書くにしても本作との時系列は…いやもう決まってはいるんですけどね。
―side:Vernyi―
あれから10日が経過した。
これまでの訓練の結果、ハウリア族の面々は見違えるかのように変化した。
与えられた課題をこなし、魔物に対しても余計な慈悲や手加減などせずに確実に討伐している。
「ハジメ、調子はどうだ」
「頼まれていたMSGは全て完成したよ」
私達の目の前にはハジメが作ったMSG各種…ギガンティックアームズに分類される大型の陸戦用パワードスーツ型のパワードガーディアンに空戦用のルシファーズウイングに物資運送用のコンバートキャリアーやリボルビングバスターキャノンやキラービーク、バイオレンスラム、スパイラルクラッシャーなど各種武器が並んでいる。
更にそれらをハウリア族の面々で改良・量産出来るようにラボなどの拠点も作った。
「ありがとう。ハジメ」
「どういたしまして」
私は続いて香織、ユエ、シアの様子を見ることにした。
シアには訓練1日目にMSGの一つであるインパクトナックルを渡している。
「づ、づめたいぃ~、早く解いてくださいよぉ~、ユエさ~ん」
「…私の勝ち」
シアの訓練を始めて10日目の今日、最終試験としてユエとの模擬戦をしていた。事前に聞いた内容は、シアがほんの僅かでもユエを傷つけられたら勝利・合格というものだ
「うぅ~、そんな~、って、それ!ユエさんの頬っぺ!傷です!傷!私の攻撃当たってますよ! あはは~、やりましたぁ!私の勝ちですぅ!
確かにユエの頬には掠り傷が出来ていた。しかし、ユエは自動再生で傷を消して
「…傷なんてない」
とシラを切ったのだ。
「いやユエ、ちゃんと見てたからね傷あったからね」
しかし香織にツッコまれる。
「私も見ていたからな」
と私も会話に加わる事にした。
「あっ、ヴェルさん!私、やりましたよ!」
「あぁ、決着がつく辺りから見ていた。よくやったな」
と私はシアの頭を撫でる。
「香織、ユエ。お疲れ様。どうだった?」
「…魔法の適性はヴェルと変わらない」
確かに私は魔法への適性はそこまで高くない…ハジメと同等ぐらいだ。
「…けど、身体強化に特化してる。正直、化物レベル」
「私と比べると?」
「…控え目に言うと…今の段階でヴェルの10分の1相当。鍛練次第ではアデプトテレイターと互角になるかもしれない」
ユエはそう語り、香織も肯定するかの様に頷く。
「ハラショー、そいつは凄いな」
私ですら予想外だ。
「それはそうと完成したぞ」
私はユエとシアにそれぞれのトランステクターを渡す。
「お前達のトランステクターが漸く完成した。ユエのは魔法の使用に特化したステゴサウルス型の機体"スナールウィザード"、シアのは近接格闘戦に特化したトリケラトプス型の機体"スラッグバスター"だ」
「…ありがとう」
「ありがとうございますヴェルさん!」
「三人とも、そろそろ出発だ」
「ヴェル様、課題の魔物を狩り終えました」
カム達が魔物の亡骸と共に私達に合流した。
「あぁ、ご苦労様。最終試験も合格だ」
「はっ、恐れ入ります」
今日までの間にハウリア族は私の想像以上に戦士として成長した。
初めて会った時と比べて見違えるようだった。
「ど、どういうことですかヴェルさん!?父様達に一体何があったんですか!?」
「ん?訓練の賜物だが」
「いやいや、何をどうすればこんな有様になるんですか!?」
「別に、大して変わってないだろ?」
「いやいや、見て下さいよ!みんな目付きがなんか怖くなってますよ!それに綺麗に整列してますよ!」
「まるで軍人みたいだね」
と香織は呑気に呟く。
「香織さん何呑気にしているんですか!?」
「こうなるのはだいたい予想出来てたから…ヴェルって元軍人だし」
「そう言えばそう聞きましたね…」
因みにこうなっているのは男衆だけでない。女子供もだ。
「父様!みんな!一体何があったのです!?まるで別人ではないですか!」
「まるで別人?シア、私達はこの世の真理に目覚めただけさ。ヴェル様のおかげでな」
「し、真理?何ですか、それは?
