ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第16話『戦女神とミレディ・ライセン 後編』

―side:Vernyi―

 

 

ミレディとの戦いは一進一退の攻防戦となっており、もはやどれくらいの時間が経過したのかわからない…いや、一時間ぐらい経った程度か。

ゴーレムであるミレディは自身のボディがいくら破壊・切断されても周囲のブロックを引き寄せては砕いて自身の身体を再生させる。

それに彼女の闘志も今だ尽きていない。

 

やはりコアを破壊しなければならないか…

「これじゃいくらやってもきりがないな」

「何々?もう終わりなの?ねぇねぇ、君の実力はこの程度なの?」

「いや、まだだ!」

こうなったらあれを使うしかない。

「いくぞオプティマスコンボイ…エナジドライブ!」

私はオプティマスコンボイの動力炉たるENドライバーの出力を爆発的に上げて機体内のEN粒子を活性化させ、一時的に機体性能を底上げするエナジドライブを発動する。

ミレディは私を殴ろうとしていたのだが、エナジドライブ発動と共にバックステップで回避しようとする。

しかし、私はその隙を逃さずミレディとの間合いを狭めて一発、また一発と殴り、三発目はベクターシールドで殴り、更に回し蹴りを喰らわせる。

ミレディは反撃しようとするが、私はミレディの両腕を掴み、更にミレディの身体を足で押さえて両腕を思いっきり引きちぎる。

「っ!?」

ミレディは両腕を再生しようとするが、そうはさせない。

私はベクターシールドの銃口から実弾をミレディの胸部に零距離で放ち、砕かれた鎧の中から見えるコアにジャッジメントソードを突き刺そうとするが、ミレディは私を蹴り飛ばすと、私の頭上にブロックを落とそうとしてきた。

私はバックパックのブラスターを発砲してブロックを破壊。

更にベクターシールドの銃口をミレディの脚部に向けてエネルギー弾と実弾を相互に放ちつつジャッジメントソードをコア目掛けて投げ飛ばした。

ジャッジメントソードはコアに突き刺さるがそれでもミレディの目から光は失われていない。

「これで終わりなのかな?」

「いや、まだだ…!」

私はジャッジメントの柄の先に回し蹴りを思いっきり叩き込んだ。

私の蹴りを受けて更にめり込んだジャッジメントソードはコアの亀裂を押し広げ、やがては完全に粉砕した。

ゴーレムミレディは目から光を失い、倒れ込んだ。

私はエナジドライブ…そしてオプティマスコンボイとの一体化を解除する。

エナジドライブは機体性能を底上げできるものの、アデプトマスター自身の体力の消耗も激しいので長時間の使用は正直に言ってキツい。

それにオプティマスコンボイ自体もこの戦いでかなりのダメージを負っている。

完全修復まで時間がかかるだろう。

しかし、何がともあれミレディとの戦いに勝つことが出来た。

後ろを振り向くとハジメ達が駆け寄ってきていた。

「やったね、ヴェル」

「あぁ、何とかな。たか、一歩間違えていたら私の方が負けていたかもしれない」

とハジメに返す。

「ちょっといいかなぁ~?」

物凄く聞き覚えのある声が聞こえてきて後ろを振り向くと、ゴーレムミレディの目の光がいつの間にか戻っていた。ハジメ達は咄嗟に武器を構える。

「貴女のコアは砕いた筈だ」

「その通り…この勝負は君の勝ちで試練はクリア!今の私はコアの欠片に残った力で少しだけ話す時間をとっただけだよぉ~、もう数分も持たないから」

「そうか…一つ聞きたい事がある。何故私一人とだったんだ?私のトランステクターがコンボイという名を冠していたからか」

「そうだよ。オーくんの手記には書いていなかったんだと思う…"彼"自身、私達に自分の存在は出来るだけ伏せておいてって言ってたからね…"奴"との戦いに行く前に。

私達は奴らとの戦いに入ることなく各地に散らばって迷宮を作る事にした…でも、彼は自分一人だけでも奴に戦いを挑む、って言って奴らの元へ行って…帰って来ることはなかった。その後に彼からのメッセージが送られてきて彼が死んだ事を知った」

