ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第2話『異世界転移、戦争への覚悟』 

―side:Vernyi―

 

 

南雲家に居候するようになってからおよそ1年。

ハジメと香織は高校2年生へと進学した。

「「おはよう、ヴェル」」

「あぁ、おはよう。ゼルフィ、スティ」

彼女は私が改造を施したフレームアームズ・ガール…ゼルフィことゼルフィカールとスティことスティレットイクスだ。

この地球にてファクトリーアドバンス社から発売されている小型・人型ロボットであるフレームアームズ・ガール。

それをインテリジェントデバイスとして使用・長時間に及ぶ自立行動出来るように改造を施した。

動力はトランステクターの動力にも使われているEN粒子を使用している。

 

 

身支度をして朝食を作っていたら南雲家の皆…ハジメ、菫、愁がダイニングに入ってきて朝食を取り、その後は各々が学校や職場へ通学・通勤し、私は食器を洗ったり掃除をしたり洗濯機を回したり洗濯物を干したりと家事を行い、それらが終わって漸く自分の時間を取れる。

 

この地球のアニメや漫画、ラノベを楽しんだりトランステクターや装備の作製・改修を進めていたりネットサーフィンによって情報収集を行ったりする。

私の部屋には作業用の机やテレビ、ベッドや本棚をそれぞれ配置しており、トランステクターや武器は基本的にあのキャリーバッグの中に入れており、必要な時や改修する時に取り出している。

あのキャリーバッグは内蔵された素粒子コントロール装置のお陰で中に色々詰め込めるし、背中に背負う事も出来る他、ホログラムの投射も出来るので色々と便利だ。

このキャリーバッグ、モバイルストレージキャリーバッグ…通称MSCバッグとでも呼んでおこう。

 

ゼルフィとスティは街中の偵察を行っている…というかハジメと香織の様子を陰ながら見守っている。

彼女達からその様子が(自分達がその目で見たことを私の持つパソコンに送る形で)報告されるのだが…彼らの学校での様子は正直に言って良い気分がするものではない…いや、一部殺意が沸いた。

 

さて、今日もゼルフィとスティから映像が音声込みで送られてきた。

ハジメが徹夜で足がふらふら気味な状態で教室に入ったその瞬間、教室の男子生徒の大半から舌打ちやら睨みやらをハジメに向け、女子生徒も一部は侮蔑の表情を向けている。

そしてその中にはハジメをいじめる者もいる。

『ぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?』

『うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~』

確かにハジメはオタクだが、キモオタと罵られるほど身だしなみや言動が見苦しいという訳ではない。

髪は短めに切り揃えているし寝癖もなく、コミュ障という訳でもないから積極性こそないものの受け答えは明瞭で、大人しくはあるが陰気さは感じさせない。

それにハジメは心優しい人間だ。香織から聞いた話によれば不良から幼い子供と老婆を助けた事があると聞いた(そしてこの一件で香織はハジメに惚れた模様)し、私だってあの日、ハジメと香織に出会わなければ今の私は存在しなかったかもしれない。

 

創作物が大好きなオタクで心優しき少年。それが南雲ハジメという人間の印象だ。

 

故にこいつらの様にハジメを愚弄する屑共には怒りが沸いてくる。血祭りに上げてやりたいが、ハジメや香織、菫、愁へ迷惑をかけたくないので我慢している。

だが、ハジメが望めば何時でも訴えられるように証拠は集めている。

香織もクラスメートに注意したりしているのだが、それでもなくならないらしい。

『ハジメくん、おはよう』

『おはよう、香織さん』

香織がハジメに挨拶をし、ハジメも返すが…それと同時に教室にいた男子生徒全員が敵意を向けている。

おそらく嫉妬、か…どうせ「なぜ彼奴だけ」とかそんな事を考えているのだろう。

香織とハジメは両想いどころか互いに将来を誓い合った仲だからイチャイチャするのは当然の事だ。

そんな中、二人に近付く3人の生徒がいた。

『南雲君。おはよう。毎日大変ね』

八重樫雫…香織の親友であり、長い黒髪をポニーテールで束ねた女子生徒。

香織の紹介で私も会った事があるが、ハジメと香織のクラスの中で一番マトモで信頼できる人物にして苦労人。

また、私がアデプトテレイターだという事を知ってもハジメや香織と同じ様に受け入れてくれた人物でもある。

 