「この世の問題の8~9割は暴力で解決できる」
「やっぱり別人ですぅ~優しかった父様は、もう死んでしまったんですぅ~、うわぁ~ん!というかあと1~2割はなんなんですか!」
シアが情緒不安定になって暫く経ち、落ち着きを取り戻した後…
「ヴェル様、報告と上申したいことがあります。発言の許可を」
と言ってきたのはハウリア族の少年だ。手には短剣とマシンガンを、背にはMSGのスナイパーライフルを装備している。
「発言を許可する。どうしたんだ?」
「課題の魔物を追跡中、完全武装した熊人族の集団を発見しました。場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考します」
「やはり来たか。どうせなら目的を目の前にして叩き潰そうって魂胆だろう。仲間がやられた事への報復もあるかもな」
「宜しければ、奴らの相手は我らハウリアにお任せ願えませんでしょうか」
「私は構わない。カム、お前はどうしたい?」
話を振られたカムは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「お任せ頂けるのなら是非。我らの力、奴らに何処まで通じるか試してみたく思います」
族長であるカムの言葉にハウリア族は頷く。
「出来るんだな?」
「肯定であります」
そう答えたのは私に報告してきた少年だ。
「良いだろう。お前達はこの10日間、私の訓練によく耐え、ここまで成長した。お前達は腰抜けの貧弱者から一介の戦士となった。そんな生まれ変わったお前達を今まで見下してきた連中に見せつけてやれ」
「「「「「「「「「「Sir,Yes,Sir!」」」」」」」」」」
「行け!殺すのは見せしめとして5人位までにして後の連中はトラウマを刻み付ける程度にしろ」
私の指示にハウリア族の面々は即座に実行に移す。
そんな中、今にも泣き出しそうなシアの隣を件の少年が駆け抜けようとして、シアは咄嗟に呼び止めた。
「パルくん!待って下さい!ほ、ほら、ここに綺麗なお花さんがありますよ?君まで行かなくても…お姉ちゃんとここで待っていませんか?そうしましょ?」
シアはまだ幼い少年だけでも元の道に連れ戻そうとしているのか、傍に咲いている綺麗な花を指差して必死に説得している。
因みにこの少年もといパルは訓練初日は花を避けていたあの少年である。
シアの呼び掛けに律儀に立ち止まったお花の少年もといパルは、ふぅ~と息を吐くとやれやれだぜと言わんばかりに肩を竦めた。
「姐御、あんまり古傷を抉らねぇでくだせぇ。俺は既に過去を捨てた身。花を愛でるような軟弱な心は、もう持ち合わせちゃいません」
因みにパルは現在11歳の少年だ。
「ふ、古傷?過去を捨てた?えっと、よくわかりませんが、もうお花は好きじゃなくなったんですか?」
「ええ、過去と一緒に捨てちまいましたよ、そんな気持ちは」
「そんな、あんなに大好きだったのに…」
「ふっ、若さゆえの過ちってやつでさぁ」
大事なことだから2回言うがパルは現在11歳だ。そもそも私やユエから見ればみんな若者だ。
「それより姐御」
「な、何ですか?」
「俺は過去と一緒に前の軟弱な名前も捨てました。今はバルトフェルドです。"必滅のバルトフェルド"とこれからはそう呼んでくだせぇ」
「バルトフェルドってどっから出てきたのです!?ていうか必滅ってなに!?」
「おっと、すいやせん。仲間が待ってるのでもう行きます。では!」
「あ、こらっ!まだ、話は終わって、って早っ! 待って!待ってくださいぃ~」
「予め言っておくが、ハウリア族がああなったのは私のせいではない。気が付いたらああなってただけだ」
―side out―
レギン・バントン達熊人族は自分達の心酔する長老たるジンが一人の人間に為すすべもなく負けたという知らせを聞いたときはタチの悪い冗談だと思ったが、トラウマで怯えているジンの姿を見てそれが事実だと知った。
彼らは長老たるジンを慕っていた…だからこそその相手に対し怒りを抱いた。たかが樹海の深い霧の中なら感覚の狂う人間や脆弱な兎人族、そして奴隷となった犬人族と森人族だ。