「もしかして、そのトランスフォーマーも"コンボイ"の名を冠していたのか?」

「そうだよ。彼もまた"コンボイ"の名を持つトランスフォーマーだった。彼は一人で奴に立ち向かっていって死んだ。

私に一人で勝てないようなら奴と戦って勝とうだなんてそれでこそ束になってかかっても無理だからね」

「そうか…」

少しの沈黙の後、私はミレディにある事を訊ねた。

「それはそうと、他の迷宮が何処にあるのか教えてくれないか?失伝していて、殆ど判明していない」

「あぁ、そうなんだ…そっか、迷宮の場所がわからなくなるほど…長い時が経ったんだね…うん、場所…場所はね…」

とミレディはポツリポツリと各迷宮の場所を口にした。中には想定外の場所にあるものもあった。

「以上だよ…頑張ってね」

「ありがとう。…それにして随分としおらしくなったな。最初の軽々しい口調やら台詞はどうした?」

「あはは、今までごめんね~。でもさ…あのクソ野郎共って…ホントに嫌なヤツらでさ…嫌らしいことばっかりしてくるんだよね…だから、少しでも…慣れておいて欲しくてね…君に対しては…彼と同じ…"守護者(コンボイ)"の名を持つ存在だから…ある程度は敬意を持たないと…って思って…

そう言えば…君や君の仲間の一人は…随分と落ち着いてたみたいだけど…」

仲間の一人とはユーリアの事だろう。ミレディの言葉に苛立たなかったのは私とユーリアのみだったからな。

「私もユーリアも故郷で酷いものを、屑な連中を沢山見てきたからな。それと比べればマシな方だと思えば耐えられる」

私の言葉にミレディはそっか、と呟いた後、こう告げた。

「君達は君達の思った通りに生きればいい…君達の選択が…きっと…この世界にとっての…最良だから…」

そう告げるゴーレムミレディの身体は青白い光に包まれ、その光は蛍火の様に淡い小さな光となって天へと登っていった。

その光景は何とも幻想的なものだった。

そんな中、ユエはミレディに近づいた。

「何かな?」

と問うミレディにユエは一言を贈った。

「…お疲れ様。よく頑張りました」

それは消え行く偉大なる存在…絶望に苛まれても希望を持って後を託せる者を待ち続けて長い時を生きた"解放者"への労いの言葉だった。

「…ありがとね」

「…ん」

「…さて、時間の…ようだね…君達のこれからが…自由な意志の下に…あらんことを…」

こうして解放者の一人、ミレディ・ライセンは淡い光となって天へと消えていった。

「…最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思っていたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

「…ん」

シアの言葉にユエは頷く。

「ヴェル、あれを見て」

香織に言われて振り向くと、壁の一角が光を放っていた。

私達はその場所に向かい、上方の壁に向かうべく浮遊ブロックを足場に跳んでいこうとしたのだが、私達が跳び乗った途端に足場の浮遊ブロックが動き出し、私達を光る壁まで運んだ。

 

なるほど、消える気は"まだない"みたいだな。

 

ブロックは光る壁の5メートル手前の場所で一時停止。直後に光る壁は音も立てずに発光部分の壁だけが手前に抜き取られるかのように移動し、抜き取られた場所から光沢のある白い壁で出来た通路が出現した。

その通路の中を私達を乗せたブロックは進んでいき、やがてオルクス大迷宮にあったオスカーの住処へと続く扉に刻まれていた七つの文様と同じものが描かれた壁が現れた。

その壁も私達を乗せたブロックが近付くと横へスライドし、壁の向かう側へと進んだ。

 

そして、壁の向こう側で私達を待ち受けていたのは…

「やっほー、さっきぶり!ミレディちゃんだよ!」

より人間らしくなった華奢なフォルムに乳白色のローブ、ニコちゃんマークが描かれている仮面を装備しているゴーレムミレディ(小)だった。

ライセン大迷宮は意思を残して自ら挑戦者を選定する方法をとっているが故に誰かが一度クリアすると最終試練がなくなってしまうから、一度の挑戦者が現れ撃破されたらそれっきり等といった事は有り得ない。

