ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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今回からいよいよ第3章突入となります。

尚、予め言っておきますが、ティオは変態にならない可能性大です←


第3章『竜人姫と海人族の幼女』
第17話『捜索依頼』


畑山愛子…現在25歳で一人の社会科教師である彼女にはある目標があった。

生徒達が家族以外で頼ることの出来る大人で在りたかったのだ。

専門的な知識を生徒達に教えて学業成績の向上に努め、生活が模範的になるよう指導するだけでなく、家の外では生徒達の味方であろうとした…しかし、このトータスという世界に飛ばされてしまった。

 

生徒達は戦争に参加する事を言い渡され、彼女はそれに反対したのだが、クラスの中でも一番カリスマのある生徒―天之河光輝に話を代わりにまとめられてしまい、多くの生徒達が戦争の準備を始めている。

 

ただ、その中に愛子の知らない人物がいた。白銀の長い髪に青い瞳という日本人離れした少女。いや、顔付きは日本人なのだが、それ以外は日本人離れしていた。

そして、彼女の纏うオーラは明らかに違っていた。この状況に落ち着いているだけでない…どこか貫禄を感じられたのだ。そんな彼女が愛子より遥かに歳上だとしるのは先の話になるのだが…

 

どうやら南雲ハジメや白崎香織の知り合いらしい彼女は天之河に反論した…今まで戦った事のない平凡な学生だった者達が戦争を…人を殺す事が出来るのか、と。

結局は殆どの生徒が天之河に賛成して戦争に参加する事になってしまったのだが…

 

流れを変えられないのなら自分が生徒達を守ると決意したものの、保有する能力の希少さと有用さから戦闘とは無縁の農地改善及び開拓という任務を言い渡されてしまった。

勿論反抗したが生徒達の説得もあるし、適材適所という観点からは反論のしようがないのも確かであったから引き受けることにしたのだ。

 

聖教教会の神殿騎士やハイリヒ王国の近衛騎士達に護衛されながら、各地の農村や未開拓地を回っては遠くで戦っているであろう生徒達を思って気が気でない毎日を過ごし、ようやく一段落済んで王宮に戻れば、ある知らせが愛子の元に届いたのだ。

 

例の銀髪の少女―ヴェルこと風見ヴェールヌイという名前の彼女が南雲ハジメと白崎香織を連れて何処かへ去ってしまったという事だ。

 

生徒達の話によると、檜山という問題児のせいで一行は無数の魔物と巨大な魔物に襲われるというピンチに陥ったのだが、ヴェルが巨大なロボットになって巨大な魔物を倒したらしい。

巨大なロボット?ファンタジーどころかSF?しかもトラックから変形したって何処のSF映画やアニメの話なんだ?とにわかには信じられなかったのだが、そんな事は愛子にはどうでもいい。問題はその後だった。

 

檜山がどさくさ紛れにハジメを殺そうとした事、ハジメを殺そうとした檜山をヴェルが殺そうとした事、ヴェルと天之河が言い争いになって決裂、翌朝にヴェルはハジメと香織を引き連れて何処かへ去ってしまったという事が重要な事なのだ。

 

生徒が他の生徒を殺そうとした…そしてその結果としてヴェルの怒りを買い、召喚者の中では最強だった者と生徒二人が離反したという事に王宮や聖教教会では大騒ぎであり、離反したヴェル達を指名手配しようという声が上がったが、愛子やメルド団長などが反対し、現在は保留となっている。

何がともあれ、勇者である天之河以上の強さを持つヴェルが抜けた事もあって生徒達の間で不安が広がり、戦闘行為を拒否する生徒も現れるようになった。

 

それに対し愛子は自分の立場や能力を盾に教会幹部、王国貴族達に真正面から立ち向かい、戦闘行為を拒否する生徒に戦闘を強要しないという確約を得る事に成功する。

しかし、そんな愛子の姿を見て戦争なんてものは出来そうにないが、せめて任務であちこち走り回る愛子の護衛をしたいと奮い立つ生徒達が少なからず現れ、護衛の騎士達の説得に対し「愛ちゃんをどこの馬の骨とも知れない奴に渡せるか」と言わんばかりに反発し、愛子に同行して活動していく事になった。

 

因みに護衛の騎士達はハニートラップ要員としてイケメン揃いだったのだが愛子の持ち前の一生懸命さと空回りぶりに誠実さとギャップ的な可愛らしさで逆に堕とされた模様である。