『香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな』

天之河光輝。いかにも勇者っぽいキラキラネーム、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人で正義感も強い野郎…なのだが、ハジメがいじめられているのはハジメにも非がある(勿論ハジメには非はない)と考えているらしく、更に香織から聞いた話も合わせるとこいつは自分の正しさを疑わなさ過ぎるししかも無自覚と質が悪いし自分の非を認められないご都合主義者でもあるという事がわかった。

正直に言ってその歪んだ正義感が気に食わない。

 

『全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ』

坂上龍太郎。天之河光輝の親友で、この細かいことは気にしない脳筋である。

ハジメの事を怠け者って思っている様だが…実際は逆の努力家だこの脳筋野郎と言いたい。

 

ハジメは将来の事を考えて菫や愁の職場でアルバイトをしており、その実力は即戦力レベル、勉学に関しても私が香織共々教えているのもあって成績も上位に入っている。

『おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ』

『それが分かっているなら直すべきじゃないか?いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから』

いや、ハジメと香織は将来を誓い合った仲だから二人がイチャイチャするのは当然だから。お前の考えを勝手に押し付けるな。

『光輝くん、なに言ってるの?私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?』

香織の言う通りだ。

『え?…ああ、ホント、香織は優しいよな』

どうやら香織の発言をハジメに気を遣ったと解釈したのだろうな…

『…ごめんなさいね。二人共悪気はないのだけど…』

雫は二人に代わりにハジメに謝罪し、ハジメは気にしないで、と返した。

 

「さて、おやつを食べるか」

作業なども一段落し、私は冷蔵庫にあるおやつのチーズを取りに行ったのだが…

「ハジメ…弁当を忘れてるぞ…」

ゼルフィやスティもまだ外にいるし…私が行くか。ついでに買い物もしていこう

 

 

 

私は赤い車体に銀色のラインが入っているボンネットタイプのトラック―ビークルモードのオプティマスコンボイを走らせながらハジメと香織が通う高校へと向かう。助手席にはあのMSCバッグも乗せている。

高校の近くの人気がない場所までオプティマスコンボイを走らせ、周囲に人がいないことを確認した後で降りて、更にオプティマスコンボイ内の素粒子コントロール装置を作動させてミニカーサイズにまで縮小する。

更にそれを降ろしていたMSCバッグの中に入れて、ハジメの弁当箱を入れた鞄を取り出してMSCバッグを背負い、ホログラムを作動してMSCバッグを目立たない大きさのリュックサックに、私の服装をハジメと香織が通う高校の女子制服にそれぞれ偽装して歩いて学校へ向かった。

「あれ?ヴェル、どうして此処に?」

学校周辺にいたゼルフィは私に問う。隣にはスティもいる。

「ハジメが弁当を忘れて行ってたから届けに来ただけだ」

私がそう言うと二人はリュックサックに偽装したMSCバッグの上に座り、私は気にせずハジメがいる教室へと向かう。

そして、ハジメの教室へ入った途端、皆の視線が私に向けられる。

「「ヴェル!?」」

とハジメと香織は驚きの声を上げる。

私が二人に近付くと周辺…特に男子生徒のハジメに向ける視線が嫉妬や敵意を剥き出しにしたものとなり、私はそいつらに向けて殺気を放った。

「ハジメ、弁当を忘れてるぞ」

「ありがとう、ヴェル。今日の昼はどうしようかなって思ってた所だったんだ」

「良かったらヴェルも一緒に食べない?お昼はまだだよね?」

香織の言う通り…確かに昼飯はまだだ。しかし、私は偽装しているとはいえこの学校の生徒ではない…部外者だ。用が済んだらさっさと帰った方が良いと思うのだが…

そんな中、私達…というよりは香織に声をかける空気読めない野郎がいた。天之河だ。

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?それにそっちの銀髪の女子は誰なんだい今までこの学校で見た記憶がない」