だからゴーレムミレディを倒してもミレディは消滅しないとは考えていた。

それに浮遊ブロックを意図的に動かせるのはミレディだけだからあの時点でミレディが消滅していない事を確信していた。

 

尚、私以外はそんな事考えていなかったのかさっきの感動を返せと言わんばかりな状況なのだが…

「あれぇ?あれぇ?テンション低いよぉ~?もっと驚いてもいいんだよぉ~?あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか?だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆」

全く、ミレディの性格の悪さは演技とかではなく本物だな…

因みにハジメ達はミレディへ今までの事への報復を行おうとしている。

「…さっきのは?」

とユエは問う。

「ん~?さっき?あぁ、もしかして消えちゃったと思った?ないな~い!そんなことあるわけないよぉ~!」

「でも、光が昇って消えていったよね?」

「ふふふ、中々よかったでしょう?あの演出!やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて!恐ろしい子!」

香織の言葉にそう答えるミレディ。

「え、え~と…」

香織、ユエ、シア、レムリア、シエラがゆらゆら揺れながら迫ってくる中、ミレディ頭をカクカクと動かし言葉に迷う素振りを見せると意を決したように言った。

「テヘ、ペロ☆」

「殺ろうか」

「賛成」

「慈悲はないよ」

「死んで下さい」

「…死ね」

「ま、待って!ちょっと待って!このボディは貧弱なのぉ! これ壊れたら本気でマズイからぁ!落ち着いてぇ!謝るからぁ!」

尚、ハジメ、ユーリア、ゼルフィはミレディに対し呆れた表情を浮かべていた。

このまま放っておく訳にもいかないので、私は5人を何とか落ち着かせ、ミレディに神代魔法を習得させる為の魔法陣の起動を頼んだ。

「これは…やっぱり重力操作の魔法か」

私の言葉にミレディはこう返した。

「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね…って言いたいところだけど、君とそこのカップルと亜人族3人は適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」

「想定の範囲内だ」

因みにゼルフィはオルクス大迷宮で神代魔法を習得は出来ない事がわかっているので、魔法陣の外で見物している。

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ」

「そうか…それが分かっただけでも充分だ」

「それはそうと、君とそこの3人から普通の人間や亜人とは違う何かを感じたんだけど…」

ミレディの疑問に対し、私はアデプトテレイターである事や自分達が持ち合わせている情報をミレディに話した。

「なるほど、色々と納得できたよ」

とミレディは驚きを露にしていた。

「さて、私達はそろそろ出発するか」

私はミレディに手を差し出し

「これからも頑張ってね、"守護者(コンボイ)"の名を受け継ぎし者よ」

「あぁ、ありがとう。偉大なる解放者の一人よ」

と私達は握手を交わす。

その後、ミレディはまるでこれからいたずらを行わんと言わんばかりに不適な笑みを浮かべて下がっていた紐を掴みグイっと下に引っ張った。

すると共に四方の壁から途轍もない勢いで水が流れ込んできて、瞬く間に部屋の中を激流で満たすと同時に部屋の中央にある魔法陣を中心にアリジゴクのように床が沈み、中央にぽっかりと穴が空いた。

なるほど、最後の最後でこう来るかと思った私は宝物庫からオプティマスコンボイ用のコンテナ付きトレーラーを出して皆をコンテナの中に乗せる。

コンテナは激流に流され中央の穴に向かって一気に流れ込むのだった。

 

 

 

 

あれから私達を乗せたコンテナはある泉へ浮上し、私達はそこから一番近い街であるブルックで一週間ほど休息を取る事にした。

 

そして、私はこの街に到着してまずはギルドに立ち寄った。

「買取を頼みたい」

「良いよ、それじゃ見せてちょうだい」

私の受付を担当した婦人は買取品の査定もできるらしい。

私は予め宝物から出して普通のバックに入れ替えておいた素材―樹海で狩った魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石をカウンターの受け取り用の入れ物に入れていく。

「こ、これは!」

婦人は恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。

「とんでもないものを持ってきたね。これは…樹海の魔物だね?」

「ああ、そうだ」

「樹海の素材は良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」

婦人は何事もなかったように話を続けた。これは優秀な人材だな。

「やっぱり珍しいか?」

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからリスクが高い。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