 

という訳でヴェル達が離反した後の召喚者は天之河達勇者パーティー組と居残り組、そして愛子に同行する"愛ちゃん親衛隊"に別れていたのだった。

 

 

ヴェル達がブルックの街に到着した頃、愛子達は新たな農地の改善の為、湖畔の町ウルへ向かっていた。

今や愛子は"豊穣の女神"と呼ばれるようになったのだが、その名がウルの街にも知れ渡る様になった頃に愛子の精神を圧迫する事件―生徒の一人が失踪したという事件が起きたのだ。

 

愛子は不安を胸にウルの町に到着したのたが、そこで思わぬ再会が起きる事をこの時の彼女はまだ知る余地もなかった。

 

 

―side:Vernyi―

 

 

ブルックの街を出発する当日。

正面門にて私達を迎えたのは商隊のまとめ役と他の護衛依頼を受けた冒険者達だった。

最後にやってきたらしい私達を見てまとめ役らしき人物と14人の冒険者が一斉にざわついた。

「お、おい、まさか残りの連中って"レッカーズ"なのかよ!?」

「マジか!嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってくるんですけど!」

「見ろよ、俺の手。さっきから震えが止まらねえよ」

「いや、それはお前がアル中だからだろ?」

と様々な反応をする冒険者達。

「君達が最後の護衛かね?」

「ああ、これが依頼書だ」

私は懐から取り出した依頼書を見せ、それを確認して、まとめ役の男は納得したように頷いて自己紹介を始めた。

「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」

「私は風見ヴェールヌイ。このパーティー…レッカーズのリーダーだ」

その後、モットーにメンバーを紹介する。

「ところで、この兎人族と犬人族と森人族…売るつもりはないかね?それなりの値段を付けさせてもらうが」

「例え、どこぞの神が欲しても私は仲間を差し出す気はない。もし力付くで奪おうとしたらどうなるか…わかるだろ?」

「えぇ、それはもう。仕方ありませんな。ここは引き下がりましょう。ですが、その気になったときは是非、我がユンケル商会をご贔屓に願いますよ。それと、もう間も無く出発です。護衛の詳細は、そちらのリーダーとお願いします」

 

こうして私達は商隊の護衛に参加、道中の食事に置いては他の冒険者達が携帯できる食料を口にするなか、私達は宝物庫から食料を出して料理を作り、それを食べようとしたら他の冒険者達が羨ましそうに涎を滝のように流しながら血走った目で凝視するという事態になった。

流石に居心地が悪いので私はある条件を出して食事を他の冒険者達にも分け与えた。

「諸君に分けても良いが、もしもの時…何かあった時は私達に協力して欲しい」

他の冒険者達はその条件を呑んだ。

「ヴェル…他の冒険者に食事を与えたのってもしかして…」

「あぁ、奴らと戦う時に戦力は多いに越したことはないからな、ハジメ」

「そこまで考えているなんて流石ヴェルさんです尊敬します」

と私を褒めるユーリアの頭を私は撫でた。

 

その後は魔物の襲撃があって新たに産み出した魔法を試してみたいと言ったユエが魔物を殲滅したりといった事があったり

「ヴェル様万歳!」

「ヴェル様に栄光を!」

「オールヘイルヴェールヌイ!」

と他の冒険者達に食事を分け与え続けた結果、冒険者達は私を称えるようになったりした。

 

そして、漸くフューレンに到着し、東門の6つの入場受付の一つで持ち込み品チェックの列に並んでいた。

順番を待っているとモットーが声をかけてきた。

「売買交渉です。貴方のもつアーティファクト。やはり譲ってはもらえませんか?商会に来ていただければ、公証人立会の下、一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いしますよ。貴方のアーティファクト、特に宝物庫は商人にとっては喉から手が出るほど手に入れたいものですからな」

因みに私達が野営中に宝物庫から色々取り出している光景を見たときのモットーの表情は例えるなら砂漠を何十日も彷徨い続けて死ぬ寸前だった時にオアシスを見つけた遭難者のような表情だった。

「宝物庫は現在、解析を行うと同時にどうやったら量産できるか試行錯誤中だ。量産できたら貴方に売っても良いが…他のアーティファクト…特に武器類は我々の敵の渡るのは嫌だから…そうだな…