「彼女は風見ヴェールヌイ。私やハジメくんのお友達だよ。それとハジメくんと一緒に食べる事になんで光輝くんの許しがいるの?」

この言葉に天之河はあれやこれやと困りながら香織を説得しようとしている。

「ごめんなさいね、ヴェルさん、南雲くん」

「いや、気にしなくていい」

雫の言葉にそう返し、ハジメは苦笑いを浮かべる。

「今日はゼルフィとスティも一緒なのね」

「あぁ、この近くを飛び回っていたからな」

と私と雫が話をしていた時だった。

天之河の足元に現れた純白に光り輝く円環と幾何学模様。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。

教室内の全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様―魔法陣を注視する。

その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大していった。

「っ!ゼルフィ、スティ!お前達は教室から出てこの様子を録画して菫と愁に伝えろ!」

私の指示にスティとゼルフィは開いていた窓から飛び出していったが…

「ゼルフィ、あんたはヴェルについてて!私が菫と愁に伝えるから!」

「うん、わかった!」

二人はそう会話し、ゼルフィが私の元に戻ってきた。

「ヴェル!スティが私はヴェルについててって!」

「しょうがないな!」

生徒達は自分の足元まで異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる。未だ教室にいた教師(確か名前は畑山愛子だったか?)が咄嗟に

「皆!教室から出て!」

と叫ぶが、同時に魔法陣の輝きが爆発したよう光ったのだった。

 

 

―side out―

 

 

ヴェル達が魔方陣に飲み込まれた後、教室には既に誰もいなかった。蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。

そしてそれはヴェルやゼルフィも同じであり、彼女達はヴェルが背負っていたMSCバッグと共に消えていたのだ。

「ヴェル!ゼルフィ!ハジメ!香織!雫!」

教室に入り、彼らを探すスティ。しかし、その姿はなかった。

 

それを改めて確認した時、スティはある可能性に行き着いた。

ヴェルはハジメや香織と同じくオタクであり、スティもゼルフィも彼らと共にアニメや漫画、ラノベを見たり読んだりしている。

その中には異世界に転生もしくは転移するという作品もあった。

それにヴェルは此処とは違う地球から来た…言ってみれば異世界人或いは宇宙人だ。

 

だからこそこの可能性…異世界転移されたのでは?という可能性に行き着く事が出来たのだ。

「菫と愁に伝えないと…!」

スティは全速力で彼らの元へ向かった。

 

 

―side:Vernyi―

 

 

私達が目を開けた時、其処は教室ではなかった。

目の前に広がっているのは縦横十メートルはある巨大な壁画だ。

光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

その人物の背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように両手を広げているが、何か胡散臭いな。

 

大理石らしき物で出来た台座の上には私やゼルフィを含めて教室にいた者達が全員いるようだ。

そして台座の周囲にいる法衣を着て跪く複数の人物。

その法衣を来た人物達の中から一人の老人は立ち上がり、こう挨拶した。

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

その人物―イシュタルは好々爺然とした微笑を見せた。

 

その後、私達は十メートル程の長さの机の並ぶ大広間に案内され、イシュタルから説明を受けた。

話を要約するとこのトータスと呼ばれる世界には大きく別けて人間族、魔人族、亜人族という三種族が存在しており、人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしく、この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

 

魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたらしい。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。

 

それが、魔物と呼ばれる通常の野生動物が魔力を取り入れ変質したと言われている存在の使役だ。

この魔獣はそれぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣でもあるのだが、今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。

使役できても、せいぜい一、二匹程度だったのが、その常識が覆されたらしい。

 

つまり人間族は絶滅の危機にあるという事であり、私達はエヒトと呼ばれる人間族が崇める神によって召喚されて人間族を救うために戦って欲しいという訳なのだが…

 

言い換えれば私達に魔人族との戦争に参加しろ、という事だ。

 