不意打ちといった卑怯な手段を使ったに違いないと勝手に解釈した…実力で勝った訳でない、と…
しかし、その幻想は見事に打ち砕かれた。
「おい、何だあれは!?」
「見たことないぞあんな武器!」
「助けてくれ死にたくない!」
ハウリア族が装備していたのは各種MSG、そしてエナジリウム粒子によるコーティングで軽量かつ高い防御力を誇るエクスアーマー各種にパワードガーディアンだ。
ハウリア族のある者は奇襲を仕掛け、ある者はパワードガーディアンによる一撃で熊人族を粉砕する。
兎人族は確かに単純な力では他の亜人より劣る…しかし危機察知能力と隠密能力に関しては群を抜いており、暗殺者向きの能力を持っている上に固い絆で結ばれている事による高いレベルの連携を発揮している。
更に今の彼らはヴェルやハジメが作ったMSGを纏っており、足りない能力をそれで補っている。
一方的な蹂躙劇に熊人達は何があったのかと戦慄の表情を浮かべたり、中には怯えきった者達もいた。
「何か言い残すことはあるかね?最強種殿?」
カムは冷淡な表情を浮かべながらMSGの一つであるサムライソードの剣先をレギンに向ける。
混乱から立ち直したレギンは悔しげな表情を浮かべていた。
怒りは未だに収まらないが、ハウリア族の実力と未知の武器の性能を嫌という程理解した今は少しでも生き残った部下を存命させなければと考えていた。
「…俺はどうなってもいい。煮るなり焼くなり好きにしろ。だが、部下は俺が無理やり連れてきたのだ。見逃して欲しい」
「なっ、レギン殿!?」
「レギン殿!それはっ…」
レギンの自分の命と引き換えに部下達の存命を願うという行動に部下達は動揺し、レギンが一喝した。
「…頭に血が登り目を曇らせた私の責任だ。兎人…いや、ハウリア族の長殿。勝手は重々承知。だが、どうか、この者達の命だけは助けて欲しい!この通りだ」
レギンの部下達はどれだけ誇り高き武人なのかを知っているが故に敵に頭を下げることがどれだけ覚悟のいることか嫌という程わかっていたからこそ言葉を詰まらせ立ち尽くすことしかできなかったのだ。
そんなレギンの言葉に対するカムの答えはこうだ。
「お前達に怒りを抱いていないと言えば嘘になる…しかし、お前達をどうするかなど我らが主たるヴェル様次第だ」
カムの言葉に対しレギンはヴェルの方を向く。
一方のシアは安堵していた…家族たるハウリア族が得た力に溺れなかった事、一線を踏み間違えなかった事に。
「逃がしてやっても良いが条件がある」
「条件?」
「そうだ。フェアベルゲンの長老衆に伝言を頼みたい。"貸一つ"、何かあれば協力して欲しい…無条件でだ。
それと、お前の部下の死の責任はお前自身にあることもしっかり周知しておくことだ。ハウリアに惨敗した事実と一緒にな」
「…それはっ!」
「どうする?引き受けるか?お前達も死にたくはないだろう?」
ヴェルはハンドガンの銃口をレギンに向ける。
「わかった。条件を呑もう。我らは帰還を望む」
「賢明な判断だ。伝言はしっかり頼む。もし、取立てに行ったとき惚けでもしたらどうなるか…わかるよな」
ヴェルの言葉と彼女から放たれる殺気にレギン達熊人族は従うしかなかった。
―side:Vernyi―
熊人族との一件の後、予定通りに大樹へ向かったが、件の大樹は見事に枯れていた。
確かに大きさに関しては想像通り途轍もない。直径50メートル以上はあろうと思われる。しかし、周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず大樹だけは何故か枯れていた。
「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが…」
とカムが解説を入れる。私達はそれを聞きながら大樹の根元まで歩み寄るのだが、其処にはアルフレリックが言っていた通りに石板が建てられていた。
「…オルクスの扉の同じ紋様か?」
石板に刻まれた七角形とその頂点の位置に七つの紋様…同じ紋様がオルクスの部屋の扉にも刻まれていた。