今は私が売って良いと思った物に関しては条件付きで渡しても構わない」

「条件とは?」

「情報提供といざという時に私に協力する事だ。貴方は職業柄何処か一ヶ所に留まらず各地を転々としているだろうからな」

モットーは暫く考えた後にその条件を呑んで頷き、私は売っても構わない物(例えば金になるかと思って採取した宝石・ギルドに売却しなかった魔物から得た素材など)をモットーに渡した。

「こ、こんなにも…本当に宜しいのですか!?」

「あぁ、我々には今やあまり必要のないものだったりするからな。必要になったらまた採取すれば良いし。宝物庫も量産が出来次第、貴方に渡そう」

「ありがとうございます。貴女と知り合って良好な関係を築けて良かったです。貴女の怒りに触れていたらと思うと恐ろしい。危うく竜の尻を蹴飛ばす所でした」

「今から500年ほど前に滅んだと言われる、竜と人の姿を使い分ける事の出来る種族、竜人族の竜形態は、体の殆どが鱗に覆われて鉄壁の防御力を誇るが、弱点として、目、口内とならんで尻の辺りには鱗がなく柔らかい。

彼らは鉄壁の防御力を誇るが故に一度眠ると、大概の事をしても起きないが、尻を蹴られると一気に目覚めて烈火の如く暴れるらしいな。

それに由来して手を出さなければ安全なのに手を出して痛い目に遭う愚か者という意味の諺だったか?」

「はい、その通りです。因みに竜人族は、教会からはよく思われていません」

「その理由は何ですか?」

と香織は問い、モットーはこう答えた。

「人にも魔物にも成れる半端者。なのに恐ろしく強い。そして、どの神も信仰していなかった不信心者。これだけあれば、教会の権威主義者には面白くない存在というのも頷けるでしょう」

「確かにそれもそうだな。それにしても随分な言い様だ。不信心者と思われても仕方ないぞ」

「私が信仰しているのは神であって、権威をかさに着る"人"ではありません。人は"客"ですな」

「例えばの話だが…もしその神が人の命など駒としか考えてない禄でもない奴だったら…どうする?」

「それは…そうですね、その時になったら考えますよ。それよりも…貴女こそまるで神を信仰していないみたいですが」

「もし神が本当にいてそれが"善なる良い神"ならば私は此処にはいないし大切な人を失う事もなかっただろうな…今更どうしようもないのに今でも時折引きずってしまう…

いや、今の話は忘れてくれ」

「わかりました。そうしておきます。貴女の身にも色々あったみたいですが…詮索しない方が吉でしょうね」

「正直に言って禄でもないものも散々見てきたからな、貴方の判断は正しい」

「ありがとうございます。それでは、私はこれで。今後とも我が商会を是非ご贔屓に。あなたは普通の冒険者とは違う。特異な人間とは繋がりを持っておきたいので、それなりに勉強させてもらいますよ。では、失礼します」

モットーはそう言って前列へ戻っていった。

「ヴェルさん、良かったんですか?」

とシアは問う。

「あぁ、売ったのは対して害にならない宝石などだしな。魔物から得た素材も私達には使い道がない物だ。

それにああいう奴との繋がりは持っておいて損はない。それに私達に害をもたらすようならどうすれば良いか…後は解るな?」

「それもそうね」

「敵は叩き潰す!それがレッカーズのスタイルだもんね」

「レムリアとシエラの言う通りだ」

 

 

モットー率いる商隊と別れた私達は証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドにやって来て、現在はギルド内にあるカフェで軽食を取っていたのだが、不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられていた。

その視線を向けている相手というのが、体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪、身なりだけは良いのか遠目にもわかるいい服を着ている男だった。

「そ、そこのお前達、ひゃ、百万ルタやる。い、一緒に来い」

ブタ男はドモリ気味のきぃきぃ声でそう告げて私に触れようとするが、私は殺気を放つ。

殺気を受けたブタ男は情けない悲鳴を上げて尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で股間を濡らし始めた。

「レガニド!その銀髪の女を痛い目に遭わせろ!わ、私を殺そうとしたのだ!ガキは嬲り殺せぇ!」

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

「やれぇ!い、いいからやれぇ!そこの銀髪の女は半殺しにして他のお、女は、傷つけるな!」

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

「い、いくらでもやる!さっさとやれぇ!」

「おう、そこの銀髪の嬢ちゃんに坊主。わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達は…諦めてくれ」