イシュタルはエヒトの事を恍惚とした表情で語っていた…狂信者…ジーオス狂の連中と何ら変わらない危険な存在だな。

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

と畑山先生は抗議する。

童顔で小柄な所謂合法ロリ…いや、私も人の事は言えないな。

「お気持ちはお察しします。しかし…あなた方の帰還は現状では不可能です」

イシュタルの言葉に誰もが何を言われたのか分からないという表情で見やる。

「ふ、不可能って…ど、どういうことですか!喚べたのなら帰せるでしょう!?」

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな…」

畑山先生は脱力したようにストンと椅子に腰を落とし、周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

「嘘だろ?帰れないってなんだよ!」

「嫌よ!なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで…」

それが普通の反応だ。しかし…

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。…俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。…イシュタルさん?どうですか?」

天之河は皆に呼びかけた後、イシュタルに問う。

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

天之河の言葉に絶望の表情だった皆が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。俺もやるぜ?」

「龍太郎…」

「今のところ、それしかないわよね。気に食わないけど…私もやるわ」

「雫…」

と天之河の幼馴染み(香織除く)達は賛同し、更に流れで皆が賛同していく。

畑山先生は反対しているが皆は天之河が作った流れに完全に乗っており、聞く耳を持たない。

「お前ら、本当に理解しているのか?」

私は殺気を放ちながら静かにそう言い放つ。

「相手は魔人族という"人"…つまり私達と同じ知性と人格を持つ者達だ。

お前達はそいつらを殺す覚悟があるか?

それに今まで平和に過ごしていて殺す事への技能も武器もない、ただこの世界の人よりちょっと力があるくらいだ。

技能も武器も情報もない状態で戦争に参加したって直ぐに屍になるだけだ」

「だけど、世界を救うためにやるしかない!魔人族が人間族に酷い事をしているのを見過ごすんて出来ない」

「世界を救うために、ねぇ…

逆に聞こうじゃないか。魔人族が悪だという証拠は?人間族が魔人族にお前が言う酷い事をしている可能性だってある。

今ある情報はあのイシュタルという老人がもたらした情報のみ。得体の知れぬ奴の情報全てを信じるのはどうかと思うがな」

「き、君は何者なんだ…!?」

天之河の言葉に私はこいつや他の連中に言い放つ。

「私は風見ヴェールヌイ。お前らより色々と経験してきた者だ。

エヒトという神の力を使って帰還するのなら魔人族との戦争に参加しなければならない…しかしそれは血を血で洗う殺し合いでもある。誰も死なないっていう考えは捨てろ。魔人族との戦争に参加するのなら人を殺す覚悟をしろ」

私の言葉を受けた天之河の答えはこうだ。

「やってやるさ!俺は戦って世界も皆も救ってみせる!!」

その言葉に怯えていた者達も希望を抱いて天之河を支持する。

その一方でハジメと香織は怪訝な表情を浮かべていた。

 

しかし、元の世界に帰るには本当にエヒトに頼るのしかないのか?

私達が飛ばされてきたのは魔法による物だ。もしその魔法を使えたら…

 

私はそんな事を考えつつ他の面々と共に"魔法のロープウェイ"に乗って聖教教会本山がある"神山"の麓にある"ハイリヒ王国"へ向かっていた。

建国したのがエヒト神の眷族らしいこの国は聖教教会と密接な繋がりを持っており、私達の受け入れ態勢が整っているとのことだ。

 

それにしても政治と宗教が密接に結びついている国、か…

この様に政治と宗教が密接に結び付いていると後々になって様々な悲劇をもたらすことがある。

そして、この世界は異世界に干渉できるほどの力をもった超常の存在が実在し、文字通り"神の意思"を中心に世界は回っている分、もっと歪なのかもしれない。

 

ハイリヒ王国への到着後、私はゼルフィにあることを頼んだ。

「ゼルフィ、頼みがある」

「どうしたのヴェル?」

「情報収集を頼みたい」

「うん、わかった」

ゼルフィはそう言うと飛びさっていった。

ゼルフィには等身大サイズへ拡大してよりスムーズに情報収集が出来るように素粒子コントロール装置を渡している。

 

