行させても良いと考えている。食事の準備とか手伝って貰えたらありがたい。

だが、戦力面で考えると…今のところ戦力外だ。能力次第でもあるのだが…

「そうたな、だったらこうしよう。どのみち大樹の元へ行けるようになるには10日かかるらしいから…そうだな、どっかでキャンプを作って其処でシアには戦闘訓練を受けて貰う。

その訓練で相手に一撃でも浴びせられたら同行を許可しよう。皆はこれで良い?」

「まぁ、ヴェルがそう言うなら僕は文句を言う気はないかな」

「私もヴェルに賛成だよ」

「…私もヴェルに賛成。そのかわり、相手は私がやる」

とハジメ、香織、ユエは発言する。ユーリア、レムリア、シエラ、ゼルフィも賛成の意を示している。

「決まりだな。レムリアとシエラ、香織は二人の訓練のサポートを頼む」

「えぇ」

「わかったよ!」

「任せて!」

さて、これからの事も決まり、私達はいよいよ樹海の入り口に到着した。

「それでは皆様、中に入ったら決して我らから離れないで下さい。皆様を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな」

「あぁ、出来るだけ大樹の近くまで頼む。其処でキャンプを作って10日後を待つからな」

私の言葉にカムは頷き、こう続けた。

「それと、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

私達はカムの言葉に頷き、それぞれのやり方で気配を薄くした。

「…皆様、できれば我々くらいにしてもらえますかな?」

「こんな感じで良い?」

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」

兎人族は全体的にスペックが低いものの、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に於いてはかなり優れている…これは使いようによっては大きな武器になるだろう。

 

カムとシアを先頭に私達は道ならぬ道を突き進む。直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくるが、カム達の足取りに迷いは全くなく、現在位置も方角も完全に把握しているように進んでいく。

道中現れる魔物は私達が討伐する。

そうやって進んでいき、樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれた私達は歩みを止めた。

魔物とは違う…カム達はウサミミを忙しなく動かしながら辺りを警戒し、相手の正体に気付くと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、シアに至っては、その顔を青ざめさせた。

「お前達…何故人間といる!種族と族名を名乗れ!」

その相手の正体は虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。

「あ、あの私達は…」

カムは弁明しようとしているが、虎型の亜人はシアの姿を見るなり

「白い髪の兎人族…だと?…貴様ら…報告のあったハウリア族か…亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは!反逆罪だ!もはや弁明など聞く必要もない!全員この場で処刑する!貴様らを血祭りにあげてやる!」

とハウリア族を始末しようとする。

しかし、その前に私はハンドガンを発砲し、更に虎型の亜人―おそらく隊長格との間合いを一気に狭め、その首にエナジーソードの剣先を向ける。

因みにハンドガンから放った銃弾は脅し用の物であり、虎型の亜人の頬に掠り傷が出来る。

更に私は"戦女神の威圧"を放ちながら隊長格の亜人に向けて良い放つ。

「周囲を囲んでいる連中も全て把握している。お前等がいる場所は、既に私のキルゾーンだ」

「彼女の攻撃を避けたとしても僕達もいるからね。それに彼女…いや彼女達は普通の人間じゃないからお前達じゃ殺すのは不可能だね」

とハジメは言う。

「殺るというのなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は私達が保障しているからね。ただの一人でも生き残れるなどと思わない方が良い。

だが、この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」

「…その前に、一つ聞きたい。お前達の目的は何だ!?」

「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」

「大樹の下へ…だと?何のために?」

「そこに、本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。私達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしていて、ハウリア族は案内のために雇った」

「本当の迷宮?何を言っている?七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

「いや、それはおかしい」

「なんだと?」

「大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる。大迷宮の魔物は、どいつもこいつも化物揃いだった」

「少なくともオルクス大迷宮の奈落はそうでした。それに大迷宮というのは、解放者達が残した試練です」

「亜人族は簡単に深部へ行けるなら、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしいんだよ」

とユーリアとハジメもそう言う。

「…お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな。

だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もがおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

「わかった。良い判断だな」

さて、物事が円滑に進めばそれに越したことはないけど…

 

ただ待っているのも退屈なので私は待機状態のオプティマスコンボイを綺麗に拭いたり武器のメンテを行う事にした。

すると自然にユーリアが私に身を寄せてくるしレムリアやシエラも同様で、ゼルフィに至っては頭の上に乗っている。

一方、香織とユエはガールズトークを楽しみ、ハジメは私が持っていたラノベを読んでいる。

 

そんなこんなで約一時間、周囲の亜人達が呆れを半分含ませた生暖かな視線で私達を見つめている中、急速に近づいてくる気配を感じた。

 

霧の奥から現れたのは数人の新たな亜人達…特に目を引いたのは彼等の中央にいる森人族の初老の男だ。

如何にも長老、といった所だ。

そしてその男性…いや他の森人族や犬人族がレムリアやシエラの姿を見るなり驚愕の表情を浮かべる。

長老と思われる男性はすぐさま視線を私に向け、こう問う。

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね?名は何という?」

「風見ヴェールヌイ。この一団…レッカーズのリーダーだ」

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」

「オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ。証拠ならある」

私はアルフレリックに宝物庫を見せる。。

「なるほど…確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが…よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族達だけでなく、カム達ハウリアも驚愕の表情を浮かべた。

虎の亜人達を筆頭に猛烈な抗議の声があがるが、アルフレリックはこう告げた。

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ

「本来ならそのまま大樹に行きたい所だが…ハウリア族から聞いた話じゃ霧が濃くて次に行けるのが10日後だったな」

私達はアルフレリック達の案内で彼らが住むフェアベルゲンへと向かうが…事は穏便に済む筈がなかった。

 

 

 

 

To be continue…


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