何が諦めてくれだ。どうせ私達には敵わないくせに。

「お、おい、レガニドって"黒"のレガニドか?」

「"暴風"のレガニド!?何で、あんなヤツの護衛なんて…」

「金払じゃないか?"金好き"のレガニドだろ?」

周囲の冒険者達がざわめく中、ユエは立ち上がる。

「ん?金髪の嬢ちゃんが相手になるのか?悪いがやめときな。夜の相手ならいくらでもするぜ」

「…黙れ、ゴミ屑」

ユエはその言葉と共に魔法を発動、レガニドに神速の風刃が襲い掛かりその頬を切り裂いた。

「ヴェルさん、血祭りにあげても良いですか?」

「その男の首だった物でサッカーでもしませんか?」

「私は賛成だよ」

「思いっきり蹴飛ばしてやるわ」

とシア、ユーリア、シエラ、レムリアは物騒な発言をする。

「お前らなぁ…誰に影響を受けたんだか…」

「「いや、ヴェルからだよね!?」」

このカップル…ハモりやがって…

「ヴェルって戦っている時、たまに口が悪くなるよね」

「そうそう、魔物と戦っている時とか」

とハジメと香織はそう言う。

「まぁ、それに関しては否定できないか…私も嘗ての同僚から影響を受けてたからな…

お前ら、殺すまでは良い。せめて半殺しにまでにしろ、奴らがそう言った様にな」

私の言葉にユーリア、レムリア、シエラ、ユエ、シアは仕方ないと言わんばかりに頷き、シアは右手に装備したインパクトナックルで(加減して)レガニドを殴った。

殴られたレガニドは勢いよく吹き飛びギルドの壁に背中から激突した。

レガニドは痛みを堪えながら何とか立ち上がるが

「舞い散る花よ 風に抱かれて砕け散れ"風爆"」

ユエは"風爆"という風の砲弾を飛ばすオリジナル魔法と重力魔法の複合魔法でレガニドを空に飛ばし

「「「アームズアップ」」」

ユーリア、レムリア、シエラは水鉄砲型のMSGであるウォーターアームズを装備し、レガニドに向けて放つ。

ウォーターアームズは水圧次第では物を切断する事も出来るが、流石に加減したのか地面に落下したレガニドは五体満足で気を失いながらも一応生きていた。

そして、私は件のブタ男の方を向く…いや、豚はまだ可愛いから豚に失礼だな、クソッタレで充分だな。

「ひぃ!く、来るなぁ!わ、私を誰だと思っている!プーム・ミンだぞ!ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

「…地球の全ゆるキャラファンに謝れ、クソッタレ」

私はクソッタレの股間を蹴り上げ、更に地面に落ちたクソッタレの股間を何度も踏みつける。クソッタレは痛みで直ぐに気を失ったらしい。

しかし、これだけの騒ぎがあればギルドの職員も黙ってはいない。

「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

私に告げた男性職員の他、3人の職員が私達を囲むように近寄った。数人の職員はレガニドとクソッタレの容態を見に行っている。

「あのクソッタレが我々に手出ししようとして、それを断ったら逆上して襲ってきたから返り討ちにした、ただそれだけだ。その辺の奴らも証人になるぞ。特に、近くのテーブルにいた奴等は随分と聞き耳を立てていたようだしな?」

私の言葉に私達の様子を見ていた連中は何度も頷く。

「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので…規則ですから冒険者なら従って頂かないと…」

「当事者双方…か。被害者である我々がこいつが目覚めるまで待機しておけという事か?」

因みにレガニドとクソッタレは命に別状はない(事前に香織に治癒を頼んだ。香織は嫌そうにやってた)らしいが、当分目は覚まさないだろう。

そんな時だった。

「何をしているのです?これは一体、何事ですか?」

メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が奥から現れた。

「ドット秘書長!いいところに!これはですね…」

職員達はドットという名のその男性に事情を話した。

「話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。やり過ぎな気もしますが死んでいませんし許容範囲としましょう。

彼らが目を覚まして一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが…それまで拒否されたりはしないでしょうね?」