婦人はシア、レムリア、シエラに一瞬だが目を向ける。おそらく3人の案内で樹海の魔物を狩ったのだと推測したのだろう。

因みに買取総額は72万3500ルタ。結構な額になった。

「これでいいかい?中央ならもう少し高くなるだろうけどね」

「いや、この額で構わない。そうだ、この街の地図が欲しい。数日はこの街で宿泊するからな」

「ちょっと待っといで…ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

婦人が手渡しした地図は中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載されている素晴らしい出来の物だ。因みにこれは無料らしいのだが、ちょっと信じられない。

「これは充分金が取れるレベルの代物だと思うんだが…」

「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」

どんだけ優秀な人材なんだこの婦人は…

「ありがとう、助かるよ」

「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、あんた達ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

この婦人…名前はキャサリンというのだが、良い人で気配り上手だった。

 

 

さて、このブルックという街は何と言うか…変人や変態が多く、ハジメ達は振り回される事となった。

私はどうかって?100年も色んな所に行ったりしてたら色んな奴に出会うからこう言うのは慣れている。

 

因みに香織を狙ってナンパする者もいたが、そいつらはハジメにフルボッコにされた。まぁ、当然の結果だな。

 

さて、今日は全員揃ってギルドを訪れている。

「今日はみんな集まってどうしたんだい?」

「明日にでも町を出発する。貴女には色々世話になったから、挨拶をと思って。ついでに、目的地関連で依頼があれば受けておこうと思っている」

因みに私とハジメは重力魔法と生成魔法との組み合わせの試行錯誤や各種装備のメンテナンスや開発をする用でそれなりに広い部屋を探していたのだが、キャサリンに良い部屋ないかと訊ねたら、ギルドの部屋を使っていいと無償で提供してくれたのだ。

「そうかい。行っちまうのかい。そりゃあ、寂しくなるねぇ。あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ」

「出会った連中の7割が変態或いは変人で2割が阿呆だったが…」

「まぁまぁ、何だかんで活気があったのは事実さね。で、何処に行くんだい?」

「フューレンだ」

中立商業都市であるフューレンに向かうのは、次の目的地たる"グリューエン大砂漠"にある七大迷宮の一つ"グリューエン大火山"へ向かう途中にあるし、大陸一の商業都市に一度は寄ってみようという事になったからだ。

「う~ん、おや。ちょうどいいのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。ちょうど空きが6人分あるよ…どうだい?受けるかい?」

「他に仲間を同行させても問題ないか?」

「ああ、問題ないよ。あんまり大人数だと苦情も出るだろうけど、荷物持ちを個人で雇ったり、奴隷を連れている冒険者もいるからね。まして、ユエちゃん、シアちゃん、ゼルフィちゃんも結構な実力者だ。6人分の料金でもう3人優秀な冒険者を雇えるようなもんだ。断る理由もないさね」

「よし、それなら私は構わないが…お前達はどうだ?」

「急ぐ旅じゃないし良いんじゃないかな?」

「私もハジメくんに賛成だよ」

「たまには良いと思うよ」

「私も別に構わないわ」

「私もヴェルに従うよ」

「…急ぐ旅じゃない」

「そうですねぇ~、たまには他の冒険者方と一緒というのもいいかもしれません」

「確かに…ベテラン冒険者のノウハウというのもあるかもしれませんね」

とハジメ、香織、ゼルフィ、レムリア、シエラ、ユエ、シア、ユーリアはそれぞれ意見を出した。

「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ」

「了解した」

私が返答した後、キャサリンが一通の手紙を差し出した。

「これは?」

「あんた達、色々厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びのようなものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」

「ありがとう」

「素直でよろしい!色々あるだろうけど、死なないようにね」

 

その後、この街で世話になった人達に挨拶して回り、翌朝に私達はブルックの街を出発するのだった。

 

 

 

 

To be continue next stage…




これにて第2章は終了、次回から第3章に入りますが、予め言っておくとティオは現段階では変態になる予定はないので予めご了承を←

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