さてさて、どんな事がわかるのか…

 

ハイリヒ王国の王宮での晩餐会も終わり私達はあちらが用意した宿でその身を休めていた。

そして皆が寝静まった頃にゼルフィが帰還し、彼女から情報を受け取った。

 

この世界の魔法は体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経る。

詠唱の長さに比例して流し込める魔力は多くなり、魔力量に比例して威力や効果も上がっていき、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も多くなる。

尚、この原則には適性(体質によりどれくらい式をイメージで補完することによって省略できるかという問題)という例外が存在する。

また、魔力の直接操作は魔物の様に魔力操作の技能(スキル)がない限り不可能だ。

 

そしてその魔法はその昔…神代という時代にエヒトを筆頭とする神々が用いていた神代魔法の劣化版らしく、故に魔法は神からのギフトという事になる。

そして魔力を持たぬ亜人族は神から見放された悪しき種族と呼ばれ差別されているらしい。

尚、海人族は海産物という利益を生む事もあって差別の対象から外れるらしい。

魔人族も価値観は同じだが崇める神が人間族とは異なる。

その魔人族は全員が高い魔法適性を持っており、人間族より遥かに短い詠唱と小さな魔法陣で強力な魔法を繰り出すらしい。

魔物はあくまで自然災害的なものとして認識されており、神の恩恵を受けるものとは考えられておらず、いわばただの害獣という扱いになる。

 

つまり人間族は、聖教教会の教えで崇める神の違いから魔人族を仇敵と定め、神に愛されていないと亜人族を差別する。

魔人族も同様であり、どの種族も排他的だ。

 

そして興味深かったのが冒険者という職業の者達が話していたという噂だ。

 

 

とある貴族が食べさせなくてもどれだけ重労働させても死なない二人の亜人族の女を所持しているという噂。

この特徴に該当する存在に一つ心当たりがある…アデプトテレイターだ。

 

その亜人族に会って確かめてみないとな…

 

 

 

To be continue…




・エナジリウム粒子/エナジリウムドライバー
EN粒子/ENドライバーとも呼ばれている第46太陽系の地球で開発されたトランステクターの動力源及び動力炉。
簡単に言えば魔力粒子と魔導炉であり、ENドライバーはAMF(アンチマギリングフィールド)などの影響を受けず、完全に機能を停止するには外部から破壊するしかないという代物。
尚、トランステクターに搭載されているENドライバーにはEN粒子を爆発的に増幅し、一時的に機体を強化するエナジドライブ(分かりやすく例えるとガンダム00のトランザム)という機能がある。この時、EN粒子が肉眼で見える程に発光し、光の翼など(言わば質量を持った残像)を形成する事もある。
また、EN粒子は動力だけでなくエネルギー弾として攻撃にも使える他、剣などの刃物、ハンマーなどの打撃武器、実弾にコーティングする事で切れ味のや威力などを上げたり折れにくくするといった効果を与える事ができる。

・素粒子コントロール装置
ビーストウォーズⅡに登場したガルバトロン率いるデストロン機甲部隊の宇宙船であるガルバブルク二世にも搭載されていた(ギガストームが身体のサイズを変更する時に放たれるのが素粒子コントロール光線)装置。
本作では技術の進歩によって小型化に成功し、アデプトテレイター用トランステクターの殆どに搭載されている他、モバイルストレージキャリーバッグ(MSCバッグ)、更には携帯用の物まで存在する。

・ゼルフィカール/スティレットイクス
ファクトリーアドバンス社から発売されているフレームアームズ・ガール(本作の時点ではまだ簡易的なプログラムで動く物のみが発売)をベースに大幅な改造を加えた機体であり、インテリジェントデバイスとしての機能が加えられており、人の様に受け答えする事が可能。
動力も電気ではなくEN粒子であるため、稼働時間も市販のFAガールと比べて桁違いであり、休息を取らせるだけでエネルギーも自動で回復する。

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