「構わない。まだ滞在先が決まってないから…決まり次第此方から連絡しよう」

私はドットにステータスプレートを見せ、ユーリア達も同じ様にステータスプレートを見せる。

「ふむ、いいでしょう…"青"ですか。向こうで伸びている彼は"黒なんですがね…そちらのお二人のステータスプレートはどうしました?」

「ユエとシアはステータスプレートを紛失していて再発行はまだだ」

「しかし、身元は明確にしてもらわないと。記録をとっておき、君達が頻繁にギルド内で問題を起こすようなら、加害者・被害者のどちらかに関係なくブラックリストに載せることになりますからね。よければギルドで立て替えますが?」

ステータスプレートを作成されれば、隠蔽前の技能欄に確実に二人の固有魔法や神代魔法が表示される…そうなれば騒ぎになるだろうからそれは出来るだけ回避したい…そう考えた時、ふとある事が頭に浮かんだ。

「身分証明の代わりになるかわからないが、知り合いのギルド職員に、困ったらギルドのお偉いさんに渡せと言われてたものがある」

そう、ブルック支部のギルド職員のキャサリンからギルド関連で揉めたときにお偉いさんに見せれば役立つかもしれないと言って渡したあの手紙だ。

「知り合いのギルド職員ですか?…拝見します」

ドットは手紙を開いて一度は内容を流し読みした後、ギョッとした表情を浮かべ、時折私達を見ながら手紙を何度も読み込んだ。

ドットは手紙を折りたたむと丁寧に便箋に入れ直し、私達に視線を戻した。

「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが、この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねます。

支部長に確認を取りますから10分から15分ほど別室で待っていてもらえますか?」

「それくらいなら構わない。待つとしよう」

「職員に案内させます。では、後ほど」

その後、私達は職員の一人に応接室まで案内された。

「キャサリンさんって何者なんだろう」

と皆が思っていたであろう事をハジメは呟いた。

「只者ではないという事だけは確かだろうな」

そして10分後、扉がノックされた。

私が返事すると、一拍置いて扉が開かれた。

現れたのはドットと金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性だった。

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ」

「私はこのパーティー…レッカーズのリーダーの風見ヴェールヌイ。この度はお騒がせして申し訳ない」

その後、私はレッカーズのメンバーを紹介する。

「君達の事は先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている…というより注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」

「確かにブルックじゃあトラブル続きだったな。それで肝心の身分証明の方はどうだ?」

「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」

「キャサリンさんって本当に何者なんだろう…」

とゼルフィが呟くとイルワはこう答えた。

「彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていて、後にギルド運営に関する教育係になってね。

各町に派遣されている支部長の5~6割は先生の教え子で私もその一人なんだよ。

彼女には頭が上がらないさ。その美しさと人柄の良さから当時は僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。

その後、結婚して子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね、ブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。彼女の結婚発表はギルドどころか、王都が荒れたものさ」

「ハラショー、只者ではないとは思っていたが…まさか中枢にいた人物だったとはな」

「さて、話を変えるが…君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている。引き受けてくれれば今回の件は不問としよう」

「その依頼とは?」

イルワは私達にある資料を見せる。

「そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」

イルワの話と資料を照らし合わせるとこうなる。

 

一つ山を越えれば未開の地となる北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。

大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するから高ランクの冒険者がこれを引き受けたのだが、ある人物がいささか強引に同行を申し込み、最終的にその人物が加わった臨時パーティーを組むことになった。

 

その人物―クデタ伯爵家の三男であるウィル・クデタは自分には貴族など肌に合わないから冒険者になるといって家出同然に飛び出し、クデタ伯爵は心配のあまり息子の動向を密かに追っていた。

 

しかし今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息不明となり、ただ事ではない思ったクデタ伯爵は慌てて捜索願を出した、という事になる。

 

「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど手数は多い方がいいと、ギルドにも捜索願を出した。つい、昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。

相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけないが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ。

君達は私が思っている以上の力を持っている。見たこともないアーティファクトを使っていたらしいが、おそらくあれだけではないだろう」

「その通りだ。生存は絶望的だがゼロではないだろうしな。だが、どうしてそこまでして彼に拘る?」

「伯爵は個人的にも友人でね、それにウィルにあの依頼を薦めたのは私で調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。

異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出ていなかったしね。

先程も言った通り、ウィルは貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていたが、その資質はなかった。

だから、強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、冒険者は無理だと悟って欲しかった。彼は昔から私には懐いてくれていて…だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに…」