「もしかしたらこれが彼らのエンブレムなのかも」
とユーリアは呟く。
「確かに一理あるな」
そう答えながら私は宝物庫…オルクスの指輪を取り出す。石版に刻まれた紋様の一つは指輪に刻まれた紋様と一致していた。
「…ヴェル、これ見て」
「何かあったのか?」
ユエが指差していたのは石板の裏側。そこには、表の紋様に対応するかの様に小さな窪みが開いていた。
「試してみるか」
オルクスの指輪を表のオルクスの紋様に対応している窪みに嵌めてみると、石板が淡く輝きだし、ある文字が浮かび上がった。
「"四つの証"、"再生の力"に"紡がれた絆の道標"…そして"全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう"…どういう意味なんだろう?」
と香織は疑問を投げ掛ける。
「四つの証は…たぶん、他の迷宮の証なんじゃないかな?」
ハジメはそう推測する。
「再生の力と紡がれた絆の道標は…」
「レムリアさん、紡がれた絆の道標はもしかしてあれじゃないですか?亜人の案内人を得られるかどうか。私達亜人は基本的に樹海から出ませんし」
「確かにヴェル達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外だよね」
とレムリア、シア、シエラは意見を言い合っている。
「じゃあ…あとは再生…ユエの固有魔法?」
「…試してみる」
ゼルフィの言葉にユエは薄く指を切って"自動再生"を発動しながら石板や大樹に触ってみるものの特に変化はない。
「…違うみたい」
「…枯れ木…再生の力…最低四つの証…もしかして、四つの証、つまり七大迷宮の半分を攻略した上で、再生に関する神代魔法を手に入れて来いってことか?」
私の言葉に皆は納得の表情を浮かべる。
「迷宮に挑めないのは残念だが、この情報がわかっただけでも良しとするか。総員、拠点に戻るぞ」
かくして私達は拠点に戻り、ハウリア族の面々に呼び掛けた。
「私達に他の大迷宮の攻略を目指すことする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そこでお前達に頼みたい事がある」
「頼みたい事ですか…?」
「あぁ、これはあくまでももしかしたらの話になるが…今後私達はエヒトやその配下の連中と戦う事になるかもしれない。
相手の戦力は未知数…私達だけでも勝てるかどうかは分からないのが正直なところだ。
そこでこの拠点を中心に来るべき戦いに備えてもらいたい。
その為にこの施設を作った。此処でお前達はMSGなどの武器や抗体水の量産及び改良を行って欲しい。
抗体水を飲めば魔物の肉を食べても死ぬことはない…寧ろ魔物の能力を得られる事もある。
私達もこれの更なる量産・改良も行うが、お前達の方でも行って欲しい。
施設には通信機器もあるから何かあった時には私達と連絡をとることも可能だ。
後は…お前達のサポートを行うフレームアームズ・ガールもお前達に動向させよう。
この拠点の司令官を…カム、お前に任せた」
「はい、ヴェル様!貴女様からの任務、承りました!」
カムが敬礼すると、他のハウリア族も一子乱れぬ動きで敬礼する。
「それでは、私達は出発する。また会おう」
「はい!
そしてハウリア族はカムの言葉に続けてこう口にした。
「「「「「「「「
樹海を出る途中
「それでヴェルさん、次は何処に行きますか?」
とシアが問うてきた。
皆が見つめる中、私はこう口にした。
「次はライセン大峡谷にあるというライセン大迷宮へ直接向かうぞ」
To be continue…
これで第2章は終わり…ではなくもうちょっとだけ続きます。
解説
・MSGの素材
主に金属細胞やその土地で得られた金属などを使用している。
・樹海の拠点
ヴェルとハジメがハウリア族用に作った拠点。
短期間で充実した設備を持つ施設を作れたのはヴェルが持っていた資材とハジメの錬成による賜物。
MSGなどの量産を行える設備には生成魔法が組み込まれている。