「そうか…その依頼、我々レッカーズは引き受けよう。但し条件がある。

まずユエとシアにステータスプレートを作って欲しい。そして、そこに表記された内容、そして我々のステータスプレートの本当の内容について他言無用を確約することだ。

更に、ギルド関連に関わらず貴方の持つコネクションの全てを使って我々の要望に応え便宜を図る…つまり我々の後ろ盾になって欲しい。この二つだな。

我々は少々特異な存在だから教会に目をつけられるのは確実だろう。

その時に伝手があった方が便利だ。例えば指名手配とかされても施設の利用を拒まないとか面倒事が起きた時に味方になってほしい」

「指名手配されるのが確実なのかい?ふむ、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが…

そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君は見たこともない魔法を使ったと報告があったな…その辺りが君達の秘密か…

そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと…大して隠していないことからすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上ということか…そうなれば確かにどの町でも動きにくい…故に便宜をと…」

「無茶を言っているのは承知の上だ。しかし、私も味方になれそうな者、歩み寄れる者とは友好的になっておきたい…来るべき時に備えて」

「そうだね…犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう」

「感謝する。あと報酬は依頼が達成されてからでいい。ウィル・クデタ自身もしくは遺品を持って帰れば良いだろう?」

「あぁ、それで良い。本当に、君達の秘密が気になってきたが…それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。ヴェル君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい…宜しく頼む、レッカーズの諸君」

「あぁ、任された」

私達は支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取った後、捜索に向けての準備を行うべく部屋を退室した。

 

準備完了次第、直ぐに出発する…その湖畔の町"ウル"へと。

 

 

―side out―

 

 

ヴェル達が部屋を退室した後、ドットはイルワに訊ねた。

「支部長、よかったのですか?あのような報酬を…」

「ウィルの命がかかっている。彼女ら以外に頼めるものはいなかった。仕方ないよ。それに、彼女等に力を貸すか否かは私の判断でいいと彼女等も承諾しただろう。問題ないさ。それより、彼らの秘密…」

「ステータスプレートに表示される"不都合"ですか…」

「ドット君。知っているかい? ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」

「支部長は、彼女が召喚された者…"神の使徒"の一人であると?しかし、彼女はまるで教会と敵対するような口ぶりでしたし、勇者一行は聖教教会が管理しているでしょう?」

「ああ、その通りだよ。でもね…例外がいるらしい。

…およそ四ヶ月前、実戦訓練でオルクス大迷宮を訪れ、ベヒモスを筆頭とする魔物の大群との戦いの中、一行の一人が同胞の一人をどさくさ紛れに殺そうとしたらしい」

「どうして…そんな事を…」

「それがわからないが…噂によれば嫉妬によるものらしい。

そして、その行為に激怒した一行のある人物はその人物を殺そうとした。

結局は勇者に止められたらしいが、その人物…彼女は勇者と考え方の違いから決裂し、その殺されそうになった人物ともう一人の人物…彼女ら3人はパーティーを組んでいたらしいが、勇者一行から離反し行方不明になっている…

そしてその彼女は詳細は不明だが見たことない武器を持ち、姿を変える鋼鉄の巨人の鎧を纏ってたった一人でベヒモスを倒したらしい。

それに同じ時期にある貴族が亡くなっている」

「その貴族と3人組にどんな関係が?」

「それはわからない。

しかし、その貴族にはある噂があった。どれだけ働かせようが死なない、何も食べさせなくても死なない二人の亜人族…犬人族と森人族の奴隷を手に入れた、と。

その貴族は以前から奴隷を酷使していたらしいという噂もあるし、この貴族が住んでいたのはホルアドの郊外だ。そしてレッカーズの中には犬人族のレムリア君と森人族のシエラ君がいる。どうも無関係には思えない。

その行方不明になった人物がレッカーズの面々かどうかは兎も角、彼女らは教会と…この世界と敵対する覚悟を持っている。

私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいね。例え、彼女らが教会や王国から追われる身となっても、ね。もしかすると、先生もその辺りを察して、わざわざ手紙なんて持たせたのかもしれないよ」

「支部長…どうか引き際は見誤らないで下さいよ?」

「もちろんだとも。そう言えばドット君、勇者と決裂した彼女が何と呼ばれてたか知っているかい?」

「いえ…何と呼ばれていたんですか?」

ドットの言葉にイルワは一拍置いてこう答えた。

 

 

「彼女はこう呼ばれていたそうだよ…"鋼鉄の戦女神"と」

 

 

 

 

To be continue…


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